( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです

──第1話 『ペルソナ様』


19 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 01:30:00.93 ID:Hz2ycwbY0

真っ白な、何もない世界が続く。
大地と空の境界もわからない、白の世界。

その中をたゆたう、一人の少年。

四肢を広げ、仰向けに寝転がる形で、少年はその世界に居た。
どちらが上なのかすらわからない真っ白な世界は、「浮いている」という感覚すらも感じさせず、
ただただ流れに身を任せることしかできなかった。

やがて、少年の目にもう一つの色が映った。

輝く粒子をひらひらと撒きながら、空中ともわからない空間を舞う、一匹の蝶。
それは黄金色に輝き、まるで、自由の利かない少年を嘲笑うかのように。

しかし少年は、とても優しい笑顔で、瞳で、優雅に舞う蝶を見つめていた。

そのうち、蝶が少年に近寄ってきた。
少年は笑顔のまま、ただひたすらに、蝶を見つめていた。

蝶はそのまま真っ直ぐに進む。
そして、少年の胸の中へと、溶け込むように消えていった。

それと同時に、少年の意識も安らかに眠るように、白い世界に溶け込んでいった。


20 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 01:33:18.14 ID:Hz2ycwbY0

真新しい校舎に、一日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
字都(アザト)市内の東に位置する津阿都(ツアト)区。
その中心部に、およそ学び舎とは思えない佇まいの学校があった。

VIP高校。

存在を知らない者が見れば、とても大きな教会だ、と思うだろう。
透き通るような白い壁。煌びやかなステンドガラス。
そのどれもが、教会を思わせる造りだった。

そんな風貌をしているのだが、ミッション系というわけではない。
授業内容は至って普通。どこにでもあるような高校だった。
ただ単に、設立者の趣味というだけで、この学校はこんな姿をしているのである。

その変わった造形が功を奏したのか、開校3年目にも関わらず生徒数は1800人を超えていた。
もっとも、学校の外見だけでそこまでの入学者を集められるはずはない。
しかし、これだけの生徒が集まったことは事実だ。

設立者の名前は、モララー。

大企業の会長であった。

22 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 01:37:02.38 ID:Hz2ycwbY0

チャイムの音を目覚まし代わりに、授業中豪快な居眠りをしていた少年が目を覚ます。
寝ぼけた顔で辺りを見渡し、授業がちゃんと終わっていることを確認した後、大きく伸びをした。

とそこへ、後ろから近づく影が一つ。
影はそのまま少年の真後ろで止まり……傾いていた椅子を思い切り引いた。

( ゚ω゚)「ギャース!!」

当然そのまま、少年は尻もちをつく形で床に激突する。
犯人は平然とした顔で、引っ張った椅子にそのまま座り、足を組んで少年を見下ろした。

ξ゚听)ξ「あんたまた寝てたでしょ…ブーン」

平然と恐ろしいことをやってのけた者の正体は、金髪縦巻きロールの少女。
整った顔立ちをしていて、間違いなく美少女の部類に入るだろう。

( ´ω`)「ツンかお…ひどいお…」

倒れたまま、訴えかけるブーンと呼ばれた少年。
それを呆れた顔で見下ろす、ツンと呼ばれた少女。

それはこのクラス、3年F組では最早定番のことだった。
だからブーンの悲鳴にも、「またいつものか」と、クラスメイト達も慣れたものだった。


23 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 01:40:00.60 ID:Hz2ycwbY0

ξ゚听)ξ「ひどいお…じゃないわよ! もう3年だってのに、そんなんで進学できるの?」

ブーンを説教するツンの姿は、まるで保護者のようだ。
どうやら彼女は、本気で心配をしているようだった。
ただし、体への気遣いは、皆無。

( ´ω`)「進学……」

呟き、そのまま黙り込んでしまった。

ξ゚听)ξ「…? ブーン…?」

いつもと違う様子に戸惑うツン。
するとそこへ……

('A`)「っよ 御二人さん、相変わらず仲いいな」

(´・ω・`)「でもいつかブーンが死んじゃうんじゃないか、いい加減心配だよ」

川 ゚ -゚)「大丈夫だ、ツンはちゃんと加減してる …多分」

3人のクラスメイトが、冷やかしながらやってきた。

25 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 01:43:25.23 ID:Hz2ycwbY0

