( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです

──第20話 『黒きトラペゾヘドロン 前編』


 

7 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:06:02.27 ID:Em+te9840
 
 何故だ。
 
 何故君が、そこに居る。
 
(´<_` )「アンタの……知り合いか?」
 
( ´_ゝ`)「初めて見る顔だな」
 
 鳴留羅山へ行くと告げ、それから連絡が途絶えていた。
 彼の身に何かが起こったなどとは、考えたくなかった。
 
 否定し続けていた。
 
 私と共にフィレモンの声を聞き、旧友モララーを止めようと誓った男。
 
 アサピー。
 
 何故お前が、そちら側にいるのだ。
 
(;´∀`)「……アサピー……」
 
 振り絞った声は、まるで縋り付くように。
 彼の顔は変わらない。特徴的な大きな眼鏡の奥の瞳は、真っ直ぐに私を見つめていた。
 困惑しきっている、私の顔を。
 



8 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:08:55.42 ID:Em+te9840
 
 それならば、何か一言。
 私を安心させる言葉を、投げてくれ。
 
 お前がそちら側に居るだけで。
 お前が不適な笑みを私に向けているだけで。
 私の中で、水が地に零したように、言い知れぬ不安が広がって行くのだ。
 
(-@∀@)「さて、モナー」
 
 いつもと変わらぬ、少し高い彼の声。
 そのはずなのに、形容しがたい、この胸騒ぎ。
 
 空気とも──威圧とも──……雰囲気……波長。
 
 そうだ。ペルソナの、波長。
 それこそが、全ての要因なのだ。
 私達ペルソナ使いのみ知り得る、ペルソナ使い同士の波動。
 それが、今のアサピーからは以前とは異なっているように感じられるのだ。
 
(-@∀@)「残念だが……」
 
 それらが、相成って。
 
(-@∀@)「さよならだ」


 

9 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:09:33.13 ID:Em+te9840
 
 
 
 突き付けられた彼の言葉が。
 
 それに添えられ、向けられた殺意が。
 
 私の心を、容赦なく抉った───
 
 
 
 
 
 
 
( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです
 
 


 
   第20話『黒きトラペゾヘドロン 前編』
 
 
 


 

10 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:12:09.08 ID:Em+te9840
 
(;´∀`)「……何故だ……どうしてだ?! アサピー!」
 
 向けられた言葉と殺意を、撥ね除ける様に、強く。
 モナーの前に突然現れた友に向け、言い放った。
 
 突如紡がれた別れの言葉が意味する物は、たった一つ。
 一も十も無い、完全なる決別だ。
 親友と呼べる者に、突拍子も無く言われたのだから受け入れられる筈もない。
 
 不適な笑みを絶やさずに、アサピーが口を開いた。
 
(-@∀@)「私は鳴留羅山で、見たんだよ モララーの途方もない力を」
 
(-@∀@)「とても私達が、適う相手じゃない」
 
(-@∀@)「あの子供達を鍛えたところで……たかが知れている」
 
(;´∀`)「アサピー……」
 
 
 
(-@∀@)「それに……」
 
(-@∀@)「こちら側の方が、『退屈しない』からね」
 



12 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:16:01.08 ID:Em+te9840
 
 あまりに、冷徹。
 あまりに、無情。
 
 モナーの耳に届いたアサピーの言葉は、彼の心を引き裂くに足る物だった。
 
 国を愛し、人を愛し、子を愛するが故、教師になったはずの男。
 教え子達の為ならば、その身をなげうつ事すら厭わなかった男。
 その男が、退屈しないというただそれだけの理由で、モナーの前に立ち塞がる。
 
 流石兄弟は事態を呑み込めずに、二人を交互に見つめていた。
 モナーですら理解不能なこの状況。仕方がない事と言えよう。
 
 アサピーが口を閉ざした束の間の静寂の中、モナーは思う。
 
 モナーとアサピーは、紛うことなき親友だった。
 大学を卒業後、各々別の道を歩み出し、一時は連絡が途絶えてはいた。
 それでも、親友というものは。簡単に途切れるものではない。
 
 フィレモンの声を聞き、再会した二人は互いの成長を喜び合い、称え合った。
 夢を目指し旅立った友が、夢を叶えて目の前に現れる。
 それのなんと、美しいことだろうか。
 
 親友なら尚の事、感慨に更け入る瞬間であろう。
 
 その時のモナーは、来たるべく戦いの事すらも忘れ、心から賛辞を呈した。


 

14 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:18:19.26 ID:Em+te9840
 
 愛しき子供達の成長を手助けし、国に献上する道を歩む、アサピーを。
 親友を、誇らしく思い、勤めに心服する彼に尊敬の念を抱いていた。
 
 それらが今、音を立てて壊れて行く。
 
 変わらぬアサピーの表情が、歪み、ひしゃげて行く錯覚すら覚えながら。
 
 失望、ではない。
 一度信じた親友を見損なう事は、モナーはしない。
 
 彼の心を染めるのは、絶望。
 奈落の底に叩きつけられた様な、絶望。
 
 突き付けられた現実を、受け入れることができない。
 
(-@∀@)「そういうことだ モナー」
 
(  ∀ )「……」
 
 尚も冷徹に、現実を叩きつける。
 その度に心を揺さぶられ、抉られ、思考を奪われる。
 
 それを見兼ねた男が、一人。
 
( ´_ゝ`)「……なんだかよくはわからんが」


 

15 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:21:29.81 ID:Em+te9840
 
( ´_ゝ`)「お喋りだけなら、後にしてくれないか?」
 
(-@∀@)「……」
 
( ´_ゝ`)「俺達はその奥の部屋に用がある 通してはくれないか」
 
 二人に何があったのかは、彼の知る所ではない。
 先を急ぐ事よりも、蚊帳の外に放り出されているこの状況が気に食わなかったようだ。
 苛立ちが、煽りを含めた言い回しと語気から見て取れる。
 
