( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです

──第13話 『するべきこと』


2 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 20:44:07.31 ID:3BoQ47jU0
 
 
 
 

 
( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです
 
 
 
 

 
第13話『するべきこと』
 
 

 
 
 
 
5 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 20:46:17.30 ID:3BoQ47jU0

/ ゚、。 /『マハグライ』

 ダイオードの言霊と共に、アジ・ダハーカが吠える。
 構えるモナー、ミセリ、そしてジョルジュ。
 三人の頭上に力が集い、それが叩きつけられる様に落ちた。
 
 ドクオのイシュタムが扱う、不可視の重力による攻撃。
 力と、空気のうねりを感じ取った三人は、横へと跳んだ。
 
(;゚∀゚)「くっ!」

 モナー、ミセリは難なく、ジョルジュは辛くも、と言った様子だった。
 三人が立っていた地面は重く大きな球体が打ちつけられたように凹んでいた。

 分散された力は、単体へ放つ時よりも威力は落ちる。
 だが、アジ・ダハーカ──ダイオードが放ったものは、ドクオが単体に放つものよりも。
 
(;゚∀゚)(強ぇ……!)

 威力、そしてプレッシャーが段違いだった。
 
 ジョルジュは自分の体が重く感じていた。実際に、先程の回避も反応が遅れた。
 ダイオードの重い威圧感にあてられたのか、それとも。
 
 どちらにせよ、力の差は歴然だ。
 
 
 

 
6 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 20:48:53.45 ID:3BoQ47jU0

 己の無力さに腹立たしさすらも覚えながら、ジョルジュは思考する。
 頭に血が上る前に彼にそうさせたのは、先のミセリの言葉だ。
 自分達では、足手纏いだと。ダイオードはモナーに任せ、急いで校舎へ。
 
 ジョルジュも、解っていた。それが最善であると言う事は。
 
 しかし、僅かな可能性も考えてしまう。淡い希望を、抱いてしまう。
 ダイオードの力の前で、自分は一体何ができるのか。
 モナーのサポートか、或いは流石兄弟の時のように、隙を窺い、あわよくば一撃を。
 
( ゚∀゚)(…………)

 ダイオードを、じっと見つめる。
 何を考えているのか、まったく相手に悟らせない無表情。
 しかし、ダイオードが真っ直ぐに見つめるのは、モナーの姿。
 
(  ∀ )(……無理だ)
 
 最初に放った、マハグライ。あれで全てを悟ったのであろう。
 ダイオードが警戒すべき相手は、モナーだけであると。
 そして、ジョルジュなどは『敵』と呼ぶにも満たない存在だと。
 
 せめて。
 
 せめて、一太刀、どんな形でも。
 
 そんな希望を持つことすら、ジョルジュには許されなかった。

 
 

7 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 20:52:42.43 ID:3BoQ47jU0

( ´∀`)「ミセリ」

ミセ*゚−゚)リ「はい」

 その一言で、モナーが言わんとしている事をミセリは察した。
 幼い頃から巫女として、仏道をモナーと共に歩んできたミセリ。
 その中には、見えざるモノとの戦いもあった。
 
 モナーの片腕として、彼の力を、全て引き出せるように。
 その時から、今日の様な強大な敵を想定していたのかもしれない。
 しかしそれは、ミセリにとってはどうでもいい事だった。
 
ミセ*゚−゚)リ『ペルソナ』

 報いる事。それが、即ち────
 
ミセ*゚−゚)リ(私の、生きる理由)

 周囲の黒い雲を、アジ・ダハーカの醜悪な気を祓わんと。
 手にはヴィーナと呼ばれる琵琶に似た弦楽器を持ち。
 一枚の羽衣を柔らかにはためかせながら。
 
 纏う衣服は、モナーのビシャモンテンよりも艶やかな、蒼翠。
 その姿は、しなやかに、美しく。
 
 
 


8 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 20:54:43.91 ID:3BoQ47jU0
 
 七福神の一柱、弁財天。
 
 又の名を───
 
 
ミセ*゚−゚)リ『サラスヴァティー』
 
 
 ミセリの背後に、ゆっくりと降り立った女神。
 ダイオードの意識が少し、ミセリへと流れた。
 しかしそれは隙ではない。注意は依然、モナーへと向けられている。
 
 だが。
 
/ ゚、。 /(少し……厄介か……)
 
 少なくとも、ミセリも敵と認識されたようだ。
 迂闊に手が出せない事を悟り、ダイオードも機を窺おうと、身を固める。
 
ミセ*゚−゚)リ『ラクカジャ』

 ミセリの声に合わせ、サラスヴァティーが手をかざす。
 かざした先には、モナー。
 
 モナーの足元から、筒状の薄く青い壁が伸びる。
 
 
 


