( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです

──第19話 『再会』


 
 
3 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 20:30:09.36 ID:FrQ5ZtIc0
 
 煌々と輝く星達の下に、風が吹き抜けた。
 秋も終わリに近づいた、冷たく乾いた風。
 
 それなのに。
 
( ´_ゝ`)「嫌な風だな」
 
 全員が思っていた事を、兄者が代弁した。
 
 風の中に微かに混じる、彼等しか感じ得る事が出来ない異の力。
 違和感は、それだった。
 
 やはりそれが、字都市に異変が起きている事を予感させる。
 
 それを感じる度に、彼等は思うのだ。
 
 誓ったモノを、より強固に繋ぐのだ。
 
 思いは繋がり、強固な鎖へと。
 
( ´∀`)「行きましょう」
 
 字都を回る、狂った歯車を止める為に。
 
 
 


4 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 20:33:12.68 ID:FrQ5ZtIc0
 
 腹は満たされ、存分に力は蓄えられた。
 
 
 見せつけろ。一丸となったその力を。
 
 
 赴く先は、玖都留の地。
 
 
 戦士達を乗せた車は、夜の闇へと溶けていった。
 
 
 
 
 

 
( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです
 
 
 

 
        第19話『再会』
 
 
 

 
 
6 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 20:37:35.30 ID:FrQ5ZtIc0
 
 モナーの車には、ブーン、ツン、ショボン、そしてクーが乗っていた。
 黒い車体を闇に紛らせ、二つの光の軌跡を生み出しながら進む。
 
 車内は、無言だった。
 
 だがそれは、決して重い空気と言うわけではない。
 全員が程良い緊張感を持ち、有り余る力を蓄えている様に見える。
 
 皆のこの状態に、モナーは非常に満足していた。
 たったの二日で見違えるほどに成長したブーン達に少々の罪悪感を覚えつつも、
 希望が確たる物に育っていく様が嬉しく、頼もしく思えていたのだ。
 
 その中でも、ジョルジュは新しい力を見せた。
 
 ブーン達も大いにその可能性を秘めているはずだと。
 彼もまた自分の使命を再確認し、戦いに臨む。
 
( ´∀`)(……そういえば)
 
 己の使命。
 
 このフレーズに、モナーは一人の男を思い浮かべた。
 
 自分と同じく、フィレモンにその役目を告げられたはずの男。
 
 
 

8 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 20:40:56.93 ID:FrQ5ZtIc0
 
( ´∀`)(アサピーは……どこに……)
 
 VIP高校の異変の時も、彼は連絡がつかなかった。
 最初は何かに巻き込まれたのかとモナーは思っていたが……
 
 いくら敵の力が強大だったとはいえ、
 彼ほどの実力者が何もできなかったとは到底考えられなかったのだ。
 
( ´∀`)(思えばあの日……鳴留羅山に行くと言ったきり……)
 
 それ以来、音沙汰がない。
 連日、目まぐるしく動く日々に忙殺され、気が回らなかった事はあったが、
 彼ならきっと無事であると、アサピーの力を知るが故にそう思っていた。
 
 だが、そうであるのなら。
 
 恐らくは字都のどこに居ても感じたであろうVIP高校の異変。
 あれ程の事があったにも拘わらず、姿を見せない状況に。
 
( ´∀`)(……)
 
 やはり、何かが起きたのかと考えてしまうのだろう。
 
 悪い予感は、的中していた。
 
 だが、鳴留羅山で何が起きたのかは、彼の知る所ではない。
 
 
 

9 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 20:44:31.50 ID:FrQ5ZtIc0
 
 力を知るが故に、信じる。
 だがそれは、あくまでも希望の範疇。
 
 彼に限って、そんなことが。
 
 実の所は、そう思いたいだけなのだ。
 ただそれを認めたくないだけなのだ。
 
( ´∀`)(……今は兎も角、ハインさんを)
 
 悪い予感を払いのけ、本来の目的のみに絞る。
 戦いにおいて迷う事は致命的な隙を作り出すことに直結する。
 
 ブーン達の為にも、自分は道を外れてはいけない、と。
 
 窓の向こうは、流れ行く夜の街。
 次第に明かりは減っていき、いつしか闇が支配する。
 
 それにつれ、彼等の意識も研ぎ澄まされて行く。
 ブーン達にとっては、自ら望んだ初めての戦い。
 
 思いは違えど、目的は一点を見据え、戦いの地へと。
 
 
 車内はいつまでも、無言だった。
 
 
 


11 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 20:47:31.34 ID:FrQ5ZtIc0
 
 

 
 
(;゚∀゚)「……」
 
ミセ;゚−゚)リ「……」
 
 変わって、流石兄弟とジョルジュ、ミセリ、そしてドクオを乗せた先頭車。
 運転をする弟者はしっかりと前を向き、無言。
 
 そして呆れ果てたような表情でいる、ジョルジュとミセリ。
 
 その原因は。
 
( ´_ゝ`)「お前はなかなか話が解る奴だな」
 
('A`)「あんたもな……ここまで熱く語れる奴はそうそういないぜ」
 
( ´_ゝ`)「俺のイシュキックたんへの愛をなめないでもらおうか」
 
 転生少女イシュキック。
 これまでに兄者が何度もその名を口にしていた、人気アニメである。
 
 
 


12 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 20:50:38.76 ID:FrQ5ZtIc0
 
 十三歳の元気一杯の少女、星あかり。
 彼女の正体は転生少女イシュキックなのだ。
 
 小さな体に不釣り合いな黄金の大剣を振り回し、
 相棒のベルフェゴール(ベルちゃん)と共に悪役達を薙ぎ倒すアニメである。
 毎回毎回ピンチに追い込まれ逆転するという王道パターンを早二百話展開している。
 
 ファンにはそのピンチタイムがたまらないらしい。
 
(;゚∀゚)「なんつうか……」
 
ミセ;゚−゚)リ「……」
 
 弟者は慣れたものだったが、一般人の二人はドン引きである。
 流石に兄者が車にまでイシュキックのステッカーを貼ろうとした時は、
 弟者はペルソナを発動してまで食い止めてはいたが……
 
 モナーの車とはうって変わって、こちらの車内では濃いアニメトークが繰り広げられた。
 
 ジョルジュとミセリにとってはもう拷問の域である。
 
ミセ*゚−゚)リ「……ジョルジュさん」
 
( ゚∀゚)「はい?」
 
 

 

13 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 20:53:43.05 ID:FrQ5ZtIc0
 
ミセ*゚ー゚)リ「頑張りましょう、ね」
 
 兄者とドクオははばからず。
 
( ゚∀゚)「……はい」
 
 ジョルジュとミセリは慎ましく、二人だけの空気を生み出していた。
 
 
 
 
 二台はすでに工場区に入っていた。
 時折見る車は、そのどれもが対向車線を通り過ぎて行くものばかり。
 一日の業務を終え、家路につく人々なのだろう。
 
 目的地に近づくにつれ、各々の緊張は必然的に高まっていく。
 
 先日侵入した倉庫へ続く直線に入ると、流石に兄者とドクオも口数が減っていった。
 兄者も自分の実力には自信があるが、神社で対峙したあの力には脅威を覚えている。
 だからと言って、そのまま黙っていられる性格でもない。
 