 それでも、アサピーは不適な笑みを絶やさずに。
 
(-@∀@)「それはできない相談だ」
 
 その言葉、その態度が。
 
( ´_ゝ`)「ならば、仕方がない」
 
 兄者の苛立ちを、助長させた。
 
( ´_ゝ`)「強行突破と行こうじゃないか」
 
(;´∀`)「……」
 



20 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:24:51.47 ID:Em+te9840
 
( ´_ゝ`)『ペルソナ』
 
 紡ぎ、現れたカストル。
 漲る力を槍に籠め、切っ先をアサピーへと向ける。
 
(´<_` )『ペルソナ』
 
 次いで弟者も、ペルソナを喚び寄せた。
 兄者と同じく、鋭利な大剣の剣先を、アサピーへと向けて。
 
 並び立ち、アサピーを睨む兄者と弟者。
 その背後で双璧を成す双子の神々も同じく、甲冑の奥から鋭い眼光を放つ。
 
 召喚者二人を象徴するディオスクロイの威圧にも、アサピーは表情を変えない。
 それどころか、更にその口端を吊り上げて───
 
 
(-@∀@)
 
 
 嘲笑。
 
 それだけで、戦いの火蓋は切って落とされた。


 

22 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:28:35.51 ID:Em+te9840
 
(;´∀`)「───ッ!」
 
 モナーが我に返った瞬間、既に流石兄弟は駆け出していた。
 それでもアサピーは、悠然と佇んでいる。
 見せ付けられた明白な余裕に対し、二人は容赦なく全力を放たんと、
 
( ´_ゝ`)『二段突き!』
 
(´<_` )『一文字斬り!』
 
 兄者が突こう一点は、胸部。
 弟者が薙ごう一閃は、頸部。
 
 寸分違わぬ、阿吽の呼吸で繰り出された双撃が、アサピーに迫る。
 
(-@∀@)「───」
 
 小さく、アサピーが空気を揺らした。。
 近接した流石兄弟にすら聞こえない程の、極小の声で。
 
 それだけで。
 
(;´_ゝ`)「む……」
 
(´<_`;)「くっ……」
 



24 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:31:49.53 ID:Em+te9840
 
 アサピーに触れる寸前で、刺突と斬撃はぴたりと止まっていた。
 
 いや───
 
 止められていた。
 
 アサピーの両肩から伸びる、赤黒く染まった腕に因って。
 右肩から伸びる腕は、兄者の長槍を掴み。
 左肩から伸びる腕は、弟者の大剣を二指で挟み。
 
 正面と右側面から迫った槍と剣を、現れた腕を交差させた形で止めていた。
 
(-@∀@)「気が短いのはいただけないが……話が早いのは好みだよ」
 
 アサピーの影が蠢き、大きく形を変える。
 影の頭がぐにゃりと曲がり、そのまま弧を描いていく。
 やがてそれは影の主を囲む様に一週し、円と成った。
 
 刹那、黒円の縁から伸びる、黒の壁。
 
(;´_ゝ`)「!」
 
 兄者と弟者は即座にペルソナを収め、後方へと下がる。
 
( ´∀`)「……アサピー……」


 

27 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:36:01.81 ID:Em+te9840
 
 流石兄弟の攻撃を、ペルソナを完全に召喚せずして受け止めた。
 そびえ立つ黒柱を見つめながら、モナーは確信する。
 
( ´∀`)(この力……やはり、本物の……)
 
 アサピーの力量を知るが故に、はっきりと見えてしまう現実。
 
 立ちはだかるは、やはり友。
 最早、疑う余地も無し。
 
 黒柱に亀裂が走り、それらが全体に広がる。
 成長を続けるヒビはやがて繋がり合い、交点から黒柱の欠片がはらはらと散り出した。
 
 それは、例えるなら黒の雪。
 全てが散り落ち、黒が開けた後に立つ───
 
(-@∀@)『行こうか』
 
 現れ出でる、荒野の羊飼い。
 地に降り立つ、瞳も窺い知れぬ程に深く黒衣を纏った、ペルソナ。
 
( ´∀`)「……アザゼル……」
 
 モナーにとって、これ以上無く心強く、頼もしく思えたそれが。
 今彼等の前に、最大の障害として降り立った。
 



28 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:39:02.11 ID:Em+te9840
 
(;´_ゝ`)「……おいおい」
 
(´<_`;)「これほどとは……」
 
 降臨した魔王の威圧感を間近で肌に感じ、二人がたじろぐ。
 そんな流石兄弟とは対照的に、モナーは静かにそれを見つめていた。
 
( ´∀`)(…………)
 
 違和感。
 
 小さな、とても小さな、違和感。
 それが、モナーの先程までの絶望に突き刺さる。
 
 過去に数度確認したその姿は、変わっていない。
 だが、違うのだ。
 
 アザゼルの力は強大。それを象徴する威圧感も、モナーは確かにその身に受けている。
 違和感とは、それを発する主。
 
( ´∀`)(……アザゼルの力が……大きすぎる)
 
 そう。モナーが以前に見たアザゼルと食い違う点。
 アサピー本人からよりも、ペルソナから発せられる力の方が、遥かに。
 



29 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:42:30.75 ID:Em+te9840
 
 ペルソナとは、心の海より出でし存在。
 姿こそ術者と離れ召喚されてはいるが、根源はあくまでも召喚主だ。
 即ち、召喚時に発生する特有の波動が、術者を超える事はない。
 
