( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです

──第2話 『覚醒』

 


 

8 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:19:01.17 ID:EKBue6YR0

静寂が支配していた院内に、突如響いた悲鳴。
ブーン達は驚いて声がした方向に振り向いた。

ξ;゚听)ξ「な…なに…?」

(;-@∀@)「ただ事じゃないようですが…皆さんはここから動かないでください」

アザピーは皆に注意すると、声がした方向へとゆっくり歩いて行った。
悲鳴を聞きつけた医師達も慌てて待合室へとやってくる。

(;´・_ゝ・`)「ど、どうしました?!」

ブーンを診察した医師も血相を変えて駆け付けた。

(;^ω^)「なんか…あっちの方から悲鳴が…」

そう言ってブーンが指をさした方向を見て、医師の顔がみるみる青ざめていく。

(;´・_ゝ・`)「あっちは…霊安室じゃ…」

(;´・ω・`)「そんな…まさか…」

その場に居た者達が、全員凍り付く。

再び院内を包み込む、静寂。
 


9 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:21:37.67 ID:EKBue6YR0

(;´・_ゝ・`)「……とにかく、見てきます あなた達は早く家に…」

川;゚ -゚)「…だめだ」

医師の言葉を、クーが遮った。

(;'A`)「ああ…なんかやばいのはわかるけど…だめだ」

(;゚∀゚)「俺達は…ここにいなきゃいけねえ…そんな気がする…」

(;^ω^)「ブーンもそんな気がするお…」

それは予感を超えた何か。確たる意思。

自分の中の何かが、告げていた。


『立ち向かえ』、と──


(;´・_ゝ・`)「何を言ってるんだ! とりあえず君達は…」

『うわああああああああぁぁぁあああああああ!!!!!』



11 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:25:01.61 ID:EKBue6YR0

また上がる、悲鳴。
今度の声には、ブーン達は心当たりがあった。
こんな奇声は聴いた事がないが、今のは間違いなくアザピーの声だ。

ブーン達は顔を見合せ一つ頷き、声のした方へと駆け出した。

(;´・_ゝ・`)「あっ! ま、待ちなさい!」

数歩遅れて、医師達もブーン達を追いかけた。

駆けている最中も、体の、心の奥底で何かが燃え上がっているような感覚をブーン達は感じていた。
それは当然、急な運動のせいなどではない。
悲鳴が聴こえる前にも感じた、あの感覚。

その炎はゆっくりと、確実に大きくなっていく。

自分達の足音に混じって、反対側が何かが駆けてくる音がした。

一旦立ち止まり、息を呑んでそれを待つ。

曲がり角から現れたのは、アザピーだった。

(メ;-@∀@)「き…君達…は…早く逃げっ…」



14 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:27:41.26 ID:EKBue6YR0

息を枯らしながら、アザピーは逃げろと訴える。
脇には、ぐったりとした看護師を抱えていた。
どうやら気絶しているようだ。

よく見るとアザピーは頭から血を流していた。

ブーン達の後からついた医師達が、アザピーに駆け寄る。

(;´・_ゝ・`)「大丈夫ですか?! いったい何が…」

(メ;-@∀@)「訳は後で! 今はとにかく……逃げるんです! …『アイツ』らが…」

(;´・_ゝ・`)「落ち着いてください とりあえず診察室へ…」

医師が肩を貸し、歩き出そうとした、その時。


『ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙……』


この世のものとは思えない、呻き声。
人として、現実世界に生きている以上、絶対に聴かないような…
地獄の底から這い上がるような、声。

そしてその声の主は、アザピーが現れた角から、顔を、見せた。



17 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:30:38.73 ID:EKBue6YR0

それは、ヒトだった。
あくまで、カタチは。

しかしその顔は…紫色に膨れ上がり…目は窪み…口からはだらしなく涎が……

地獄に訪れた、一瞬の静寂。
それを打ち破ったのは───

「うわあああぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」

最早誰が上げたのかわからない、悲鳴だった。

それを皮切りに、悲鳴は連鎖する。我先にと逃げ出す医師、看護師達。
残されたのはブーン達と、異形の近くで腰を抜かしている医師、アザピー。

二人は怯え、震えていた。
無理もない。ホラー映画の中の出来事が、現実に起こっているのだ。

『アァァ…ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…』

異形は逃げて行った医師達の背中から、すぐ足元にいるアザピーに視線を移した。
見えているのかわからないが、間違いなく、アザピーを捉えていた。

(メ;-@∀@)「ひ…あ………」

異形の腕が、己の頭上へと高く上がる。



20 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:33:33.61 ID:EKBue6YR0

…あれが振り下ろされたら、どうなる?