 不器用だが真っ直ぐというややこしい性格だが、
 その御蔭でブーン達と同行することになった事は、彼等にはありがたい話だ。
 
 尤も、モナーは少しばかりの懸念を抱いてはいるようだが。
 
 
 


15 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 20:57:46.60 ID:FrQ5ZtIc0
 
 それは流石兄弟の車に乗車したメンバーが物語っている。
 モナーに次ぐ実力者と言えば、ミセリとジョルジュであろう。
 もし何かがあっても対応できるだろう二人を彼等の車に乗車させたことが、それを意味していた。
 
 念には念を。信じる信じないの話ではなく、万が一の可能性を考えると致し方ない。
 実際それには流石兄弟も気付いていたし、だからこそ、敢えてそれを受け入れた。
 
 行動で示す、と、モナーの行為は二人を静かに燃えあがらせていたのだ。
 それを思うと、別の意味でモナーの判断は正解だったのかもしれない。
 
 周囲の明かりが星のみになった頃。二台の車は停車した。
 
 警戒しつつ車を降りるブーン達。
 辺りの音は先日と同じく、波がコンクリートに叩きつけられる音のみだ。
 
( ^ω^)「ここ……かお?」
 
(´・ω・`)「あぁ、そうだ」
 
 視線の先は、海と逆。闇に佇む、周囲の建物となんら遜色のない倉庫。
 しかしその実態は、VIP翼下の玖都留研究所に続く入口の一つだ。
 
 人の気配がない事を確認すると、モナー達は静かに入口へと近づき───
 
 突然、けたたましい音が響いた。
 
 
 


17 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:01:05.18 ID:FrQ5ZtIc0
 
(;´∀`)「なっ?!」
 
 音の主は、兄者だった。
 慎重に近づくモナー達を尻目に、ずかずかと入口へ歩み寄り扉を蹴破ったのだ。
 あまりの行動に、皆言葉を失っていた。
 
( ´_ゝ`)「どうせ来る事は向こうに割れてるんだ こそこそしなくてもいいじゃないか」
 
(´<_` )「些か大胆とは思うが、流石だな、兄者」
 
(;´・ω・`)「……無茶苦茶だ……」
 
 流石兄弟を除く全員が、そう思ったことだろう。
 口には出さないが、皆驚いた次に呆れた表情をしていた。
 
 皆の反応など意に介さず、流石兄弟は倉庫へ足を踏み入れた。
 モナー達もそれに続く。最後のツンが入った時には、兄者が馴れた手つきで灯りを点けていた。
 
 先日潜入した時と変わらない、荷物など何もないだだ広い内部。
 その中央にある、三メートル程の長さの白い柵。
 それの周囲が内部へと続く、エレベーターだ。
 
( ^ω^)「ここから入るのかお?」
 
 あの夜いなかったブーンとツン、そしてミセリは不思議そうな顔をする。
 
 
 

18 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:04:07.95 ID:FrQ5ZtIc0
 
(´・ω・`)「あぁ」
 
(´<_` )「しかし、よく見つけたな」
 
(´・ω・`)「偶然さ」
 
 軽く受け流し、ショボンが装置に手をかける。
 が、早速一つの問題が浮上した。
 
( ´_ゝ`)「流石に、十人いっぺんには無理だな」
 
( ´∀`)「そうか……」
 
 三メートル程の長さの柵を中心に、幅二メートル程の床がエレベーターになっている。
 無理をすれば全員一度にいけるかもしれないが……
 
(´・ω・`)「咄嗟に動けるようにしておきたいですね」
 
 身動きがとれずに、そのまま一網打尽ではあまりにお粗末だ。
 
( ´_ゝ`)「俺達が先に行こう」
 
 内部を知る流石兄弟が、先発隊に名乗り出た。
 
 
 


19 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:07:07.95 ID:FrQ5ZtIc0
 
( ´∀`)「私も行こう」
 
( ゚∀゚)「俺も……」
 
( ´∀`)「ジョルジュさんは次にお願いします」
 
(;゚∀゚)「え……はい」
 
( ´∀`)「すみません」
 
 極力危険な道は歩ませたくない、モナーの配慮だった。
 安全を確保できれば、後続は一度に大人数でも安全であろう。
 先ずはモナーと、流石兄弟が先に降りる事になった。
 
( ´_ゝ`)「それじゃ、いってくる」
 
( ´∀`)「万が一何かあったら、皆さんはすぐに逃げて下さい」
 
ミセ*゚−゚)リ「……お気をつけて」
 
 ミセリの心配を背に受け、三人がエレベーターに乗る。
 
(´<_` )「行くぞ」
 
 

 

20 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:10:07.65 ID:FrQ5ZtIc0
 
(´<_` )「安全を確認したら、すぐにエレベーターを戻す」
 
 その言葉の後、弟者の操作によって三人が乗る地面が沈みだした。
 
 その様子を静かに見送るブーン達。
 三人が完全に闇と一体化した後、ショボンが口を開いた。
 
(´・ω・`)「いよいよ……だね」
 
( ゚∀゚)「あぁ 腕が鳴るぜ」
 
('A`)「ジョルジュは……新しいペルソナになったんだよな」
 
( ゚∀゚)「ん……あぁ」
 
(;'A`)「あ、すまねぇ」
 
( ゚∀゚)「いや、いいんだ」
 
 もう、彼はいない。
 だがJ・Fの力は、確かにオルトロスへと引き継がれている。
 ジョルジュにはそれだけで、十分だった。
 
( ゚∀゚)「新しいと言えば、ブーンもすげえの使ってたよな」
 
 

 

21 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:13:08.96 ID:FrQ5ZtIc0
 
( ^ω^)「おっ あの時は必死だったお」
 
 ジョルジュを助けようと咄嗟に放った、永遠の白の事だろう。
 
(´・ω・`)「……どうもペルソナは、感情が昂った時とかに力を発揮するみたいだね」
 
('A`)「あぁ、後はやっぱり、使えば使う程って気もする」
 
川 ゚ -゚)「熟練度みたいな物があるのかもな」
 
('A`)「そうかもしれない ゲームで言うと経験値とかレベルみたいな」
 
ミセ*゚ー゚)リ「ゲームはした事がないのでわかりませんが、大体それで合ってると思います」
 
( ゚∀゚)「モナーさんも言ってた ペルソナの成長は心の成長だってな」
 
(´・ω・`)「心……か 体ばかり鍛えても意味はなさそうだね」
 
ξ゚听)ξ(心……)
 
ミセ*゚−゚)リ「……」
 
ミセ*゚−゚)リ「心の成長は……確かにペルソナの成長に直結します」
 
ミセ*゚−゚)リ「でも……」
 
 
 


