雨の音が聞こえた気がして、僕は目を覚ました。
時計を見ると、7時40分。
もう朝のはずなのに、部屋は薄暗かった。
立ち上がり、少しふらつく。
カーテンが閉まった窓の方から、聞きたくもない音がしていた。
ざぁざぁ、と。
季節は丁度、春と夏の間。
所謂、梅雨というやつだ。
雨が嫌いな僕にとっては、二つある大嫌いな時期の一つだった。
ちなみにもう一つは、台風の時期だ。
なぜ雨が嫌いかって?
(´・ω・`)「はぁ……」
髪が、濡れるからだよ……。
( ^ω^)よくあるコピペから生まれたようです
※
(´・ω・`)「行ってきます……」
帽子を深くかぶり、自分でも呆れるくらいの覇気のない声で言った。
J(´・ω・`)し「いってらっしゃい」
母も僕のコンプレックスを知っている。
だからいつもと変わらない、「いってらっしゃい」を言ってくれた。
玄関のドアを開けて、再び鬱になる。
雨なんて、なくなればいいのに。
いや、そもそも僕が禿げてなければ…。
毎日こんなことを思いながら、大学へ通っていた。
前を歩くけど、目線はいつも足元。
高校の半ばくらいから、このコンプレックスは静かに姿を現した。
そして大学に入って、2年目の梅雨を迎えた今…。
そいつは、後頭部にその存在を強く主張するようになっていた。
中年のようなてっぺんが見事にない禿げではないけど…
どうみても、黒より肌色の比率の方が大きい気がする。
でもそんな僕にも、唯一の救いがあった。
それは、親友の存在だった。
( ^ω^)「おっ ショボンおいすー」
ξ゚听)ξ「おはよー」
ブーンとツン。
二人とは高校時代からの親友だ。
僕の禿げなんかまるで気にしないで接してくれる。
(´・ω・`)「おはよう」
二人の顔を見て、少し元気が出た。
気が合う僕達は、大学でも同じ科に進み、いつも一緒に通学している。
大学で初めて僕を見た人達は、ぎょっとし、そして周囲の友達だかに話しかけ、
また僕を見て、笑う。
そんなことにはもう、慣れていた。
この二人がいてくれたから。
この二人がいなかったら、きっと大学なんてもうやめてたんだろうなと思う。
ううん、高校ですらも、多分。
『気にしすぎだお』
ブーンの言葉。
『ショボンはショボンでしょ』
ツンの言葉。
この言葉に、どれだけ救われたことだろうか。
※
雑談をしながら、僕らは大学に着き、教室に入る。
座るのは、いつもと同じ、一番後ろの席。
二人もそれを知っていて、何も言わないで隣へ座ってくれる。
そういえば、二人は仲が良いけど、付き合ってるとかは聞かない。
自分の気持ちを素直に表現できないツンと、超がつく程の鈍感なブーン。
当然と言えば、当然かな。
彼女……か……
こんな僕にも、できるんだろうか?
そんなことを思っていた時、僕の前に数人の男が現れた。
( ・∀・)「よっ ショボン」
(´・ω・`)「……おはよう」
僕らの科きってのイケメン、モララーだった。
その後ろに、取り巻きのプギャーとニダーが立っている。
リア充が、僕になんの用だろうか。
( ・∀・)「お前、暗いよなー」
( ^Д^)「頭のこと気にしてんだろ? 知ってるぜ?」
………
<ヽ`∀´>「年をとれば半数以上がそうなるニダ ちょっと早いだけのことニダ」
( ・∀・)「というわけで、自分の殻を破ってみないか?」
(´・ω・`)「殻を破る?」
( ・∀・)「合コンだよ! 合コン! したことねーだろ?」
(´・ω・`)「ま、まぁ…」
正直、合コンなんて都市伝説だと思っていた。
( ・∀・)「向こうはVIP特進科の綺麗どころだ! しかし人数が足りない!」
( ^Д^)「ということで、ショボンを誘ってみることになったんだ」
(;´・ω・`)「な、なんで僕を? ブーンとか他にも…」
( ・∀・)「あー? ブーンが合コンなんか行ったらツンが怒るだろ?」
ξ゚听)ξ「なんで私が怒るのよ!」
( ・∀・)「怒ってんじゃん」
( ^ω^)「お? ツン怒るのかお?」
ξ;゚听)ξ「う、うるさいわよもう!」
( ・∀・)「ってことだよ、ショボン きてくれよ!」
(;´・ω・`)「い、いきなりそんなこと言われても…一応、いつなの?」
( ・∀・)「おっ 食いついたな! 明後日の日曜日だ!」
(;´・ω・`)「そんな、急すぎるよ」
予定は、ないけど……
( ^ω^)「ショボン、これはチャンスだお いくしかないお!」
(;´・ω・`)「ええっ ブーンまで…」
( ・∀・)「そうだぞ もしかしたら可愛い彼女ができるかもしれないぞ!」
(;´・ω・`)「か、彼女って……」
( ^Д^)「彼女がいると……世界が変わるぜ?」
世界が……変わる……
このコンプレックスから…逃れられる…?