…死ぬ…?人が……死ぬ?

…そんなに、あっさりと、死んでしまう?

…そんな、そんなことは───

( `ω´)「させるかおおおおおおおぉぉぉぉぉおおお!!!」

叫びながら、異形に向かって突進するブーン。
意表をついたぶちかましは、異形を跳ね飛ばし、床に叩きつけることに成功した。

それに続き、クーとツンがアザピーと医師に駆け寄り、肩を貸して後方へと下がる。

(メ;-@∀@)「き、君達…早く逃げ…」

川;゚ -゚)「いいから、落ち着いてください」

ξ;゚听)ξ「私達は大丈夫です……多分」

…そんな気がする。

それはブーン達6人全員が、思っていた。



21 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:36:38.49 ID:EKBue6YR0

ブーンの後ろに立つドクオ、ジョルジュ、そしてショボン。
じっと異形を見据えていた。

吹き飛ばされた異形は、まるでダメージなどないといった様子で起き上がった。
その動作は、最初に見た時よりも俊敏に感じられた。

高まる緊張感。

そして、異形は姿勢を低くして、駆けた。

(;゚∀゚)「ぐおっ!?」

ブーンにされた仕返しとばかりに、ジョルジュが異形のぶちかましを食らった。

迅い。

驚く程の速さでブーンの横を通り過ぎ、ジョルジュに体当たりし、そのまま圧し掛かる。
必死にもがくジョルジュだが、異形は微動だにしない。

『ウウウウゥゥゥゥ………アァァアア』

腹の底に響く唸り声を上げながら、異形が腕を振り上げる。



23 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:39:46.38 ID:EKBue6YR0

(;´・ω・`)「くそ! こいつ!」

(#'A`)「どけよ!どけってんだ!!」

足を蹴り、背中を蹴り、脇腹を蹴る。
しかし、そのどれにも、異形が動じることはなかった。

( `ω´)「おおおおおぉぉぉぉおおおお!!」

ブーンは振り上げた異形の腕に巻き付き、必死に振り下げさせまいとしていた。

(#゚∀゚)「クソッ! クソがっ!」

ジョルジュも圧し掛けられながらも、顔面を殴り、抵抗をしている。

そのうちドクオとショボンも、異形の腕に必死にしがみ付いた。
これが下ろされた時、ジョルジュは──。

させないと、必死にしがみ付く。
さすがに3人に渾身の力で纏わり付かれ、異形も腕を動かせないでいた。

『ウゥゥゥ…ア゛ァ゛ァ゛ア゛!』

纏わり付かれていた腕を急に曲げ、その腕を後ろへと勢いよく引いた。
そのまま異形の肘が、しがみついていたブーンの腹へと打ち込まれる。
 


24 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:42:26.02 ID:EKBue6YR0

( ゚ω゚)「ぐおぉっ……!」

そのまま真後ろへ飛ばされた、ブーン。
床に背中を打ちつけ、胃液を嘔吐しながら、のたうち回る。

( ゚ω゚)「おおおぉぉぉぉ……げふっ…!」

ξ;゚听)ξ「ブーン! ブーーーーーン!!」

それを見ていた医師は、はっとする。

(;´・_ゝ・`)「そうだ……霊安室には…まだ遺体が二つ…」

医師の予感は、当たってしまった。
ブーンが弾き飛ばされた先、つまり異形が現れた角には、すでに──

『アアアァァァアアァァァア……』

新たな異形が、いた。

そしてその1体が、ゆっくりと、ブーンに覆い被さった。

ξ;凵G)ξ「いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
 


25 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:45:31.64 ID:EKBue6YR0

響き渡る、ツンの絶叫。
アザピーは愕然とし、医師は目を逸らした。
ドクオとショボン、ジョルジュは尚も異形と組み合っている。

だからソレを、見ていなかった。

はっきりと見ていたのは、クー一人。

川;゚ -゚)「い…今のは…?」

クーの落ち着いた声を聞き、思わず目を閉じていたツンが、目を開ける。

目に映るのは、しっかりと立ち上がっていたブーンの姿。

覆い被さったはずの異形を、見下ろしていた。

クーは見ていたのだ。

ブーンが襲われる瞬間、光輝く何かが、異形を弾き飛ばしたのを。

ξ;凵G)ξ「ブ、ブーン……?」

さっきまで吐しゃ物を撒きながらもがいていたブーンではない。

ブーンの姿は、まるで神のように神々しく、力強く見えた。




27 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:49:16.80 ID:EKBue6YR0


           『我は汝 汝は我』


        『我は汝の心の海より出でし者』


          『さぁ、我の名を呼べ』

   
        『汝が強き言霊に、我は応えよう』
        
        
         『我の名は、輝き清き、汚れ無き炎』
         
           
      『この地の汚れた魂を、全て滅して見せようぞ』
        
       
           『さぁ、我の名を呼べ!』


           
29 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:52:15.52 ID:EKBue6YR0


(  ω )『ペルソナ…』


( `ω´)『スヴァローグ!!!』


ブーンの声に、言霊に、それは応えた。
足元から吹き上げる風、いや、炎が、渦を巻いて立ち昇る。
その炎は、ブーンの体からも舞い上がっていた。

そしてそれが集束し、一つの形となる。

その姿は赤く燃え盛る人型の神。
両肩から伸びる力強い炎は、龍のようにも見えた。

ブーンの心に眠る、ペルソナ。

輝き清き、古の太陽神、スヴァローグ。

( `ω´)『アギ!!』

言霊に応え、スヴァローグが炎を巻き上げながら手を上げ、異形に向かって振り下ろす。

同時に、聖なる炎にその身を焼かれる異形。



34 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:55:23.40 ID:EKBue6YR0

『アアアアアアァァァァァァア゛アア゛ア゛アア゛ア゛ア゛!!!!!』

まさに、断末魔。
二度と聞きたくないような悲鳴を上げ、異形は倒れた。
いや、最早異形ではなくなっていた。倒れたその顔は、まるで寝顔のように安らかだった。

(  ω )「……」

ブーンはそれを見届けると、前のめりに倒れこんだ。

ξ;゚听)ξ「ブーン!」

すかさずブーンに駆け寄り、抱きかかえる。

しかし、そこには──

川;゚ -゚)「ツンー! だめだ! まだもう1匹!!」

クーが叫んだ時には、すでにもう1匹の異形がその腕を振りおろそうとしていた。

ブーンを庇うように、盾になるように、ツンはブーンの頭を抱き締める。

そしてそれが、届いた。
 


36 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 20:58:53.26 ID:EKBue6YR0