(;´∀`)(まさか……)
 
 心の中で呟いたモナーの表情が、困惑から怪訝へと変わる。
 浮かび上がった、一つの懐疑。
 モナーは過去に、似たような事象を見た事があったのだ。
 
 豹変した人格と、術者を超えたペルソナの波動。
 二点からモナーが覚えた違和感は、次第に形を成していく。
 
 
( ´∀`)「アサピー」
 
 
 静かに、遠くを見るような瞳で。
 
 
( ´∀`)「……堕ちたか」
 
 
 友に、言葉を投げた。
 



33 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:46:57.50 ID:Em+te9840
 
(-@∀@)「……」
 
 モナーの言葉に、アサピーは沈黙のままに。
 じっとモナーを、見つめていた。
 
 先日、モナーがショボン達に語った事。
 
 過ぎた力は、ペルソナに呑まれる。
 即ちそれは、行使する側が逆に乗っ取られると言うことだ。
 
 彼は住職という職業柄、除霊の依頼をされることがある。
 その中に、数件。ペルソナに関係したものがあった。
 
 行使するはずのペルソナに乗っ取られ、欲望のままに行動する。
 そこに術者の意志は無く、ただただ宿主の欲だけを糧に、暴走するのだ。
 
( ´∀`)(あれらは下級の悪魔達だったが……)
 
 アザゼル程高位の悪魔なら、或いは術者を操るだけに留まらず───
 
(# ´∀`)「答えろ! アザゼル!」
 
 貫くように睨み、声を荒げた。
 



34 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:47:41.69 ID:Em+te9840
 
 
 
(-@∀@)「……」
 
 
 無言で、モナーを見据え。
 
 
(-@∀@)「ク……」
 
 
 ぽつりと。
 
 
(-@∀@)「クカカッ……!」
 
 
 次に、肩を揺らして。
 
 
(-@∀@)『クハハハハハハハハハハハハハハハハ───』
 
 


 

37 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:50:06.01 ID:Em+te9840
 
 広い室内、高らかに響くアサピーの笑声。
 
 いや。
 
 既に、その声色は。
 
(# ´∀`)「……やはりか……アザゼル!」
 
 拳を強く握りしめ、いつもの温厚な表情を忘れさせる程に激昂する。
 意趣の念を籠めた眼光の先には、哄笑し続ける親友の姿と、
 その横に不気味に佇む、一人の悪魔。
 
 
 
 佇むのは、二人。
 
 
 
 だが。
 
 
 
 そこに在るのは、一人───


 

39 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:53:28.70 ID:Em+te9840
 
 
 
 其の名の意、神の如き強者。
 
 
 
 魔王、アザゼル。
 
 
 
(-@∀@)『───……よく……気がついたものだ』
 
 
 
 重く、伸し掛かる様な声。
 最早アサピーと言う男は、その姿だけでしかない。
 彼ならば、決して作り得なかったであろう狡猾の笑みのまま、人の言葉を紡ぐ。
 
 その行為が、モナーの怒りを助長させた。
 手の平に爪が食い込み、今にも皮膚を突き破り兼ねない程に、拳を握りしめる。
 
::(  ∀ )::
 
 許せないのだ。
 親友の姿で、親友の口で語りかける、アザゼルが。


 

40 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:56:06.00 ID:Em+te9840
 
 
(-@∀@)『友に裏切られ、絶望の内に死に逝く人間を見るのも……
      なかなかに興味をそそられると思ったのだがな』
 
 
 一歩、モナーが足を踏み出した。
 
 
(-@∀@)『先の貴様の絶望も、なかなかに美味だったぞ』
 
 
 また一歩。握る拳は、決して開かずに。
 
 
(-@∀@)『だがしかし、猛る怒りもまた美味よ』
 
 
 アサピー───アザゼルが投げ掛ける言葉を踏み付けるように、歩く。
 そして、大広間の中央に立ち止まった。
 
 
(-@∀@)『その憤怒 貴様の友の手に因って、更なる美酒へと高めてやろう』
 
 
 狡猾の笑みを絶やさずに、友という一文字を用いモナーを煽る。
 それに対し、毅然として佇むモナー。
 



44 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:58:45.67 ID:Em+te9840
 
 
( ´∀`)
 
 
 その表情は、いつの間にかいつもと変わらず、温厚な顔に。
 しかし、握りしめる拳だけは、固く、硬く。
 
(-@∀@)『フン……』
 
 その様子から、安い挑発は効果が得られないと判断し、浅く息を吐いた。
 最早、アザゼルの言葉は、モナーの耳には入らない。
 
 
( ´∀`)「アサピー」
 
 
 モナーの心には、届かない。
 
 
(# ´∀`)「今、助けてやる」
 
 
 なぜならば。
 



46 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:01:34.78 ID:qo4TweAl0
 
 
 心に在るのは、ただ一つ。
 
 
 友を救う。ただ一念。
 
 
( ´∀`)「行くぞ」
 
 
 短く、告げた。
 
 それ以上の言葉は要らない。
 
 怒りは全て、次なる言霊へ籠める為。
 
 
( ´∀`)『ペルソナ』
 
 
 沸々と沸き起こる怒気を全て乗せ。
 
 己の分身を、喚び起こす。


 

47 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:05:53.07 ID:qo4TweAl0
 
 モナーを中心に、青い光が渦を巻く。
 袴がはためき、それはまるで、奮い立つ怒りを表しているかのように。
 青の光が、モナーの頭上に集い出す。
 
 互いを結び、太く、力強く輝きを増していき、形成されるは、人の型。
 青が薄れ、次に浮かぶのは、翠緑の甲冑。
 反射する輝き一つ一つに、漲る力と憤怒を感じさせる。
 
 その手に握る三叉戟を、アザゼルへと向けて。
 
( ´∀`)『ビシャモンテン』
 
 モナーの声に、武神がその眼を見開いた。
 
 その様は字の如く。怒髪、天を衝く。
 
 
(;´_ゝ`)(…………)
 
