1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火) 21:40:41.28
ID:IlmjK8oy0
全てが、凍り付く様に冷たかった。
冬という季節と、三面の石積みの壁に、一面は鉄格子。
どこからか吹いてくる低い唸り声のような風の音が、冷たさと寂しさを助長させる。
鉄格子の向こう側にある頼りない蝋燭の火が揺らぎ、それはまるで私の心の様で。
暗く、重く、冷たい場所に閉じ込められた牢屋の中で、蝋燭と共に辛うじて命を繋ぐ。
あの灯が消えたら、私も────……
なんてことは、閉じ込められた時に幾度も思ったけど、そんなことはあるはずもなく。
蝋燭が消えても、新しい蝋燭になってそれがまたなくなっても、私が死ぬ事はなかった。
もう、慣れてしまった。
閉じ込められた時は泣き、叫んだ。
なぜ私が。なぜ、こんなに暗く、冷たい地下の牢に。
いくら涙を流しても、いくら声を張り上げても。
誰の耳にも、心にも届かずに、いつしか私は、それをするのを諦めた。
それなのに、私は醜く生き長らえている。
辛くても、寒くても、孤独に押し潰されそうになっても。
死を選ぶまでには、至らなかった。
2
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:42:39.63
ID:IlmjK8oy0
食べる事をやめれば。服を破って首を締めれば。
死ぬ方法は、いくらでもあった。
しかし私は、死ぬわけにはいかない。
寒さに、冷たさに、孤独の寂しさに、何度も負けそうになっても。
一つの事だけを糧に、私は生き続けてきた。
私をこんな所に閉じ込めた、あの女を。
私にこんな屈辱をあたえた、あの女を。
この手で、殺すことだけを。
それだけに、全てを────…………
石畳の無骨な床に、金属が当たる音が聴こえた。
それは定期的に、段々と大きくなっていく。
一日に数回聞こえるその音は、少し私を落ち着かせる。
もう、そんな時間か。
近づく足音は恐らく、食事を運ぶ兵士の物だ。
3
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:44:31.58
ID:IlmjK8oy0
あの女が何を考えているのかわからない。
わからないが、毎日三度の食事は有難かった。
生きる事が出来るから。あいつを殺す機を、窺えるから。
こんな所に閉じ込められている私なのだが、囚人と言うわけではない。
ただの囚人の事を思えば、なんと手厚い待遇なのだろうと思う。
本当に、有り難い事だ。
そして足音が、鉄格子の前で止まった。
「お食事をお持ちしましたお」
初めて聞く声と口調に、久しぶりに復讐以外の事に興味が沸いた。
兵士が変わったのか、という程度の、ほんの小さな。
あまり見たくない鉄格子の向こうにいる兵士の顔を覗く。
冷たい鉄の棒の隙間から見えるのは、にやけ顔をした男。
こういう顔なのだろうと思える程にその笑顔は自然に感じ、
醜く汚れていた私の心に珍しく、憎しみ以外の感情が生まれた。
でもそれは、すぐに消し飛んだけど。
ξ゚听)ξ「そこにおいて頂戴」
5
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:46:14.63
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「はっ 畏まりました」
軍隊調で歯切れよく返事をする。
やはり私が、ここに入る前はどんな人間だったのか伝えられているようだ。
そうじゃなければ牢へ個別に食事を運ぶ命など、疑問視されてしまうだろう。
この役目に抜擢された所を見ると、国からの信頼が厚い兵士か。
はたまた、あの女直属の……息のかかった兵士か。
この男の二つ前の男は、最悪だった。
当初は怯え続けていただけの私を舐め回す様に見ていた。
直接手は出せなかったのか、出さなかったのかは知らないが……
触れられはしなかったものの、あの欲に埋もれた目は、思い出すとおぞましい。
それとは対照的な、今の兵士の笑顔。
前の男とのギャップで、この兵士の印象はなかなかに良い物だった。
だから私は。
ξ゚听)ξ「ちょっと貴方」
兵士を、呼び止めた。
6
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:47:18.74
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「はっ ほかに何か、ご入り用ですかお?」
不思議な口調だ。
堅苦しいのに、崩れているような、そんな口調。