9 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 20:56:08.88 ID:3BoQ47jU0
 
 それはそのままモナーとビシャモンテンと囲い、やがて消えた。
 それだけだったが、女神の恩恵は十分に与えられた。
 
 ラクカジャ。物理防御力を高める力。
 
/ ゚、。 /(…………チッ)

 手を止めた事が、裏目に出た。
 思わずダイオードは小さく舌打ちをした。
 
 その瞬間。
 
( ´∀`)『二段突き!』
 
 声と同時に、モナーが駆けた。
 ビシャモンテンが先駆け、繰り出すのは三叉戟(さんさげき)での突き。
 
 難なく、僅かに右へ、最小限の動きでダイオードは回避した。
 すぐさま槍を引き、二撃目を放つビシャモンテン。
 その鋭さは、一撃目を凌駕していた。
 
 一撃目は、布石。
 
 力を込め、疾く、鋭く、一点のみを穿つ。
 
 あまりに一撃目と異なる二撃目に、ダイオードは意表をつかれた。
 
 

 

11 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 20:57:42.65 ID:3BoQ47jU0
 
/ ゚、。 /「…………」
 
 しかし、それも一瞬の事。
 アジ・ダハーカの長い尾を振るわせ、三叉戟を横へと受け流した。
 
 そこへ。
 
/ ゚、。 /『薙げ』
 
 アジ・ダハーカが翼を広げ、モナーへと突進する。
 
 体当たり、ではない。
 翼を刃に見立てた、斬撃だ。
 
 モナーを両断せんと、空気を切り裂いて迫る、アジ・ダハーカ。
 それを見ても、モナーが前進をやめることはなかった。
 
(# ´∀`)「ぬん!」
 
 眼前まで迫ったアジ・ダハーカの翼の下部を、拳で打ち上げた。
 モナーが振り上げた右腕と重なるのは、ビシャモンテンの屈強な右腕。
 ペルソナを降魔している時は、肉体の強度もそれに近い物となる。
 
 武神を纏ったモナーは、現世に降り立った武神、そのものだ。
 
 
 


12 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 20:59:45.70 ID:3BoQ47jU0
 
/ ゚、。 /「チッ……」
 
 初めて見せた、不快感。
 
 強力な衝撃で上に持ち上げられた翼は、そのまま軌道を逸らし、
 モナーの頭上を虚しく通過して行った。
 
 攻撃が不発に終わったと瞬時に判断したダイオードは、ペルソナを戻す。
 
 だが一歩、モナーが早い。
 
(# ´∀`)「ハァッ!」
 
 ダイオードの、一歩手前。
 左足を強く踏み込み、その力を足首へ、膝へ、腰へ。
 大地を蹴ることで生まれた衝撃を、そのまま右足へ伝える。
 
 放たれる、武神の蹴り。
 
 狙いは、ダイオードの左側頭部。
 
 ダイオードは左腕を頭のすぐ横に左腕を上げ、右腕をその内側で交差させた。
 
 そして触れる、足と腕。
 
 
 


13 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:01:20.03 ID:3BoQ47jU0
 
 本当に人の放った蹴りなのか。
 そう疑う程に、生まれた打撃音は高く木霊した。
 
 しかし、武神の蹴りは、モナーの足は、ダイオードが掲げた腕によって止められた。
 
( ´∀`)「…………」
 
/ ゚、。 /「…………」
 
 そのままの姿で睨み合い、沈黙する。
 
 常人であれば、防いだ腕は折れ、そのまま頭に蹴りが届き、
 体を反転させて脳天を地面に叩きつけられていたことだろう。
 
 モナーはそのつもりで、構わずに蹴りを放った。
 
 衝突の瞬間、僅かに体をよろめかせたものの、ダイオードは防ぎきった。
 
 
 防がれた者と、防いだ者。
 
 
 沈黙する両者が思うことは、同じことだった。
 
 


14 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:03:43.69 ID:3BoQ47jU0
 
 
( ´∀`)
 
 
/ ゚、。 /
 
 
 ──────強い。
 
 あの攻防で、二人は互いの実力を見極め、漠然と感じていたモノを確定させた。
 
 ピクリと、ダイオードが動く。
 それを警戒し、モナーは地を蹴りすぐに後退する。
 ダイオードは何をするわけでもなく、ゆっくりと掲げていた両腕を下ろした。
 
( ´∀`)(邪龍、アジ・ダハーカ……WORLDか……?)
 