           『我は汝…汝は我…』


        『我は汝の心の海より出でし者…』


        『いと優しき者よ…我が化身よ…』
        
        
    『汝が抱く彼の者を想う心…しかと受け止めました』
     
     
         『さぁ…我の名を呼びなさい…』
         
         
     『我が力を…愛しき者を守る力を、示しましょう』
      
      
             『愛の名の下に…』
         


39 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:02:03.56 ID:EKBue6YR0


ξ--)ξ『ペル…ソナ…』


ξ゚听)ξ『スアデラ』


優しく、しかし力強く紡がれた言霊に、それは応えた。
座り込みブーンを抱くツンの周囲から、白い光が渦巻いて、やがて一本の柱となった。

その渦が治まり、優しい風になった時、そこから現れたのは…まさしく、女神。

長い一つの薄布だけを纏い、長くしなやかな髪を優雅に流す。
その神々しい妖艶な笑みの前では、欲情を抱くことすら儘ならない。

それは、愛と誘惑の女神、スアデラ。

ξ゚听)ξ『マリンカリン』

光に怯んだ異形に向けて放たれた、魅了の言霊。
異形はたちまち女神の誘惑に誘われ、束の間の楽園へと旅立つ。

それを見てツンは、ブーンへと視線を戻した。
 


40 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:05:20.67 ID:EKBue6YR0

ξ゚听)ξ『ディア』

ツンが言霊を紡ぐと、スアデラがそっとブーンの頭に手をかざす。
温かく、優しい光がブーンを包み込み、ゆっくりとだが、ブーンの顔色が良くなっていった。

川;゚ -゚)「あれが…ペルソナ…」

現実離れした状況の中で、クーは夢の事を思い出していた。

川 ゚ -゚)「自分の中の…もう一人の自分…」


『…そう』


川 ゚ -゚)「…聴こえる……できるのか?…私にも…」

その時、自分の中にいる確かな存在の声を掻き消す様に聞こえた、叫び。

(#'A`)「クソがあああぁぁぁぁぁ! 死にやがれええぇぇぇ!」

ドクオが、設置された消火器をジョルジュに未だ圧し掛かっている異形の頭めがけ、振り下ろした。

しかし、それが異形の脳天を捉える事はなかった。
 


41 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:08:48.74 ID:EKBue6YR0

寸前で異形は爪を突き立て消化器を止めたのだ。
高い破裂音の後、中身の粉が舞い上がった。

数瞬、視界が奪われる。

そしてその一瞬に、標的をドクオに変えた異形が、煙を突き破り襲いかかった。

(;'A`)「がっ…!」

ドクオが身構えた時には、すでに異形の手はドクオの首をしっかりと掴んでいた。
明らかに人を超えたその力に、ドクオは四肢を動かすことすらできずにいた。

(#´・ω・`)「放せ! この!!」

それを見たショボンがすぐさま異形の腕に掴みかかり、引き剥がそうとする。
しかし、ジョルジュの時と同じ様に、いくら力を込めても動かない。

ドクオの顔がみるみる赤くなり、やがて紫色になりかけた時。

川#゚ -゚)「放せ」

異形の腕を片手で掴んだのは、クー。

それと共に、『力』が発動する───
 


44 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:11:58.45 ID:EKBue6YR0

川 ゚ -゚)『ペルソナ』

異形の腕が、軋む。
ドクオの首を絞める力が弱くなり、指が離れ、異形は腕を持ち上げられていく。
そしてついにドクオは解放され、跪き、激しく咳きこんだ。

男3人でも敵わなかった異形の力が、クーの細腕1本で捻じ伏せられていた。

川 ゚ -゚)『来い…タレイア』

ざわりと、クーの美しい髪が逆立つ。
温かな春風が頬を撫で、頭上へと舞い上がる。

風が過ぎ去った後に現れたのは……

『我はタレイア…汝が一人…』

地獄に咲いた、一輪の花<女神>。

『汝が開花を共に迎えたこの歓び…』

豊かさと開花を司る女神。

『不浄な輩の浄化を以て、見せましょう』
 


47 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:14:30.81 ID:EKBue6YR0

川 ゚ -゚)『ガル!』

言霊と同時に、タレイアから風の刃が駆け抜ける。
それは異形の周囲で回り、やがて重なり、一つの渦となった。
渦の中心で、切り裂かれる異形。

『ウ゛ァ゛ァ゛ァァァ…アア゛ア゛ァァ゛ァ!』

苦しむ異形。しかしよく見ると、体には傷一つついてはいなかった。
尚も風は勢いを増す。その時。

( A )「……クー……」

よろめきながら、ドクオがクーを呼んだ。

川;゚ -゚)「ドクオ…大丈夫か?」

(;'A`)「ああ…助かったぜ…で」

その顔に浮かぶのは、怒り。

(#'A`)「こいつは俺にやらせてくれ」

言って、ドクオの足元から黒い炎が立ち上った。



49 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:18:02.90 ID:EKBue6YR0

「おい…聴こえるなら返事しろ…」

『死に損ないよ、まだ動けるのか?』

「…当たり前だ…こいつを…ぶち殺してやる」

『ハハッ! それでこそ我が半身よ!』

「あぁ…力を借りるぜ…」

『存分に振るうがいい 安心しろ、汝が死んでも特別に楽園まで案内してやろう』

「何言ってやがる…連れてくなら、このバケモノを連れていきやがれ」

『半身よ、残念なことにそれはできぬ なぜならば、こやつは今すぐ地獄へ堕ちるのだからな!』

それは楽園への案内人、自殺を司る女神。


('A`)『ペルソナァッ!』


('A`)『イシュタム!!』



54 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:22:18.44 ID:EKBue6YR0

黒炎が立ち昇り、それはドクオの頭上で集束する。
やがてそれは1本の、黒く太い縄となり、遥か頭上まで伸びていた。
その縄に首を吊られ現れたその姿は、見る者を死に誘うかのように。

