( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです

──第12話 『悪思』


 
 
2 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 20:52:01.52 ID:tOaclZsw0

 肘を床に小刻みに打ちつけ、異音を放つ。
 テケテケ、テケテケと。
 
 下半身を失くし、地獄の苦しみを味わいながら死に至った、薄幸の少女。
 
 なぜ自分が。 なぜ、自分だけが。
 
 切歯扼腕、テケテケ、テケテケ、と。
 
 涙も涸れ、代わりに血が流れ出した赤い瞳に映るのは。
 震え怯える、ツンの姿。
 
 許すまじ、美しい少女。
 
 許すまじ、足のある女。
 
 怨恨だけを存在意義にこの世に留まる妖怪が、唯一恍惚の笑みを浮かべる瞬間。
 
 それは、自分と違う存在を、自分と同じ姿に変えた時────
 
ξ;凵G)ξ「いやぁぁぁぁぁああああ!!」

 恨みは、放たれた。
 
 


 
4 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 20:52:35.82 ID:tOaclZsw0


 


( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです

 


第12話『悪思』

 
 




5 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 20:54:14.64 ID:tOaclZsw0

 『ゲェッ!?』
 
 赤く、異臭を放つその口がツンに届く事は、なかった。
 肘を強く打ちつけ跳び上がったテケテケを、横合いから弾き飛ばした物。
 
 氷の飛礫。
 
 それを放った存在。
 
 ジャックフロスト。
 
 『ナナナナンデデデ……ジャマヲスルゥウウゥゥゥウ!!』
 
 同じ悪魔だと言うのに。
 恨みの矛先はツンから離れ、そちらに向けられた。
 
ξ;凵G)ξ「…………J……F……?」

J・F『泣いてる場合じゃないホ とりあえずこいつを片付けるんだホー』

 ジョルジュのペルソナ、J・F。
 術者の姿は見えない。何故彼がここに。
 
 しかし、思考する間を与えない存在が、まだ。
 

 

7 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 20:56:16.97 ID:tOaclZsw0

 『ゲェェェェェェェエエエエ!』
 
 肘だけで動いていると言うのに、その動きは素早い。
 一直線にJ・Fへ襲い掛かる。
 
J・F『ブフ!』

 放たれる氷の飛礫。
 
 それを確認したテケテケは、右肘を床に強く突き刺し、大きく左へ跳ぶ。
 上半身の切断部から黒い血を撒き散らしながら、着地。
 
 と同時に。
 
 『ギャッ!?』
 
 テケテケを衝撃が襲った。
 体が痺れ、身動きがとれない。
 狙うには、十分な隙だった。
 
J・F『ブフーラ!』

 氷の粒子が、テケテケに集う。
 その周囲の温度が急速に低下していく。
 
 



8 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 20:58:15.32 ID:tOaclZsw0

 『グ……ガ……』
 
 声を発することすら、困難。
 己の血が凍り、床に貼り付き、唯一の移動手段の腕すらも、霜で凍り付く。
 
 やがて粒子は集い、人程の氷柱を形成した。
 
 氷柱に閉じ込められたテケテケは、周囲の石像達と同じく、物言わぬオブジェと化した。
 
J・F『……助かったホ』

 テケテケの動きを止めた衝撃。
 ツンが咄嗟に放った、ジオだった。
 
 未だ床にへたり込んでいる彼女だが、J・Fの登場で多少恐怖が和らいだ様だ。
 
ξ゚听)ξ「ううん……ありがとう……」

 涙も引き、一旦の落ち着きを取り戻す。
 J・Fがこなければ、死んでいた。 助けられたのは自分だと、礼を言う。
 
 死と隣り合わせの現実にも、先程の孤独、不安、そして恐怖に比べれば、幾分かマシだった。
 
 孤独は、負の感情を助長させるのだ。
 
 
 


9 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:00:17.01 ID:tOaclZsw0

 人外と言えども、知った者の存在はこれ程までに光明をもたらすのか。
 心に希望を、生み出すのか。
 
 なんと、現金なのだろう。
 やはり一人では、何もできないただの子供なのだと、ツンは心の中で自虐を繰り返した。
 
 ここが自室なら、布団にくるまって夢の中へと旅立てるのだが。
 生憎この状況は、それを許さない。
 ツンは頭を切り替え、再びするべきことを思い出す。
 
ξ゚听)ξ「J・F……ジョルジュは?」

 ジョルジュがいないことは、共振を感じないことからわかっていた。
 自分のそれとは違う不思議なペルソナだと前々から感じていたツンだったが、
 ここまで色濃く疑問に思うことは、初めてだった。
 
J・F『こっちに向かってるはずだホ オイラは朝から別行動してるんだホ』

ξ゚听)ξ「別行動って……ジョルジュは学校にいないの?」

J・F『昨日からモナーの所にいるホー 特訓してたはずだホー』

ξ゚听)ξ(なるほど……)
 
 