(´<_`;)(…………)
 
 対峙するモナーとアサピーの間で、二人はそれを傍観することしか出来ずにいた。
 
 その理由とは、たったの一つ。
 二人の力に、圧倒されていたからだ。


 

48 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:07:13.74 ID:qo4TweAl0
 
 魔王アザゼル。
 我が物顔で空を泳ぐ雲のように、広く、深く、闇の瘴気を放ち立つ。
 
 
 対する武神、ビシャモンテン。
 押し迫るアザゼルの気を切り裂くように、鋭刃の剣気を放つ。
 
 
 睨み合う両者の間の空間が、それの衝突でうねり、歪んでいた。
 
 ペルソナ使いは、ペルソナ使いの波動を感じ取る事が出来る。
 それ故に、相手の力量も肌で色濃く察知してしまうのだ。
 今の流石兄弟のように、戦わずして敵わないことを、悟ってしまう。
 
 危険察知。
 生きる為に、無謀な戦いを避ける為に、それは必要不可欠な要素である。
 しかし、そうと解っていようとも。
 
(;´_ゝ`)(……完全に、俺達は蚊帳の外か)
 
(´<_`;)(悔しいが……これではとても……)
 
 どうしても、自尊心は傷つけられる。
 己の力量を知るからこそ、二人はそれに歯痒さを感じていた。


 

50 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:09:33.41 ID:qo4TweAl0
 
 それは今、魔王と対峙しているモナーも同じ事だ。
 己のペルソナの力と、アザゼルの力量は十二分に理解している。
 
 それでも、モナーは立っている。
 魔王に意志を奪われた、アサピーの前に居る。
 
 流石兄弟には無く、モナーに在るもの。
 
 
 それは、覚悟。
 
 
 必ずや友を救うと言う、強い意志。
 
 
 モナーは言った。ペルソナの成長は、即ち心の成長だと。
 ペルソナ。心の海にたゆたうもう一人の自分。
 己の心を、神や悪魔の姿に映し変えた存在。
 
 『心』の躍動が、その強弱に影響を及ぼす。
 
( ´∀`)
 
 モナーが、地を蹴った。
 



51 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:12:29.69 ID:qo4TweAl0
 
 大広間はそれでも、静寂に包まれていた。
 柳のようにしなやかに、緩やかに、軽やかに。
 一切の音を立てず、モナーは地と平行に駆けた。
 
(-@∀@)「……」
 
 あわせ、ゆらりと、魔王が迎え撃たんと。
 
<::::::::::>
 
 黒衣でその顔を隠したまま、一歩踏み出した。
 
 モナーとアサピーの直線を、遮るように。
 
(# ´∀`)『はぁッ!』
 
 構わずに、振り抜かんと。
 ビシャモンテンの頭上高く掲げられた三叉戟。
 剣気を纏わせ、翠緑の軌跡を生み出しながら振り下ろされる。
 
<::::::::::>『───』
 
 三叉戟の柄を、アザゼルが掴んだ。
 



52 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:15:13.42 ID:qo4TweAl0
 
 それは完全な、軽侮。
 己の力を絶対と信ずる、自信。
 
 人如きに行使される悪魔の一撃など、容易く受け止めてやる。
 アザゼルはそう、思っていた。
 
 だが、アザゼルがその手に感じた力は。
 
<::::::::::>『───ッ?!』
 
(# ´∀`)「見縊るなッ!」
 
 己を見下したアザゼルへ、一喝。
 その言葉通り、振り下ろされた一撃は強烈なものだった。
 三叉戟を掴むアザゼルの腕が、微かに震えている。
 
 
 感情と、強固な意志。
 
 
 怒りと、アサピーへの想いが。
 ビシャモンテンの力を、普段以上の物へと変えていた。
 
(# ´∀`)「……」
 
<::::::::::>『……』


 