22 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:16:08.39 ID:FrQ5ZtIc0
 
ミセ*゚−゚)リ「力ばかり追い求めても、ペルソナは応えてくれません。
       例えそれで大きな力を手に入れたとしても……過ぎた力は、飲まれてしまいます」
     
(´・ω・`)「飲まれる?」
 
ミセ*゚−゚)リ「はい 術者の支配を離れ、逆に支配されてしまうのです」
 
(´・ω・`)「あぁ……前にモナーさんから聞いたような……」
 
ミセ*゚−゚)リ「VIP高校でのあの方は……それに近かったと思います」
 
ξ゚听)ξ(デレ……)
 
ミセ*゚−゚)リ「ですから、力のみを追わずに、心を鍛えないといけません」
 
( ^ω^)「心を鍛える……どうすればいいんだお?」
 
ミセ*゚−゚)リ「具体的な方法はありませんが……」
 
ミセ*゚ー゚)リ「ジョルジュさんがそうだったように、皆さんにも必ずペルソナは応えてくれるはずです」
 
ミセ*゚ー゚)リ「ですからどうか、焦らずに……」
 
 ミセリは察していた。デレの一件からツンが思い詰めている事を。
 当然皆に向けて言った言葉だったが、特にツンに伝えたかったようだ。
 
 
 


23 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:19:18.36 ID:FrQ5ZtIc0
 
ξ゚听)ξ(心……か……)
 
 その意味を、ツンは深く考える。
 と言われても、未だ雲を掴むような話。具体的には解らないであろう。
 
 だが、きっと───
 
ξ )ξ(デレ……)
 
 デレを救いたいという彼女の想いに、ペルソナは必ず応えてくれるだろう。
 
 今できる事に、全力を注げば良い。
 ミセリが伝えたかった真意は、ツンの胸にしっかりと届いていた。
 
 そんな事を話していると、機械音をたてながら床が上昇してきていた。
 どうやら、モナー達は無事なようだ。
 
(´・ω・`)「よし……行こう」
 
 完全に止まった事を確認して、七人がエレベーター部分に立つ。
 やはり少し、窮屈なようだ。
 
 ジョルジュなどは隣のミセリに接触しないように、不自然な程逆側に寄っていた。
 そんなジョルジュに押され、ブーンが必死に手摺を掴む。
 
 
 


26 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:22:11.57 ID:FrQ5ZtIc0
 
(´・ω・`)「じゃ、いくよ」
 
 あの時と同じ、奥から八番目の“Barbatos”と書かれた細い柱を持ち、ゆっくりと回す。
 カチャリ、と乾いた音がして、ゆっくりと床が沈みだした。
 
 いよいよ敵の腹の中へ突入する。
 先に行ったモナー達の御蔭で安全は確保されているだろうが、
 
(;^ω^)「……緊張するお」
 
 確実に迫る戦いの時に、やはり皆緊張しているようだ。
 
( ゚∀゚)「必ず……ハインを連れて帰る」
 
川 ゚ -゚)「ついでに親玉も倒してしまえると良いな」
 
( ゚∀゚)「言うねぇ うまくいきゃ、それもいいな」
 
ミセ*゚ー゚)リ「ジョルジュさん 無茶はしないでくださいね」
 
(;゚∀゚)「あ、はい」
 
('A`)(尻に敷かれてるな……)
 
 二人のやり取りで、若干空気が和んだ気がした。
 
 
 
 

27 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:25:13.86 ID:FrQ5ZtIc0
 
 

 
 
 静寂が支配する、薄暗い室内。
 
 そこにある物は、壁に設置された大きなモニターと、回転式のリクライニングチェア。
 本革仕様なのか、モニターから滲み出る光に黒い光沢を生み出している。
 
 そこに在る者は、二人の人間。
 一人は両手足を拘束され、無造作に椅子の背後の床に寝かされていた。
 もう一人は椅子に寛ぎ、実にリラックスした体勢でモニターを眺めていた。
 
(   )「ハインリッヒ君」
 
 モニターから目を動かさず、背後にいる女───ハインに声をかけた。
 
从;゚∀从「……なんだ」
 
 寝かされたまま、唯一自由の利く口だけで答える。
 
(   )「君を助けに来た者達がいるようだ」
 
从;゚∀从「───ッ!」
 
 
 


29 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:28:24.44 ID:FrQ5ZtIc0
 
(   )「十人……か これはまた大所帯だな」
 
从;゚∀从「……アンタ、どうするつもりだ!」
 
(   )「君も気付いているだろう? 尤も、彼等もそれを承知で乗り込んで来たとは思うが」
 
从;゚∀从「……」
 
(   )「君は餌だよ 誘き寄せる為のね」
 
从;゚∀从「……クソッ!」
 
(   )「相変わらず発言が乱暴な女性だ」
 
从;゚∀从「…………」
 
(   )「どこまで話したのかは知らないが、まぁそれは関係ない事だ」
 
(   )「どちらにしろ、消えてもらうのだからね」
 
从;゚∀从「……甘く見てると、足元すくわれるかもしれないぞ」
 
(   )「おや やけに肩を持つな」
 
从 ゚∀从「……当たり前だ」
 
 
 


30 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:31:18.40 ID:FrQ5ZtIc0
 
(   )「まぁいいさ」
 
(   )「こちらとしても、勿論万全を期すよ」
 
 すると男は、肘掛けに置いてあった物を手に取る。
 
 それは、黒い箱。
 
从;゚∀从「……?」
 
(   )「さぁ、見せてくれよ お前の力を」
 
 箱を持ち、モニターへ腕を伸ばした。
 ハインからはよく見えていないが、そこに映るのは───
 
 下降を続ける、ブーン達の姿だった。
 
(   )「黒き、トラペゾヘドロン」
 
从;゚∀从「───ッ?!」
 
 瞬間、箱を中心に男から黒い霞の様な物がゆっくりと膨れ上がり、立ち昇った。
 悪魔を見る事が出来るコンタクトレンズをつけているハインの目にも、はっきりと。
 
 黒い霞は男の頭上で一塊の小さな雲と成り、モニターの中へ吸い込まれていった。
 
 
 


31 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:34:30.00 ID:FrQ5ZtIc0
 
从;゚∀从「何を……した……?」
 
(   )「見ていればわかるさ」
 
 決してモニターから目を離さずに答える。
 つい、と、男の口端がつり上がった。
 
(   )「おっと、君からはよく見えなかったね」
 
 当然、解っていながらそれを言っていた。
 ハインとモニターの間に居た男は、地を少し蹴り横へと動く。
 
 モニターには目を向けず、ハインは不敵にほくそ笑むその横顔を睨んだ。
 
从;゚∀从「所長……いや……エクスト……!」
 
<_プー゚)フ「ククッ まぁ、ゆっくりと見物しようじゃないか」
 
 落ち着き払う様子とは対極。逆立った燃えるような赤い髪。
 ダイオードと同じく真っ黒なスーツを着こなしている。
 しかしその顔は彼とは違い、彫りが深く感情を読み取りやすい顔をしており、
 特徴的なモミアゲが、赤い牙のように見えた。
 
 モニターに映るのは、ブーン達の姿。
 黒きトラペゾヘドロンから放たれた力とは、果して───
 
 