ξ゚听)ξ「大丈夫 ブーンはこのくらいじゃ死なないわよ」

('A`)「ガキの頃に比べりゃ、かなりマシになったよな」

(´・ω・`)「これでマシになったのか…」

川 ゚ -゚)「まぁドクオ、とりあえず起こしてやれ」

('A`)「あいよー」

ドクオと呼ばれた少年が、ブーンを起こすために近寄る。

('A`)「ほれブーン」

( ^ω^)「お…サンキューだお」

ドクオの手を取り、起き上がる。
ブーンは尻の埃をはらうと、ツン達に視線を向けた。

(´・ω・`)「それじゃ、行こうか」

川 ゚ -゚)「ああ いよいよ追い込みだからな」

29 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 01:46:42.22 ID:Hz2ycwbY0

( ^ω^)「おっ 珍しくクーが気合入ってるお」

川 ゚ -゚)「馬鹿言うな 私はいつでも気合入ってるぞ」

とてもそうは見えないクールな表情で否定した、クーと呼ばれた少女。
ツンが美少女なら、彼女には美女という言葉がしっくりくる。
美しい長い黒髪が、なんとも印象的だった。

('A`)「まぁ高校最後の文化祭だからな…ショボンですら興奮してんだぜ」

(´・ω・`)「僕ですらってなんだよ 楽しみなのは認めるけど…」

痩せ気味の少年、ドクオに悪態をつかれ、しょぼくれた顔で文句を言うショボン。
そのやり取りを見て、3人が笑う。
楽しみなのは、皆わかっているのだ。

VIP高校文化祭。別名、泰炎祭(タイエンサイ)。

大層な別称がつけられているが、基本的には普通の高校の文化祭と変わらない。
様々な出店やイベント等の為に、全校生徒が慌ただしく準備を進めていた。

泰炎祭のクライマックスでは、巨大なキャンプファイヤーがグラウンドで行われる。
炎の高さは、実に20メートルにまで達するものだ。
炎の赤が校舎に映し出され、参加者達はその鮮やかな赤に魅了される。

それが、泰炎祭たる由縁だった。


31 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 01:50:32.40 ID:Hz2ycwbY0

ブーン達は準備の為に空き教室へと移動した。
クラス別にもあるが、希望者はグループを作り各々の出し物を行って良いことになっている。
但し、1グループ6名以上とする。

最後の6人目は、すでに空き教室で暇を持て余していた。

( ゚∀゚)「おせーぞお前ら」

( ^ω^)「ジョルジュが早いんだお…」

( ゚∀゚)「またどうせブーンとツンが乳繰り合ってたんだろ? うらやm」

ξ#゚听)ξ「ぶち殺すぞ」

(;゚∀゚)「すいません」

ツンの一言で委縮したジョルジュ。この6人は1年生の頃から特に仲が良かった。
運悪くジョルジュだけ別クラスになってしまっていたが…。
当然のように、高校最後の文化祭もこの6人で過ごそうと言うことになり、グループを組んだのである。
ちなみに、クラスの半数が自グループで参加することになった場合、クラスでの出し物は免除になる。

さて、この6人が一体どんなことをするのかと言うと…

('A`)「クー、服はできたのか?」

川 ゚ -゚)「ああ、持ってきてあるぞ」

33 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 01:54:13.01 ID:Hz2ycwbY0

そうするとクーは、手に持った紙袋から何かを取り出した。
丁寧に畳んであったそれの正体は…

川 ゚ -゚)「ほら 可愛いだろう」

そう言って、取り出したものを胸元の辺りにあてがった。

(*'A`)「ウホッ」

(*^ω^)「おっおっおっ めちゃんこ可愛いお!」

(*゚∀゚)「これはいい! おっぱいも強調されてるぜ!」

(*´・ω・`)「うん、とっても可愛いよ」

ξ゚听)ξ「ほんっとクーったら器用よねー」

大絶賛を受けた物の正体は、その筋の人間に人気なファミレス店を彷彿とさせるような、
可愛らしいウェイトレス衣装だった。
控え目と大胆の間の、絶妙なバランスを保たれて開かれた胸元に、お決まりの短めのスカート。

川 ゚ -゚)「もちろん、ニーソも履きます」

クーの戦略は完璧であった。


34 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 01:57:57.28 ID:Hz2ycwbY0