53 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:17:17.98 ID:qo4TweAl0
 
 アザゼルの表情は、全身を覆う黒衣の所為でモナー達が窺い知ることは出来ないが……
 一撃で口を閉ざしたアザゼルを見て、モナーには魔王の心が見えていた。
 
 少ないながらもアザゼルの心に浮かんだのは、吃驚。
 ビシャモンテン───モナーの予想外の力から生まれた感情。
 それは魔王にとって、屈辱的な事だ。
 
 足元をすくわれたと言う程ではないが、それでも、自尊心には傷がついた。
 人間如きが、己の力に及ぼうとしている。
 
 自身の力に絶対的自信を持つ魔王にとって、それだけは許されない事なのだ。
 
 モナーはそこに、気がついていた。
 
( ´∀`)「……アザゼルよ」
 
<::::::::::>『……』
 
 未だ三叉戟を振り下ろし、それをアザゼルが掴んだままの姿で、睨み合う。
 黒衣の奥深く、影に覆われた魔王の顔を見つめながら、モナーは言った。
 
( ´∀`)「“退屈しないから”と、さっき言っていたな」
 
 あの時はまだ、アサピーの声だった。
 



54 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:19:21.22 ID:qo4TweAl0
 
 しかし心は、既にアザゼルに支配されていただろう。
 
 だからモナーは、魔王に向けて。
 
( ´∀`)「この先貴様が、退屈することはない」
 
<::::::::::>『……何を言っている』
 
 モナーの顔は、いつもと変わらぬ、温厚なままで。
 
 
( ´∀`)「貴様はこの場で───消え果てるからだッ!」
 
 
 吐き捨て、強く三叉戟を引く。
 アザゼルの手を解き、引き戻された三叉戟に力を籠める。
 
 弓を引き絞るように、強く、硬く、十分に力を蓄え───
 
(# ´∀`)『二段突きッ!!』
 
 瞬時に放たれる、武神の連撃。
 
<::::::::::>『むぅ……ッ』
 



55 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:23:04.69 ID:qo4TweAl0
 
 翠緑の二突きは、あまりの疾さに二撃目の時間差すら感じさせない程だった。
 
 もし、モナーを軽侮していたままのアザゼルなら、
 重い一撃をその身に受けていたことだろう。
 モナーを敵と捉え、意識を戦いへ向けていた事が、回避に繋がった。
 
 体を揺らし、寸前で連撃を躱すに至った。
 
 だが。
 
 アザゼルの頭を隠す黒衣に、一線が奔る。
 はらりと、黒の一部分が欠けた。
 
<::::::::::>『……貴様……』
 
 悪魔に衣の概念はない。
 現世に存在している姿そのままが、実体なのだ。
 つまりモナーは、アザゼルに一筋の傷をつけたと言うことになる。
 
 文字通りその身に刻まれた、力の一片。
 
 さらにその前の、宣戦布告。
 
<::::::::::>『ただではおかんぞ……!』
 



57 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:25:04.98 ID:qo4TweAl0
 
 その二つの要素は、魔王を激昂させるには十分すぎた。
 
(;´_ゝ`)(……まんまと、神主のペースだな)
 
(´<_`;)(流石と言わざるを得ないが……)
 
 敵を激怒させる事は確かに、隙を生み出す為に有効な手段だ。
 だがそこに、手加減はない。
 アザゼルを討つ意味では、最初の油断を持たせた状態の方が、まだ。
 
(;´_ゝ`)(それでも確実に倒せるとは限らん……失敗すれば更にその身を危険に侵す……)
 
(´<_`;)(一撃に懸けるよりは……ということなのか)
 
 博打よりは、より確率の高い手段を取ったのだろう、と流石兄弟は解釈した。
 
( ´∀`)(……)
 
 確かに、その要素も在った。
 そして更に、もう一つの理由。
 それは、本来の目的を達成する為の理由。
 
( ´∀`)
 
 モナーが一瞬、流石兄弟に視線を送った。
 



59 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:26:37.57 ID:qo4TweAl0
 
( ´_ゝ`)(……む)
 
(´<_` )(なんだ……?)
 
 視線はすぐにアザゼルへと戻した。
 次に。
 
( ´∀`)「さて、少し付き合ってもらうぞ」
 
<::::::::::>『人間如きが……調子に乗るなよ』
 
 鉾を構え、身を屈めるモナー。
 アザゼルも、その身から溢れる瘴気を更に色濃くさせて。
 二人はいよいよ、戦いへと完全に意識を向けたようだ。
 
 その直前にとった、モナーの行動。
 
( ´_ゝ`)(……託したと言うわけか)
 
(´<_` )(───! そうか!)
 
( ´_ゝ`)(奴を煽ったのも……周囲を見えなくさせる為の……!)
 
 視覚的にではなく、意識自体の視野を怒りによって狭めることによって、
 流石兄弟が動く隙を生み出す為に。
 



60 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:29:30.44 ID:qo4TweAl0
 
 最初からそこまで、考えていたのだ。
 
 怒りと、覚悟。
 その根元が、間違っていた。
 
 モナーはこの二つの要素で普段以上の力を引き出してはいる。
 
 だが、それでも───
 
 対峙し、立ち塞がるアザゼルを見、力を肌で感じ。
 その上で、モナーは答えを導き出してしまった。
 
 『私では、アサピーを救うことができないかもしれない』
 
 アザゼルには、及ばない。僅かに、届かない。
 それでも、それでもあれを引き付けることなら、出来る。
 
 その過程で、もしも勝機が見えたならと、淡い期待を抱いてはいたが。
 つまりモナーは、囮としてその身を投じたのだ。
 
 隙を作り出し、流石兄弟を奥の部屋へ進ませる為に。
 ハインリッヒを、助け出す為に。
 
( ´∀`)(……ショボン君達といい……私は他人に頼りすぎだな……)
 
 寸時の、自虐。
 しかし心は、変わらない。


 

61 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:32:41.62 ID:qo4TweAl0
 
(  ∀ )(モララーに、アサピー……)
 
(  ∀ )(かつての友を……誰も……誰も私には、この手で救うことが出来ない)
 
(  ∀ )(私には、道を創り、託すことしか……できない)
 
 己の無力さに対する、『怒り』を────………
 
(  ∀ )(ならば……それならば!)
 
( ´∀`)(私はその道を造り出すッ! 全身全霊を懸けてッッ!!)
 
( ´∀`)(いつかそれが、救いに繋がるのであれば、私はそれでいい!!)
 