 

34 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:38:29.55 ID:FrQ5ZtIc0
 
 

 
 
(;´∀`)「なっ?!」
 
(´<_`;)「どういう事だ……?!」
 
 先に降りた三人は、その場で自分の目を疑っていた。
 視線の先は、エレベーターが降りてくるはずの暗いスペース。
 先程まではその筈だった場所だ。
 
 しかし今は。
 
( ´_ゝ`)「……何か仕組まれたな」
 
 そこにはエレベーターが落ちてくるスペースは無く、一面の壁しかなかった。
 エレベーターを上昇させ、三人が少し目を離した隙に全く違う風景に変化していたのだ。
 
 変化前もそんな仕掛けがあるようには見えなかった。
 何かが降りてくるような壁の節目も確認できない。
 
( ´_ゝ`)『ペルソナ』
 
 突如、現れた壁を見据え兄者がペルソナを喚び出す。
 意図を察したのか、モナーと弟者は一歩後ずさり、同じく壁に視線を移した。
 
 

 

35 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:42:26.94 ID:FrQ5ZtIc0
 
( ´_ゝ`)『行け』
 
 瞬時に壁へと詰め寄り、馬上から槍の一撃を放つカストル。
 ペルソナによる一撃ならば、コンクリート程度は破壊し得るであろう。
 
 だが。
 
 カストルの一撃は壁を貫くに至らず、虚しく切先を壁に突き立てるのみに止まった。
 ペルソナを仕舞い衝突点を確認するも、傷一つ付いていない。
 
( ´_ゝ`)「結構本気だったんだが……傷がついたのはプライドだけか」
 
(´<_` )「上手い事言っている場合じゃないだろう」
 
( ´∀`)「……相当強力な力で具現化されているのか」
 
( ´_ゝ`)「そう考えるのが妥当なとこだな」
 
 破壊が困難と見ると、モナーはすぐに袖口から携帯を取り出した。
 が、ディスプレイのアンテナ部分には無情の『圏外』の文字。
 試しにとミセリに通話を試みるが、やはり電話は通じなかった。
 
(;´∀`)(……皆さん……)
 
 出端を折られるとはこの事か、早速壁が立ちはだかってしまう。
 
 
 

37 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:45:29.61 ID:FrQ5ZtIc0
 
( ´_ゝ`)「……進むしか、ないようだな」
 
 モナーの背に、言い放つ。
 このまま立ち往生していても状況が変わる保証はない。
 それならば、やはり。
 
(´<_` )「頭を叩けば、この状況も変わるだろう」
 
 そう言う事だろう。
 そちらの方が確かに、確実なはずだ。
 モナーの心境は二人も察する所だが、やはりここは動かなければならない。
 
( ´∀`)「……行こう」
 
 そう振り向いたモナーの顔からは、すでに迷いが消えていた。
 
( ´_ゝ`)(ふん……やはり、ガキ達とは違うな)
 
(´<_` )(流石だな)
 
( ´_ゝ`)「この現象、恐らくはここの最高権力者、エクストの仕業だ。
      先ずは所長室を目指すぞ」
 
 言った兄者を先頭に、三人はその場から進み出した───
 
 
 


38 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:48:34.33 ID:FrQ5ZtIc0
 
 

 
 
 一方のブーン達は、ただひたすらに下降を続けていた。
 ブーンとツン、そしてミセリはそれに何の疑問も感じてはいなかったのだが……
 
 以前侵入したことのある他の四人は違った。
 最初にその違和感を口にしたのは。
 
川 ゚ -゚)「……おかしくないか?」
 
ξ゚听)ξ「……何が?」
 
川 ゚ -゚)「長すぎる 前はこんなに時間がかからなかったはずだが……」
 
 そうなのだ。以前と比べると明らかに、下降の時間が長い。
 入口はすでに見えなく、暗闇の世界。
 全員の目は多少それに慣れてきてはいたが、以前は慣れる前にはすでに到着していたはずだ。
 
(´・ω・`)「……何か、されたのかもしれない」
 
(;'A`)「マジかよ……」
 
(´・ω・`)「どんな手段を使ったのは、見当もつかないけどね」
 
 

 

39 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:52:15.20 ID:FrQ5ZtIc0
 
 ショボンは覚えていた。
 前回ここを訪れた時、エレベーターが停止した時の事を。
 音と衝撃から、あそこから下は恐らくはないはずだと。
 
(´・ω・`)(あの感覚は明らかに、あれ以上下はない感じがしたのに……)
 
 彼等がその身に受けている浮遊感が、変わらぬスピードで下降を続けている事を示している。
 
( ゚∀゚)「あれより下があったとかか……?」
 
(´・ω・`)「……そうだとしても、あの通路への入口がないのはおかしいよ」
 
(;'A`)「それはなんかシャッターとかが閉まったとか……」
 
(´・ω・`)「それなら閉まる時に先に降りたモナーさん達が何か言うはずだし、
      そのくらいならペルソナで壊せるはずだ」
     
(;'A`)「そ、そっか……」
 
(´・ω・`)(モナーさん達も気がつかない間に……何かが起きた……?)
 
(´・ω・`)(だとしたら……僕らはすでに敵の攻撃を受けている)
 
(´・ω・`)「みんな」
 
 瞬時に状況を理解し、声を上げる。
 
 
 


40 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:55:22.50 ID:FrQ5ZtIc0
 
(´・ω・`)「何かあるかもしれない 気をつけてくれ」
 
 ショボンの一言で、皆に緊張が走った。
 何もない壁に視線を送る者。上を見る者、下を見る者。
 余計な心配をさせたようにも思えるが、そのくらいの緊張感の方が良いだろう。
 
 手摺に背を向け、中心に固まる。
 どこから、何が来ても良いようにだ。
 
 
 エレベーターは一定のスピードを保ち、落ちて行く。
 
 
 世界は、暗黒。
 
 
 彼等はまさに、奈落の底へと落ちている感覚に見舞われていた。
 
 
 
(;'A`)「いつまで……続くんだ……」
 
 ぽつり、呟く。
 どのくらい時間が経過したのか、それすらもわからなくなっている。
 
 
 


41 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 21:59:21.48 ID:FrQ5ZtIc0
 
ξ゚听)ξ(……)
 
ξ゚听)ξ(肌がざわざわする……何かが這いずっているような……)
 
ξ゚听)ξ(あの時と……同じだわ)
 
 あの時。つまりVIP高校の時と同じだと、ツンは感じているようだ。
 
ξ )ξ(デレ……なの……?)
 
