( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです
──第20話 『黒きトラペゾヘドロン 前編』
7 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火) 23:06:02.27
ID:Em+te9840
何故だ。
何故君が、そこに居る。
(´<_` )「アンタの……知り合いか?」
( ´_ゝ`)「初めて見る顔だな」
鳴留羅山へ行くと告げ、それから連絡が途絶えていた。
彼の身に何かが起こったなどとは、考えたくなかった。
否定し続けていた。
私と共にフィレモンの声を聞き、旧友モララーを止めようと誓った男。
アサピー。
何故お前が、そちら側にいるのだ。
(;´∀`)「……アサピー……」
振り絞った声は、まるで縋り付くように。
彼の顔は変わらない。特徴的な大きな眼鏡の奥の瞳は、真っ直ぐに私を見つめていた。
困惑しきっている、私の顔を。
8 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:08:55.42
ID:Em+te9840
それならば、何か一言。
私を安心させる言葉を、投げてくれ。
お前がそちら側に居るだけで。
お前が不適な笑みを私に向けているだけで。
私の中で、水が地に零したように、言い知れぬ不安が広がって行くのだ。
(-@∀@)「さて、モナー」
いつもと変わらぬ、少し高い彼の声。
そのはずなのに、形容しがたい、この胸騒ぎ。
空気とも──威圧とも──……雰囲気……波長。
そうだ。ペルソナの、波長。
それこそが、全ての要因なのだ。
私達ペルソナ使いのみ知り得る、ペルソナ使い同士の波動。
それが、今のアサピーからは以前とは異なっているように感じられるのだ。
(-@∀@)「残念だが……」
それらが、相成って。
(-@∀@)「さよならだ」
9 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:09:33.13
ID:Em+te9840
突き付けられた彼の言葉が。
それに添えられ、向けられた殺意が。
私の心を、容赦なく抉った───
( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです
第20話『黒きトラペゾヘドロン 前編』
10 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:12:09.08
ID:Em+te9840
(;´∀`)「……何故だ……どうしてだ?! アサピー!」
向けられた言葉と殺意を、撥ね除ける様に、強く。
モナーの前に突然現れた友に向け、言い放った。
突如紡がれた別れの言葉が意味する物は、たった一つ。
一も十も無い、完全なる決別だ。
親友と呼べる者に、突拍子も無く言われたのだから受け入れられる筈もない。
不適な笑みを絶やさずに、アサピーが口を開いた。
(-@∀@)「私は鳴留羅山で、見たんだよ モララーの途方もない力を」
(-@∀@)「とても私達が、適う相手じゃない」
(-@∀@)「あの子供達を鍛えたところで……たかが知れている」
(;´∀`)「アサピー……」
(-@∀@)「それに……」
(-@∀@)「こちら側の方が、『退屈しない』からね」
12 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:16:01.08
ID:Em+te9840
あまりに、冷徹。
あまりに、無情。
モナーの耳に届いたアサピーの言葉は、彼の心を引き裂くに足る物だった。
国を愛し、人を愛し、子を愛するが故、教師になったはずの男。
教え子達の為ならば、その身をなげうつ事すら厭わなかった男。
その男が、退屈しないというただそれだけの理由で、モナーの前に立ち塞がる。
流石兄弟は事態を呑み込めずに、二人を交互に見つめていた。
モナーですら理解不能なこの状況。仕方がない事と言えよう。
アサピーが口を閉ざした束の間の静寂の中、モナーは思う。
モナーとアサピーは、紛うことなき親友だった。
大学を卒業後、各々別の道を歩み出し、一時は連絡が途絶えてはいた。
それでも、親友というものは。簡単に途切れるものではない。
フィレモンの声を聞き、再会した二人は互いの成長を喜び合い、称え合った。
夢を目指し旅立った友が、夢を叶えて目の前に現れる。
それのなんと、美しいことだろうか。
親友なら尚の事、感慨に更け入る瞬間であろう。
その時のモナーは、来たるべく戦いの事すらも忘れ、心から賛辞を呈した。
14 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:18:19.26
ID:Em+te9840
愛しき子供達の成長を手助けし、国に献上する道を歩む、アサピーを。
親友を、誇らしく思い、勤めに心服する彼に尊敬の念を抱いていた。
それらが今、音を立てて壊れて行く。
変わらぬアサピーの表情が、歪み、ひしゃげて行く錯覚すら覚えながら。
失望、ではない。
一度信じた親友を見損なう事は、モナーはしない。
彼の心を染めるのは、絶望。
奈落の底に叩きつけられた様な、絶望。
突き付けられた現実を、受け入れることができない。
(-@∀@)「そういうことだ モナー」
( ∀ )「……」
尚も冷徹に、現実を叩きつける。
その度に心を揺さぶられ、抉られ、思考を奪われる。