(;´・ω・`)「う、うーん……」
( ・∀・)「お前はそのままでいいのか?! 立ち上がれ! 戦うんだ!」
まともに話したことがない僕に、熱弁を奮うモララー。
そして、僕は。
(´・ω・`)「わ、わかったよ……頭数合わせでなら…」
( ・∀・)「よっし! 決まりだ!」
モララーのガッツポーズにならって、プギャーとニダーもそれをした。
その後は携帯の番号交換や、場所、時間とかを教えてもらった。
講義は当然、ブーンとツンの声も右から左だった。
わくわくした気持ちが、止まらない。
緊張もあるけど、それは驚くほどほんのちょっとだった。
うまくいけば、本当に僕にも彼女ができるのかもしれない。
いや…それはきっとないだろう。
でも参加するだけで、僕の中で何かが変わると思う。
そんな気がする。
そして、あっという間に一日の講義が終わった。
ξ゚听)ξ「じゃあショボン、明日の10時にVIP駅ね あ、ブーンも」
(´・ω・`)「え? なんで?」
ξ゚听)ξ「合コンに着ていく服あるの?」
(´・ω・`)「? 普段着でいいんじゃないの?」
ξ゚听)ξ「だめだめだめ! 第一印象は大事よ! 私は行ったことないけど多分大事よ!」
(´・ω・`)「そ、そうなの」
ξ゚ー゚)ξ「ということで、私が服を選んであげる」
ちなみに、ツンは大学内でも結構人気があるくらいの、美人だ。
そんな彼女がコーディネートしてくれると言うのだ。
この誘いは、断ることができなかった。
(´・ω・`)「うん、わかった じゃあお願いするよ」
ξ゚听)ξ「お金たくさんもってくるのよ!」
ええ、そんなに色々買うの?
一体どれだけの量を買うつもりなんだろうか。
2万円くらいでいいかな?ユニクロでそんなに使ったことないや。
まぁとにかく、明日はツン先生に任せよう。
ξ゚听)ξ「ついでのついでに、ブーンの服も選んであげるわよ」
( ^ω^)「お? 前スーパーで3枚1000円のTシャツ買ったからいいお」
(´・ω・`)「まじで? それは安いね」
( ^ω^)「ワゴンにどっさりあったから、きっとまだやってるお!」
(´・ω・`)「それはいいことを聞いた」
ξ゚听)ξ「だめだこいつら……早くなんとかしないと……」
ツンの呟きが、聞こえたような気がした。
※
翌日。
まさか
明日着る一着だけで
3万円超えるとは思いませんでした。
(´
ω
`)
ξ゚ー゚)ξ「結構安く済ませれたわねー」
(´゚ω゚`)
( ^ω^)「布にこんだけ金かかるのかお……」
ξ゚听)ξ「あんたのは一番安いのから選んだのよ」
( ^ω^)「試着したけどなんか窮屈だったお オリバみたいに袖破る寸前だったお」
ξ#゚听)ξ「ぶち殺すぞ」
ブーンの言う事に同意したかったけど、殺されそうだったからやめた。
ξ゚ー゚)ξ「ショボン、似合ってたわよ」
(´・ω・`)「そ、そうかな?」
ξ゚ー゚)ξ「うんうん 自信持ってね」
改めてツンに言われると、少し自信がもてた。
ξ゚听)ξ「それで、当日だけど、どもっちゃだめよ」
(´・ω・`)「うん わかった」
ξ゚听)ξ「会話は常に聞き取る いつ話を振られてもいいようにね」
(´・ω・`)「なるほど」
ξ゚听)ξ「緊張しちゃって失敗すると思うから、自分からの発言は控えるのが吉ね」
(´・ω・`)「うん 自分でもうまくしゃべれないと思う」
ξ゚听)ξ「自己紹介は短すぎず長すぎず 三行は短すぎるわ」
帰り道、ひたすらにツンの講義を聞いた。
本当にいったことないんだろうか?