10 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:02:18.46 ID:tOaclZsw0

 なんとなく、ツンはジョルジュの状況を理解した。
 常に皆の前に立つ彼の性格なら、その行動は理解の範疇だと。
 
 話を止めると、すぐに静寂が訪れる。
 
 現実の生活において、そんなことはまず起こり得ないだろう。
 近くを通る車の音、エアコンの音、虫の音。
 機械的な物を除いても、風の音や、木の軋む音だったりと。
 
 なにかしらそう言った音は存在する。
 しかしこの教室は、音すらも存在を拒否している様な空間だった。
 
 自然と意気消沈していき、思考はネガティブな方向に働き、
 また恐怖を生み出してしまう。
 
 そうなる前に。
 
ξ゚听)ξ(……いかなくちゃ……それしかないんだから……)

 空き教室へ。
 
 デレの元へ。
 
 このまま居ても、殺されるだけなのだから。
 
 
 

12 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:04:47.83 ID:tOaclZsw0

ξ゚听)ξ「J・F」

J・F『ホ』

ξ゚听)ξ「私……行かないと」

J・F『聞こえてたホー オイラもいくホー』

ξ゚ー゚)ξ「……ありがとう」

 不思議と、ツンは安心することができた。
 ジョルジュと居るような、そんな気がしていたのだ。
 J・Fの明るさから、それを感じていた。
 
 そうすると、どこか違うようでもやはり、ジョルジュのペルソナなのだと言える。
 それを口に出せば、J・Fは喜んだことだろうが、ツンは言わなかった。
 
 ありがとうに、全ての意味を込めたからだ。
 
 それをJ・Fが汲み取れたかどうかは、わからないが。
 
ξ゚听)ξ「しょ……っと」

 足が、腰が、体が、石の用に重い。
 しかし、立ち上がらなければならない。
 
 
 


13 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:06:41.06 ID:tOaclZsw0

 行かなければ、何も始まらないから。
 ブーン達を救う事が、できないから。
 
 重い体に鞭打ち、ツンは立ち上がった。
 それを見つめるJ・Fは、何を思うのか。
 
J・F『ピンクかホー』

ξ*゚听)ξ「ちょ、ちょっと!」

 ツンを見上げながら、目に映った三角の布の色を言う。
 途端に顔を赤くし、後ずさるツン。
 
J・F『……じゃあ、行くかホ』

 そう言って身を翻し、教室の出口へと進む。
 
ξ゚听)ξ(……もう……)

 不器用な気の使い方も、やはりジョルジュに似ていた。
 凍りついたテケテケを見ない様にして、ツンも出口へと歩く。
 
ξ゚ー゚)ξ(ありがとう、J・F)

 心の中で、感謝をしながら。
 
 


15 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:08:56.39 ID:tOaclZsw0

 薄暗い、ガラスが散乱した廊下が続く。
 外に飛び出した生徒、教員達もまた石像と化し、無造作に転がっていた。
 落ち着いたと言ってもやはり、その不気味さはどうしても恐怖を煽る。
 
 ツンは目を閉じ、頭を少し振った後に、また目を開ける。
 
 映る景色は、変わらない。
 恐怖も勿論、変わらない。
 
 だがしかし、覚悟は決めた。
 今度こそ、今度こそだ。
 
ξ゚听)ξ「行きましょう」

 次はツンが先頭に立ち、進みだした。
 J・Fはツンの少し後ろを、肩の高さ辺りまで浮きながら着いて行く。
 
 歩く途中に、ツンは考えた。
 
 なぜあれ程までに、デレが変わってしまったのかを。
 
 思い当たるのはやはり、ペルソナのこと。
 デレもペルソナ様遊びをしたと話していたのを、聞いていた。
 休み時間の喧騒の中、たまたま聞こえただけのことだったが。
 
 

17 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:12:00.74 ID:tOaclZsw0

 それで同じ様にフィレモンに会っただとかは、ツンは知らない。
 しかしこの異常な行いは、ペルソナ、もしくは別の何か。
 異能の力を行使しなければ、到底行えることではないだろう、と。
 
 ペルソナ様遊びをしたことで、やはりデレは何かに目覚めているはずだ。
 
 だが、あまりにも強大な力が、引っ掛かる。
 ペルソナ一つでここまでのことができるとは到底思えない。
 もしかしたら、VIPが絡んでいるのかも知れない、と。
 
ξ゚听)ξ(だとしたら……)

 デレは被害者だ。
 偽善を掲げるわけではないが、できることなら救ってあげたい。
 
 なぜ?     ────友達だから。
 
 本当に?    ────……本当に。
 
 殺すと、宣告されたのに?
 