 命を賭した、『覚悟』を────………
 
 
(# ´∀`)「アザゼル!! 人の力を甘く見るなよッッ!!!」
 
 
 全てを体現せしペルソナの下、叫び、誓う。
 
 
<::::::::::>『やってみるがいい! 絶望を思い知れ!!』
 



62 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:35:17.40 ID:qo4TweAl0
 
 

 
 
 モナー達がアサピーが待つ大広間に辿り着いた頃。
 ブーン達も大きな扉の前に立っていた。
 ひたすらに続く白の通路に現れた、キーロック式の扉。
 
 ここに着くまで、それらしき部屋はなかった。
 それはつまり、あのサングラスの男達はここから来たと言うことだ。
 
(´・ω・`)「みんな、気をつけてくれ」
 
 ショボンの声に、皆が頷いた。
 解っているのだ。この先に居るものが、なんなのか。
 
 その確信は、ペルソナの共振に因るものだ。
 近づくに連れ、脈打つように感じられる、ペルソナの波動。
 鼓動が高鳴るように、定期的に刻まれる、心音に近いもの。
 
 この奥に、ペルソナ使いがいること。
 波長から、モナー達ではないということ。
 そしてそれが、大きな力を持っていること。
 
 しかし彼らは、進まなければならない。
 



63 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:39:30.47 ID:qo4TweAl0
 
 道は一つしかないのだ。
 ハインリッヒを助け出す為に、引き返すことは許されない。
 
 ショボンが扉を拳で軽く叩いてみせた。
 鉄製の両開きの扉は、見た目程頑丈ではないようで、軽い音を反響させる。
 無論、ショボン達はキーロック式の扉を開ける為の番号を知らない。
 
 ならばすることは一つ。
 
(´・ω・`)『ペルソナ』
 
 現れ出でるショボンのペルソナ、ヤマ。
 正眼に構えし大剣を、縦に二つ、横に一閃させた。
 ペルソナへの耐性を持たない物質など、鉄であろうとも両断するのは造作もないことだ。
 
 三片の切断を確認すると、ジョルジュが前に立ち、
 
( ゚∀゚)「行くぜ……よッ!」
 
 力任せに扉を蹴った。
 
 ゆっくりと部屋の内側へ倒れていく、鉄の板と化した扉。
 それが、派手な音を立て地に触れた時、ショボン達の視界に広い空間が開けた。
 



65 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:42:14.13 ID:qo4TweAl0
 
 アサピーが居た大広間よりも、さらに広い。
 四方の白い壁には、夥しい数の電子機器が列を成している。
 それらだけなら、巨大な研究室を思わせるのだが……
 
 部屋の中央付近に、電子機器と同じように列を成す、異。
 硝子でできているのか、透明の太い円柱がいくつも連なる。
 その中は、深緑色をした液体が満たされており、そして───
 
ξ;゚听)ξ「なに……あれ……」
 
ミセ;゚−゚)リ「……悪魔……」
 
 悪魔が、その中に居た。
 
 ブーンとツンを襲った凶鳥、モー・ショボー。
 街の各所で全員が見た、屍鬼、ガキ。
 その他にも、彼らが見たことがない悪魔達が、液体の中に居た。
 
 そして、円柱の足元から伸びる何本もの多彩なコード。
 それらが集う、部屋の中央には。
 
(´・ω・`)「これは……」
 
(;'A`)「でけぇ……」
 



66 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:43:58.14 ID:qo4TweAl0
 
 ブーン達が、部屋の中央へと進む。
 最も目につく存在の近くへと。
 
 部屋の面積もさることながら、取分け特徴的なのが、高い天井だった。
 あまりの高さに、ここが地下だと言うことすら信じられなくなる程の。
 尤も、ブーン達はフィレモンの力により転移されたのだから、
 この場所が必ずしも地下、玖都留研究所であるかどうかは彼らに知る術はないが。
 
 その高い天井まで伸びる、巨大な歪の柱。
 頂点部分には傘が広がるような形で、円形の物体が広がっていた。
 
(;^ω^)「なんだお……これ……」
 
 誰もが思ったことをブーンが口に出した、その時。
 
 
 『ようこそ、ペルソナ使いの少年達』
 
 
 空気を揺らす機械の電子音の中に、ブーン達が聞き慣れぬ声が混じる。
 声の主が、柱の裏側から現れた。
 
 それと同時、急激に高鳴る鼓動。
 即ち、ペルソナの共振。


 

67 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:47:23.44 ID:qo4TweAl0
 
 
<_プー゚)フ「こんな所までくるとはね」
 
 
 後方に流れるように逆立った赤い髪と、特徴的なモミアゲの男。
 玖都留研究所所長、エクスト=プラズマン。
 両の手をスラックスのポケットに仕舞ったまま、ブーン達を見ていた。
 
( ゚∀゚)「……誰だ、アンタ」
 
 全員が身構え、エクストを注視する。
 ペルソナ使いであることは、既に解っているからだ。
 
<_プー゚)フ「不法侵入の上、年上に敬語も使えないのかい?」
 
 口端を吊り上げ、冗談を飛ばす。
 ブーン達は、無反応。静かにエクストを見つめたままだ。
 
<_プー゚)フ「やれやれ……」
 
<_プー゚)フ「私の名は、エクスト ここの所長をしている」
 
 “所長”
 この言葉に、ブーン達は更に身を固くした。
 



68 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:50:03.94 ID:qo4TweAl0
 
 ひしひしと彼らに伝わっていた強力なペルソナの波動と、
 所長、つまりこの研究所の最高責任者であることを示す言葉の、二点。
 
(,'A`)「……いきなりラスボスの登場か」
 
 一滴の、本人ですら気づかない程の小さな汗を頬に流し、ドクオが呟く。
 
(;^ω^)「……この力……納得したお」
 
ミセ*゚−゚)リ「皆さん、気をつけてください」
 
 エクストの自己紹介に因って、更に高まる緊張感。
 そんなブーン達を一瞥した後に、エクストが両の手をポケットから出した。
 
 右手には、小さな箱。
 
ξ;゚听)ξ「───! あれは!」
 
(;゚∀゚)「デレも持ってた……フィレモンが言ってたヤツか?!」
 
 黒き、トラペゾヘドロン。
 
<_プー゚)フ「さて、君達の自己紹介は必要ない」
 
 箱を持つ右手を、前へと差し出し。
 



69 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:50:34.67 ID:qo4TweAl0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<_プー゚)フ「“はじめまして” “さようなら”」
 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 