それを見兼ねた男が、一人。
( ´_ゝ`)「……なんだかよくはわからんが」
15 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:21:29.81
ID:Em+te9840
( ´_ゝ`)「お喋りだけなら、後にしてくれないか?」
(-@∀@)「……」
( ´_ゝ`)「俺達はその奥の部屋に用がある 通してはくれないか」
二人に何があったのかは、彼の知る所ではない。
先を急ぐ事よりも、蚊帳の外に放り出されているこの状況が気に食わなかったようだ。
苛立ちが、煽りを含めた言い回しと語気から見て取れる。
それでも、アサピーは不適な笑みを絶やさずに。
(-@∀@)「それはできない相談だ」
その言葉、その態度が。
( ´_ゝ`)「ならば、仕方がない」
兄者の苛立ちを、助長させた。
( ´_ゝ`)「強行突破と行こうじゃないか」
(;´∀`)「……」
20 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:24:51.47
ID:Em+te9840
( ´_ゝ`)『ペルソナ』
紡ぎ、現れたカストル。
漲る力を槍に籠め、切っ先をアサピーへと向ける。
(´<_` )『ペルソナ』
次いで弟者も、ペルソナを喚び寄せた。
兄者と同じく、鋭利な大剣の剣先を、アサピーへと向けて。
並び立ち、アサピーを睨む兄者と弟者。
その背後で双璧を成す双子の神々も同じく、甲冑の奥から鋭い眼光を放つ。
召喚者二人を象徴するディオスクロイの威圧にも、アサピーは表情を変えない。
それどころか、更にその口端を吊り上げて───
(-@∀@)
嘲笑。
それだけで、戦いの火蓋は切って落とされた。
22 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:28:35.51
ID:Em+te9840
(;´∀`)「───ッ!」
モナーが我に返った瞬間、既に流石兄弟は駆け出していた。
それでもアサピーは、悠然と佇んでいる。
見せ付けられた明白な余裕に対し、二人は容赦なく全力を放たんと、
( ´_ゝ`)『二段突き!』
(´<_` )『一文字斬り!』
兄者が突こう一点は、胸部。
弟者が薙ごう一閃は、頸部。
寸分違わぬ、阿吽の呼吸で繰り出された双撃が、アサピーに迫る。
(-@∀@)「───」
小さく、アサピーが空気を揺らした。。
近接した流石兄弟にすら聞こえない程の、極小の声で。
それだけで。
(;´_ゝ`)「む……」
(´<_`;)「くっ……」
24 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:31:49.53
ID:Em+te9840
アサピーに触れる寸前で、刺突と斬撃はぴたりと止まっていた。
いや───
止められていた。
アサピーの両肩から伸びる、赤黒く染まった腕に因って。
右肩から伸びる腕は、兄者の長槍を掴み。
左肩から伸びる腕は、弟者の大剣を二指で挟み。
正面と右側面から迫った槍と剣を、現れた腕を交差させた形で止めていた。
(-@∀@)「気が短いのはいただけないが……話が早いのは好みだよ」
アサピーの影が蠢き、大きく形を変える。
影の頭がぐにゃりと曲がり、そのまま弧を描いていく。
やがてそれは影の主を囲む様に一週し、円と成った。
刹那、黒円の縁から伸びる、黒の壁。
(;´_ゝ`)「!」
兄者と弟者は即座にペルソナを収め、後方へと下がる。
( ´∀`)「……アサピー……」
27 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:36:01.81
ID:Em+te9840
流石兄弟の攻撃を、ペルソナを完全に召喚せずして受け止めた。
そびえ立つ黒柱を見つめながら、モナーは確信する。
( ´∀`)(この力……やはり、本物の……)
アサピーの力量を知るが故に、はっきりと見えてしまう現実。
立ちはだかるは、やはり友。
最早、疑う余地も無し。
黒柱に亀裂が走り、それらが全体に広がる。
成長を続けるヒビはやがて繋がり合い、交点から黒柱の欠片がはらはらと散り出した。
それは、例えるなら黒の雪。
全てが散り落ち、黒が開けた後に立つ───
(-@∀@)『行こうか』
現れ出でる、荒野の羊飼い。
地に降り立つ、瞳も窺い知れぬ程に深く黒衣を纏った、ペルソナ。
( ´∀`)「……アザゼル……」
モナーにとって、これ以上無く心強く、頼もしく思えたそれが。
今彼等の前に、最大の障害として降り立った。
28 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:39:02.11
ID:Em+te9840
(;´_ゝ`)「……おいおい」
(´<_`;)「これほどとは……」
降臨した魔王の威圧感を間近で肌に感じ、二人がたじろぐ。
そんな流石兄弟とは対照的に、モナーは静かにそれを見つめていた。
( ´∀`)(…………)
違和感。
小さな、とても小さな、違和感。
それが、モナーの先程までの絶望に突き刺さる。
過去に数度確認したその姿は、変わっていない。
だが、違うのだ。
アザゼルの力は強大。それを象徴する威圧感も、モナーは確かにその身に受けている。
違和感とは、それを発する主。
( ´∀`)(……アザゼルの力が……大きすぎる)
そう。モナーが以前に見たアザゼルと食い違う点。