 ペルソナの寓意を示すアルカナ、WORLD。
 耐久力と、攻撃力に秀でたアルカナだ。
 主に、龍族のペルソナがその寓意を持つ。
 
 WORLDの高レベルのペルソナなら、生身でモナーの攻撃を防いだ事に合点がいく。
 
( ´∀`)(……相性が……悪いな……)
 
 
 


17 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:05:53.17 ID:3BoQ47jU0
 
 強力なペルソナ使い同士の戦いの場合、勝敗は相性に左右されることが多い。
 WORLDのペルソナは、基本的にこれと言った弱点がない。
 高レベルになれば、尚更だった。
 
 対しモナーのアルカナは、HIEROPHANT。
 ビシャモンテンはその中でも高い攻撃力を持ってはいるが、
 実の所HIEROPHANTの本質は補助系にあった。
 
 先頭に立ち、剣を振るうことには向いていないのだ。
 
 
( ´∀`)(だが────)
 
 
 だが今は、モナーしかいない。
 いずれ己を超えるであろう少年達を、導かなければならない。
 
 その為に、ここで負けるわけにはいかないのだ。
 
 汎用性では、ビシャモンテンも負けてはいない。
 手もいくつか、モナーは用意している。
 
 一見すると、ミセリと共闘できるこの場はモナー有利ととれる。
 
 しかし、モナーが懸念する部分もある。
 
 ダイオードはまさに、それを考えていた。
 
 
 


19 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:08:10.51 ID:3BoQ47jU0
 
/ ゚、。 /(同時に来られれば厄介か……となると……)
 
 狙いやすい、相手戦力の欠点をつく。
 
 それは即ち。
 
/ ゚、。 /(ジョルジュ長岡……だな)
 
 戦力的には、ジョルジュを欠いても変わらない。
 しかし、戦局はダイオードに大きく傾く。
 
 ジョルジュを落とす事は、モナーとミセリの心を大きく乱すはずだ。
 戦闘において、相手の心を揺さぶる事は多大な効果をもたらす。
 
 即断の後、ダイオードは動いた。
 
/ ゚、。 /『ペルソナ……』
 
 再度出でる、禍々しき邪龍。
 モナー、ミセリ、そしてジョルジュは攻撃に備え、身を固めた。
 
 三つ首のアジ・ダハーカ。その右端の頭が高く猛り、大きく息を吸い込む。
 
/ ゚、。 /『ポイズンブレス』
 
 首の一つが前を向き、敵を視界に捉えた。
 
 
 


20 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:12:32.26 ID:3BoQ47jU0
 
 一首の喉元が大きく膨らみ、瘤(こぶ)が生まれていた。
 それは、吸い込んだ空気などではない。
 
 アジ・ダハーカが僅かに目を細め、大きくその顎(あぎと)を下げた。
 不気味に上へと流動していく、瘤。
 
 咆哮。それと同時に吐き出される、瘴気。
 紫の霧が重く沈み、這う様にしてモナー達に迫る。
 
( ´∀`)「ミセリ!」
 
 咄嗟にモナーが叫ぶ。
 ミセリからの返事は、ない。
 
 モナーの言わんとした事を瞬時に理解し、すでに行動に移っていたのだ。
 
ミセ*゚−゚)リ「ジョルジュさん!」
 
(;゚∀゚)「え、うおっ!?」
 
 ミセリはジョルジュの片腕を肩に乗せると、ダイオードから距離をとって斜め前方に跳ぶ。
 一連の俊敏な動作の賜物か、毒々しい瘴気から辛くも逃れる事ができた。
 
 しかし。
 
 それを確認したダイオードの動きも、疾かった。
 
 
 


21 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:15:08.52 ID:3BoQ47jU0
 
ミセ;゚−゚)リ「!」
 
 ミセリが駆けた先には、既にダイオードが待ち構えていた。
 
 ポイズンブレスは、囮。
 
 いや、あわよくばその一撃でジョルジュを落とすつもりではいた。
 ミセリの好判断に、ダイオードはもう一つの手に移らざるを得なかった。
 
 ミセリが動いた時点でそれを察し、進行方向に先回りした点は、流石と言った所か。
 
/ ゚、。 /(少々……見くびってはいたが……)
 
 邪龍の鋭い視線が、ミセリとジョルジュを射抜く。
 
 完全に、視界に獲物を捉えた、六つの眼。
 
/ ゚、。 /「チェックメイトだ」
 
 手を伸ばし、戦局を決める一手を。
 
/ ゚、。 /『アギラオ』
 
 アジ・ダハーカの中央の一首の口から、燃え盛る豪火球が放たれた。
 
 

 

22 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:17:47.32 ID:3BoQ47jU0
 
ミセ;゚−゚)リ『ペルソナッ!』
 
 すかさずペルソナを呼ぶミセリ。
 
 灼熱の火球は容赦なく迫る。
 
 
 
 間に合うか────
 
 
 
ミセ;゚−゚)リ『炎の壁!』
 
 右手は、ジョルジュを抱えたまま。左手を突き出し、壁を生む。
 赤く燃える、炎の壁が二人の眼前に現れた。
 
 炎の力を無効化するペルソナの力。
 
 それが生まれたとほぼ同時に、壁に火球が激突した。
 
 防御は確かに、間に合っていた。
 
 だが。
 
 
 


24 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:20:33.18 ID:3BoQ47jU0
 
ミセ; − )リ「っく……!」
 
 火炎攻撃を無効化するはずの炎の壁が、押される。
 
ミセ; − )リ(……重い……!)
 