ξ )ξ(…………)

 実はツンは、以前から感じていた物がある。
 
 



18 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:14:46.00 ID:tOaclZsw0

 デレの視線。
 
 明らかに友達に送るそれとは違う、視線。
 
 先のテケテケと、似た感情。
 恨み、嫉妬、そう言った物を、ツンは感じていたのだ。
 
 それは、フィレモンと出会う時よりも、前から。
 三年に上がり、再び同じクラスになった時から。
 
 ツンが話しかければ、デレは普通に対応していた。
 遊ぶことはなかったが、その時は普通の友達の様に。
 
 しかし、時々混じるのだ。
 視線の中に、負の感情が。
 
 それが今、ピリピリと肌に感じる程にまで膨れ上がった。
 
 具体的には、殺意だ。

 ツンが病院で、津阿都神社からの帰り道で遭遇した悪魔達。
 あれらが発していたモノと同じ、殺意。
 恨みや憎しみの上に、色濃く。
 
 デレの言葉には確かに、殺意が添えられていた。
 
 


19 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:16:31.35 ID:tOaclZsw0

 階段を一段上がる毎に、ツンの心は震えていく。
 
 鼓動が、高まっていく。
 
 最早疑いの余地はなかった。
 
ξ゚听)ξ(デレは……ペルソナを……)

 所持している。ペルソナに目覚めている。
 しかし、ブーン達との共振とは、少し違っていた。
 自分と、とても似ている様な波動。
 
 容姿が似ている事は、ペルソナにも影響を及ぼす物なのか。
 
 フィレモンは言っていた。
 神の様に慈愛に満ちた自分。
 悪魔のように、残酷な自分。

 人の内面など、到底量り得ることはできない。
 そもそも自分の事ですら、知らぬだけで悪魔を飼っているのかもしれない。
 
 心…………感情と言う物は、些細なことで揺れ動くもの。
 他者にとっては小さなことであっても、当人には多大な衝撃を与えることもある。
 
 では、デレの場合は。
 
 


21 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:18:36.83 ID:tOaclZsw0

 ツンと容姿が似ている。
 当事者達にとっては、不思議だと感じただけであろう。
 
 だがしかし、他者は違うのだ。
 例えば、常に成績の一位と二位に名を連ねる二人だったり、
 著名なスポーツ選手の息子であったり。
 
 当事者達には、なんてことはない。
 その順位に、自分がいるだけ。父親が有名人。ただそれだけだ。
 多少の意識はあれど、自分は自分だと言う意思を持っている。
 
 しかし、世間は比べるのだ。
 似ている物同士を。どちらが優か、どちらが劣かと。
 
 ツンはそういう話が耳に入る度に、くだらないと一蹴していた。
 自分が優であろうが劣であろうが、自分は自分だと。
 
 実際周りの風評は、ツンに優を付けていた。
 それを口に出すとツンは激昂するので、いつしか誰も言わなくなったが……
 
 もしツンが劣だったとしても、彼女は何も感じないだろう。
 
 だがデレは違った。
 
 


22 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:20:20.68 ID:tOaclZsw0





 私に出来ないことが、ツンにできる。
 運動、勉強、そして人望と言った内面のことも。
 優れていた。自分よりも。
 
 容姿など化粧次第でどうにでもなる。
 しかしそれだけ。
 それ以外は、勝てない。
 
 そこに押し当てられた、劣の烙印。
 同時に重く圧し掛かる、プレッシャー。
 
 最初は挽回しようと、努力していた。
 でもいつか、クラスも別になった頃、次第に意識も薄れていっていた。
 そしてまたクラスが同じになった時に。
 
 努力をやめた一年という時間。
 その時間は、二人の差をさらに広げていた。
 
 そしてまた陰で囁かれる、優劣。
 私の心に溜まっていた膿が、徐々に膨れ上がって行った。
 
 劣っているのは、自分のせいだ。
 全ては、自分に魅力がないせいなのだ。
 
 
 


23 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:21:58.29 ID:tOaclZsw0

 だから多分、父親にも殴られるのだ。
 毎日毎日、よくわからない理由で、殴られる。
 小さい時から、ずっとずっと。

 最近は、殴らないで違う事をしてくる。
 
 私がだめだから。
 
 ツンより劣っているから。
 
 学校での口撃に耐え。
 
 父からの攻撃に耐え。
 
 私がだんだん、こわれていく。
 
 気が合うわけじゃない、私を私に留めておくだけの友達。

 私がしたい事は、なんなのだろう。
 私が生きてる理由って、なんなのだろう。
 
 いくら模索しても、答えは出なかった。
 
 
 


24 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:23:57.45 ID:tOaclZsw0

 そんな時に知った、ペルソナ様遊び。
 
 それをした時は、別に何も感じなかった。
 しかしその夜。不思議な夢を見た。
 
 誰かが、囁くのだ。
 耳に、頭に、心に。
 直に重く響く声を、言葉を。
 
『何を躊躇う』 と。
『憎め、憎め』 と。
 
『一生心にその蟠りを住まわせながら生きていくつもりか』
 
 だからって、どうしようもない。
 
『恨みをぶつければ良いだけの事』

 …………ぶつける……って。
 
『我はお前に力を与える為に来た』

 …………力を…………
 
『お前の恨みを、憎しみを、我と言う力に変えてぶつければいい』
 
 


26 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:26:15.30 ID:tOaclZsw0

『何故望みもしない屈辱を押し付けられ、泣き寝入る必要がある』

『何故努力をしたお前が、苦汁をなめる必要がある』

『何故お前は、その女に勝てないのだ』

『何故、何故、何故』








『何故何故何故なぜなぜなぜなぜナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼなぜナゼナゼナゼナゼ
ナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ
ナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ
ナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ
ナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ
ナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ────………』



 ─────黙れッッッッ!!!
 