アサピー本人からよりも、ペルソナから発せられる力の方が、遥かに。
29 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:42:30.75
ID:Em+te9840
ペルソナとは、心の海より出でし存在。
姿こそ術者と離れ召喚されてはいるが、根源はあくまでも召喚主だ。
即ち、召喚時に発生する特有の波動が、術者を超える事はない。
(;´∀`)(まさか……)
心の中で呟いたモナーの表情が、困惑から怪訝へと変わる。
浮かび上がった、一つの懐疑。
モナーは過去に、似たような事象を見た事があったのだ。
豹変した人格と、術者を超えたペルソナの波動。
二点からモナーが覚えた違和感は、次第に形を成していく。
( ´∀`)「アサピー」
静かに、遠くを見るような瞳で。
( ´∀`)「……堕ちたか」
友に、言葉を投げた。
33 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:46:57.50
ID:Em+te9840
(-@∀@)「……」
モナーの言葉に、アサピーは沈黙のままに。
じっとモナーを、見つめていた。
先日、モナーがショボン達に語った事。
過ぎた力は、ペルソナに呑まれる。
即ちそれは、行使する側が逆に乗っ取られると言うことだ。
彼は住職という職業柄、除霊の依頼をされることがある。
その中に、数件。ペルソナに関係したものがあった。
行使するはずのペルソナに乗っ取られ、欲望のままに行動する。
そこに術者の意志は無く、ただただ宿主の欲だけを糧に、暴走するのだ。
( ´∀`)(あれらは下級の悪魔達だったが……)
アザゼル程高位の悪魔なら、或いは術者を操るだけに留まらず───
(#
´∀`)「答えろ! アザゼル!」
貫くように睨み、声を荒げた。
34 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:47:41.69
ID:Em+te9840
(-@∀@)「……」
無言で、モナーを見据え。
(-@∀@)「ク……」
ぽつりと。
(-@∀@)「クカカッ……!」
次に、肩を揺らして。
(-@∀@)『クハハハハハハハハハハハハハハハハ───』
37 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:50:06.01
ID:Em+te9840
広い室内、高らかに響くアサピーの笑声。
いや。
既に、その声色は。
(#
´∀`)「……やはりか……アザゼル!」
拳を強く握りしめ、いつもの温厚な表情を忘れさせる程に激昂する。
意趣の念を籠めた眼光の先には、哄笑し続ける親友の姿と、
その横に不気味に佇む、一人の悪魔。
佇むのは、二人。
だが。
そこに在るのは、一人───
39 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:53:28.70
ID:Em+te9840
其の名の意、神の如き強者。
魔王、アザゼル。
(-@∀@)『───……よく……気がついたものだ』
重く、伸し掛かる様な声。
最早アサピーと言う男は、その姿だけでしかない。
彼ならば、決して作り得なかったであろう狡猾の笑みのまま、人の言葉を紡ぐ。
その行為が、モナーの怒りを助長させた。
手の平に爪が食い込み、今にも皮膚を突き破り兼ねない程に、拳を握りしめる。
::( ∀ )::
許せないのだ。
親友の姿で、親友の口で語りかける、アザゼルが。
40 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:56:06.00
ID:Em+te9840
(-@∀@)『友に裏切られ、絶望の内に死に逝く人間を見るのも……
なかなかに興味をそそられると思ったのだがな』
一歩、モナーが足を踏み出した。
(-@∀@)『先の貴様の絶望も、なかなかに美味だったぞ』
また一歩。握る拳は、決して開かずに。
(-@∀@)『だがしかし、猛る怒りもまた美味よ』
アサピー───アザゼルが投げ掛ける言葉を踏み付けるように、歩く。
そして、大広間の中央に立ち止まった。
(-@∀@)『その憤怒 貴様の友の手に因って、更なる美酒へと高めてやろう』
狡猾の笑みを絶やさずに、友という一文字を用いモナーを煽る。
それに対し、毅然として佇むモナー。
44 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/02(火)
23:58:45.67
ID:Em+te9840
( ´∀`)
その表情は、いつの間にかいつもと変わらず、温厚な顔に。
しかし、握りしめる拳だけは、固く、硬く。
(-@∀@)『フン……』
その様子から、安い挑発は効果が得られないと判断し、浅く息を吐いた。
最早、アザゼルの言葉は、モナーの耳には入らない。
( ´∀`)「アサピー」
モナーの心には、届かない。
(#
´∀`)「今、助けてやる」
なぜならば。
46 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:01:34.78
ID:qo4TweAl0
心に在るのは、ただ一つ。
友を救う。ただ一念。
( ´∀`)「行くぞ」
短く、告げた。
それ以上の言葉は要らない。
怒りは全て、次なる言霊へ籠める為。
( ´∀`)『ペルソナ』
沸々と沸き起こる怒気を全て乗せ。