70 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:51:08.72 ID:qo4TweAl0
 
 
 
 エクストの言葉が終わった刹那。
 
 
 
 黒きトラペゾヘドロンから闇が広がり───
 
 
 
 ブーン達に、驚愕の声を上げる間さえ与えずに。
 
 
 
 彼らを、包み込んだ。
 
 
 
 闇はそのまま停滞し、まるで咀嚼しているかのように、蠢いていた。
 
 


 

71 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:51:24.30 ID:qo4TweAl0
 
 
 
<_プー゚)フ「闇の中で、己の影と永久に戦うがいい」
 
 
 
 ブーン達にその声が届かないことを知った上で、エクストはそう言った。
 
 
 
 
 闇は、蠢く。
 
 
 
 
 ひたすらに。
 
 
 
 
 ただ、ひたすらに───………
 

 


 
72 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:52:36.47 ID:qo4TweAl0
 
 
 

 
 
 
 ────────────………
 
 
 
 誰だ……?
 
 
 泣き声……
 
 
 子供の……泣き声……?
 
 
 妙に頭に……こびり付く……声……
 



73 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:53:45.40 ID:qo4TweAl0
 
 
 「───!」
 
 
 ………!
 
 
 その……その言葉……!
 
 
 やめろ……
 
 
 「───ろう!」
 
 
 やめろ……!
 
 
 「む──や─!」
 
 
 やめてくれ!
 
 



74 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:56:08.61 ID:qo4TweAl0
 
 
 
 
 「 泣 き 虫  野  郎  !  !  」
 
 
 
 
 ………ッ!
 
 
 
 『や……やめてよ……ぼく……泣き虫なんかじゃ……』
 
 
 「うわー! 虫がしゃべったぞー!」
 
 
 「汚ねー! みんな逃げろー!」
 
 
 『うっ……うぅ……み、みんな……う……うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』
 
 
 あぁ………


 

75 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:56:36.77 ID:qo4TweAl0
 
 
 
 あれは……
 
 
 
 あの泣いてる子供は……
 
 
 
 
 (;A; )
 
 
 
 
 俺だ……
 
 
 昔の……
 
 
 いじめられてた……俺だ……
 



76 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 00:57:28.56 ID:qo4TweAl0
 
 
 そうだ。
 
 俺は泣き虫で、虐められてて……学校に行くのが……嫌で……
 
 そんな俺が、この街を救うだって……?
 
 
 「や〜い! ドクオの泣き虫ー!」
 
 
 やめろ……!
 
 やめて……やめてく……やめ……
 
 
 
 
 やめて……よ……
 
 
 
 
 ────────────………
 



77 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:01:19.35 ID:qo4TweAl0
 
 

 
 
 「ショボン、お前は天才だ」
 
 「えぇ……本当にすごいわ!」
 
(´・ω・`)「そ、そんなことないよ!」
 
 「流石俺の息子だ! なぁ、母さん」
 
 「あら、親ばかね? でも、ホント、自慢の息子ね!」
 
(´・ω・`)「え、えへへ……」
 
 
 
 既視感。
 
 どこかで見、聞き、体験した出来事。
 目の前の光景は、手放しで褒めちぎる両親と……子供の頃の僕の姿。


 

78 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:05:39.89 ID:qo4TweAl0
 
 何故。
 何故こんな物を、僕は見ているんだ。
 何故こんな、思い出したくもない過去を、僕は──
 
 背後で、物音がした。
 
 同時に背に奔る、悪寒。
 後ろを見ずとも、解っていた。
 
 物音を生んだ人が、僕には誰だか、解っていた。
 
 
 
 嫌だ。
 
 嫌だ嫌だ。
 
 見たくない……見たくない……!
 
 どうして、どうして世界が回っているんだ!
 僕の意志と無関係に、何故後ろを振り向いているんだ……!
 
 ……ほら……!
 そのせいで、僕は……


 

79 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:06:59.25 ID:qo4TweAl0
 
 
 
(`・ω・´)
 
 
 
 必死に、必死に忘れようとしていた顔を……
 
 
 ……見てしまったじゃないか。
 
 
 
 やめてくれ。
 
 そんな目で、僕を見ないでくれ。
 
 僕は……
 
 
 僕は……僕は……
 




80 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:07:17.85 ID:qo4TweAl0
 
 
 
 
 
 
 お願いだから……やめてくれ……
 
 
 
 
 
 
 シャキン……兄さん……
 
 
 
 
 
 
 
 ────────────………


 

81 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:07:31.85 ID:qo4TweAl0
 
 

 
 
 熱い。
 
 胸が……熱い……
 
 なんだ、こりゃ……
 
 「アン! アン!」
 
 
 犬。
 
 犬の、鳴き声。
 
 
▼・ェ・▼「アン!」
 
 ────!
 
 ビー……グル……!
 



82 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:07:43.41 ID:qo4TweAl0
 
 
 「またきたのかい?」
 
 
( ゚∀゚)「あ! 兄ちゃん!」
 
 
 あれは……ガキの頃の……俺……
 
 
 にぃ……兄ちゃん……?!
 
 
 なんだこりゃ?! やめろ! やめてくれ!!
 
 
 
 
( ^Д^)「こんにちは、ジョルジュ君」
 
( ゚∀゚)「こんにちは!」
 
 
 兄……ちゃん……


 

83 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:07:57.57 ID:qo4TweAl0
 
 
 胸が、熱い。
 
 …………これは……
 
 あの時の……鎖の欠片が……
 
 燃えるように、熱い……
 
 
 兄ちゃん……
 
 
▼・ェ・▼「アン! アン!」
 
 
 ビーグル……
 
 
 なんで……なんで今頃……こんな……!
 