出身地の方言だろうか、外の世界を知らない私に、それはわからない。
どちらにしろ、なんとなくそれが気に入り、突っ込まない事にした。
ガチガチの軍隊調で話されても、楽しくはない。
ξ゚听)ξ「時間はあるかしら?」
( ^ω^)「は? ……恐れながら、この後自分の食事が」
ξ゚听)ξ「そう では、ここで食べなさい」
(;^ω^)「え……いやしかし、それは……」
ξ゚听)ξ「こんなカビ臭い所では食べられないって言うのかしら?」
(;^ω^)「いえ、決してそのようなことは……」
ξ゚听)ξ「なら、急いで自分の食事をもってきなさい」
(;^ω^)「…………了解致しましたお……」
7
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:48:31.29
ID:IlmjK8oy0
折れ、渋々と返事をした後に、急ぎ足で廊下を戻って行った。
あの男が、兵士達の中でどんな立場に居るのかはわからないが、
恐らくは、先に述べた理由と、渋々ながらも了解した点から、
それなりの地位にはいるようだ。
ただの兵卒なら、自由に場所を移動して食事をとることなどできない。
それは唐突に思いついた、ただの暇潰し。
本当に、そんな程度のことだった。
※
(;^ω^)「た、大変お待たせしましたお」
ξ゚听)ξ「御苦労様 悪かったわね」
実際、さほど待ってはいない。
こんな場所じゃ、時間を気にする必要性もないから。
もとい、時間の感覚などとうに、忘れてしまっていた。
ξ゚听)ξ「そこに座りなさい」
8
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:49:38.82
ID:IlmjK8oy0
冷たい石畳を指差して、促がす。
男はそれに従い、地べたに座る。
かちゃりと、食器を乗せたプレートを、男は自分の前に置いた。
ξ゚听)ξ「悪いわね 椅子も机も無くて」
自分の口から飛び出した気遣いの言葉に、驚いた。
男も驚いたようで、一瞬きょとんとした表情をした後に。
( ^ω^)「いえ、慣れておりますお」
ξ゚听)ξ「そう」
私も質素なベットに腰掛けて、膝の上に食事を乗せたプレートを置き、食事をとり始めた。
それを見た男も、パンを口に運び始める。
野菜スープは少し冷めてしまっていたが、それでも体は少し、温まった。
ξ゚听)ξ「貴方」
( ^ω^)「はっ」
ξ゚听)ξ「名前は?」
9
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:50:35.21
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「内藤ホライゾンと申しますお」
ナイトウ……変わった名だ。
東の地方出身だろうか。そういえば、この辺りでは見ない黒髪だ。
ξ゚听)ξ「私は……わかるわね?」
( ^ω^)「勿論、存じておりますお」
まぁそれは、当然のことだろう。
我ながら、なぜこんな質問をしたのか疑問だ。
ξ゚听)ξ「構わないわよ 食事を続けても」
私がしゃべると、彼は手を止めて私を見て話すから、そう言った。
私に言わせると、それは非常に話し辛い。
( ^ω^)「承知致しましたお」
ξ゚听)ξ「それも」
( ^ω^)「は?」
ξ゚听)ξ「敬語はいらないわ 私は囚人と変わらないし」
12
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:52:09.11
ID:IlmjK8oy0
(;^ω^)「いや……貴女は仮にも……」
ξ゚听)ξ「でもこんな所に閉じ込められている それは事実よ」
(;^ω^)「しかしそれは」
ξ゚听)ξ「……それは?」
そう返すと、ナイトウは言葉に詰まった。
何故私が、ここに閉じ込められているのか。
どうやら彼は、それを知っているようだ。
そのことに、思う所があるのだろう。
( ^ω^)「……私からは、とても口にできませんお」
無難な返答。しかしそれは、素直に受け入れることができていない証拠。
それと同時に、言葉に潜む拒絶の色も感じ取れた。
対話した印象で、わかる。彼は生粋の軍人のはずだ。
そうなると、この件に関しては同じ返答、或いはこの場から離れてしまうことだろう。
仕方なく、話題を変える事にする。
しかし。
13
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:53:07.74
ID:IlmjK8oy0
見ればもう、ナイトウは食事を終えていた。
流石はニューソク国の屈強な兵士、と言うべきか。