己の分身を、喚び起こす。
47 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:05:53.07
ID:qo4TweAl0
モナーを中心に、青い光が渦を巻く。
袴がはためき、それはまるで、奮い立つ怒りを表しているかのように。
青の光が、モナーの頭上に集い出す。
互いを結び、太く、力強く輝きを増していき、形成されるは、人の型。
青が薄れ、次に浮かぶのは、翠緑の甲冑。
反射する輝き一つ一つに、漲る力と憤怒を感じさせる。
その手に握る三叉戟を、アザゼルへと向けて。
( ´∀`)『ビシャモンテン』
モナーの声に、武神がその眼を見開いた。
その様は字の如く。怒髪、天を衝く。
(;´_ゝ`)(…………)
(´<_`;)(…………)
対峙するモナーとアサピーの間で、二人はそれを傍観することしか出来ずにいた。
その理由とは、たったの一つ。
二人の力に、圧倒されていたからだ。
48 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:07:13.74
ID:qo4TweAl0
魔王アザゼル。
我が物顔で空を泳ぐ雲のように、広く、深く、闇の瘴気を放ち立つ。
対する武神、ビシャモンテン。
押し迫るアザゼルの気を切り裂くように、鋭刃の剣気を放つ。
睨み合う両者の間の空間が、それの衝突でうねり、歪んでいた。
ペルソナ使いは、ペルソナ使いの波動を感じ取る事が出来る。
それ故に、相手の力量も肌で色濃く察知してしまうのだ。
今の流石兄弟のように、戦わずして敵わないことを、悟ってしまう。
危険察知。
生きる為に、無謀な戦いを避ける為に、それは必要不可欠な要素である。
しかし、そうと解っていようとも。
(;´_ゝ`)(……完全に、俺達は蚊帳の外か)
(´<_`;)(悔しいが……これではとても……)
どうしても、自尊心は傷つけられる。
己の力量を知るからこそ、二人はそれに歯痒さを感じていた。
50 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:09:33.41
ID:qo4TweAl0
それは今、魔王と対峙しているモナーも同じ事だ。
己のペルソナの力と、アザゼルの力量は十二分に理解している。
それでも、モナーは立っている。
魔王に意志を奪われた、アサピーの前に居る。
流石兄弟には無く、モナーに在るもの。
それは、覚悟。
必ずや友を救うと言う、強い意志。
モナーは言った。ペルソナの成長は、即ち心の成長だと。
ペルソナ。心の海にたゆたうもう一人の自分。
己の心を、神や悪魔の姿に映し変えた存在。
『心』の躍動が、その強弱に影響を及ぼす。
( ´∀`)
モナーが、地を蹴った。
51 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:12:29.69
ID:qo4TweAl0
大広間はそれでも、静寂に包まれていた。
柳のようにしなやかに、緩やかに、軽やかに。
一切の音を立てず、モナーは地と平行に駆けた。
(-@∀@)「……」
あわせ、ゆらりと、魔王が迎え撃たんと。
<::::::::::>
黒衣でその顔を隠したまま、一歩踏み出した。
モナーとアサピーの直線を、遮るように。
(#
´∀`)『はぁッ!』
構わずに、振り抜かんと。
ビシャモンテンの頭上高く掲げられた三叉戟。
剣気を纏わせ、翠緑の軌跡を生み出しながら振り下ろされる。
<::::::::::>『───』
三叉戟の柄を、アザゼルが掴んだ。
52 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:15:13.42
ID:qo4TweAl0
それは完全な、軽侮。
己の力を絶対と信ずる、自信。
人如きに行使される悪魔の一撃など、容易く受け止めてやる。
アザゼルはそう、思っていた。
だが、アザゼルがその手に感じた力は。
<::::::::::>『───ッ?!』
(#
´∀`)「見縊るなッ!」
己を見下したアザゼルへ、一喝。
その言葉通り、振り下ろされた一撃は強烈なものだった。
三叉戟を掴むアザゼルの腕が、微かに震えている。
感情と、強固な意志。
怒りと、アサピーへの想いが。
ビシャモンテンの力を、普段以上の物へと変えていた。
(#
´∀`)「……」
<::::::::::>『……』
53 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:17:17.98
ID:qo4TweAl0
アザゼルの表情は、全身を覆う黒衣の所為でモナー達が窺い知ることは出来ないが……
一撃で口を閉ざしたアザゼルを見て、モナーには魔王の心が見えていた。
少ないながらもアザゼルの心に浮かんだのは、吃驚。
ビシャモンテン───モナーの予想外の力から生まれた感情。
それは魔王にとって、屈辱的な事だ。
足元をすくわれたと言う程ではないが、それでも、自尊心には傷がついた。
人間如きが、己の力に及ぼうとしている。
自身の力に絶対的自信を持つ魔王にとって、それだけは許されない事なのだ。
モナーはそこに、気がついていた。
( ´∀`)「……アザゼルよ」
<::::::::::>『……』
未だ三叉戟を振り下ろし、それをアザゼルが掴んだままの姿で、睨み合う。
黒衣の奥深く、影に覆われた魔王の顔を見つめながら、モナーは言った。