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと恥ずかしいわね…」

川 ゚ -゚)「何を言う 絶対にツンに似合うぞ」

(*^ω^)「おっおっ そうだお きっと似合うお」

ξ*゚听)ξ「そ、そうかな…って、別に嬉しくなんかないんだからねっ」

(´・ω・`)「ふふっ 楽しみが増えたところで、男の方もできたのかな?」

川 ゚ -゚)「ああ 簡単なタキシードに仕上げておいた」

そう言ってまた紙袋から取り出す。畳んであるままのそれをジョルジュに放り投げた。
それを広げ、制服の上から羽織ってみる。

( ゚∀゚)「おー! いいじゃねえか!」

ξ゚听)ξ「あら、ちょっとは男らしくなったじゃない」

川 ゚ -゚)「ん、イメージ通りだ 当日は頼んだぞ、ドクオにジョルジュ」

('A`)「おう 任せとけ」

( ゚∀゚)「おっぱい達をヒィヒィ言わせてやるよ!」

36 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:01:15.01 ID:Hz2ycwbY0

川 ゚ -゚)「ショボンの方はどうなんだ?」

(´・ω・`)「ああ、厨房は大体完成したし、あとは材料を運ぶだけかな
      当日は腕を振るうよ」
      
ξ゚听)ξ「期待してるね、ショボンのケーキおいしいもん」

彼等の出し物は、ケーキ屋。
実家が洋菓子屋のショボンがケーキを焼き、4人がウェイトレス、ウェイターとなる計画だ。
ツンとクーは学校きっての美少女、ジョルジュは性格はおっぱいだが、なかなかのイケメン。
ドクオも痩せている以外は特に短所がなかった。

ちなみにブーンは、ショボンの手伝いと皿洗い担当だ。

( ^ω^)「皆頑張ってくれお」

ξ゚听)ξ「何言ってんのよ ブーンもしっかりショボンを手伝ってあげてね」

(´・ω・`)「ああ、よろしく頼むよ」

( ^ω^)「おっおっ がんばるお!」

全員の力で、このケーキ屋を成功させる。
全員がそう思っていた。

(´・ω・`)「さぁ、そろそろ準備に取り掛かろうか」

38 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:04:50.19 ID:Hz2ycwbY0

泰炎祭まではまだ10日あるのだが、準備はすでに最後の仕上げに入っていた。
厨房も、内装もほぼ完璧にできている。
なるべく早く終わらせて、宣伝に力を注ごうという戦略だった。

( ゚∀゚)「おお! なかなかいいデザインじゃねーか!」

('A`)「こいつは昔から絵がうまかったからな」

( ^ω^)「あんま褒めるなお」

ブーンが作った宣伝用のビラとポスターも好評だ。

私語も程々に、皆黙々とするべきことをこなしていた。
これが終われば、本腰を入れて受験勉強をしなければならない時期だ。
進学しなくとも就職活動が待っている。

わかっているのだ。6人全員で遊べられる時間は、もう余りないということが。
そんな野暮なことは誰も言わない。だから今、できることをするのだ。
大切な思い出を作るために。