よく見れば腕は太く、体つきはがっしりとしており、
口調以外にもそれらしさが窺える。
じっと私を見つめている。食事が終わるのを待っているのだ。
ξ゚听)ξ「女性を急かすのは感心しないわ」
(;^ω^)「も、申し訳ありません」
この辺りも、やはり軍人だと思えてしまった。
以前の私なら、即座に下がれと言っていたと思う。
しかし今は違う。
久しぶりにした会話のせいか、耳に入る声がとても心地良い。
久しぶりに見た笑顔のせいか、とても心が暖かく満たされる。
ナイトウの不器用な軍人部分が、少し愛らしく思えた。
ξ゚听)ξ「……ご馳走様」
食事の終わりは、そんな一時の終わりも意味していた。
14
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:54:29.17
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「では、私はこれで失礼しますお また、夜に」
私から食器を受け取り、そう言って一礼すると、彼は身を翻した。
ξ゚听)ξ「待ちなさい」
その背中を、止める。
ナイトウはシャンとした姿勢のまま振り返り、私を見た。
ξ゚听)ξ「可能なら、夜もここで食事を摂りなさい」
( ^ω^)「……それは、命令ですかお?」
ξ゚听)ξ「今の私に命令をする権限なんてないわ」
( ^ω^)「……命令なら、従いますお」
ずるい返しをする。
そんな事を言われたら……
ξ゚听)ξ「……ナイトウホライゾン 今宵もここで、食事をとりなさい」
( ^ω^)「承知致しました ツン・デレ、第一王女」
深々と頭を下げた後に、変わらぬ笑顔を見せ、ナイトウは今度こそ去って行った。
16
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:55:22.70
ID:IlmjK8oy0
地下の奥深く、冷たい牢に閉じ込められた、第一王女。
普通ならありえない状況だろう。
自分自身、何故こんなことになったのか、信じられない。
全ては、汚いあの女の策略のせいだ。
私を陥れた、あの女。
妹であり、第二王女である、デレ。
私と瓜二つの、双子の妹。
姉妹であることが。
同じ容姿であることが。
血が、繋がっている事が。
全てが、忌々しい。
ξ#゚听)ξ「…………っ」
無意識に、奥歯を強く噛み締めていた。
頭の中で歯の擦れる嫌な音が反響する。
それがさらに、私を苛立たせた。
17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:56:26.75
ID:IlmjK8oy0
久しぶりに、あの時の事を色濃く思い出した。
多分きっと、ナイトウのせいだ。
一年か、二年か、はたまたもっと長いのか、それとは逆に数ヶ月程度なのか。
陽の光も届かないこんな場所では、経った日数もわからない。
そんな曖昧な時間の感覚の中で、久しぶりに、と思った。
私の中では、閉じ込められてから過ぎた時間は、とても長く感じられた。
食事と寝た回数を判断材料に、石畳に傷を付けていたが、
途中から気が狂いそうになったから、それもやめた。
そんな孤独の中で、人と接した。
言うまでもなく、ナイトウのことだ。
不思議と、あの笑顔と口調は私を大いに落ち着かせる。
興味があるのは復讐をすることだけだったのに。
もう、そんな心は私から消え去ったと思っていたのに。
ナイトウとの出会いは、私に光明を与えるものだった。
彼が去った後の孤独。それがあの時に似ていたのだ。
だから、思い出してしまったのだ。
久しぶりに。
18
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:57:05.20
ID:IlmjK8oy0
※
ξ--)ξ「ん…………」
冷たく、硬い感触。
それ以外にも、痛い。
冷たくて、痛い。
ξ゚听)ξ「…………」
目を開けた。
全ての物が、ひっくり返っていた。
目の前に見える何本もの黒い線と、その向こう側にいる、見知った顔。
私の妹の姿も、ひっくり返っていた。
違う。
そこでやっと、自分が倒れている事に気付いた。
19
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:57:39.29
ID:IlmjK8oy0
ζ(゚、゚*ζ「お目覚めかしら」
ξ;゚听)ξ「デ……ぇ……」
うまく話すことができない。
舌が痺れ、呼吸をするのがやっとだった。
ζ(゚、゚*ζ「その方が都合がいいから、そのまま聞いて」
ζ(゚、゚*ζ「薬のせいで体の自由は少しの間効かないけど、じきに治るわ」
薬……?