( ´∀`)「“退屈しないから”と、さっき言っていたな」
あの時はまだ、アサピーの声だった。
54 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:19:21.22
ID:qo4TweAl0
しかし心は、既にアザゼルに支配されていただろう。
だからモナーは、魔王に向けて。
( ´∀`)「この先貴様が、退屈することはない」
<::::::::::>『……何を言っている』
モナーの顔は、いつもと変わらぬ、温厚なままで。
( ´∀`)「貴様はこの場で───消え果てるからだッ!」
吐き捨て、強く三叉戟を引く。
アザゼルの手を解き、引き戻された三叉戟に力を籠める。
弓を引き絞るように、強く、硬く、十分に力を蓄え───
(#
´∀`)『二段突きッ!!』
瞬時に放たれる、武神の連撃。
<::::::::::>『むぅ……ッ』
55 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:23:04.69
ID:qo4TweAl0
翠緑の二突きは、あまりの疾さに二撃目の時間差すら感じさせない程だった。
もし、モナーを軽侮していたままのアザゼルなら、
重い一撃をその身に受けていたことだろう。
モナーを敵と捉え、意識を戦いへ向けていた事が、回避に繋がった。
体を揺らし、寸前で連撃を躱すに至った。
だが。
アザゼルの頭を隠す黒衣に、一線が奔る。
はらりと、黒の一部分が欠けた。
<::::::::::>『……貴様……』
悪魔に衣の概念はない。
現世に存在している姿そのままが、実体なのだ。
つまりモナーは、アザゼルに一筋の傷をつけたと言うことになる。
文字通りその身に刻まれた、力の一片。
さらにその前の、宣戦布告。
<::::::::::>『ただではおかんぞ……!』
57 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:25:04.98
ID:qo4TweAl0
その二つの要素は、魔王を激昂させるには十分すぎた。
(;´_ゝ`)(……まんまと、神主のペースだな)
(´<_`;)(流石と言わざるを得ないが……)
敵を激怒させる事は確かに、隙を生み出す為に有効な手段だ。
だがそこに、手加減はない。
アザゼルを討つ意味では、最初の油断を持たせた状態の方が、まだ。
(;´_ゝ`)(それでも確実に倒せるとは限らん……失敗すれば更にその身を危険に侵す……)
(´<_`;)(一撃に懸けるよりは……ということなのか)
博打よりは、より確率の高い手段を取ったのだろう、と流石兄弟は解釈した。
( ´∀`)(……)
確かに、その要素も在った。
そして更に、もう一つの理由。
それは、本来の目的を達成する為の理由。
( ´∀`)
モナーが一瞬、流石兄弟に視線を送った。
59 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:26:37.57
ID:qo4TweAl0
( ´_ゝ`)(……む)
(´<_` )(なんだ……?)
視線はすぐにアザゼルへと戻した。
次に。
( ´∀`)「さて、少し付き合ってもらうぞ」
<::::::::::>『人間如きが……調子に乗るなよ』
鉾を構え、身を屈めるモナー。
アザゼルも、その身から溢れる瘴気を更に色濃くさせて。
二人はいよいよ、戦いへと完全に意識を向けたようだ。
その直前にとった、モナーの行動。
( ´_ゝ`)(……託したと言うわけか)
(´<_` )(───! そうか!)
( ´_ゝ`)(奴を煽ったのも……周囲を見えなくさせる為の……!)
視覚的にではなく、意識自体の視野を怒りによって狭めることによって、
流石兄弟が動く隙を生み出す為に。
60 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:29:30.44
ID:qo4TweAl0
最初からそこまで、考えていたのだ。
怒りと、覚悟。
その根元が、間違っていた。
モナーはこの二つの要素で普段以上の力を引き出してはいる。
だが、それでも───
対峙し、立ち塞がるアザゼルを見、力を肌で感じ。
その上で、モナーは答えを導き出してしまった。
『私では、アサピーを救うことができないかもしれない』
アザゼルには、及ばない。僅かに、届かない。
それでも、それでもあれを引き付けることなら、出来る。
その過程で、もしも勝機が見えたならと、淡い期待を抱いてはいたが。
つまりモナーは、囮としてその身を投じたのだ。
隙を作り出し、流石兄弟を奥の部屋へ進ませる為に。
ハインリッヒを、助け出す為に。
( ´∀`)(……ショボン君達といい……私は他人に頼りすぎだな……)
寸時の、自虐。
しかし心は、変わらない。
61 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:32:41.62
ID:qo4TweAl0
( ∀ )(モララーに、アサピー……)
( ∀ )(かつての友を……誰も……誰も私には、この手で救うことが出来ない)
( ∀ )(私には、道を創り、託すことしか……できない)
己の無力さに対する、『怒り』を────………
( ∀ )(ならば……それならば!)
( ´∀`)(私はその道を造り出すッ! 全身全霊を懸けてッッ!!)
( ´∀`)(いつかそれが、救いに繋がるのであれば、私はそれでいい!!)