川 ゚ -゚)「そういえば」

そんな中、クーが珍しく手を止めて口を開いた。


39 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:08:42.77 ID:Hz2ycwbY0

川 ゚ -゚)「今結構噂になってる、『ペルソナ様遊び』を知ってるか?」

ξ゚听)ξ「あー知ってる なんかデレとかもやってた」

( ゚∀゚)「ペルソナ様を呼んで、願いを叶えるってヤツか?」

川 ゚ -゚)「ああそうだ まぁ何かが起きたって話は聞いてないが…一種のおまじないだな」

( ^ω^)「クーがそんな話をするなんて珍しいお」

川 ゚ -゚)「失礼だな 女の子はそういうのにビンカンなんだぞ」

(´・ω・`)「それで、やってみたいってことかい?」

川 ゚ -゚)「ああ、息抜きにやってみないか?」

ξ゚听)ξ「たしか4人でそれぞれ部屋の四隅に立って、呪文を唱えて、それで向かいの人の肩を叩くんだっけ?」

川 ゚ -゚)「そうだ そしてまた呪文を唱えて、進んでいく」

(´・ω・`)「それで最後の人が呪文を唱え終わると、ペルソナ様が来て、願い事をする」

( ^ω^)「ショボンも知ってたのかお」

(´・ω・`)「ああ、小耳にはさんだ程度だけどね」

41 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:12:12.23 ID:Hz2ycwbY0

('A`)「んじゃ、クーとツンとジョルジュとショボンでやってみりゃいいんじゃね」

川 ゚ -゚)「ドクオ、怖いのか?」

(;'A`)「ち、ちげーよ 詳しく知ってそうだったからさ」

( ^ω^)「おっおっ 僕もいいから4人でやればいいお」

ξ゚听)ξ「あら ブーンも怖いの?」

(;^ω^)「ち、違うお 僕はただ……」

願い事なんか、ないから。
そう言いかけて、ブーンは言葉を呑んだ。

ξ゚听)ξ「? まぁ怖くないってことにしておいてあげるわ」

川 ゚ -゚)「さぁやるぞやれやるぞ ラストは私な」

ものすごく張り切っているクーに苦笑して、他の3人も配置へと向かった。
残されたブーンとドクオは教室の真ん中に立つ。
教室の3分の1が厨房になっている為、仕方なくフロアスペースだけですることになった。

一番手は、ジョルジュ。

( ゚∀゚)「んじゃ、始めるぜ」



 
45 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:15:56.59 ID:Hz2ycwbY0

( ゚∀゚)「ペルソナ様 ペルソナ様 おいでください」

呪文を唱え、向かいに居るショボンへと歩く。

('A`)「なぁブーン」

( ^ω^)「なんだお?」

('A`)「なんか…怖い話に似たようなのあったよな」

( ^ω^)「お? どんな話だお?」

ジョルジュがポン、と、背を向けていたショボンの肩を叩いた。

(´・ω・`)「ペルソナ様 ペルソナ様 おいでください」

同じ様に呪文を唱え、次のツンの方へと歩く。

('A`)「雪山で遭難した4人組が、寝ないようにこれと同じことをしたんだ」

( ^ω^)「それはナイスアイデアだお でもそれのどこが怖い話なんだお?」

('A`)「ああ、朝になってそのまま救助されたんだけどな…」

ポン



47 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:19:27.16 ID:Hz2ycwbY0

順番は、ツンへと回る。

ξ゚听)ξ「ペルソナ様 ペルソナ様 おいでください」

('A`)「死んでたんだよ、一人」

気づけば外は、夕闇。

( ^ω^)「……」

('A`)「硬直時間から、死んだのは夜、遅くとも深夜だったらしい」

雨を降らしそうな、黒い雲が空を覆っていた。

( ^ω^)「でも…3人は死んでないってことは…」

('A`)「ああ…朝までちゃんと、それをしてたんだ」

ぞくり、とブーンの肌が粟立つ。
それはドクオの話のせいなのか、わからない。

それは、違和感。自分の中で、何かが蠢いているような──

ポン


49 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:23:16.52 ID:Hz2ycwbY0

そして最後に。

川 ゚ -゚)「ペルソナ様 ペルソナ様 おいでください…」

瞬間、空が光った。
眩しいと感じる時間さえも与えずに、次に轟音が襲う。

雷鳴。

自然の強大な咆哮は、大地をも揺るがした。
もたつき、倒れこむブーン達。

………ィィィ………

音が、迫る。

……キィィィィィィィ……

( ゚ω゚)「おぉぉぉ……なんだ…お…」

不愉快な、強烈な耳鳴りが襲う。

キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ!!!

その音が頂点を迎えたと同時に、ブーン達は意識を失った。

51 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:27:47.87 ID:Hz2ycwbY0

最初に感じたのは、浮遊感。ブーンはゆっくりと目を開く。

そこは暗く、長い長いトンネルのようだった。
そのトンネルを、ブーンは飛んで…いや、流されていた。

時々駆け抜ける、欠片の様なモノ。
そのどれもが、ブーンにはどこか見たことがあるように思えた。

あの夢とは正反対だ。

ふと、そんなことを思い出していた。
夢で見た、白い、白い世界。
それはとても居心地の良いもので…この場所とは全てが正反対だった。

唯一違うことは、これが夢のような気がしないということ。

夢の中でもごく稀に、なんとなく夢だと自覚できることはあるだろう。
意識はしっかりしている自覚はブーンにはあったのだが、とても夢だとは思えない感覚だった。

出口が、近い。

なぜだかわからないが、それを感じ取っていた。
そう思った瞬間、白い光がブーンを包み込み、思わず目を閉じる。
目を閉じてもわかる程にその光は強く、しかしどこか、温かい光だった。