何を……言って……
ζ(゚、゚*ζ「まず最初に、ごめんなさいね、お姉様」
ζ(゚、゚*ζ「お姉様にはここで、多分、ずっと、過ごしてもらいます」
…………え?
ζ(゚、゚*ζ「お姉様には、何の恨みもないわ」
ζ(゚ー゚*ζ「大好きだもの」
22
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
21:59:47.66
ID:IlmjK8oy0
ζ(゚ー゚*ζ「お父様が死んだのは、正直驚いたわ」
ζ(゚ー゚*ζ「病死だったけど……ま、謀殺でも別にどっちでもいいかな」
ξ;゚听)ξ「な………ぁ……ぁ……」
ζ(゚ー゚*ζ「予定より早かったなぁってくらい お父様の死の印象はそのくらい」
ζ(゚、゚*ζ「でも、私の予定が狂う事が、一番痛い」
あんなに。
あんなにお父様を愛していた、あの子が。
あんなに、小さい頃お父様に甘えていたあの子が。
なんて、恐ろしい事を。
ζ(゚、゚*ζ「……そんな目で見ないで お姉様のことは、本当に好きよ?」
ξ
)ξ「……が…………か……」
誰が、信じるか。
吐き捨ててやりたかったのに、痺れは未だ私を縛る。
23
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:00:55.06
ID:IlmjK8oy0
ζ(゚、゚*ζ「国のことは、私に任せておいて」
ζ(゚、゚*ζ「使えそうな男がいるから、ソイツを利用するわ」
ζ(゚、゚*ζ「何年かかるかわからないけど……落ち着いたら……」
ζ(゚ー゚*ζ「また、くるね」
そうか。
それが、目的か。
私がいなくなれば、自分が第一王妃として国を引っ張れる。
使えそうな男を王に仕立て上げ、実際に国を操るのは……
私のことは、適当な死体を作ればどうにでもなると言う事だ。
デレはこんな女だっただろうか。
信じられない。
信じたくない。
24
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:01:37.98
ID:IlmjK8oy0
しかし、肌に感じる冷たい石の感触が。
これが現実だと私に冷酷に告げていた。
背を向けたデレが、段々と遠くなっていく。
仲の良かった、妹が。
最愛だった、妹が。
妹だと思っていた、女が。
薬が切れ、やっと体が、口が自由になった時。
ξ;凵G)ξ「ぅ……あぁ……あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲しさと悔しさが、とめどなく溢れ出た。
25
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:02:30.82
ID:IlmjK8oy0
※
「ど、どうなされましたかお?!」
その声で、私は我に返った。
ξ;凵G)ξ「え……?」
気付けば私は、泣いていた。
涙などとうに涸れたと思っていたのに。
人の温もりが思い出させた、忌々しい過去。
それを思い出していたら、いつのまにか。
(;^ω^)「どこか、お体の具合が?」
鉄の格子の向こう側で、私を心配するナイトウ。
涙を流しているところを、男に見られた。
27
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:03:50.10
ID:IlmjK8oy0
王族の女にとって、言うまでもなくそれは屈辱に相当する。
それなのに。
なぜこんなにも、安心してしまうのだろう。
私に王家のプライドだとか、そう言った物がなくなったからなのか。
孤独の中で、知らぬうちにそこまで人を求めていたのか。
外の世界では、私はきっと死んだことになっているはずだ。
そうだ。
私はもう、死んでいるのだ。
それなら、恥じる事など何もない。
何をしようと、何を企てようと。
復讐しようと、自由だ。
ξ゚听)ξ「なんでもないわ」
涙を拭い、強く言い放った。
28
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:04:39.37
ID:IlmjK8oy0
それにしても、もう夕食の時間だとは。時間の感覚が完全に麻痺している。
ひょっとしたらあの時のことを思い出していたのではなく、夢を見ていたのかもしれない。
もしそうなら、悪夢とは言え久しぶりに夢を見たことになる。
ナイトウの顔を見つめた。
今回が二度目の、ナイトウの顔。
一度会っただけで、私の中で何かが変わった気がする。
何かが生まれた気がする。懐かしい物を、思い出した気がする。
夢を見た事も、ナイトウの影響なのかもしれない。