命を賭した、『覚悟』を────………
(#
´∀`)「アザゼル!! 人の力を甘く見るなよッッ!!!」
全てを体現せしペルソナの下、叫び、誓う。
<::::::::::>『やってみるがいい! 絶望を思い知れ!!』
62 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:35:17.40
ID:qo4TweAl0
※
モナー達がアサピーが待つ大広間に辿り着いた頃。
ブーン達も大きな扉の前に立っていた。
ひたすらに続く白の通路に現れた、キーロック式の扉。
ここに着くまで、それらしき部屋はなかった。
それはつまり、あのサングラスの男達はここから来たと言うことだ。
(´・ω・`)「みんな、気をつけてくれ」
ショボンの声に、皆が頷いた。
解っているのだ。この先に居るものが、なんなのか。
その確信は、ペルソナの共振に因るものだ。
近づくに連れ、脈打つように感じられる、ペルソナの波動。
鼓動が高鳴るように、定期的に刻まれる、心音に近いもの。
この奥に、ペルソナ使いがいること。
波長から、モナー達ではないということ。
そしてそれが、大きな力を持っていること。
しかし彼らは、進まなければならない。
63 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:39:30.47
ID:qo4TweAl0
道は一つしかないのだ。
ハインリッヒを助け出す為に、引き返すことは許されない。
ショボンが扉を拳で軽く叩いてみせた。
鉄製の両開きの扉は、見た目程頑丈ではないようで、軽い音を反響させる。
無論、ショボン達はキーロック式の扉を開ける為の番号を知らない。
ならばすることは一つ。
(´・ω・`)『ペルソナ』
現れ出でるショボンのペルソナ、ヤマ。
正眼に構えし大剣を、縦に二つ、横に一閃させた。
ペルソナへの耐性を持たない物質など、鉄であろうとも両断するのは造作もないことだ。
三片の切断を確認すると、ジョルジュが前に立ち、
( ゚∀゚)「行くぜ……よッ!」
力任せに扉を蹴った。
ゆっくりと部屋の内側へ倒れていく、鉄の板と化した扉。
それが、派手な音を立て地に触れた時、ショボン達の視界に広い空間が開けた。
65 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:42:14.13
ID:qo4TweAl0
アサピーが居た大広間よりも、さらに広い。
四方の白い壁には、夥しい数の電子機器が列を成している。
それらだけなら、巨大な研究室を思わせるのだが……
部屋の中央付近に、電子機器と同じように列を成す、異。
硝子でできているのか、透明の太い円柱がいくつも連なる。
その中は、深緑色をした液体が満たされており、そして───
ξ;゚听)ξ「なに……あれ……」
ミセ;゚−゚)リ「……悪魔……」
悪魔が、その中に居た。
ブーンとツンを襲った凶鳥、モー・ショボー。
街の各所で全員が見た、屍鬼、ガキ。
その他にも、彼らが見たことがない悪魔達が、液体の中に居た。
そして、円柱の足元から伸びる何本もの多彩なコード。
それらが集う、部屋の中央には。
(´・ω・`)「これは……」
(;'A`)「でけぇ……」
66 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:43:58.14
ID:qo4TweAl0
ブーン達が、部屋の中央へと進む。
最も目につく存在の近くへと。
部屋の面積もさることながら、取分け特徴的なのが、高い天井だった。
あまりの高さに、ここが地下だと言うことすら信じられなくなる程の。
尤も、ブーン達はフィレモンの力により転移されたのだから、
この場所が必ずしも地下、玖都留研究所であるかどうかは彼らに知る術はないが。
その高い天井まで伸びる、巨大な歪の柱。
頂点部分には傘が広がるような形で、円形の物体が広がっていた。
(;^ω^)「なんだお……これ……」
誰もが思ったことをブーンが口に出した、その時。
『ようこそ、ペルソナ使いの少年達』
空気を揺らす機械の電子音の中に、ブーン達が聞き慣れぬ声が混じる。
声の主が、柱の裏側から現れた。
それと同時、急激に高鳴る鼓動。
即ち、ペルソナの共振。
67 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:47:23.44
ID:qo4TweAl0
<_プー゚)フ「こんな所までくるとはね」
後方に流れるように逆立った赤い髪と、特徴的なモミアゲの男。
玖都留研究所所長、エクスト=プラズマン。
両の手をスラックスのポケットに仕舞ったまま、ブーン達を見ていた。
( ゚∀゚)「……誰だ、アンタ」
全員が身構え、エクストを注視する。
ペルソナ使いであることは、既に解っているからだ。
<_プー゚)フ「不法侵入の上、年上に敬語も使えないのかい?」
口端を吊り上げ、冗談を飛ばす。
ブーン達は、無反応。静かにエクストを見つめたままだ。
<_プー゚)フ「やれやれ……」
<_プー゚)フ「私の名は、エクスト ここの所長をしている」
“所長”
この言葉に、ブーン達は更に身を固くした。
68 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:50:03.94
ID:qo4TweAl0
ひしひしと彼らに伝わっていた強力なペルソナの波動と、
所長、つまりこの研究所の最高責任者であることを示す言葉の、二点。
(,'A`)「……いきなりラスボスの登場か」
一滴の、本人ですら気づかない程の小さな汗を頬に流し、ドクオが呟く。
(;^ω^)「……この力……納得したお」
ミセ*゚−゚)リ「皆さん、気をつけてください」
エクストの自己紹介に因って、更に高まる緊張感。
そんなブーン達を一瞥した後に、エクストが両の手をポケットから出した。
右手には、小さな箱。
ξ;゚听)ξ「───! あれは!」
(;゚∀゚)「デレも持ってた……フィレモンが言ってたヤツか?!」
黒き、トラペゾヘドロン。
<_プー゚)フ「さて、君達の自己紹介は必要ない」
箱を持つ右手を、前へと差し出し。