 それにデレの存在を感じたようだが、それは違う。
 しかし、その源はデレと同じく、黒きトラペゾヘドロンだ。
 玖都留研究所所長、エクストに因ってこの異変は起こされている。
 
 不意に、いつまでも続くと思われた奈落への下降に、終わりが訪れた。
 
( ^ω^)「……出口だお」
 
 剥き出しのエレベーターの壁の一面、足元から徐々に光が漏れて行く。
 全員の視線が、そこに集中した。
 
 半分程、空間が開けた時だろうか。
 
 一匹の黄金の蝶が、そこからひらひらと現れた。
 黄金の鱗粉を撒きながら、ブーン達の周囲をひらひらと。
 
 

 

42 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:02:34.94 ID:FrQ5ZtIc0
 
 全員の視線は黄金の蝶に集中していた。
 
(;'A`)「な、なんだ?」
 
(;゚∀゚)「こんなとこに、蝶?」
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
(;^ω^)(……どっかで、見た事あるような気がするお……)
 
 ブーンは良く覚えていなかったが、それはまさしく夢で見た蝶だった。
 しかし、何故それが今この時に現れたのだろうか。
 
ミセ*゚−゚)リ(フィレモン……?)
 
 皆が蝶に気を取られている内に、エレベーターは停止した。
 浮遊感が無くなった事に気付き、正面に視線を移すと───
 
 突然、真っ白な光が彼等を包み込んだ。
 
(;´・ω・`)「うわっ?!」
 
川;゚ -゚)「なんだ?!」
 
ミセ;゚−゚)リ「……ッ!」
 
 
 


43 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:04:29.83 ID:FrQ5ZtIc0
 
 
 
 目も開けられない強烈な光に、一同は手をかざして光から逃れるように。
 
 光は容赦なく叩きつけられ、ブーン達の視界を奪って行った。
 
 
 
 
 ────────────────………
 
 
 ────────────………
 
 
 ─────────………
 
 
 ────………
 
 
 
 
 
 


44 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:08:12.09 ID:FrQ5ZtIc0
 
 

 
 
<_プ−゚)フ「……チッ」
 
 ブーン達の様子をモニターから窺っていたエクストが舌打ちをした。
 彼等が光に包まれる一部始終を見ての事だ。
 反応から察するに、あれは彼の仕業ではないのだろう。
 
从;゚∀从「な、何をした!」
 
 そんなこととは見当もつかないハインは、エクストに噛み付く。
 
<_プ−゚)フ「少し黙っていろ」
 
从;゚∀从「……ッ」
 
 ハインに顔を見せずに、押し殺すような声色で答えた。
 やはりダイオードとは違い、感情の起伏が激しいようだ。
 
<_プ−゚)フ(……流石は、あの御方の片割れと言ったところか……)
 
<_プー゚)フ(だが……いつまでもその力が及ぶと思うなよ)
 
 エクストが握る箱に力を籠めた。
 黒い輝きが一際、増したように見えた───
 
 

 

45 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:11:37.37 ID:FrQ5ZtIc0
 
 
 
 ────………
 
 
 
 
(;´ω`)「お……?」
 
 瞼の裏からでも眩しかった程の光が、止んだ。
 それを感じてブーン達は目を開く。
 
 その場所には、皆見覚えがあった。
 
 四方に佇む黄金の柱はどこまでも伸び、その背には光輝く星々が。
 そしてその中央には、蝶をあしらった仮面をつけた長髪の男。
 
(;´・ω・`)「あなたは……フィレモン……?」
 
 意識と無意識の挟間に住まう者、フィレモン。
 彼を中心に、ブーン達は彼を囲むように立っていた。
 
フィレモン『諸君、久しぶりだな』
 
 声が、響いた。
 
 
 


46 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:14:53.50 ID:FrQ5ZtIc0
 
 果てのない世界の様に窺えるが、不思議とフィレモンの声が反響する。
 
フィレモン『君達に与えたペルソナ どうやら正しい事に使ってくれているようだ。
       だが、悠長に胸を撫で下ろしていられる状況ではなくなってきている』
      
川 ゚ -゚)「どういう……ことだ?」
 
フィレモン『字都の地に迫る影は、既にその牙を研ぎ終わり、闇の力を見せんとしている。
        諸君も些か、心当たりがあるだろう』
      
ξ;゚听)ξ「デ、デレの事?!」
 
フィレモン『……あの少女は、巻き込まれただけだ 影は未だ姿を見せてはない。
       だが、全ての点はそれへと繋がる』
      
ξ゚听)ξ「影……それが……デレを……」
 
フィレモン『少年達よ 最早一刻の猶予もない』
 
 
フィレモン『箱を、止めるのだ』
 
 
( ゚∀゚)(箱……デレが持ってた……あれか?)
 
 

 

47 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:19:28.15 ID:FrQ5ZtIc0
 
フィレモン『影の力の一部を閉じ込めた、危険な物だ』
 
 ざ、と、ノイズが走る音がした。
 それに合わせ、テレビの映像が乱れるように、フィレモンとその空間が揺れる。
 
フィレモン『ここま──きたか────年達よ──そぐの──』
 
 その声も乱れ、聞き取り辛くなっていき。
 
フィレモン『トラペ──ン────止め────……』
 
 何かを言った直後、再びブーン達を光が包み込んだ。
 
 フィレモンの最後の言葉、恐らくはトラペゾヘドロンの事を伝えたかったのだろう。
 エクストの妨害に因ってか、それを伝えきる前にフィレモンの世界は消失してしまった。
 
 次にブーン達が目を開けた時、そこは真っ白な壁が伸びる通路だった。
 ショボン達は、それに見覚えがある。
 
 以前来た時の、玖都留研究所の通路だ。
 
(´・ω・`)「ん……戻った……みたいだね」
 
(;゚∀゚)「フィレモン……なんだったんだ?」
 
 

 

48 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:24:44.28 ID:FrQ5ZtIc0
 
(´・ω・`)「様子から察するに、何かに邪魔されたみたいだね」
 
ξ゚听)ξ「箱って……言ってたわね」
 
( ゚∀゚)「デレが持ってたあの箱のことか?」
 
ξ゚听)ξ「多分……」
 
(;^ω^)「ところで、ここはどこだお?」
 
(´・ω・`)「ここは多分、玖都留の研究所だ 内装が似てる」
 
川 ゚ -゚)「フィレモンが戻してくれたのか」
 
(´・ω・`)「わからない……けど、エレベーターからは脱出できた」
 
('A`)「……で、どうする?」
 
 ドクオの言葉に、全員が顔を見合わせた。
 この場所が研究所には間違いないようだが、問題が一つあるのだ。
 通路は右、そして左に伸びていた。
 
 当然、どちらが正解かはわからない。
 
(´・ω・`)「うーん……モナーさんと連絡がとれればいいんだけど……」
 
 
 


49 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:27:55.58 ID:FrQ5ZtIc0
 
ミセ*゚−゚)リ「あっ 携帯、見てみます」
 
 そう言うとミセリはモナーと同じ様に、巫女服の袖口から携帯を取り出した。
 しかしやはり、少し前のモナーと同じ様にアンテナ部分には圏外の文字が。
 申し訳なさそうに頭を下げると、静かに携帯を仕舞った。
 