高度が下がり、ブーンは足が固い何かについたのを感じた。

53 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:32:21.67 ID:Hz2ycwbY0

両の足でしっかりと地面を踏みしめると、ブーンは目を開けた。
光は何処かへと消え、代わりに映るのは、光り輝く黄金の柱。
その向こうに見えるのは、真っ黒な布に宝石を散りばめた様な…。

紛れもなく、宇宙だった。

黄金の地面から伸びる、黄金の4つの柱。
そしてその中心には一つの、いや、一人の影。

ブーンはじっくりと、『彼』を見つめた。

やがてその男は、ゆっくりとブーンに近づく。

『男』の顔には、蝶をあしらった様な黄金の仮面がつけられていた。

その蝶は、どこかブーンが夢で見たものに似ていた。

不思議と警戒心はなく、落ち着いた様子でブーンは『男』を見つめる。

少しだけ、『男』の口元が緩んだ。
55 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:36:37.37 ID:Hz2ycwbY0

『ようこそ、御初にお目にかかる』

『私はフィレモン 意識と無意識の挟間に住まう者』

『さて、君は自分が誰であるか名乗ることはできるか?』

突然の、問いかけ。
しかしブーンは、ごく自然に。

( ^ω^)「内藤、ホライゾン」

応えたブーンに、フィレモンと名乗った男は満足気に頷き、

『結構 ここにきて、自分が誰であるか語れる者は多くない どうやら君は合格のようだ』

『ところで君は、自分の中に複数の自分の存在を自覚したことはないかね?』

『神のように慈愛に満ちた自分 悪魔のように残酷な自分』

『人は様々な仮面をつけて生きるモノ』

『今の君の姿も、無数の仮面の中の一つでしかないかもしれない』

( ^ω^)「……」

57 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:40:16.28 ID:Hz2ycwbY0

ブーンには、時々自分がどうしたいのかがわからないことがあった。
それをそのままフィレモンの言葉に当てはめるのは早計だが、不思議と共感させられる物があった。

尚も声は続く。

『しかし、君は自分が誰であるか名乗りを上げた』

『その強い意志に対して、敬意と力を送ろう』

フィレモンが手を伸ばし、その手がぼんやりと光る。
それはまるで、白い炎のように。
ゆらゆらと揺れる炎は、力強くうねる様に、確かにその存在を示しだしていた。

『ペルソナ』

ドクン、とブーンの鼓動が高鳴る。

『心に潜む、神や悪魔の姿をした、もう一人の君を呼び出す力だ』

『字都の地は、巨大な闇に支配されようとしている』

『そして間も無く、その闇は己が牙を見せるだろう』
59 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:45:13.80 ID:Hz2ycwbY0