 
 

27 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:28:07.94 ID:tOaclZsw0

 私が! ツンに! 全てで劣っているからだ!!
 
『それは本当のことなのか』

 ………ッ! だって、周りが!
 
『周りがどうした お前の事など一つも理解していない、愚かな木偶人形達が、どうした』

 ……………………!
 
『お前は、劣ってなどいない』

『想いの力で、勝っている』

 想いの……力……
 
『憎しみ、恨み、よくぞここまで豊潤な物に昇華させたものだ』

 そんなもの……醜いだけ……
 
『人間には理解できぬだろうが、純粋な想いと言う物は、かくも美しい』

『どんなものであろうとも、だ デレよ、お前は美しい』

 私が……美しい……
 
 
 


29 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:29:58.45 ID:tOaclZsw0


『我はお前の美しさに惹かれたのだ』

 …………
 
『我を扱え そして────』

 そして…………
 
 
 ──── ツ ン ヲ 殺 セ。
 
 
 
 私は、その腕を掴んだ。
 
 
『我は汝……汝は我……』



『我が名は────……』
 
 


30 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:31:18.35 ID:tOaclZsw0

 夢はそこで途切れた。
 起きた時はよく覚えていなかったのに、今は鮮明に思い出せる。
 
 正しくは、この黒きトラペゾヘドロンを手にした時から。
 
 今もまた、我の名を呼べと、しきりに言っている。
 
 だけど、まだだ。
 
 もっともっと、ツンに恐怖を味わわせてからだ。
 
 ついさっき、低俗な悪魔に殺されそうになっていたが、生き延びてくれた。
 
 それでいい。
 あの程度の恐怖では、何の意味もない。
 
 もっと恐怖を。
 
 もっと絶望を。
 
 頭に、心に、体に、刻んでやる…………刻み込んでやる。
 
 その為に、私は生きているのだから。
 
 

31 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:33:28.56 ID:tOaclZsw0





ξ゚听)ξ「ここよ」

 着いた場所は、朝デレに連れられた空き教室。
 
J・F『ちょっとこれは……ヒドイホ……』

 J・Fも、勿論ツンも感じていた。
 
 異常な悪意と、殺意を。
 
 その重圧に体が圧し潰されてしまいそうな錯覚に陥る。
 
ξ;゚听)ξ(……ッ……でも……!)

 強く、手を伸ばす。
 そうしなければならないからだ。
 
 ブーン達を、救う為に。
 デレ自身も、救う為に。
 
 ツンは意を決し、悪意を閉じ込めている部屋の蓋を開けた。
 
 
 


32 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:35:53.34 ID:tOaclZsw0

 室内は朝と、何も変わらない。
 椅子も机もない、ただの空き教室。
 その中央に佇む姿も、変わっていない。
 
 背を向け、同じ様子のままのデレが居た。
 
ζ(、*ζ「ちゃんときたのねぇ 偉い偉い」

 僅かに振り向き、ウェーブのかかった髪の隙間から口だけを覗かせる。
 
ξ゚听)ξ「デレ……一体、どうしたの……?」

ζ(、*ζ「どうしたって、ツンに用事があっただけよ」

ξ゚听)ξ「用事って……ここまでのこと……」

ζ(、*ζ「気に入ってくれた?」


 振り向く。
 
 
ζ(゚ー゚*ζ「孤独っていうヤツ」

 普段と変わらない、ツンとそっくりな笑顔。
 
 


33 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:37:54.82 ID:tOaclZsw0

ξ;゚听)ξ「…………」

 恐怖は痛いほどに、味わっていた。
 つい先程の事。思い出すだけで身が震え、粟が立つ。
 だがしかし、今ツンが感じている寒気は、そのせいではない。
 
 デレの、あまりにも純粋で、屈託のない笑顔。
 
 ここまでの事をしておいて、まったく意に介していない。
 
 楽しんでいる。悦んでいる。
 でなければ、こんな笑顔は、できない。
 
ξ゚听)ξ「デレ……あなた……」

ζ(゚、゚*ζ「何よー お気に召さなかった?」

ξ;゚听)ξ「そうじゃなくて……」

 いまいち、調子を狂わされるツン。
 普段とまったく変わらない、むしろ一年生の時のような接し方をしてくるデレ。
 今この瞬間も、異様な悪意を放っていると言うのに。
 
 ツンが戸惑うのも、当然のことだった。
 
 
 