( ゚∀゚)「いや、仕方ないって」
 
(´・ω・`)「……困ったね」
 
('A`)「分かれるのはどうだ?」
 
( ^ω^)「危なくないかお?」
 
(´・ω・`)「あぁ、それは危険だ」 
 
(;'A`)「んじゃどうすんだよ」
 
川 ゚ -゚)「どちらにしろ、ここで止まってても何も始まらない」
 
川 ゚ -゚)「左へ進もう」
 
(´・ω・`)「なんで左なの?」
 
 するとクーは、右の人差し指を立て、唇に軽く当て、
 
川 ゚ -゚)「女の勘、だよ」
 
 
 


51 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:31:55.38 ID:FrQ5ZtIc0
 
 場の空気を和ませる為か、少しおちゃらけたように言って見せた。
 
ξ゚ー゚)ξ「あら、それなら私も左の道を推すわ」
 
ミセ*゚ー゚)リ「それでは、私も」
 
(´・ω・`)「ははっ じゃあそうしようか 三人はいいかな?」
 
( ^ω^)「把握だお!」
 
( ゚∀゚)「女の勘じゃ仕方ねぇな」
 
('A`)「あぁ、止まってるよりは、進もうぜ」
 
 どうやら、一同の意見は合致したようだ。
 クーから見て左側を向き、一斉に歩き出した。
 
 通路はそれなりに広く、四人が一列になってもまだ少し余裕があった。
 前列を歩くのはジョルジュ、ミセリ、クー、ショボン。
 後列を歩くのはブーン、ツン、ドクオだ。
 
 歩き出す前こそクーの御蔭で少し明るい雰囲気ではあったが、
 先の見えない道を進むにつれ、また彼等の不安は僅かながらに広がって行く。
 
 やがて、聞こえるのは反響する足音のみになった。
 
 
 


53 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:37:55.24 ID:FrQ5ZtIc0
 
(´・ω・`)(ここは本当に何かの施設なのか……? 随分と長い廊下だな……)
 
(´・ω・`)(その割りには、部屋が全くない……この先に何かあるのか……
      それか、この側面の壁の向こうが巨大な部屋に……?)
 
 辺りに警戒しつつも、ショボンは様々な事を思考し、また予測していた。
 こんな事なら、ハインに詳しく話を聞いておけばよかったと後悔し始めた、その時。
 
(´・ω・`)「……ん?」
 
 反響する彼等の足音に、別の音が混じりだした。
 
( ゚∀゚)「……なんだ?」
 
 警戒し、一時止まる。しかし、足音は止まなかった。
 ブーン達が見つめる先───暗い通路の先から、確かに。
 
 乾いた足音、恐らくは皮靴だろうか。それ以外一切の音がしない通路に、良く反響している。
 タップダンスのような軽快な音だが、ブーン達にはそんな事を考える余裕はない。
 
 ここはVIPの、即ち、敵の腹の中なのだから。
 
 やがて、足音の主が姿を現した。
 
( ■-■)
 
 不気味に佇む、サングラスをかけた男が三人。
 VIPの正装なのか、ダイオードやエクストと同じく黒いスーツを纏っている。
 
 
 


54 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:41:18.71 ID:FrQ5ZtIc0
 
 その風貌から、ブーン達の頭に一つの単語が浮かぶ。
 
(´・ω・`)(……ガードマン、いや、もっと特殊な……)
 
川 ゚ -゚)(テレビで見る大統領のSPみたいな感じだな)
 
(;^ω^)(……どう見ても、歓迎されてる雰囲気じゃないお)
 
 そう。要人警護に当たる特殊なガードマン、所謂SPと呼ばれる存在。
 勿論、ブーン達はそんな者達と面と向かった事はないが、真っ先にその単語が浮かんでいた。
 
( ゚∀゚)「……どうする?」
 
(´・ω・`)「やるしか、ないだろうね」
 
 サングラスの男たちはブーン達が向かう方向から現れた。
 つまりは、その先には確実に何かがあると言う事だろう。
 どうやら、女の勘とやらは見事的中したようだ。
 
 ならば、ここは正面突破を計るしかないだろう。
 石橋を叩くショボンが、珍しく大胆な行動に出ようとした事には理由があった。
 男達からは、ペルソナの波動を感じないのだ。
 
 例え訓練された人間とはいえ、生身の体ではペルソナ使いには敵わないだろう、と。
 それは決して油断や過信などではなく、確信と呼べる物だ。
 
 
 


55 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:44:45.83 ID:FrQ5ZtIc0
 
ξ゚听)ξ『ペルソナッ!』
 
 後方に居たツンが、突如ペルソナを喚び出した。
 
( ■-■)「……」
 
 男達は身構えもせずに、直立している。
 
(´・ω・`)(動きがない……やっぱり、普通の人間か?)
 
ξ゚听)ξ『マリンカリン』
 
 紡がれたのは、女神による魅惑の言霊だ。
 愛と誘惑を司るスアデラに魅了されたならば、文字通り骨抜きになるだろう。
 耐性のあるペルソナ使いや悪魔なら兎も角、ただの人間であればそれは必然───
 
 の、はずだった。
 
ξ;゚听)ξ「───?!」
 
 だが、男達が女神の誘惑に靡く事はなかった。
 何事もなかったかのように、平然と佇んでいる。
 
 その結果に、皆が驚いた刹那。
 
 

 

56 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:48:39.98 ID:FrQ5ZtIc0
 
( ■-■)「───」
 
(;゚∀゚)「うおっ!」
 
 男達が、地を蹴った。
 
 果して、訓練を積んだだけでここまでの動作を行うことができるのだろうか。
 ツンのマリンカリンが効かなかった時よりも、ブーン達は衝撃を受けた。
 
 明らかに人を超えた、瞬発力にだ。
 
ミセ*゚−゚)リ「───ッ!」
 
川;゚ -゚)「くっ!」
 
 しかし、驚いている場合ではない。
 男の人数は、三人。それぞれがミセリ、ジョルジュ、そしてクーへと詰め寄る。
 三人は腰を深く落とし、強く踏み込んだ左足から力を送り込み、右拳を下腹部目掛け放つ。
 
 地を蹴ったタイミングから攻撃に移行するまで、寸分違わぬ動作だった。
 
ミセ#゚−゚)リ「はぁッ!」
 
 最も早く反応したのは、ミセリだった。
 
 
 


57 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:52:16.12 ID:FrQ5ZtIc0
 
 正面を向いていた体を九十度右へ向け、直線の殴打を回避する。
 それと同時に、伸びきった男の右腕中央、つまり関節部を右膝で蹴りあげた。
 そこへ間髪入れずに、蹴り上げた部箇所の上方から叩きつけられる右肘。
 
 蹴り足ハサミ殺しと言うやつだ。常人ならば、その腕はもう使い物にならないだろう。
 
 
ミセ;゚−゚)リ「───ッッ」
 
 
 それなのに、ミセリの背に奔る、悪寒。
 それが彼女に追撃を促した。
 
ミセ#゚−゚)リ「ふッ!」
 
 上げた足を瞬時に戻し、床を強烈に踏み込む。
 その時にはすでに、打ち下ろした右腕は脇腹まで戻っており、踏みこんだ力を伝えていた。
 そしてそのまま、前方へ。
 
 狙うは一点、先程から一切たりとも緩む事のない、口の上。
 
 
 人中。
 
 
ミセ#゚−゚)リ「はッ!」
 
 
 