知りたい。
ξ゚听)ξ「ねぇ、ナイトウ」
( ^ω^)「はっ」
ξ゚听)ξ「貴方の事、話してくださる?」
29
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:06:23.66
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「私の事ですかお?」
ξ゚听)ξ「えぇ、故郷の事とか、色々と聞きたいわ」
近寄り、夕食を受け取る。
そのまま私は冷たい石の地べたに座り、食事を乗せたプレートを置いた。
床で食事をするなんて、初めての───……
違う。
幼い頃、あったはずだ。
お父様と、お母様と、あの女と。
お城の庭で、草の上に絨毯を敷いて、皆で食事をしたことがあった。
あの時の温かい物が、なぜかこの冷たい石畳の上でも仄かに感じる。
( ^ω^)「故郷、ですか」
それは多分、ナイトウの存在がそうさせるんだろう。
30
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:07:10.57
ID:IlmjK8oy0
ξ゚听)ξ「見たところ、東の方の出身じゃないかしら?」
( ^ω^)「……その通りですお」
ξ゚听)ξ「この辺りでは、黒髪の者は珍しいから」
( ^ω^)「名も無き、小さな村でしたお」
笑顔に、少しの影が差しかかった気がした。
( ^ω^)「そんな村は、戦火に耐える事などできるはずもなく……」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「私が十四の時に、戦争に巻き込まれて、存在すら無き物になりましたお」
ξ゚听)ξ「……悪い事を、聞いたわね」
( ^ω^)「今の世では仕方のないことですお」
ξ゚听)ξ「……そんな村の出身の貴方が、なぜここに?」
( ^ω^)「……」
33
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:07:44.36
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「村で唯一の子供だった私は、皆に優しくされていましたお」
( ^ω^)「村人全てが、私の親の様な存在で……」
( ^ω^)「村の近くで戦が始まった時」
( ^ω^)「村からかき集めた少しばかりのお金と食糧を渡されましたお」
( ^ω^)「お前は生きろ ニューソクに入軍し、戦争を終わらせてくれ、と」
( ^ω^)「……その夜、戦いから逃れた兵達によって、村は……」
生きる為の、略奪行為。
ξ゚听)ξ「……そう」
34
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:08:35.20 ID:IlmjK8oy0
( ω
)「……」
一瞬、ナイトウが目を伏せた。
( ω
)「その兵達が、ニューソクか……相手国のトウホウかはわかりませんお」
( ω
)「でも……そんな悲しいことは起こしちゃいけないんですお」
( ω
)「…………」
ξ゚听)ξ「ナイトウ……」
( ω
)「だから……」
( ^ω^)「だから私は、ニューソクに所属して、戦争を終わらせるんですお」
そう言ったナイトウは、またいつもの笑顔に戻っていた。
36
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:09:57.92
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「幸い私には、武の才があったようで、今はそれなりの地位におりますお」
ξ゚听)ξ「……」
なんと強い男なのだろう。
なんと優しい男なのだろう。
戦乱の世、間違いなく最下層に位置していた男は。
自分の様な者をこれ以上生み出してはならないと誓い。
たった一人で、戦を終わらせようと。
真っ直ぐな、心で……
37
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:11:46.06
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「だから……」
( ^ω^)「だから貴女も、諦めないでくださいお」
ξ゚听)ξ「……っ!」
( ^ω^)「生きている限り、望みはありますお」
( ^ω^)「それを忘れないでほしいですお」
胸が、高鳴る。
ナイトウは、知っている。
39
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:12:43.79