 ダイオードの力はそれほどまでに、強力だった。
 火球は未だその形を保ち、壁を押し続ける。
 熱が壁を通り、チリチリとミセリの左手を炙る。
 
(;゚∀゚)「ミセリちゃん!」
 
 ミセリに抱えられたまま、名を叫ぶジョルジュ。
 
 今すぐに、ミセリを助けたい。
 
 それなのに。
 
(;゚∀゚)(くそっ! なんで……ペルソナを感じねぇ!)
 
 ペルソナを、J・Fを、呼べない。
 遥か遠くに居るようで、手を掴むことができなかった。
 
 焦れば焦るほど、手が、感覚が、遠ざかる。
 
(  ∀ )「くそぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 
 
 


25 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:22:45.16 ID:3BoQ47jU0
 
 己の不甲斐無さに、ジョルジュは吠えた。
 
 だがそれは、なんの解決にも至らない。
 
ミセ; − )リ「くぁ……あ……!」
 
 壁が、破られる。
 
 
 その時────
 
 
 
 『ペルソナ』
 
 
 
/ ゚、。 /「!」
 
 
 ダイオードにいつの間にか詰め寄った、モナーが。
 
 
(# ´∀`)「それ以上は、やらせん」
 
 
 


26 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:25:52.28 ID:3BoQ47jU0
 
 浮かぶのは、憤怒の表情。
 
 モナーが初めて、感情をその顔に。
 
 
(# ´∀`)『龍牙旋回ッッ!!』
 
 
 猛り、三叉戟を天上に掲げるビシャモンテン。
 空間すら引き裂く程の勢いで、三叉戟を旋回させる。
 
/ ゚、。 /「チッ!」
 
 その時点で、ダイオードはミセリに対しての攻撃を断念した。
 アジ・ダハーカを己の前に差し出し、翼を閉じる。
 
 完全な、受けの体勢。
 
 構わずに、ビシャモンテンは三叉戟を振り下ろした。
 
 生まれた烈風を纏った強力な斬撃が、アジ・ダハーカに迫る。
 
 熾烈極まる、龍牙の如き槍撃。
 
 
 


29 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:27:41.01 ID:3BoQ47jU0
 
 強固に閉じられたアジ・ダハーカの両翼に、容赦なく叩きつけた。
 
 瞬間、重い打撃音。それと同時に衝撃が奔り、互いの服が煽られ、砂塵が舞う。
 
/ ゚、。;/「くっ……!」
 
 ペルソナによる、完全な防御。
 だが、WORLDを……アジ・ダハーカを以てしても、完全には防げなかった。
 
 重い三叉戟だけではない。
 旋回によって生まれた烈風も、ビシャモンテンの力を帯びて襲い掛かる。
 言うなればそれは、小さな鎌鼬(カマイタチ)。
 
 鋭利な風の小刃は、アジ・ダハーカの堅牢な鱗すらも切り裂いた。
 
 ダイオードの腕に鈍い痛みが走る。
 両手足にも、細かな切り傷が生まれた。
 
(# ´∀`)「ミセリッ! 行けッッ!!」
 
 機は、今しかない。
 
ミセ;゚−゚)リ「……ッ! はい!」
 
 
 


31 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:30:29.90 ID:3BoQ47jU0
 
 ご武運を────
 
 それは心で呟いて、ミセリはジョルジュを引っ張り校舎の入口へと駆けた。
 
(; ∀ )(クソッ! クソッ! クソがッ!)
 
 ミセリに並走しながら、己を恨む、罵る、蔑む。
 そうしなければ、とても自分を抑え込むことができなかった。
 
 あまりに無力。あまりに、不甲斐無い。
 
 敵の力に委縮し、あまつさえ恋する異性を守ることすらできなかった己が。
 
(  ∀ )(俺は一体……何の為に……!)
 
ミセ*゚−゚)リ「ジョルジュさん」
 
 その声は、ジョルジュが今まで聞いた事のない声だった。
 確たる意志を秘めた、芯のある声色で名を呼ばれ、
 ジョルジュは返事をすることすら忘れていた。
 
ミセ*゚ー゚)リ「急ぎましょう 道案内、よろしくお願いしますね」
 
 次の言葉はいつもの、穏やかな少女の声色だった。
 
 
 


33 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:32:57.88 ID:3BoQ47jU0
 
 戦いの前に思っていた──ミセリにも言われた言葉。
 
 今自分が、するべき事を。
 
 止まっていては、進めないのだ。
 
 力がなくても、できることはあるのだ。
 
( ゚∀゚)「…………はいッ!」
 
 ダイオードの力の前に、何度も挫けてしまった。
 しかし、今度こそは、迷わない。
 
( ゚∀゚)(待ってろ……皆……!)
 