炎が集束し、光放つ一つの欠片となって、ブーンの胸へと向かう。

それもまた、夢で見たものと同じ光景。

あの蝶の様に、欠片もまたブーンの体へと溶け込んだ。

体の、心の中で何かが熱く燃え上がる感覚をブーンは感じていた。

それはとても力強く、渦を巻くように。

『この力、きっと君の力になるだろう』

ふわりと、足が地から離れる。

同時に、フィレモンの姿が遠ざかっていく。

輝く星達が一つ、また一つと消えていき、あの黄金の床と柱も一つの星程になった時。

『さぁ、戻りたまえ 君が在るべき時間と、空の下へ』

近くに居た時と変わらない大きさで、フィレモンの声が響いた。

それが終わると同時に、ブーンの意識は再び闇の底へと沈んでいった……。


60 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:50:32.71 ID:Hz2ycwbY0

ξ;凵G)ξ「ブーン! よかった…」

ブーンが目を覚ました時、最初に見たのはツンの泣き顔だった。
まだ意識がはっきりとしていないブーンは、数回瞬きをした後辺りをキョロキョロと見回した。

('A`)「おっ、気がついたか」

(´・ω・`)「先生に言ってくるよ」

そう言ってショボンは幕で仕切られた部屋から出て行った。

川 ゚ -゚)「ほら、ツン 顔を拭くんだ」

そう言って手渡されたハンカチをありがとうと受け取り、涙を拭いた。

( ^ω^)「ここは…保健室かお?」

川 ゚ -゚)「ああ、あの雷の後、ブーンと同じ様に気を失ってたんだが…」

( ゚∀゚)「俺が一番に目を覚まして、皆を起こしたんだ」

川 ゚ -゚)「ブーンだけがなかなか起きなくてな 心配してたんだ」

( ^ω^)「そうだったのかお 心配かけてごめんお」
63 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:54:07.61 ID:Hz2ycwbY0

ξ#゚听)ξ「そうよ! 心配させてこの馬鹿っ!豚!やっぱり死ね!」

落ち着いたツンは振り返るなりブーンに罵声を飛ばした。

(;^ω^)「心配かけてごめんお…でも、ありがとうだお」

ξ*゚听)ξ「べ、別に感謝なんかされたくないんだから!」

少し赤くなって、またそっぽを向いた。

( ゚∀゚)「ま、乳繰り合いはその辺にしてだな」

('A`)「なぁブーン」

( ^ω^)「なんだお?」

('A`)「変な夢、見なかったか?」

ドクン

心臓が高鳴る。

( ^ω^)「…夢?」

( ゚∀゚)「ああ」

65 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 02:57:17.36 ID:Hz2ycwbY0

( ゚∀゚)「変な仮面つけた肩幅がやけに広いおっさんがでてくる夢なんだが…」

さらに高鳴る鼓動。
それは、ブーン自身もはっきりと覚えていることだった。

( ^ω^)「……見たお」

川 ゚ -゚)「やっぱりか…」

( ^ω^)「やっぱり?」

( ゚∀゚)「俺達も見たんだ ブーンも見たから…全員同じ夢を見たことになる」

ジョルジュの言葉で、その場を沈黙が支配した。
全員が、同じ時間にまったく同じ夢をみた。
これが偶然に起こり得ることだろうか?

ありえないということは、全員がわかっていることだった。

何を言っていいのかわからない空気。その沈黙を破るように、ショボンが戻ってきた。

(´・ω・`)「先生を連れてきたよ」

(-@∀@)「おお、大丈夫ですか? どこか痛い所はないですか?」



69 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 03:00:44.81 ID:Hz2ycwbY0

( ^ω^)「おっ どこも痛くはないですお」

(-@∀@)「そうですか…でも先程救急車を呼んでしまいましたので、一応検査に行ってください」

(;^ω^)「きゅ…いいですお どこも悪くはないですお」

(-@∀@)「ダメです! 何かあってからでは遅いので行ってもらいます!」

心配症で有名な保健のアザピーにズイっと迫られ、ブーンは諦めて従うことにした。
その様子をクスクスと見ていたドクオ達だが…。

(-@∀@)「君達も、ですよ」

(;゚∀゚)「え?」

(-@∀@)「当たり前です! 少しの間ですが、意識を失ったんですよ?!
    それに倒れる際にどこか打ちつけたかもしれません! 検査してもらうべきです!」
    
(;'A`)「いやだいじょうb」

(-@∀@)「ダメです! 未来ある君達にもしものことがあったら、この国はどうなるんですか!
    君達は国の宝なのです! 万が一があったら困ります!」
    
川 ゚ -゚)「これはいくしか…」

(´・ω・`)「ないみたいだね…」

71 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 03:04:28.38 ID:Hz2ycwbY0

やがて救急車がけたたましいサイレンを鳴らしながらやってきて、校庭に止まった。
担架を持って慌ただしくやってきた救急隊員達は、ブーンの呑気な顔をみて一瞬ポカンとした。

(;^ω^)「アザピー先生は一体なんていったんだお…」

丁重に担架は断り、自分の足で救急車に乗り込みベットに腰掛けた。
サイレンもいいです、と付け加えて。
付き添いにはショボンが同行することになった。

(´・ω・`)「ツンには少し、悪かったね」

走り出して少しして、ショボンが言った。

( ^ω^)「ああ…まぁよくあることだお…」

少し前───。

ξ゚听)ξ「な、なんで私が付き添わなきゃいけないのよ!で、でもどうしてもtt
(-@∀@)「それでは、ショボン君お願いします 君達は私が車で連れていきます」

ξ゚听)ξ「」

───というやり取りがあった。

73 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 03:07:58.29 ID:Hz2ycwbY0