59 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:55:47.49 ID:FrQ5ZtIc0
 
 正確に突けば致命傷と成り得る急所に、容赦なく繰り出された掌底。
 男は勢い良く後方に吹き飛ばされた。
 
 ────────
 
( ゚∀゚)『オルトロスッ!』
 
 男の攻撃を確認した瞬間、ジョルジュはペルソナを喚び出す。
 下腹部に迫る拳を───
 
(;゚∀゚)「チッ!」
 
 咄嗟に左手を伸ばし、接触の寸前で拳を手の平で受け止めた。
 渇いた、弾けるような音が通路に大きく木霊する。
 
(# ゚∀゚)「いってぇなッ!!」
 
 音は派手だったが、ダメージはほぼないようだ。
 お返しだと言わんばかりに声を荒げ、反撃に転ずる。
 
( ゚∀゚)『行け!!』
 
 ジョルジュの声に合わせ、オルトロスが頭を突き出し男に突進した。
 ぶちかましをまともに受けた男は大きく後方に飛ばされ、地面に叩きつけられる。
 
 その直ぐ後に、ミセリの掌底を受けた男も背中から地に着いた。
 
 
 


60 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 22:59:34.64 ID:FrQ5ZtIc0
 
 ────────
 
川;゚ -゚)「───ッ!」
 
 下腹部へ迫る一撃に反応したのは、標的にされたクーではなく隣にいたショボンだった。
 
(#´・ω・`)「はぁッ!」
 
 クーに拳が当たる直前、横合いから男に体当たりをする。
 不自然な体勢だったせいか思うように力は伝わらず、拳の軌道を逸らすのみにとどまった。
 男はショボンに視線を移し、伸ばしきった右腕を勢いよく引く形で肘打ちを繰り出す。
 
( ■-■)「……」
 
 息を吐いた気配すら窺えない。まるで機械のような、そんな印象を受ける。
 そう思わせるのは冷静さのみと言うわけではない。
 ショボンに迫る右肘が、正確に脇腹へと向いていたからだ。
 
 ショボンも男も、体勢は取れていない。だがそれでも、男の攻撃は的確に。
 
(;´・ω・`)『ぐっ……!』
 
 ショボンの脇腹を、捉えた。
 体をくの字に曲げ、側方によろめく。
 どうやら直撃の一歩手前にペルソナを発動し、生身での直撃は免れたようだ。
 
 

 

62 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:03:02.20 ID:FrQ5ZtIc0
 
 ペルソナを降魔しているだけでも身体能力は上がる。
 運動面だけでなく、攻撃耐性もだ。
 だがそれは劇的な変化というわけではない。
 ペルソナを発動することに因って初めて、完全に力がその身に宿る。
 
 それを利用した防御であったが、直撃には違いない。
 男の動きも、常人を遙かに超えている。
 当然、攻撃の強烈さも、ショボンの歪んだ顔が表していた。
 
 その時、ミセリとジョルジュの攻撃によって二人の男が宙を舞った。
 
ミセ*゚−゚)リ『夢見針』
 
 掌底を放ったままの体勢で、言霊と紡ぐ。
 視界の端で、ショボンが攻撃を受けていた事を確認していた。
 
 ミセリの言霊に合わせ、サラスヴァティが静かに手を下げる。
 その軌跡から、小さな緑の針が幾重にも放出された。
 
 それらは的確にショボンを攻撃した男を捉え、次に男はその場に倒れ込んだ。
 
(;´・ω・`)「いたた……すまない」
 
川;゚ -゚)「すまん、ショボン 大丈夫か?」
 
 

 

63 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:07:18.58 ID:FrQ5ZtIc0
 
 自分を庇ったショボンを支え、回復をかけるクー。
 ミセリは語らず、先程掌底を浴びせた男を凝視していた。
 
(;゚∀゚)「やべ……やりすぎたかな」
 
ミセ*゚−゚)リ「いえ───」
 
ミセ*゚−゚)リ「この人達……普通の人間ではありません」
 
 それは先の動き、そして体の頑丈さからの判断だった。
 ミセリが躊躇いなくペルソナ能力を使用したのは、それがあったからだ。
 
 『夢見針』を受けた男は、流石に動けないだろう。
 意識は切り離され、強制的に夢の世界へと誘われている。
 ミセリの能力が男に通じたのは、彼女の力が男の耐性力を上回ったからだ。
 
 先のツンは、それを上回る事ができなかった。
 
 そして、後方に大きく飛ばされた二人の男がゆっくりと立ち上がった。
 痛みと言う概念がないのか、まるでダメージがないと言った様子。
 
(;'A`)「なんなんだ……こいつら……」
 
ミセ*゚−゚)リ「悪魔ではありません でも……人の力を完全に凌駕してる……」
 
 
 


65 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:10:25.53 ID:FrQ5ZtIc0
 
(;´・ω・`)「ま、まさか……」
 
 一つ、ショボンには思い当たる節があった。
 それは数日前、彼等が体験した初めての異能との邂逅。
 
(;^ω^)「あ……病院の、化け物……」
 
 ブーンも気がついたようだ。
 病院で出会った、悪魔が憑依した遺体───
 それに、似ていた。
 
ξ;゚听)ξ「と言う事は……元は人間なのよね」
 
(;゚∀゚)「どーすんだよ! 殺すわけにゃいかねーだろ?」
 
(;^ω^)「でもあの時、遺体は傷一つなかったお」
 
(;'A`)「あ……それを考えりゃ、普通にやっちまってもいいのか……?」
 
 困惑が広がる。
 だが、敵は問題が解決するまで待っていてはくれない。
 
( ■-■)「───」
 
 男達が、動いた。
 
 
 


67 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:15:19.62 ID:FrQ5ZtIc0
 
ミセ*゚−゚)リ『夢見針!』
 
 それを迎え撃つミセリ。ブーン達はまだ動けない。
 下手をしたら殺してしまうかもしれないと言う迷いが、体を硬直させていた。
 
 ミセリの力が通用する事は最初の男で証明済みだ。
 肉体を傷付けずして動きを止める力ならば、最善手と言えよう。
 
 だが、男達はそれを予測していた。
 
( ■-■)「───」
 
 迫る『夢見針』をそれぞれ左右に跳び、避ける。
 やはり知能も、人のそれ。直線の攻撃におめおめと当たる事はない。
 
 そこへ。
 
川 ゚ -゚)『ガル!』
 
 花の女神が風刃を生み出し、右に跳んだ男へ迫る。
 三重の風の刃が男に触れ、そのまま通過していった。
 
 男が切り刻まれる事はなく、ただそのままに直立していた。
 
 


70 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:21:08.37 ID:FrQ5ZtIc0
 
 ────────
 
(´・ω・`)「それなら……これでどうだ」
 
(´・ω・`)『ハマ!』
 
 ミセリの攻撃を左に跳び避けた男に向け、ショボンが言霊を紡ぐ。
 ヤマが構えた剣から放たれた白い光が男を包み込み、白柱と成る。
 柱は徐々に細くなっていき、筒状、棒、線と成り、最後には掻き消えた。
 