34 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:40:06.44 ID:tOaclZsw0

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、ツン?」

ξ゚听)ξ「……なに?」

ζ(゚ー゚*ζ「私達って、似てるよね」

ξ゚听)ξ「そうね……」

 何が、とは聞かなかった。
 正確には、聞けなかったのだが。
 
 やはり、発する殺意は変わらずに、ツンに語りかけるデレ。
 一触即発。一つ間違えば、すぐにでもその殺意を力に変え、襲い掛かりそうな。
 今のツンは、デレの話を聞くことしかできなかった。
 
ζ(゚ー゚*ζ「それで、知ってる? 周りになんて言われてたか」

ξ゚听)ξ「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「ツンはいいよね 皆に人気だったし 私より勉強もできたし、運動もそう」

ξ;゚听)ξ「デレ……」

ζ(゚ー゚*ζ「比べられた私は、たまったもんじゃなかったわ」
 
 


35 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:42:23.91 ID:tOaclZsw0

ζ(゚ー゚*ζ「ツンが、ツンなら、ツンだったら、ツンみたいに……」

ξ;゚听)ξ「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「そ・こ・で♪」

 デレが右手を前に差し出す。
 その手には、黒きトラペゾヘドロン。
 
ξ゚听)ξ(箱……?)

ζ(゚ー゚*ζ「お願い」

 ぽつりと、一言。

 それを合図に、トラペゾヘドロンが僅かに震えると、またすぐに静止した。
 次に、デレの横の空間にヒビが走り、亀裂が広がり、
 やがてガラスが割れるような渇いた音を立てた。
 
 割れた中身は、吸い込まれるような黒一色。
 一度入ったら、そのまま地獄の底へと引きずり込まれてしまいそうな、暗黒。

 その中から、何かがごとりと。
 
 
 


37 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:45:41.58 ID:tOaclZsw0

 重く、硬い物を置いたような音。
 ツンはそれに見覚えがあった。
 
ξ;゚听)ξ「! ブーン!」

 現れ……呼び出されたのは、石と化したブーンだった。
 ブーンを吐き出した黒い口は、割れた破片が戻って行き、繋がり、
 亀裂だけになり、ついには元通りの何もない空間になる。
 
 そんな不可解な事象には、ツンは目もくれずに。
 ただただ、ブーンを見つめていた。
 
 デレが手を、いや、箱をブーンの頭へかざす。
 ゆっくりと、這い寄る様に黒い影が伸び、それがブーンの顔に覆い被さる。
 そのまま影が、ブーンの顔を撫でていき、それが消え去った頃。
 
( ´ω`)「…………お……?」

 ブーンの顔が、人の色に戻っていた。
 
ξ;゚听)ξ「ブーン!」

ζ(゚ー゚*ζ「フフ おはよう」
 
 


40 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:48:09.02 ID:tOaclZsw0

(;^ω^)「おっ……って……」

 動けない事に疑問を感じ、首を体の方へ曲げる。
 
(;゚ω゚)「な……なんだお……これ……」

 目を見開き、愕然とする。
 無理もない。自分の体が石になっているのだから。
 
ξ;゚听)ξ「だ……大丈夫?」

 すぐにでも駆け寄りたいツンだったが、ブーンはデレのすぐ傍にいる。
 表情は穏和だが、雰囲気は真逆。
 
 動く事は、できなかった。
 
ζ(゚ー゚*ζ「さーて、内藤くん 気分はどう?」

(;^ω^)「おっ……デレかお……これは一体……」

ζ(゚ー゚*ζ「動けないでしょ? それはね……」

 言いながら、手を前に差し出す。
 その手の中には、漆黒の箱が一つ。
 
ζ(゚ー゚*ζ「黒きトラペゾヘドロンっていうの」
 
 


42 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:50:19.66 ID:tOaclZsw0

(;^ω^)「ト、トラペ?」

ξ゚听)ξ「トラペゾ……ヘドロン……?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう 私に力をくれた、不思議な箱」

 誇らしげに箱を掲げながら、微笑む。

ξ;゚听)ξ「まさか……あの地震も……?」

ζ(゚ー゚*ζ「そーよ あぁ……皆馬鹿みたいに叫んでて、可笑しかった」

 さらりと、言い放った。
 
 地震を起こす。それがどれ程の力を要するのか。
 実はあの激震は学校内、校舎だけでしか起きていなかった。
 小範囲だが、立つことすら困難な程だった揺れ。
 
 それを今まで只のクラスメイトだったデレが起こしたと言うのだ。
 ブーンは到底、信じる事が出来なかった。
 
 しかしツンは違う。実際にデレの力をその目で見ていたからだ。
 今も尚、体を突き刺す様にピリピリと感じる殺意も、その考えを助長させる。
 
 力の正体はわかった。しかしまだ。
 
 


44 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:54:40.68 ID:tOaclZsw0

ξ゚听)ξ「……一体……何を考えているの……?」

 目的が、わからないままだ。
 
 箱をどこで手に入れたのか、それもツンは知りたかったのだが……
 絶え間なく押し寄せる、この異様な殺意の理由を知りたかったのだ。
 
ζ(゚、゚*ζ「…………」

 デレの顔から、笑みが消えた。
 じっとツンの顔を見つめる。
 
ξ;゚听)ξ「っ……」

 視線に、殺意に、気圧される。
 自然と足も、一歩後ろへと下がった。
 
 瞳の奥の黒い炎は、何を意味するのか。
 何故に、ここまでデレは変わってしまったのか。
 
 ツンはただただ、それを知りたかった。
 
 
 そして。
 
 