('A`)『グライ!』

ドクオの紡ぐ言霊に応え、イシュタムが腕を振り上げる。
そして無気力に、静かに下ろされた。
同時に異形は、床に激しく叩きつけられる。

『アァ゛ァァ……ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥゥ゛ゥ』

押し潰すその力に、異形は指すら動かすことができず、低い唸り声を上げた後に琴切れた。
ブーンの時と同じように、横たわる遺体は安らかな顔をしていた。

それを見届けると、イシュタムは静かに虚空へと消えていった。

(;'A`)「はっ…はっ…げほっ」

川;゚ -゚)「ドクオ、とにかく座れ」

クーに促され、一体何が起こっているのかわからず呆けていたアザピー達の隣に腰掛ける。

川 ゚ -゚)『ディア』



55 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:26:40.39 ID:EKBue6YR0

ツンと同じく、優しく言霊を紡ぐと温かな光がドクオを包んだ。
少しずつ、ドクオの顔色がよくなっていく。
見れば腕や顔に小さな傷がいくつもついていたが、それもゆっくりと塞がっていっていた。

残る異形は、一匹。

ξ゚听)ξ「ほらジョルジュ…」

ブーンの治療を終えたツンが、今度はジョルジュにディアをかける。
体当たりの衝撃が大きかったのか、口には血が滲んでいた。

(;゚∀゚)「ぐ…すまねぇ…」

苦痛に顔をゆがませ、優しい光に包まれるジョルジュ。

そしてブーンが、残る一匹を見据え…

( ^ω^)『ペルソ…』

再びペルソナを召喚しようとした、その時。

(´・ω・`)「ブーン、待ってくれ」

止めを刺そうとしたところを、ショボンが止めた。



56 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:30:28.27 ID:EKBue6YR0

(´・ω・`)「僕にやらせてくれないか? なんとなく、やれそうなんだ」

( ^ω^)「ショボン…わかったお」

ショボンの瞳に宿る光を見て、ブーンは後を託した。

呆けている異形をしっかりと見据え、ショボンは大きく息を吐く。

「ふぅ……それじゃ、応えてもらおうか」

『儂を呼ぶのは何者ぞ…』

「君は僕、僕は君なんだろ?」

『おお…わかるぞ お前は儂の半身か…』

「力を見せてもらうよ」

『いいだろう 死国の王たる儂の力、その眼でしかと見るがいい』

(´・ω・`)『ペルソナ…』

静かに、言霊を紡ぐ。



58 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:34:03.16 ID:EKBue6YR0

ショボンの周りを、青い炎がゆらゆらと回り、円を描く。
それはだんだんと早くなり、炎も応じて、大きくなる。

やがてその炎が、ショボンの頭上で人の形を形成していく。

巨大な剣を持ち、全ての罪を見通す、鋭い眼光。

それは冥界の王。生きとし生けるものの全ての罪を裁く王。

(´・ω・`)『ヤマ』

圧倒的な威圧感に、誘惑にかかっているはずの異形に滲み出る、畏怖の色。

立ち塞がるは、地獄の閻魔。

(´・ω・`)『ハマ』

静かに紡がれた言霊。それに呼応しヤマは眼前で剣を構え、目を見開き、力を発動する。
剣から白い光が放たれ、それが異形を包み込む。
ぼんやりと、異形の体から黒い影が現れたのが見えた。