ID:IlmjK8oy0
私が、復讐を考えていることを知っている。
不思議な力を秘めた笑顔に、私は動くことを忘れていた。
( ^ω^)「……食べないんですかお?」
ξ
)ξ「……そんな気分じゃ……ないわ……」
( ^ω^)「……わかりましたお」
するとナイトウは、自分の食器を乗せたプレートを持ち、立ち上がった。
( ^ω^)「気が向いたら、食べて下さいお 今日は置いたままにしておきますお」
( ^ω^)「……明日もまた、きます 失礼しますお」
そう言って、ナイトウは暗い廊下の向こうへと消えて行った。
私はその姿を、ぼうっと、見えなくなってもずっと、見つめていた。
40
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:14:04.97
ID:IlmjK8oy0
※
その日から、ナイトウは自分から毎日食事を共にしてくれた。
( ^ω^)「王女は、嫌いな食べ物はないんですかお?」
ξ゚听)ξ「ここに入る前は、たくさんあったわ」
( ^ω^)「では今は、ないと?」
ξ゚听)ξ「食べなきゃ、死んでしまうから 選り好みはやめたの」
( ^ω^)「なるほど いいことですお」
ξ゚听)ξ「案外、追いこまれると何でも食べられるものね」
( ^ω^)「私も遠征先では、色々と食べましたお 現地調達して…」
ξ゚听)ξ「……さすがにその話は、食事中は遠慮しておくわ……」
(;^ω^)「申し訳ありませんお……」
41
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:14:38.03
ID:IlmjK8oy0
※
ξ゚听)ξ「戦争はどうなっているの?」
( ^ω^)「ニューソクは日に日に、その勢力を拡げていっていますお」
ξ゚听)ξ「……そう」
( ^ω^)「ニューソクの天下は揺るぎないですお」
ξ゚听)ξ「……あの女は、よくやっているようね……」
( ^ω^)「……はい 前王を凌ぐ手腕ですお」
ξ゚听)ξ「……王には、どんな男が……?」
( ^ω^)「……デレ様の、操り人形ですお」
ξ゚听)ξ「……」
43
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:15:55.45
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「決を下すのは、確かに王ですが……」
( ^ω^)「政治にしても、戦にしても、デレ様が軸となっていますお」
ξ゚听)ξ「そう……使い易いとは、そういうことなのね」
(
ω
)「……確かに、扱いやすいと思いますお」
ξ゚听)ξ「こんなこと聞かれたら、貴方は首を飛ばされてしまうわね」
(;^ω^)「そ、それは……どうかご内密に……」
ξ゚听)ξ「どうしようかしら」
(;^ω^)「ご、ご慈悲を! ご容赦を!」
ξ゚听)ξ「はいはい 言わないでおいてあげるわ」
( ^ω^)「ありがとうございますお」
ξ゚听)ξ「……貴方が死んだら、私が困るからね」
( ^ω^)「……王女……」
44
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:17:25.61
ID:IlmjK8oy0
※
ξ゚听)ξ「ナイトウは」
( ^ω^)「はい?」
ξ゚听)ξ「毎日毎日ここへきて、大丈夫なの?」
( ^ω^)「大丈夫ですお するべきことは、やっていますから」
ξ゚听)ξ「そう……」
( ^ω^)「ここに来るのが、毎日楽しみですし」
ξ*゚听)ξ「……何言ってるのよ……」
( ^ω^)「? 素直にそう思ってますお」
ξ゚听)ξ「……天然……なのね……」
(;^ω^)「は?」
45
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:18:29.78
ID:IlmjK8oy0
※
どうでもいいことから、国の事。
私の質問に、ナイトウは包み隠さずに答えてくれた。
私を安心させる笑顔で。
でも時々、私に何かを匂わせる様に。
私の中を探る様にも感じたけど、不思議と嫌な気はしなかった。
心を開かれていく感覚。
それが、嫌いじゃなかった。
優しい笑顔と大きな体が、どこかお父様に似ていたからだろうか。
何にせよ、私にとってナイトウの存在は、大きな物になっていた。
そして、何日、何週間過ぎたかわからない頃。
その時が、来た。
48
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:20:23.49