69 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:50:34.67
ID:qo4TweAl0
<_プー゚)フ「“はじめまして” “さようなら”」
70 名前: ◆iAiA/QCRIM
[] 投稿日:2009/06/03(水) 00:51:08.72
ID:qo4TweAl0
エクストの言葉が終わった刹那。
黒きトラペゾヘドロンから闇が広がり───
ブーン達に、驚愕の声を上げる間さえ与えずに。
彼らを、包み込んだ。
闇はそのまま停滞し、まるで咀嚼しているかのように、蠢いていた。
71 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:51:24.30
ID:qo4TweAl0
<_プー゚)フ「闇の中で、己の影と永久に戦うがいい」
ブーン達にその声が届かないことを知った上で、エクストはそう言った。
闇は、蠢く。
ひたすらに。
ただ、ひたすらに───………
72 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:52:36.47
ID:qo4TweAl0
※
────────────………
誰だ……?
泣き声……
子供の……泣き声……?
妙に頭に……こびり付く……声……
73 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:53:45.40
ID:qo4TweAl0
「───!」
………!
その……その言葉……!
やめろ……
「───ろう!」
やめろ……!
「む──や─!」
やめてくれ!
74 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:56:08.61
ID:qo4TweAl0
「 泣 き 虫 野 郎 ! ! 」
………ッ!
『や……やめてよ……ぼく……泣き虫なんかじゃ……』
「うわー! 虫がしゃべったぞー!」
「汚ねー! みんな逃げろー!」
『うっ……うぅ……み、みんな……う……うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』
あぁ………
75 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:56:36.77
ID:qo4TweAl0
あれは……
あの泣いてる子供は……
(;A;
)
俺だ……
昔の……
いじめられてた……俺だ……
76 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
00:57:28.56
ID:qo4TweAl0
そうだ。
俺は泣き虫で、虐められてて……学校に行くのが……嫌で……
そんな俺が、この街を救うだって……?
「や〜い! ドクオの泣き虫ー!」
やめろ……!
やめて……やめてく……やめ……
やめて……よ……
────────────………
77 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:01:19.35
ID:qo4TweAl0
※
「ショボン、お前は天才だ」
「えぇ……本当にすごいわ!」
(´・ω・`)「そ、そんなことないよ!」
「流石俺の息子だ! なぁ、母さん」
「あら、親ばかね? でも、ホント、自慢の息子ね!」
(´・ω・`)「え、えへへ……」
既視感。
どこかで見、聞き、体験した出来事。
目の前の光景は、手放しで褒めちぎる両親と……子供の頃の僕の姿。
78 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:05:39.89
ID:qo4TweAl0
何故。
何故こんな物を、僕は見ているんだ。
何故こんな、思い出したくもない過去を、僕は──
背後で、物音がした。
同時に背に奔る、悪寒。
後ろを見ずとも、解っていた。
物音を生んだ人が、僕には誰だか、解っていた。
嫌だ。
嫌だ嫌だ。
見たくない……見たくない……!
どうして、どうして世界が回っているんだ!
僕の意志と無関係に、何故後ろを振り向いているんだ……!
……ほら……!
そのせいで、僕は……
79 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:06:59.25
ID:qo4TweAl0
(`・ω・´)
必死に、必死に忘れようとしていた顔を……
……見てしまったじゃないか。
やめてくれ。
そんな目で、僕を見ないでくれ。
僕は……
僕は……僕は……
80 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:07:17.85
ID:qo4TweAl0
お願いだから……やめてくれ……
シャキン……兄さん……
────────────………
81 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:07:31.85
ID:qo4TweAl0
※
熱い。
胸が……熱い……
なんだ、こりゃ……
「アン! アン!」
犬。
犬の、鳴き声。
▼・ェ・▼「アン!」
────!
ビー……グル……!
82 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:07:43.41
ID:qo4TweAl0
「またきたのかい?」
( ゚∀゚)「あ! 兄ちゃん!」
あれは……ガキの頃の……俺……
にぃ……兄ちゃん……?!
なんだこりゃ?! やめろ! やめてくれ!!
( ^Д^)「こんにちは、ジョルジュ君」
( ゚∀゚)「こんにちは!」
兄……ちゃん……
83 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:07:57.57
ID:qo4TweAl0
胸が、熱い。
…………これは……
あの時の……鎖の欠片が……
燃えるように、熱い……
兄ちゃん……
▼・ェ・▼「アン! アン!」
ビーグル……
なんで……なんで今頃……こんな……!