そしてそれは、少しずつ霞みがかり、光に溶けて消えうせた。

終わって倒れた遺体は、また安らかな顔をしていた。

(´・ω・`)「ふぅ…」



60 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:37:36.13 ID:EKBue6YR0

ショボンが一息つくと、ペルソナもまた虚空へと消えていった。
残ったのはまた、静寂。

( ^ω^)「……終わったお……」

静寂を取り戻した院内に、ブーンの声が響く。

川 ゚ -゚)「ツン、先生達の方も」

ξ゚听)ξ「あ、うん」

クーに促され、二人はアザピーと倒れていた看護師の治療に取り掛かった。
優しい光に包まれる二人。

(;´・_ゝ・`)「これは……君達は一体…?」

(メ;-@∀@)「温かい……しかし、あの化け物はどうなったのですか?」

ξ゚听)ξ「それは……私達にもよくは…」

(;-@∀@)「君達が何か言って、手を振りかざすと…急に倒れて人間に戻ったような…」

(;´・_ゝ・`)「ええ……テレビで見る、催眠術のようでした…」

(´・ω・`)「それは……」



62 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:40:59.60 ID:EKBue6YR0

('A`)「もしかして…ペルソナを見てないのか?」

(;゚∀゚)「あいてて……多分、そうだろうな」

(´・ω・`)「ジョルジュは見えたの?」

( ゚∀゚)「ああ、はっきりと見えたぜ お前らの体から何かが出てくるのが」

(´・ω・`)「なるほど…ペルソナを使えない者には見えない…か」

( ^ω^)「ジョルジュはペルソナの声が聴こえなかったのかお?」

( ゚∀゚)「いや、聴こえてた だけど途中からなんか、聴こえなくなっちまった」

( ^ω^)「なるほどお…」

(#゚∀゚)「クソッ 俺も戦いたかったぜ……」

(´・ω・`)「まぁとりあえず…3人を介抱しないと───

キィィィン!!