( ^ω^)「ところで、すごい雷だったけど、近くに落ちたのかお?」

(´・ω・`)「キャンプファイヤーの柱に落ちたんだ」

( ^ω^)「ああ…どおりですごい音がしたと思ったお…」

泰炎祭のトリをつとめる巨大キャンプファイヤー。
倒れたら危険を伴うので四方に一本ずつ、そして中央に一本の鉄柱を立てるのだ。

( ^ω^)「燃えてない時でよかったお…」

(´・ω・`)「ああ、そうだったら大惨事だったね」

外はもう暗く、流れる外の景色は夜の顔を見せていた。
津阿都区は字都市の中ではいわゆる居住区に当たる。
VIP高校ができたのもそんな理由からだった。

( ^ω^)「そういえば…ショボンも夢をみたのかお?」

(´・ω・`)「ああ、ブーンも見たのかい?」

( ^ω^)「見たお 不思議な夢だったお…」

(´・ω・`)「僕も、あんなに意識がはっきりとした夢は初めてだったよ」

( ^ω^)「やっぱり、仮面の人が?」


74 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 03:11:30.39 ID:Hz2ycwbY0

(´・ω・`)「ああ、一人でしゃべってて、その後に…」

( ^ω^)「ペルソナ…」

(´・ω・`)「もう一人の、自分…」

ペルソナという言霊を紡ぐ。
じわりと、薄い汗が滲むのをブーンは感じた。


『神や悪魔の姿をした、もう一人の君』


思い出される、フィレモンの言葉。
声色すらはっきりと覚えて、いや、耳に残っていた。

それっきり二人は黙りこみ、お互いの顔を一瞥した後、窓の景色を眺めていた。
自分達はおかしくなってしまったのだろうか?
体に異常は感じられないが、不安ばかりが募っていく。

ちゃんと検査してもらえば、結果はどうあれ少しは楽になるかもしれない。
アザピー先生に感謝しなくては。

そう考えて、アザピーの必死な顔を思い出したブーンは、少し気が楽になった。

76 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 03:14:31.42 ID:Hz2ycwbY0

(´・_ゝ・`)「どこも異常はありませんね」

あっさりと、医者はそう言った。

(;^ω^)「おっ ありがとうですお」

予想はしていたが、あまりにあっさりとそう言われて、ブーンは拍子抜けした。

(´・_ゝ・`)「外傷もありませんし、脳にも異常は見られません 至って健康ですよ」

(-@∀@)「そうですか、ありがとうございました」

(´・_ゝ・`)「それでは、お大事に」

( ^ω^)「失礼しましたお」

一礼し、ブーンとアザピーは病室を後にした。

(-@∀@)「どこも悪くなくてよかったですね ご両親には連絡してあるので、迎えが来ると思います」

( ^ω^)「ありがとうですお」

…大袈裟に説明してないだろうか…?
ブーンはその事だけを心配した。


77 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 03:17:14.58 ID:Hz2ycwbY0

しばらくして、ツン達も検査を終えて待合所に現れた。
外来の受付時間をとうに過ぎている院内は、不気味な静けさを保っていた。

ξ゚听)ξ「お待たせ、ブーンも大丈夫だった?」

( ^ω^)「大丈夫だったお ツン達も平気だったかお?」

ξ゚听)ξ「うん 健康そのものだって」

(´・ω・`)「どうやら全員何もなかったみたいだよ」

( ゚∀゚)「病院なんてガキの頃風邪で連れてこられた以来だぜ」

(´・ω・`)「ははっ ジョルジュは頑丈だからね」

('A`)「頭は悪いけどな」

(#゚∀゚)「なんだと」

( ^ω^)「おっおっ とにかく皆どこも悪くなくてよかったお」

(-@∀@)「それでは、私は一足先に学校へ戻りますね 皆さんも気をつけて下さい」

川 ゚ -゚)「先生、ありがとうござ……」

79 ◆iAiA/QCRIM :2008/09/27(土) 03:19:46.14 ID:Hz2ycwbY0


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