ID:IlmjK8oy0
※
( ^ω^)「王女は」
ξ゚听)ξ「なにかしら?」
( ^ω^)「戦争について、どう考えておられますかお?」
ξ゚听)ξ「……正直、あまり考えた事はないわ」
( ^ω^)「そうですかお」
ξ゚听)ξ「外に居た時もお城は平和だったし、ここじゃ何もわからないし」
( ^ω^)「それは確かに」
ξ゚听)ξ「でも、ナイトウと会ってからは、変わったわ」
( ^ω^)「と、言いますと?」
49
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:21:52.01
ID:IlmjK8oy0
ξ゚听)ξ「少しでも早く、終わらせないといけない そう思うわ」
( ^ω^)「王女……」
ξ゚听)ξ「争いに犠牲はつきものよ それは仕方がないわ」
( ^ω^)「そう、思いますお」
ξ゚听)ξ「だからこそ、少ない犠牲で早く終わらせたい」
ξ゚听)ξ「ナイトウの様な人を、少しでも減らしたい」
ξ゚听)ξ「無知な女の、浅はかな考えだけど、そう思うわ」
( ^ω^)「とんでもないですお 心に響きましたお」
ξ゚听)ξ「そう……ありがとう」
( ^ω^)「……いつか、再び……」
ξ゚听)ξ「え?」
( ^ω^)「ツン王女が、返り咲く日を願いますお」
50
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:22:56.26
ID:IlmjK8oy0
ξ゚听)ξ「ナイトウ……」
( ^ω^)「……出しゃばりすぎましたお」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「ナイトウは……」
ξ゚听)ξ「ナイトウは、私が何を考えているのか、解るの?」
( ^ω^)「……」
52
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:24:50.03
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「普通は……」
( ^ω^)「普通なら、こんな状況に陥ったら、自害するか、発狂してしまうと思いますお」
( ^ω^)「だけど王女は、そうはならずに、しっかりと自己をお持ちですお」
ξ゚听)ξ「…………」
( ^ω^)「それはきっと、何か考えが……信念があると」
( ^ω^)「そんな気が、するんですお」
( ^ω^)「それは多分、私に似た物であるとも、感じてますお」
ξ゚听)ξ「ナイトウ……」
53
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:26:15.55
ID:IlmjK8oy0
ξ゚听)ξ「……でもそれは、国にとっては大変なことよ」
( ^ω^)「そうです……おね」
ξ゚听)ξ「それでもナイトウは私を後押ししているような気がする」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「それは、何故かしら」
( ^ω^)「…………」
ξ゚听)ξ「……答えられない?」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……そう……」
( ^ω^)「……実は」
ξ゚听)ξ「うん?」
54
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:27:35.57
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「王女の食事係りへは、自分から申し出たんですお」
ξ゚听)ξ「え……」
(
ω )「前の二人の男を、覚えていますかお?」
ξ゚听)ξ「……覚えているわ」
( ω
)「あの二人、実は入軍からの仲でして、王女のことを聞いていたんですお」
ξ゚听)ξ「……そうなの……」
( ^ω^)「王直属の近衛騎士団ですお」
ξ゚听)ξ「……! まさか、あの中から……」
( ^ω^)「前王が死去し、騎士団はデレ様直属の部隊となりましたお」
ξ゚听)ξ「……え? お母様は……?」
(;^ω^)「…………」
ξ;゚听)ξ「まさ……か……」
56
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:29:18.76
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「デレ様の結婚候補者に、近辺の領主の息子がおりましたお」