突然、ブーン達を高い耳鳴りが襲った。
そしてそれは、咄嗟に耳を塞ぐよりも早く消え去った。



63 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:43:09.29 ID:EKBue6YR0

(;^ω^)「な、なんだお今の」

(;'A`)「ちょっとびびったぜ」

(;゚∀゚)「まったく…さっきからわけがわかんねぇ…」

早く家に帰りたい。全員がそう思った時。

(´・_ゝ・`)「ん…? なんだ君達は?」

ξ゚听)ξ「え?」

(´・_ゝ・`)「私もなんでこんなところに…」

寝ぼけたように周囲を見渡し、あるモノを見て医師ははっとする。

(;´・_ゝ・`)「あ、あれは今日亡くなった……なんでこんなとこに!」

すぐさま立ち上がり、倒れていた遺体へと駆ける。
医師は全てを、忘れていたのだ。

そして勿論、この男も。

(-@∀@)「はて…私はなぜこんなところに…」
 


65 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:46:17.77 ID:EKBue6YR0

川;゚ -゚)「ア、アザピー先生、覚えてないんですか?」

アザピーの手当をしていたクーも、目を丸くする。

(-@∀@)「ううん…頭がぼうっとしてますが……君達の診療を見届けた後…
     なんで廊下で座ってるんでしょうか…」
     
混乱する医師とアザピー。
しかし、ブーン達は彼等以上に混乱していた。

死体が異形化し、襲ってきた。
夢で見たあの男の通りに、ペルソナが発動したこと。
そして突然耳鳴りがし、二人が記憶を失っていたこと。

(;^ω^)「頭がおかしくなりそうだお……」

顔を見合せ、ブーンの言葉に力なく頷くことしかできなかった。

(;´・_ゝ・`)「ああ…なんでこんなことに! とにかく人を呼んでこないと…
         君達も! 早く帰るんだ!」
         
混乱している医師は、苛立ちをブーン達にぶつけるように言い放った。
参っているのはブーン達も一緒だ。やれやれと言った表情で、ブーン達は入口へと向かった。
 


67 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:49:31.62 ID:EKBue6YR0

(´・ω・`)「先生、大丈夫ですか?」

(-@∀@)「ん…あぁ、少しふらつきはしますが、大丈夫ですよ」

(´・ω・`)「傷は?」

言われ、アザピーは頭を押さえながら、

(-@∀@)「あぁ、大丈夫です なぜかよくわかりませんが、傷がなくなってます」

(´・ω・`)「そうですか」

(-@∀@)「とにかく…家の方が心配してるはずです 君達は早く帰りな…」

J(;'ー`)し「ブーン!」

( ^ω^)「お…カーチャン?」

ブーンを見つけるなりすぐに飛んできたのは、ブーンの母親だった。

J(;'ー`)し「大丈夫? どこも悪くない? 突然電話がかかってくるし…病院の中は慌ただしいし…」

(;^ω^)「お、落ち着いてくれお ブーンはこの通り平気だお」



68 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:52:57.50 ID:EKBue6YR0

アザピーのせいなのかは知らないが、余程心配だったのか、
慌てていたカーチャンを落ち着かせるブーン。

J( 'ー`)し「本当に大丈夫…? それならいいんだけど…」

( ^ω^)「だおだお 心配かけてごめんだお」

そんなやり取りを見て、ショボン達もようやく現実に戻れたと、少し楽になった。

(-@∀@)「お母様、ブーン君はどこにも異常は見られませんでした 安心して下さい」

J( 'ー`)し「まぁ先生 ご迷惑をおかけしました ありがとうございます」

(-@∀@)「さぁ、夜も遅くなりますし、送ってあげてください」

失礼します、と会釈をして、アザピーは一足先に外へと出て行った。

J( 'ー`)し「皆はおうちの方は見えるのかしら? よければ送っていくけど…」

ξ゚听)ξ「あ、おばさん じゃあお願いしてもいいですか?」

('A`)「俺もお願いします」