 仲間を助ける。ただそれだけを想って。
 ジョルジュとミセリは、校舎の中へと駆けこんだ。
 
 
 残る、モナーとダイオード。
 
 
/ ゚、。メ/「…………」
 
( ´∀`)「…………」
 
 
 


36 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:35:31.78 ID:3BoQ47jU0
 
 ダイオードは二人を追う事を早々に諦めていた。
 それはつまり、隙を見せることとなるからだ。
 
 あの力を見せたモナーの前で、その行為は愚行以外の何物でもない。
 
 しかし、ダイオードが解せない点が一つあった。
 
/ ゚、。メ/(追撃が……こない……?)
 
 あの機は明らかに、畳みかける、勝機だったはずだ。
 しかしモナーは声を張り上げるのみに留まり、追撃をかけなかった。
 
/ ゚、。メ/(追撃をしない……いや、できない……か?)
 
 考えられるのは、それだった。
 
 先の龍牙旋回は、正に鬼気迫ると言った様相を呈していた。
 力を振り絞ったような、そんな一撃。
 
 だがダイオードは予感だけで動く男ではない。
 
 彼もまたモナーと同じく、慎重居士の性格だった。
 
 それにモナーは、救われた形になる。
 
 


37 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:38:08.21 ID:3BoQ47jU0
 
( ´∀`)「…………」
 
 無言で、ダイオードを睨む。
 威圧感をそのままに、いつでも攻撃を仕掛けられると思わせる為に。
 
( ´∀`)(…………慎重な男で、助かったと言うべきか)
 
 ダイオードが放ったポイズンブレス。
 モナーはあれを避け切っていた。
 
 しかし、向き直した先にダイオードはいなかった。
 瞬時に周囲を確認した時、すでにダイオードはミセリに一撃を放とうとしていた。
 
 ポイズンブレスを避けた位置が悪かったのだ。
 それを更に避けながらの接近では、間に合わなかった。
 
 そしてモナーに、迷いはなかった。
 
 即ち、直線。
 
 未だ地に蟠っていた瘴気の中へ、自ら飛び込んだのだ。
 ピリピリと、モナーの膝から下全体に、刺すような痛みが走る。
 
 両足を、毒に侵されていた。
 
 
 


40 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:41:18.74 ID:3BoQ47jU0
 
 アジ・ダハーカの毒は持続性よりも即効性に優れている。
 全身にまともに受ければ、毒に耐性のないペルソナの場合ひとたまりもない。
 
 モナーが龍牙旋回を放った時、激痛が両足を襲っていた。
 あの形相には、怒りも勿論あったが、痛みに耐える末に、という意味もあった。
 
 追撃をかけれなかった理由が、それだった。
 
 その時に比べれば幾分か痛みは和らいではいるが、万全には程遠い。
 
( ´∀`)(悟られる前に……)
 
 出来得る限りの回復を。
 モナーは賭けに出た。
 
( ´∀`)「……ダイオード、だったな?」
 
/ ゚、。メ/「…………?」
 
 突如話し掛けられ、表情に若干の困惑の色を浮かばせる。
 モナーは構わずに、続けた。
 
( ´∀`)「津阿都研究所の責任者、鈴木ダイオード、だったな?」
 
/ ゚、。メ/「研究所などと……俗世の呼称は神への冒涜だ」
 
 
 

41 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:43:45.35 ID:3BoQ47jU0
 
 のっけから不快感を与えてしまったようだったが、逆にそれが功を奏す。
 
 自らを、己が神こそが正義と信じて疑わない熱心な信徒であるダイオード。
 属する物を無礼な呼称で口にした事が許せなかったようだ。
 
 結果として、モナーの期待通りに会話が成立した。
 
/ ゚、。メ/「カリス、と訂正してもらおうか」
 
( ´∀`)「……聖杯だと……?」
 
/ ゚、。メ/「そうだ 神へと捧げる、カリスなのだ」
 
( ´∀`)「……ここで何をしている」
 
/ ゚、。メ/「…………」
 
( ´∀`)「それは言えない、か」
 
/ ゚、。メ/「……そのままの意味だよ」
 
( ´∀`)「? 聖杯そのままだと?」
 
 
 


44 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:46:05.02 ID:3BoQ47jU0
 
/ ゚、。メ/「ククッ そうだ この施設はカリスそのものなのだ」
 
( ´∀`)「……どういう意味だ……」
 
/ ゚、。メ/「血を、肉を、贄をカリスへ集め、神へと捧げるのだ」
 
( ´∀`)「……贄とは……まさか……」
 
/ ゚、。メ/「お前もペルソナ使いなら、わかるだろう?
      ペルソナの覚醒は、若ければ若い方がいい」
      
(;´∀`)「……まさか……」
 
/ ゚、。メ/「特に思春期の少年少女……未熟な心と共に、ペルソナも成長して行く。
      より強く、より美しく、より豊潤に……」
      
( ´∀`)「……その為だけに……この高校が造られたのか……」
 
/ ゚、。メ/「可能性を秘めた者は、この学校に惹かれる そう、出来ている
      それはまさに……カリスへ導かれた子羊のように、だ」
 
( ´∀`)「…………」
 
/ ゚、。メ/「私の“選定”を通過した後、カリスへと導かれるのだ」
 
 