46 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:55:56.87 ID:tOaclZsw0

ζ(、*ζ「教えてやろうと思ったのよ」

 俯き、ゆっくりと、ツンの心に響くように。
 
ξ;゚听)ξ「……何を……?」








 顔をあげて。
 
 
 
 
 
 
 


ζ(゚、゚*ζ「私の、苦しみを」
 
 


47 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 21:57:38.02 ID:tOaclZsw0

 出会ったことで、変わった生活に。
 
 他人に比べられる、毎日に。
 
 劣をつけられる、屈辱を。
 
 好きな人を、奪われた悲しみを。
 
 ただただそれらを、ツンへと。
 
ζ(゚、゚*ζ「ねぇ、ツン?」

ξ゚听)ξ「……なに」

ζ(゚、゚*ζ「私の苦しみが、アンタにわかる?」

ξ゚听)ξ「…………」

ζ(゚、゚*ζ「アンタより劣ってるって、ずっと言われ続けてた私の苦しみが」

ξ゚听)ξ「…………」

ζ(゚、゚*ζ「わかんないわよねぇ……」

ξ゚听)ξ「……デレ……」
 
 


49 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:01:32.43 ID:tOaclZsw0

ζ(゚、゚*ζ「名前、呼ばないでくれる? 癪に障るから」

ξ;゚听)ξ「…………」

ζ(゚、゚*ζ「……最近ね、夢の中で語りかけてくるの」




ζ(゚、゚*ζ「恨め…………憎しめ…………」











   『────殺せ、ってね』
 
 


50 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:03:20.34 ID:tOaclZsw0

ξ;゚听)ξ「……!」

(;^ω^)「これは……」

 揺れる、二人の心。ペルソナが警告している。
 
 
  ────いや。
 
 
 ペルソナが、怯えている。
 
 デレの中に宿る、その存在に。
 デレの、ペルソナに。
 
 
ζ(゚、゚*ζ『紹介するわ』


 黒きトラペゾヘドロンから黒い風が生まれる。
 風はデレの周囲で渦巻き、漆黒の螺旋を生み出す。
 風が集い、蟠り、形を成し、デレの背中に、それは現れた。
 
ζ(゚ー゚*ζ『私の、天使様』
 
 


52 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:05:06.51 ID:tOaclZsw0





/ ゚、。 /(やっと、か……)

 黒い雲の中、校舎の屋上に未だ佇むダイオード。
 デレの力の波を、感じ取っていた。
 
/ ゚、。 /(力を無駄に使って……残りはもう少ないぞ……)

 愚痴を漏らすも、その顔はやはり、無表情。
 
 しかし、力とは。
 
/ ゚、。 /(まぁ……今は試験的な物 どうにでもなる)

/ ゚、。 /(…………虫が三匹)

 見降ろす先は、学校を覆う黒い雲だけ。
 しかしダイオードは、力を感じ取っていた。
 ペルソナを発動させずとも、熟練者にはわかるのだ。
 
 ペルソナの術者が。
 
 


56 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:08:11.81 ID:tOaclZsw0

/ ゚、。 /(潰すか……)

 スラックスのポケットに入れた手に、力を込めた。
 一瞬、ダイオードの体がブレた後に、姿が消えた。
 
 ダイオードが居た空間を、黒い雲が塗り潰していく。
 
 その様は、言い換えるなら、そう。這い寄る、混沌────……





 VIP高校正門付近に佇む人影が、三つ。
 
 着く前から、それは見えていた。
 神聖な、壮大な教会を模した校舎は一切見えず。
 全てを包みこみ、うねる、漆黒の雲。
 
(;゚∀゚)「……こりゃぁ……」

(;´∀`)「……事態は……思ったよりも深刻かもしれません……」

 明らかな異常事態に、困惑するしかなかった。
 
 


59 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:10:19.97 ID:tOaclZsw0

 その風貌もさることながら、不可解な点がもう一つあった。
 VIP高校の周囲は、普段とまったく変わらない、平静。
 車も、通行人達も、変わらず通り過ぎていくのだ。
 
 それは即ち、この状況が見えていないと言う事。
 
( ´∀`)「……ペルソナと同じく、常人には不可視の力……ですか」

ミセ*゚−゚)リ「……異様な気を感じます どんどん膨れていってる……」

( ゚∀゚)「…………」

 ジョルジュが、手を伸ばした。
 学校を包み込んでいる、黒い雲の中へと。
 
(;´∀`)「モナッ!?」

 モナーがそれに驚いて、声を上げた。
 当のジョルジュは平気な顔をして、腕を雲の中で振っている。
 
( ゚∀゚)「なんてことない、煙みたいなもんじゃないですか」

(;´∀`)「いや……ううん……」
 
 