 
 ────────────………
 



85 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:12:17.26 ID:qo4TweAl0
 
 

 
 
 心の底まで深く、絡みつく闇の中で。
 ショボン達は、それを見ていた。
 
 それは過去の、心の奥底に刻まれた、傷痕。
 二度と、決して思い出したくない、心の闇。
 
 全ては、黒き箱の力───
 
<_プー゚)フ「素晴らしい」
 
 わだかまる闇を恍惚の表情で見つめ、エクストは感嘆の声を上げた。
 
 VIP高校でデレが見せた力とはまた違う。
 人の心に潜り込み、触れられたくない心の傷を探り、抉る。
 人と物体。対象こそ別の物だが、両者に与える打撃は周知の通りだ。
 
 彼らが扱う、黒きトラペゾヘドロン。
 
 猛威をふるう闇の箱は、果たしてどこから、どのように作られたのか。


 

86 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:17:34.29 ID:qo4TweAl0
 
<_プ−゚)フ「む……」
 
 蠢く闇を見つめるエクストの顔が、変わる。
 ブーン達を包む闇の固まりに、変化が起きた。
 
 端が、内側から押されるように膨れあがる。
 
 煙とはまた性質が違うのか、膨張部が粘り着くように張っている。
 やがてそれが限界に達した時。
 
 音も立てずに闇が千切れ、落ちた部位はそのまま虚空へと消え去った。
 
 生まれた穴から覗いたのは、腕。
 続いて、穴を広げそのまま体全体が現れる。
 
 息を切らしながら地に立ったのは、一人の少女。
 
 
ミセ;゚−゚)リ「はぁ……はぁ……はぁ……」
 
 
 ミセリだった。
 
 呼吸を整えながら、エクストを見据える。


 

87 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:19:15.46 ID:qo4TweAl0
 
<_プ−゚)フ「……ほう」
 
 眉をひそめ、一言。
 闇からの脱出は、想定外だったのだろう。
 驚きと、そして不快さも、その一言に含まれていた。
 
ミセ*゚−゚)リ「……」
 
 凛と立ち、強くエクストを見るミセリ。
 彼女も闇の中で何かを見たのか、その瞳には静かに揺らぐ火が灯る。
 
 一時の間の後に。
 
<_プー゚)フ「ふん……まさか、お前のような小娘がそれを破るとはな」
 
 然したる問題はない、といった様子で、元の余裕を見せる。
 
 だが、その表情も───
 
ミセ*゚−゚)リ「……」
 
 
ミセ*゚ー゚)リ「私だけじゃ、ありませんよ」
 



88 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:24:59.12 ID:qo4TweAl0
 
<_プ−゚)フ「何……?」
 
 笑顔を見せて、ミセリが言った。
 その言葉の後、また闇が大きく蠢いた。
 
 ミセリが現れた穴が更に広がり、また現れる二つの影。
 
<_プ−゚)フ「…………」
 
 
 
(;゚ω゚)「はぁっ……はぁっ……!」
 
ξ; )ξ「はぁ……はぁ……」
 
 
 ブーンとツンも、闇から脱出を果たしていた。
 
ミセ*゚−゚)リ「大丈夫ですか?」
 
 エクストへの警戒を解かずに、二人に気を配る。
 二人もミセリと同じく、少しの間肩で息をしていたが、次第に落ち着いていった。
 
 その様子を、エクストは静かに見つめていた。
 



89 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:27:12.43 ID:qo4TweAl0
 
 箱を用い、あの闇の中でエクストが見せた物。
 誰の心にも在る、心の奥底に刻まれた傷。
 それを呼び起こし、永遠に見せ付ける、無間地獄。
 
 ブーン達は、そこから抜け出した。
 その理由を、考えていた。
 
 先ず、ミセリ。
 彼女の姿から、巫女である事はエクストにも解る。
 
<_プ−゚)フ(巫女……仏・神道を歩む者なら……無心を貫くこともできる、か)
 
 しかし、その若さ。
 それがエクストの合点の行かぬ点だった。
 
ミセ*゚−゚)リ「……幼い頃を、思い出しました」
 
 エクストを強く睨み、ミセリが紡ぐ。
 
 鮮明に見せ付けられた、過去の悲劇を。
 
 そして────
 
ミセ*゚−゚)リ
 



90 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:27:58.66 ID:qo4TweAl0
 
 
ミセ*゚−゚)リ「私はそれを、乗り越えなきゃいけない」
 
 
 瞳の火が、強く、強く。
 
 
ミセ*゚−゚)リ「私はそれを、忘れてはいけない」
 
 
 火は、炎。それは、確たる信念。
 
 
ミセ*゚−゚)リ「大切な私の過去を……」
 
 
 
 
ミセ#゚−゚)リ「踏みにじった貴方を、私は許すわけにはいかない!!」
 
 
 轟。
 
 声と共に、覇気が飛ぶ。


 

91 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水) 01:28:32.75 ID:qo4TweAl0
 
 
 
 彼女の怒気をその身に受けても、エクストは動じること無く。
 冷静に、一つの答えを導き出した。
 ミセリが無間地獄から抜け出した、その理由。
 
<_プ−゚)フ(成る程……既に乗り越え、逆効果だったというわけか)
 
 
 ならば、残りの二人。
 
 
 ブーンとツンは、何故脱出する事ができたのか。
 
 
 エクストはゆっくりと、二人に視線を送る。
 
 
 
 その間も、黒きトラペゾヘドロンは。
 
 
 
 エクストの手の中で、漆黒に輝いていた。
 
 
 
                         続く。


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