 

46 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:49:17.15 ID:3BoQ47jU0
 
( ´∀`)「……何の為に、そんなことを」
 
/ ゚、。メ/「知らぬ 神の崇高な所思は、私などが想像することすら烏滸がましい」
 
( ´∀`)「この雲……それに一度感じた徒ならぬ力は……“選定”とやらか?」
 
/ ゚、。メ/「“選定”はすでに終えた」
 
( ´∀`)「何……? では……なんだと言うのだ」
 
/ ゚、。メ/「…………」
 
 
 
 
 
 
 
/ ゚、。メ/「……言うなればこれは…………」
 
 つい、と、ダイオードが緩やかに、口元を吊り上げた。
 
 
 
 
 「熟成、とでも言っておこうか────」
 



48 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:51:15.61 ID:3BoQ47jU0
 
 
 

 
 
 
ξ;゚听)ξ「そんな……こ、こんな力……」
 
 理解の範疇を、完全に超えていた。
 
 体も、心も、全てを呑み込まれてしまうような錯覚。
 
 全ては、デレの背後に立つ、漆黒の天使。
 
 
 この世の悪思の全てを具現化させた、邪悪な天使。
 
 
 邪神、アカ・マナフ。
 
ζ(゚ー゚*ζ「気に入ってくれたみたいね」
 
 震えるツンに、デレは満足気にそう言い放った。
 
 

 

50 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:54:21.63 ID:3BoQ47jU0
 
ζ(゚ー゚*ζ「私も実際に見るのは初めてなの 呼ぶにはコレがないと厳しいみたい」
 
 手には箱。黒き、トラぺゾヘドロン。
 
ζ(゚ー゚*ζ「さーってっと……」
 
 デレはツンから視線をはずし、ブーンを見た。
 ブーンもツンと同じく、アカ・マナフの力に恐怖を感じていた。
 
ζ(゚ー゚*ζ「ねーえ? 内藤くん」
 
(;^ω^)「な……なんだお……」
 
ζ(゚ー゚*ζ「私とツン、どっちが可愛い?」
 
(;^ω^)「…………え?」
 
ζ(゚ー゚*ζ「簡単じゃない どっちが可愛い?」
 
 突然の質問に、ブーンは頭の中が真っ白になる。
 色々と、思考が追い付かない。
 
 目を覚ませば体が石になっており、クラスメイトが凄まじい力を放っている。
 ブーンが戸惑うのも、無理はない。
 
 


51 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:56:47.93 ID:3BoQ47jU0
 
(;^ω^)「ふ……」
 
ζ(゚ー゚*ζ「ふ?」
 
(;^ω^)「二人とも、可愛いお……」
 
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
 
ξ゚听)ξ「…………」
 
ζ(゚ー゚*ζ「ぶ……」
 
(;^ω^)「お…………?」
 
ζ(゚、゚*ζ「ぶっなーん」
 
 ブーンの返答に、期待はずれだと言った様子だ。
 
 しかし、ブーンの答えも至極当然のことと言える。
 
ζ(゚、゚*ζ「ま、そんなところよね」
 
 それはなぜか。
 
ζ(゚、゚*ζ「同じ顔だし、ね」
 
 反吐が出るけど、と付け加えた。
 

 

54 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 21:59:02.63 ID:3BoQ47jU0
 
ξ;゚听)ξ「……一体……どうしちゃったの?」
 
ζ(゚、゚*ζ「どうもしてないわよ」
 
ξ;゚听)ξ「ここまでのことをして……それは……」
 
ζ(゚、゚*ζ「そうねぇ……」
 
ζ(゚、゚*ζ「敢えて言うなら、自分に素直になった」
 
 
ζ(゚、゚*ζ「自分のしたい事を、見つけた」
 
 
 
ζ(゚ー゚*ζ「それはツン、アンタに地獄を見せてやることよ」
 
 
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
ζ(゚、゚*ζ「最初に言ったでしょう?」
 
 デレが、片足を上げた。
 
 