60 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:12:23.22 ID:tOaclZsw0

 もし、触れただけで何か起こる物だったらどうするのだと、
 モナーはジョルジュを叱りつけたかったが、この場は目を瞑る事にした。
 
( ´∀`)(ただの目くらまし……それとも、常人に見えないようにする物か……)

 数メートル先も見えない黒い雲は、その力の意味すらも隠していた。
 
 あまりに暗く、あまりに不透明な、敵の影。
 石橋を叩いて渡るモナーにとっては、迷いの連続だった。
 
 
 その時。
 
 
(;゚∀゚)「!?」

 まるで生き物の様に雲が左右に流れ、一本の道を生みだした。
 現れる地面と、空間。その先にある、校舎への入口。
 
 
 そして、入口に佇む、一人の長身の男。
 
 ダイオード。
 
 

 

63 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:14:22.78 ID:tOaclZsw0

( ´∀`)「……来い、と言うことでしょうかね」

(;゚∀゚)「まさかほんとに……ダイオード先生……」

 距離があり、まだダイオードの表情は三人から見えないが、この現象の意味は一つ。
 ここまで来いということ。
 
( ´∀`)「お招きに預かりましょうか」

 言って、モナーが先に歩き出した。
 続いてジョルジュ、ミセリ。
 
 割れた雲の幅は、大人三人が横に並んでもまだ少し余裕があった。
 広大な敷地のはずが、黒い壁があるせいでジョルジュにはひどく狭く感じられた。
 
( ´∀`)「ジョルジュさん」

( ゚∀゚)「あ、はい」

( ´∀`)「あの男……が、ダイオードですか?」

( ゚∀゚)「はい」

( ´∀`)(なるほど……)
 
 


64 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:17:13.96 ID:tOaclZsw0

 モナーはハインの言葉を思い出す。
 津阿都研究所の責任者、鈴木ダイオード。
 
( ´∀`)(いきなり、大将ですか)

 正直、モナーはこの展開を期待していた。
 あのまま雲に変化が見られなければ、立ち往生するしかなかったからだ。
 ジョルジュは平気だと言っていたが、やはり迂闊に飛び込むことはできない。
 
 ペルソナで風を生み、雲を吹き飛ばそうかと考えていた矢先の、この展開。
 関係者の襲撃を期待していたのだ。
 
 そして現れたのが、全てを統括している人物。
 上手くいけばダイオードからも情報を聞き出すことができる。
 実力の程はわからないが、ミセリもいるこの状況ならば勝利も期待できた。
 
 それは過信ではない。確かな、確信。
 己の限界を知った上で、ミセリの実力も理解し、総合的に算出した答えだ。
 この状況でモナーが勝てないと言う人物を挙げるとしたら、二人。
 
 モララーと、アサピー。
 
 本当にそれは、過信ではなかったのだ。
 
 ダイオードを眼前に捉えるまでは。
 
 


66 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:20:23.41 ID:tOaclZsw0

 歩数にして、ダイオードの九歩手前。
 モナーはそこで足を止めた。
 後ろに続いていたジョルジュ、ミセリもそこで止まる。

 対峙する、四人。

/ ゚、。 /「……ようこそ、ペルソナ使いの方々とお見受けする」

 予め準備をしていたかのように、丁寧に述べる。
 だが両手は、スラックスのポケットに入れられたままだ。
 
( ゚∀゚)「ダイオード先生……」

/ ゚、。 /「ジョルジュ長岡か 君も目覚めたか」

 一瞥と一言。それだけで、ダイオードは視線をモナーに移した。
 
( ´∀`)(…………できる……)

/ ゚、。 /「なにやら虫が飛んでいると思ったら……成程」

( ´∀`)「ここで何をしている」

 言葉と同時に、膨れ上がる威圧感。
 
(;゚∀゚)(……ッ!)
 
 


68 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:22:39.16 ID:tOaclZsw0

ミセ*゚−゚)リ(……本気だわ……)

 流石兄弟の時など、力の数割も出していなかった。
 ジョルジュにそれがわかる程の、圧倒的な力の揺れと、共振。

(;゚∀゚)(アザピー先生と……同じくらいの……)

 目で、肌で、心で感じた実際のモナーの力に、ジョルジュは気圧された。
 
 一方のダイオードは、依然として無表情のままだった。
 
 
 
 しかし。
 
 
 
(;゚∀゚)(───なッ!?)