女の子の感性でこうすればきっとうまくいくと、ツンは言った。
女心ってわからないや。
ξ゚听)ξ「じゃあショボン、頑張ってね!」
( ^ω^)「頑張るんだお! でも先に童貞卒業したら許さないお!」
ブーンが頭を叩かれた。
(´・ω・`)「うん、今日は本当にありがとう」
どういたしましてと言い残し、ツンはブーンを引きずりながら帰って行った。
駅から家への道中、ツンの言葉をおさらいする。
ξ゚听)ξ『黙ってても多分向こうから話しかけてくれるから大丈夫』
イケメンのモララーがいるのに、僕なんかに話しかけてくれるんだろうか…
一人になると、途端に不安になってしまった。
こんなのじゃだめだ。
勝負は明日。自信を持たなきゃ。
※
合コンまでの時間は、大学の面接の待ち時間のような緊張感だった。
母さんに、今日は遅くなると言ったら、嬉しそうにしていた。
そんな母さんを見たら、僕も嬉しくなった。
予定の場所に着く。
そこには誰もいない。
僕は焦ってモララーに電話をかける。
まさか釣り……?
頼む……出てくれ……
『おーう』
モララーは電話に出てくれた。
『すまねぇなー! もう皆店にいるからきてくれ!』
後ろに聞こえる喧騒で、そこが飲み屋の店内だとわかった。
(´・ω・`)「うん、わかった 今から行くね」
そう言って、電話を切った。
この場所から店まではそう遠くない。
一歩進む度に、胸が高鳴る。
ついに僕は、人生初の合コンに臨む。
この合コンで、何かが変わる。
いや、変えるんだ。
店の入り口に着いた。
意を決し、扉を開けた。
電話越しでも聞こえていた通り、店内は騒がしかった。
きょろきょろと店内を見渡し、モララー達を見つける。
一つ、深呼吸をして、僕は向かった。
(´・ω・`)「遅れてごめん」
第一声は、無難に謝罪。
そして全員が僕の方を見て。
「おー! きたきた!」
「あれ? 結構いい感じじゃない?」
「う、うん……だね」
「……」
女の子達が一斉にしゃべりだした。
いや、一人はぼーっと僕をみているだけだった。
( ・∀・)「ツンの仕業か……ッチ……」
モララーが、何かを呟いたような気がした。
そして座敷に上がろうと、僕が靴を脱ごうとした、その時。
( ・∀・)「オラァ!」
いきなりモララーがヘッドロックを仕掛けた。
「ちょ! モララー!」
その力は強く、とても僕の力では抜けることができなかった。
( ・∀・)「ほーら……よ!」
モララーの、掛け声。
同時に、帽子をとられた、感触。
数瞬の間をおき。
「うっそー! マジでハゲてるー!」
「あははははは!! ウケるー!」
「やだー! キモイー!」
僕からは見えない女の子達が、笑う。
きっと、僕の頭を指さして。
( ・∀・)「なー? マジでハゲてるだろ?」
僕がいる前に話したような物言い。
まさか、はじめからこの為に……?
僕を笑いのネタにするために……?
ペシペシと、頭を叩かれる感触。
<ヽ`∀´>「プギャー! ハゲがうつるニダよ! ホルホルホル!」
( ^Д^)「お前にもわけてやんよ!」
うるさい。
「マジでそれでタメなの? キモッ」
「あーあ、ガッカリした」
うるさいうるさいうるさい!
(#´・ω・`)「うるさい! やめろ!!」
持てる力を全て出してモララーから脱出し、叫んだ。
( ・∀・)「……なにマジになってんの?」
( ^Д^)「空気嫁よ……」
「やだーサイテー」
「なにこいつ……ハゲのくせに……」
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!
そう思った瞬間、僕はもう店を飛び出していた。
真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに、走った。
気づけば雨が、降っていた。
最初から、こうするつもりだったんだ。
僕を話のネタにして……馬鹿にする為だったんだ!
ほんとに、本気で、嬉しかったのに!