58 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:01:04.00 ID:3BoQ47jU0
 
ζ(゚、゚*ζ「私の苦痛を、屈辱を、孤独を」
 
 上げた足を、無造作に伸ばした。
 
( ゚ω゚)「グッ……!」
 
 足の先端は、ブーンの顔面を捉えた。
 唇が切れたのか、口端からは一筋の血が浮き出ている。
 
ξ;゚听)ξ「ブーン!」
 
ζ(゚、゚*ζ「まずは」
 
ξ;゚听)ξ「デレ! やめて!」
 
ζ(゚、゚*ζ「うるさいなぁ……」
 
ξ;゚听)ξ「…………デレ……」
 
ζ(゚、゚*ζ「……いいわよ、別に」
 
 すると今度は、体を傾かせながら片足を上げた。
 先程より、高く。
 
 

60 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:03:39.60 ID:3BoQ47jU0
 
 そして、今度は勢いをつけて、足を下ろした。
 
(  ω )「ぐぉっ!? おぉぉ……!」
 
 未だ苦痛に顔を歪ませていたブーンの顔を、躊躇いなく踏みつけたのだ。
 捩り、足に力を込め、下へ、下へと。
 
 苦痛に呻き声を、やめてくれと訴えるブーンの声など、まるで耳に入っていないようだ。
 足にこめた力以上に、強く、鋭い視線でツンを貫くデレ。
 
 しかし今度は、ツンが畏怖することはなかった。
 
 
ξ#゚听)ξ「やめなさいって言ってるでしょ!」
 
ζ(゚、゚*ζ「なんでよ アンタの苦しむ姿が見れないじゃない」
 
ξ#゚听)ξ「……! アンタの狙いは私でしょう!? 私と相手しなさいよ!」
 
ζ(゚、゚*ζ「……わかってないなぁ」
 
ξ#゚听)ξ「…………何がよ」
 
 


62 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:05:27.49 ID:3BoQ47jU0
 
 
 
ζ(゚、゚*ζ「アンタを相手にするとか、馬鹿馬鹿しい」
 
 
 
ζ(゚、゚*ζ「アンタの都合なんか、どうだっていいわ」
 
 
 
ζ(゚、゚*ζ「教えてあげる これはね」
 
 
 
ζ(゚、゚*ζ「一方的な───」
 
 
 


ζ(゚ー゚*ζ「凌辱よ」
 
 
 


64 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:07:45.31 ID:3BoQ47jU0
 
 黒き邪神、アカ・マナフがその翼を広げた。
 途端に広がる、人を絶望させる負の力の波。
 
 ツンは、恐怖を感じた。
 
 
 しかし、それに勝る感情が、生まれていた。
 
 
ξ#゚听)ξ「いいから……」
 
 
 大切な人を、文字通り踏み躙っているデレに対しての。
 
 
ξ#゚听)ξ『まずはその足をどけなさい!!』
 
 
 純粋な、怒り。
 
 
 その怒りに呼応し、ツンの声と共にペルソナ、スアデラが呼び出される。
 慈愛の女神も、ツンの心情を見て怒りを露にしていた。
 

 

68 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:09:33.39 ID:3BoQ47jU0
 
ξ#゚听)ξ『ジオーー!!』
 
 放たれた一本の雷撃は、以前のそれよりも太く、輝きも強かった。
 感情を乗せた言霊は、ペルソナへ更なる力を送り込むのだ。
 
 一直線にデレへと伸びる雷撃。
 
 デレはそれを、無表情で、
 
 いや。
 
 笑顔で、見ていた。
 
 
 そして雷撃は、デレの直前で高い音を放ち、はぜ、四散した。
 
 
ξ;゚听)ξ「な……」
 
ζ(゚、゚*ζ「こんな程度なの?」
 
 虫の方が、煩わしい。
 それがデレの、素直な感想だった。
 
 


69 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:11:15.38 ID:3BoQ47jU0
 
ζ(゚、゚*ζ「そんな弱いペルソナじゃ、内藤くんを助けられないわよ?」
 
 更に、踏みつける足に力をこめる。
 見ればブーンは、靴底で頬が摩れ、傷は更に増えていた。
 
ξ#゚听)ξ『ッ……ジオ!!!』
 
 再度、奔る雷撃。
 
 しかし結果は同じ、霧散。
 
ξ;゚听)ξ「そん……な……」
 
ζ(゚、゚*ζ「やーだー これじゃ弱い者いじめみたい」
 
 わざとらしく、ツンをからかう。
 元よりデレは、そのつもりだった。
 
 黒きトラペゾヘドロンと、アカ・マナフ。
 
 絶対的自信をもたらすに相応しい、二つの力。
 
 アカ・マナフを呼んだのは今回が初めてだったが、
 心の中でずっと感じていた力は確かに、強大であった。
 
 


72 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:13:57.88 ID:3BoQ47jU0
 
『ブフーラ!!』
 
 挫けつつあったツンに檄を飛ばす様に。
 唐突に舞う、絶対零度の粒子。
 
 粒子はデレを囲み、集束し───
 
 交わることは、なかった。
 
J・F『だめだホー……』
 
 不意を突いたつもりだったが、絶望的な力の差の前に無残に散る。
 
 デレの周囲には、アカ・マナフによって創られた防御壁があった。
 球状のそれはデレの全方位を囲い、アカ・マナフの力と同等か、それ以上でなければ、
 突き破ることはできない。
 