 モナーの力を押し返す様に、ダイオードも力を放つ。
 互いの中心の空間が、揺らぎ、うねり、渦を巻く。
 決して混じることのない、二つの力。
 


70 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:24:34.29 ID:tOaclZsw0

 実際には、二人の間には何もない。
 しかしジョルジュが感じる、ペルソナの波動の流れ。
 ミセリが感じる、気の流れ。
 
 それらが形を成し、衝突している錯覚に見まわれていた。
 
/ ゚、。 /「随分と不躾だが……」

 ポケットから右手を出した。
 
/ ゚、。 /「勘違いしてもらっては困る」

 右手を、モナーに向けるように真っ直ぐに伸ばす。
 
/ ゚、。 /「私は語り合う為に来たのではなく───」

 しかし、その言葉は、行動は。
 
 
/ ゚、。 /「虫退治にきたのだ」


 絶対の拒否を意味していた。
 
 


71 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:27:12.18 ID:tOaclZsw0

 右手を軽く開き、横一文字に斬りつけるように真横へと流す。
 一連の動作で生まれた軌跡は、紫色の一筋の線と成る。
 
 真っ直ぐな、一本の紫の線。
 
 
/ ゚、。 /『ペルソナ』


 線が激しく、のたうつ。
 波打ち、うねり、肥大化していく。
 ダイオードの言霊の力を呑み込み、太く、大きく、長く。
 
 線から蛇へ、やがては、龍へ。
 
 ダイオードの周囲から紫の霧が生まれ、霧が龍へと集う。
 紫の霧は、龍の肉と成り、鱗と成り、頭と成り。
 
 全てが具現化された時には。
 
 腹部は赤黒く、背は毒々しい暗い紫の鱗に覆われ。
 その背からは翼竜を思わせる一対の翼。
 頭は三つに割れ、その一つ一つに赤く輝く、二つの眼。
 
 


75 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:29:19.16 ID:tOaclZsw0

 三頭三口、六眼の邪龍。
 
 
/ ゚、。 /『アジ・ダハーカ』


 ダイオードを囲う様に尾をたらし、とぐろを巻き。
 二つの口で咆哮を上げ、六つの眼でモナーを睨む。
 
 対し、モナー。臆する事は無く。
 
 
( ´∀`)「今夜はいいハブ酒が飲めそうですね」

/ ゚、。 /「…………」

( ´∀`)『ペルソナ』

 現れし、翠緑の甲冑を纏う武神、ビシャモンテン。
 三叉戟を高々と掲げ、ピタリと止める。
 
 矛先には、アジ・ダハーカ。
 
 睨みあう、武神と邪龍。
 



79 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:32:00.94 ID:tOaclZsw0

( ´∀`)「丁度いい」

/ ゚、。 /「…………?」

( ´∀`)「三又に分かれた矛、一刺一首、ということで」

/ ゚、。 /「……ふん」

 モナーの挑発にも、ダイオードは気を昂らせることはなかった。
 相変わらずの無表情で、しかし殺意は先より色濃く。
 
 戦いは、すでに始まっているのだ。
 
 
(;゚∀゚)(モナーさん……)

 自分も、戦いたい。
 しかし、こんな両者の間に、入り込むことはできない。
 力の差に、ジョルジュは呆然とするしかなかった。
 
ミセ*゚−゚)リ「ジョルジュさん」

 不意に、ミセリが小声で話し掛けた。
 



82 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:35:52.04 ID:tOaclZsw0

 ジョルジュは返事する事ができなかった。
 あまりの力に、威圧感に、震えていた。
 口が渇き、咄嗟に言葉を紡ぐことができなかったのだ。
 
 ミセリは視線が合った事を返事を受け取り、続けた。
 
ミセ*゚−゚)リ「私達がここにいては、足手纏いです 隙を見て校舎に」

(;゚∀゚)「あ……」

 ミセリの言葉で、ジョルジュはブーン達の事を思い出した。
 そうだ、まだブーン達が中にいるはずだ、と。
 
 ここに来る前に、自分で発した言葉。
 今自分に、出来る事。ブーン達を、探すこと。
 
 モナーの挑発も、自分に注意を引きつける為なのかもしれない。
 悔しいが、過小評価されている今の状況を利用するべきだと。
 
( ゚∀゚)「わかりました」

 するべき事を、しっかりと、理解した。
 

 


85 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:38:18.15 ID:tOaclZsw0





 天使。
 
 デレはそう言った。
 
 だけど、あれでは、まるで。
 
 
ζ(゚ー゚*ζ『ペルソナ』

 黒い箱から生まれたアレは、床の中へと沈んでいき。
 デレの影から、再びそれが現れた。
 デレの影なのに、彼女より大きくて。

 長身の男の、シルエット。
 
 現れたのは、例えるなら黒塗りの人間だった。
 
 しかし、その背には一対の黒い翼。

 

87 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/13(土) 22:40:35.54 ID:tOaclZsw0

 天使と呼べるとしたら、そこだけだった。
 
 それよりも。
 
 そんなことよりも。
 
( ゚ω゚)「ぉ………」

ξ;゚听)ξ「ぁ…………っ」

J・F『ホー……』

 
 押し寄せる、強烈な悪意。
 彼女のペルソナから、とめどなく溢れだす。
 まるで、あの存在が悪意そのものの様に…………
 
ζ(゚ー゚*ζ『これが私の、ペルソナ様』

 
 悪意の、塊。
 
 
ζ(゚ー゚*ζ『アカ・マナフ』

                            続く。


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