J( 'ー`)し「あら、ツンちゃんにドックンね、わかったわ」



69 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:56:03.25 ID:EKBue6YR0

ツンとドクオはブーンとは幼馴染だったこともあり、ブーンの母とも仲が良かった。
未だ騒がしい病院を後にし、駐車場へ向かう。

ξ゚听)ξ「クー達はどうするの?」

川 ゚ -゚)「私は電車で帰るよ 駅も近いし」

(´・ω・`)「僕もそうするよ」

( ゚∀゚)「俺も家が近いから歩いて帰るぜ」

J( 'ー`)し「暗いから気をつけてね ブーンのために、今日はありがとうね」

川 ゚ -゚)「いえ、とんでもないです」

ξ゚听)ξ「じゃあ明日、学校でね」

川 ゚ -゚)「ああ」

( ^ω^)「それじゃ、気をつけてくれお」

(´・ω・`)「うん、おやすみ」

別れを告げ、ブーン達を乗せた車は夜の闇へと消えていった。



70 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 21:59:15.56 ID:EKBue6YR0

川 ゚ -゚)「じゃ、いくか」

ブーン達を見送り、クー達も駅へと歩き出した。

暗い道を、3人が進む。
それぞれ今日起こった現実離れした出来事を思い出しているのだろう。
暫く沈黙が続いた。

(´・ω・`)「一体、なんだったんだろうね」

何度も同じことを考えていたせいか、それがついショボンの口から飛び出した。

川 ゚ -゚)「ん…ペルソナか…」

(´・ω・`)「それもそうだし、あのゾンビも…」

川 ゚ -゚)「何かが、とり憑いていたみたいだったな」

(´・ω・`)「ああ、僕もそう思う ペルソナの力をくらった後は、普通の人間だった」

( ゚∀゚)「しっかし…すげえな、ペルソナは」

(´・ω・`)「あんなのがもう一人の自分だなんてね」

( ゚∀゚)「クーも片手であいつの腕捻り上げてたしな」



71 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 22:02:16.38 ID:EKBue6YR0

川 ゚ -゚)「ああ、ペルソナを発動してると、力が湧き出てくる感じがした」

(´・ω・`)「不思議な力…いわゆる魔法が使えること以外にも、身体能力を向上させる…」

川 ゚ -゚)「よくはわからないが…あの夢で、フィレモンが言ったとおりだな…」

( ゚∀゚)「あの肩幅か…そういや最後に気になることも言ってたな」

少しの、沈黙。

そして。

(´・ω・`)「字都の地が、闇に支配されようとしている…」

フィレモンが言ったことと同じ台詞を、繰り返した。

( ゚∀゚)「……なーんか、ゲームや映画みたいな話だな…」

川 ゚ -゚)「そう…だな… しかし、あんなものを見せられたら、嫌でも信じてしまうな」

ジョルジュが空を見上げる。そこには、雷を落とした黒い雲はすでになく、
満天の星達が輝いていた。
 


72 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/09/29(月) 22:05:39.07 ID:EKBue6YR0

(´・ω・`)「途方もない話なんだけど…」

そう。まさに作り話の中の出来事のような、途方もない話だった。
だが、ショボンの口からは思わぬ言葉が出た。

(´・ω・`)「あるんだ、一つ 手がかかりになるようなことが」

それを聞いて、クーとジョルジュは慌ててショボンを見た。

川 ゚ -゚)「なんだって? 何か心当たりがあるのか?」

( ゚∀゚)「ペルソナがなんか言ってたのか?」

二人の目に光るのは、期待の色。
このわけのわからない状況を打破することができるかもしれないと言う、期待。

(´・ω・`)「ペルソナじゃないんだけどね…」

あまりの期待の視線に、少し不安になったのか、ショボンは少し自信なさげに……

そして静かに、言葉を続けた。

                                   続く。


 

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