────────────………
85 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:12:17.26
ID:qo4TweAl0
※
心の底まで深く、絡みつく闇の中で。
ショボン達は、それを見ていた。
それは過去の、心の奥底に刻まれた、傷痕。
二度と、決して思い出したくない、心の闇。
全ては、黒き箱の力───
<_プー゚)フ「素晴らしい」
わだかまる闇を恍惚の表情で見つめ、エクストは感嘆の声を上げた。
VIP高校でデレが見せた力とはまた違う。
人の心に潜り込み、触れられたくない心の傷を探り、抉る。
人と物体。対象こそ別の物だが、両者に与える打撃は周知の通りだ。
彼らが扱う、黒きトラペゾヘドロン。
猛威をふるう闇の箱は、果たしてどこから、どのように作られたのか。
86 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:17:34.29
ID:qo4TweAl0
<_プ−゚)フ「む……」
蠢く闇を見つめるエクストの顔が、変わる。
ブーン達を包む闇の固まりに、変化が起きた。
端が、内側から押されるように膨れあがる。
煙とはまた性質が違うのか、膨張部が粘り着くように張っている。
やがてそれが限界に達した時。
音も立てずに闇が千切れ、落ちた部位はそのまま虚空へと消え去った。
生まれた穴から覗いたのは、腕。
続いて、穴を広げそのまま体全体が現れる。
息を切らしながら地に立ったのは、一人の少女。
ミセ;゚−゚)リ「はぁ……はぁ……はぁ……」
ミセリだった。
呼吸を整えながら、エクストを見据える。
87 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:19:15.46
ID:qo4TweAl0
<_プ−゚)フ「……ほう」
眉をひそめ、一言。
闇からの脱出は、想定外だったのだろう。
驚きと、そして不快さも、その一言に含まれていた。
ミセ*゚−゚)リ「……」
凛と立ち、強くエクストを見るミセリ。
彼女も闇の中で何かを見たのか、その瞳には静かに揺らぐ火が灯る。
一時の間の後に。
<_プー゚)フ「ふん……まさか、お前のような小娘がそれを破るとはな」
然したる問題はない、といった様子で、元の余裕を見せる。
だが、その表情も───
ミセ*゚−゚)リ「……」
ミセ*゚ー゚)リ「私だけじゃ、ありませんよ」
88 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:24:59.12
ID:qo4TweAl0
<_プ−゚)フ「何……?」
笑顔を見せて、ミセリが言った。
その言葉の後、また闇が大きく蠢いた。
ミセリが現れた穴が更に広がり、また現れる二つの影。
<_プ−゚)フ「…………」
(;゚ω゚)「はぁっ……はぁっ……!」
ξ;
)ξ「はぁ……はぁ……」
ブーンとツンも、闇から脱出を果たしていた。
ミセ*゚−゚)リ「大丈夫ですか?」
エクストへの警戒を解かずに、二人に気を配る。
二人もミセリと同じく、少しの間肩で息をしていたが、次第に落ち着いていった。
その様子を、エクストは静かに見つめていた。
89 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:27:12.43
ID:qo4TweAl0
箱を用い、あの闇の中でエクストが見せた物。
誰の心にも在る、心の奥底に刻まれた傷。
それを呼び起こし、永遠に見せ付ける、無間地獄。
ブーン達は、そこから抜け出した。
その理由を、考えていた。
先ず、ミセリ。
彼女の姿から、巫女である事はエクストにも解る。
<_プ−゚)フ(巫女……仏・神道を歩む者なら……無心を貫くこともできる、か)
しかし、その若さ。
それがエクストの合点の行かぬ点だった。
ミセ*゚−゚)リ「……幼い頃を、思い出しました」
エクストを強く睨み、ミセリが紡ぐ。
鮮明に見せ付けられた、過去の悲劇を。
そして────
ミセ*゚−゚)リ
90 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:27:58.66
ID:qo4TweAl0
ミセ*゚−゚)リ「私はそれを、乗り越えなきゃいけない」
瞳の火が、強く、強く。
ミセ*゚−゚)リ「私はそれを、忘れてはいけない」
火は、炎。それは、確たる信念。
ミセ*゚−゚)リ「大切な私の過去を……」
ミセ#゚−゚)リ「踏みにじった貴方を、私は許すわけにはいかない!!」
轟。
声と共に、覇気が飛ぶ。
91 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2009/06/03(水)
01:28:32.75
ID:qo4TweAl0
彼女の怒気をその身に受けても、エクストは動じること無く。
冷静に、一つの答えを導き出した。
ミセリが無間地獄から抜け出した、その理由。
<_プ−゚)フ(成る程……既に乗り越え、逆効果だったというわけか)
ならば、残りの二人。
ブーンとツンは、何故脱出する事ができたのか。
エクストはゆっくりと、二人に視線を送る。
その間も、黒きトラペゾヘドロンは。
エクストの手の中で、漆黒に輝いていた。
続く。