 そこに残ったのは、うつ伏せに横たわる男の姿。
 
ミセ*゚−゚)リ『夢見針』
 
 クーが攻撃を仕掛け、直立したままの男に力を放つ。
 今度は避けられる事はなく針は突き刺さり、片割れと同じ様に倒れた。
 
 そして再び、静寂が訪れる。
 
 一息ついて。
 
ミセ*゚ー゚)リ「クーさん、ショボンさん、お見事です」
 
(;'A`)「し、死んでねぇよな……?」
 
(´・ω・`)「ん、多分」
 
(;'A`)「多分ておま」
 
 
 


73 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:25:32.16 ID:FrQ5ZtIc0
 
(´・ω・`)「冗談だよ 大丈夫さ」
 
ミセ*゚ー゚)リ「御二人は、憑依した悪魔のみに攻撃をしたんです」
 
( ゚∀゚)「そんなことが……」
 
ミセ*゚ー゚)リ「加減を知れば、それは可能です」
 
( ^ω^)「そういえば、病院では思いっきり燃やした気がするけど、無傷だったお」
 
ミセ*゚ー゚)リ「はい ペルソナ能力もこの世ならざる力。
       上手く利用すれば現世に影響を及ぼさずに使用することが可能です」
 
('A`)「あの時は手加減なんてした覚えはないけど……」
 
ミセ*゚ー゚)リ「それはまだ目覚めたばかりで、発動が不完全だった為でしょう」
 
ξ゚听)ξ「なるほど……」
 
ミセ*゚−゚)リ「最近発生している悪魔達が一般人に見えないのも、その為です。
     でも、楽観視している状況でもありません」
 
ξ゚听)ξ(そういえば……ギコさんの車を吹き飛ばしたのは……悪魔だった)
 
 
 


75 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:28:55.08 ID:FrQ5ZtIc0
 
ξ゚听)ξ(普通の悪魔でも……そこまでの力を……)
 
 ミセリが言いたい事は、つまりそう言う事なのだろう。
 もし、悪魔が完全に具現化したとしたら───
 それは絶対に、阻止しなければならない。
 
(´・ω・`)「さぁ、このまま居てもまた敵がくるかもしれない 先を急ごう」
 
( ゚∀゚)「あぁ、ハインを早く助けねぇとな」
 
('A`)「モナーさん達とも、できれば合流したいな」
 
川 ゚ -゚)「早く終わらせて、帰ろうじゃないか」
 
ξ゚听)ξ「そうね 急ぎましょう」
 
( ^ω^)「行くお!」
 
 先の戦闘で、一同の気が引き締められたようだ。
 
 顔を見合せ頷いた後に、駆けだした。
 
 今はただ、突き進むしかない。
 
 

 

76 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:33:02.34 ID:FrQ5ZtIc0
 
 

 
 
<_プー゚)フ「ふむ……腐ってもペルソナ使い、だな」
 
<_プー゚)フ「まだまだ改良が必要と言うわけか」
 
从;゚∀从「あの男たちは……」
 
<_プー゚)フ「実験体達さ 君の研究は大いに役立っているよ」
 
从;゚∀从「エクスト……!」
 
 ハインが這いつくばる姿が気に入っているのか、エクストは恍惚の表情を浮かべていた。
 暫く見つめた後に、立ち上がる。
 
<_プー゚)フ「データは取れた では、そろそろお灸を据える時間だ」
 
 握る手に、力を籠める。その手の中にはやはり、黒きトラペゾヘドロンが。
 すると、静かに黒く輝き薄い霞が立ち昇る。
 やがてそれが、エクストを包み込んだ。
 
 

 

78 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:37:29.89 ID:FrQ5ZtIc0
 
<_プー゚)フ「留守番を頼んだよ」
 
从;゚∀从「へっ……いいのか? モナー達をフリーにしておいて」
 
<_プー゚)フ「彼等には、最適の者がいるよ」
 
<_プー゚)フ「では……」
 
 そして、黒の粒子を微かに散らし、エクストは掻き消えた。
 
从;゚∀从「……」
 
从;゚∀从「……くそッ……クソォ……」
 
从  ∀ 从「アタシは……また……」
 
 己の無力さを、嘆く。恨む。蔑む。
 
从  ∀ 从「アタシに……力があれば……」
 
 誰に向けたわけでもない。
 誰かに求めたわけでもない。
 
 力なく呟き、『if』を願う。
 
 暗い部屋に、彼女の嗚咽だけが木霊した。
 
 


81 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:41:19.28 ID:FrQ5ZtIc0
 
 

 
 
( ´_ゝ`)「ここだ」
 
( ´∀`)「ここが……」
 
( ´_ゝ`)「この先が、広い通路になっている その先が、所長室だ」
 
 変わらぬ景色を駆け、幾つか角を曲がり辿り着いた先には、大きな扉があった。
 鍵は電子式だろうか、その横に、何やら操作するパネルがある。
 
 ここに至るまで、自分達以外の人間を見ていない。
 
 相当自信があるのだろうか、だとしたら、こちらとしても都合がいい。
 兄者が扉を開けようと、電子パネルを操作しだした。
 ここに来るまでに何度か見た動作だ。
 
 電子音の後に、静かに扉が押し上げられていく。
 
 ……ミセリ達は、無事だろうか。
 
 確認する術がない以上は、信じるしかない。
 彼等の力も、増してきている。簡単にやられはしないだろう。
 
 


82 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:45:34.14 ID:FrQ5ZtIc0
 
 それに、私達が頭を叩けば、彼等の安全にも繋がるはずだ。
 今はやはり、敵の事だけを考えるべき───
 
 兄者の言った通り、扉の先は広い通路になっていた。
 今までの通路の倍はあるだろうか、大広間と呼んでも差し支えがない。
 一面に赤い絨毯が敷かれており、それがさらにその印象を色濃くした。
 
( ´_ゝ`)「む」
 
(´<_` )「……」
 
 先に入った二人が、足を止める。
 何かに気がついたのだろうか、私には何も感じられない。
 二人の間に立ち、正面を見る。
 
 奥行はあまりない。二……三十メートル程だろうか、その先に扉が見えた。
 その前に、佇む人影。
 
(;´∀`)「───ッ!!」
 
 瞬間、私は声を上げることすらできなかった。
 
 今までの思考が、信念が、音を立てずして消失する。
 
 「やぁ───」
 
 


83 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/05/04(月) 23:49:22.15 ID:FrQ5ZtIc0
 
 
 
 何故お前が、敵の巣の中に居るのだ。
 
 
 
 「どうしたんだい? そんな顔をして」
 
 
 
 その声、その顔。紛れもなく───
 
 
 
(-@∀@)「やぁモナー、待っていたよ」
 
 
 
 どうしてだ。アサピー。
 
 
 
 答えが返るはずもないのに、その言葉を頭の中で呟いた。
 
 
 
 
                         続く。


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