 J・Fが放ったブフーラも、粒子達がそれに吸い込まれただけに終わったのだ。
 
ζ(゚、゚*ζ「アンタ、邪魔よ」
 
 左手をJ・Fへと向ける。
 
 人差し指の先を親指の先に軽く付け、ピン、と弾いた。
 
 


73 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:16:15.36 ID:3BoQ47jU0
 
ζ(゚、゚*ζ『ザン』
 
 極小に圧縮された空気の弾丸が、J・Fへと飛んだ。
 空気の塊はJ・Fに触れると、その力を爆発させた。
 
 生まれる、衝撃波。
 
 その力にJ・Fは吹き飛ばされ、黒板に背を強く打ちつけた後に、とさりと地に落ちた。
 
ξ;゚听)ξ「J・F!」
 
 すぐにJ・Fに駆け寄り、ツンは回復──ディアをかける。
 
 
 J・Fは、微動だにしない。
 
 
ξ;゚听)ξ「J・F……J・F……!」
 
ζ(゚、゚*ζ「なーんでそんな悪魔なんか気にしてるのかなー」
 
 ゾクリと、ツンの背に悪寒が走る。
 
 全ては声の主、デレのせいで。
 

 

76 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:18:29.77 ID:3BoQ47jU0
 
ζ(゚、゚*ζ「こっちにもっと、大事なのがいるんじゃないの?」
 
 未だ身動きのとれぬまま地と靴底を舐めさせられ、苦痛に悶えるブーン。
 
 助けたい。今すぐにでも───
 
 先程から、ツンの心はその思いで埋め尽くされていた。
 しかしどうしても、力の差が立ち塞がる。
 
 今はJ・Fもそうだ。
 
 一刻も早く、回復を。
 
ξ;゚听)ξ(J・F……死なないで……! ブーン……待ってて……ごめん……)
 
 ディアが効いているのかすらわからないが、ツンは治療を施し続けた。
 
 
ζ( 、 *ζ「…………ょ」
 
 
ζ( 、 *ζ「私を…………」
 
 
 
ζ(゚、゚*ζ「私を見なさいよ!!」
 

 

78 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:20:34.24 ID:3BoQ47jU0
 
 
 
 突如叫んだデレ。
 
 トラウマが、爆ぜた。
 
 復讐する相手に蔑ろにされている事が、過去の互いの関係と重なったのだ。
 
 デレの声に、ツンは一瞬身を震わせるものの、視線は未だJ・Fに。
 
 
ζ(゚、゚*ζ「………ふーん……」
 
 
ζ(゚、゚*ζ「そうなの……じゃあ……」
 
 
 
ζ(゚、゚*ζ「内藤くんは、イ ラ ナ イ のね?」
 
 
 今度こそ。
 
 ツンは、振り向いた。
 
 


80 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:23:50.19 ID:3BoQ47jU0
 
 
ξ;゚听)ξ「ま、まって……今、なんて……」
 
 
 ディアも忘れ、呆然とデレを見つめるツン。
 
 デレはもう、糸程の興味もないと言った様子で。
 
ζ(゚、゚*ζ「だって、コイツをいたぶってもアンタ堪えないんだもん」


 デレが今から、ブーンに何をするつもりなのか。
 
 ツンの頭に浮かぶのは、悪い予感。
 
 心臓が、体を突き破りそうな程に、高鳴る。
 
 やめろと、言いたいのに、口が渇いて。
 やめろと、必死に抵抗したいのに、足が動かなくて。
 
ζ(゚、゚*ζ「だから、 イ ラ ナ イ、よね?」
 
 それは、あまりに無慈悲な、宣告だった。
 

 

81 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:26:08.48 ID:3BoQ47jU0
 
ζ(゚、゚*ζ「さようなら、内藤君」
 
 
 
 そっと、アカ・マナフが手を伸ばした。
 
 かざす手の下には、苦痛を訴えるブーンの姿。
 
 
 
ζ(゚、゚*ζ『ムドオン』
 
 
 
 添えられたアカ・マナフの手から、細かな文字列が鎖の様に繋がり、伸びる。
 
 それはブーンの体に絡み付き、地を這う蛇の様にブーンをなぞる。
 
 やがて文字列は、己の役目を終えて鎖を解き、虚空へと消えて行った。
 
 


83 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/01/10(土) 22:28:21.09 ID:3BoQ47jU0
 
 
 
 ムドオン────
 
 
 
 対象者を呪い殺す、呪殺の言霊。
 
 
 
 ブーンはもう、苦痛を訴えることは、なかった。
 
 
 
 代わりに響いたのは。
 
 
 
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
 
 

 ツンの、絶叫だった。
 

                      続く。


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