こんな……こんなのって……
立ち止まり、空を見上げた。
ざぁざぁと、また嫌いな音が聞こえる。
でもこの雨は、嫌いじゃなかった。
涙を、洗ってくれるから。
ざぁざぁ、ざぁざぁ。
このまま、僕自身も流してくれよ……
もう……もういいよ……
僕はしばらく、雨の中で雨と一緒に泣いた。
期待をしてくれていたツンとブーンにも、申し訳が立たない。
結局僕は、またコンプレックスのことでズタズタにされたのだ。
今日はこのまま、濡れていよう。
そんな事を思った時───
「あの……」
背中に知らない声がかかった気がした。
僕はゆっくりと振り向く。
ζ(゚、゚*ζ「あ、えっと……」
その顔には、見覚えがあった。
あの中で、ずっと黙っていた子だ。
そして、一番可愛いと思った子だった。
ζ(゚、゚*ζ「えっと、えっとですね!」
彼女は意を決したように、言った。
ζ(゚、゚*ζ「あの……ごめんなさい 酷い事、しちゃいました」
君も笑ったのか、と聞こうとして、すぐにやめた。
この子の声は、聞き覚えがなかった。
ζ(゚、゚*ζ「流されたままああなって……聞かされた時に止めれたのに……」
ζ(゚、゚*ζ「ほんとに、ごめんなさい」
2回目の、ごめんなさい。
それを聞いて僕はまた、泣いてしまった。
ζ(゚、゚;*ζ「わっ、えっ、あのっ! 大丈夫ですか?」
(´;ω;`)「大丈夫……大丈夫さ……」
そう、大丈夫。
涙の意味はわからないけど、
僕は君のごめんなさいに、救われたんだ。
ζ(゚ー゚*ζ「風邪、ひきますよ?」
そう言って、ひょいと傘を僕が濡れないように掲げてくれた。
傘に弾かれ、雨が落ちる。
雨と一緒に、僕は恋に落ちた。
※
彼女の名前はデレと言った。
優しい彼女は、僕の家まで付き添ってくれた。
道中、たくさん話をした。
初対面の女の子とこんなに気軽に話せたことはない。
ζ(゚ー゚*ζ「最初見た時、みとれちゃいました」
なんてことを、言ってくれた。
僕も傘を差し伸べてくれた時、君にみとれたと言ったら、
デレは顔を真っ赤にしていた。
ζ(゚、゚*ζ「コンプレックスって、誰にでもあると思うんです」
ζ(゚、゚*ζ「私にだってあります それは、自分の一番嫌なところです」
ζ(゚、゚*ζ「そこにつけこむのは、とても残酷なこと」
デレの一言一言に、癒された。
もっともっと、一緒にいたいと思った。
そして僕は、勇気を出して言ったんだ。
(´・ω・`)「あの…よかったら…携帯の番号、聞いてもいいかな…?」
僕のおどおどとした弱々しい質問に、彼女は。
ζ(゚ー゚*ζ「もちろん、いいですよ」
快諾してくれた。
まさに舞い上がるような気分だった。
相合傘の下、交わされる番号交換。
それが終わる頃に家に着き、彼女と別れた。
ζ(゚ー゚*ζ「また、です」
家に入る。僕をみるなり母さんは驚いた。
何があったのと今にも泣きそうな顔をしていた。
(´・ω・`)「大丈夫だよ」
母さんを安心させるように。できる限り優しく言った。
「好きな人が、できたんだ」
優しく言ったつもりだけど、母さんは泣いてしまった。
なぜか僕も、また泣いた。
おわり。
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■元ネタ
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大学生で禿げてる俺は一度だけ合コンに誘われた。
イケメングループからメンバーが足りないから頼む!と言われたので仕方なしにだった。
けれど、だんだんわくわくしてきて服を買いに行ったりモテ術の本を読んだりした。
親に「俺今日合コンだから遅くなるよ!」というと親は「あんまり飲んじゃだめだよ」とうれしそうだった。
当日、予定の場所に行くと誰もいない。イケメンに電話すると「もうみんな店にいるから早く来い」という
遅れて登場も悪くない、と思いながら店に入ると地獄が待っていた。
「うっそ〜!!ほんとに禿げてる!!」
「な?な?俺が言ったとおりだろ?」
「うわ〜キモイwww」
俺は何が起こったのかわからなかったが、どうやら最初からネタにするつもりで呼んだようだった。
そのうちイケメンの一人が俺にヘッドロックをかけ、
「ほらこの頭見ろよ!すげー!!」
とやってきたので俺は
「何すんだ、やめろよ!」
と手でそれを振り払った。
すると今度は
「何本気できれてんだよ」「ハゲって最低」「空気嫁よ」
俺はもう参加する気力も切れる気力もなく店を出た。誰も引き止めなかった。
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これにはオチが二つあって、一つは、
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家に向かって歩いていると雨が降ってきてびしょぬれになった。
もう情けなくて情けなくて声もあげず泣いてた。
家に入ると母親に向かって怒鳴った「お前のせいで禿げたんだぞ!!」
母親も泣いた。俺も泣いた。
BADEND
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そしてもう一つは、
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家に向かって歩いていると雨が降ってきてびしょぬれになった
そこで後ろから足音が。振り向くと、さっきの合コンに出てた子だった。一番かわいい子だった。
「あの……ごめんなさい。悪い事しちゃったなって思って。一言謝りたくて」
嬉しかったのか、悲しかったのか、俺は声もあげず泣いてた。
女の子は余計にあたふたしてた。
そんなのが俺と嫁さんとの出会いだった。
HAPPYEND
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