( ^ω^)「近衛騎士団を率いて、前王妃はその方に会いに行きました」
(;^ω^)「……そこで振る舞われた……食事に……」
ξ;゚听)ξ「そんな……」
( ^ω^)「即効性の毒でしたお その領主とは古くからの付き合いで……
いつの頃からか毒見を怠っていた それが仇に……」
ξ゚听)ξ「…………そう」
( ^ω^)「領主の一族はその場で処刑されましたお」
ξ゚听)ξ「……なるほど……ね……」
( ^ω^)「……それにより、権限がデレ様へ移ったんですお」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「後は実に、スムーズでしたお」
59
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:31:08.57
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「デレ様が仕立てた操り人形のような王が現れ」
( ^ω^)「王妃は亡くなられたことになり、デレ様の王政が始まりましたお」
ξ゚听)ξ「…………」
(
ω
)「王の死については、未だ真相はわかりませんが……」
( ^ω^)「前王妃の死は……どう考えても……」
ξ゚听)ξ「……私ばかりでなく……お母様まで……!」
( ^ω^)「そういう、ことですお」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「あくまで、想像の範疇ですが……」
ξ゚听)ξ「……いいわ……ありがとう」
( ^ω^)「……だから私は……怖いんですお」
ξ゚听)ξ「…………」
62
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:32:57.21
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「肉親にここまでのことができる、デレ様が」
( ^ω^)「笑顔で虫を殺す子供のように、人を殺すデレ様が」
( ^ω^)「……怖いんですお」
ξ゚听)ξ「ナイトウ……」
( ^ω^)「あんな方がこの地を治めたらと思うと……」
( ^ω^)「戦争の終局も、素直に喜べませんお」
ξ゚听)ξ「……圧政、ね」
( ^ω^)「……はい」
( ^ω^)「だから……」
( ^ω^)「だから私は……王女と接触したんですお」
64
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:34:05.75
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「王女がどんな方かこの目で見たくて」
( ^ω^)「デレ様に、申し出たんですお」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「最初は、そんなつもりでしたお」
( ^ω^)「でも、王女と話を続けていくにつれて……」
( ^ω^)「日々を重ねるにつれて……」
( ^ω^)「王女の中に、燻っている思いが、諦めていない心があることを、感じましたお」
ξ゚听)ξ「ナイトウ……」
(
ω )「勝手ながら、私はそれに希望を抱いたんですお」
( ω
)「私に力がないばかりに……申し訳ないですお」
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火) 22:35:14.05
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「ツン様」
ナイトウが初めて、私の名を呼んだ。
( ^ω^)「この牢は……どこにあると思いますかお?」
……地下……でしょう?
( ^ω^)「この暗い廊下と階段の先は、実に華やかな部屋なんですお」
それって。
( ^ω^)「……ここは、隠し部屋なんですお」
( ^ω^)「通じている先は……」
66
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:36:25.06
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「デレ様の、自室ですお」
69
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:37:35.35
ID:IlmjK8oy0
※
ナイトウが去り、一人暗い牢の中で天井を仰いで、考える。
この暗い道の向こうに、デレの部屋がある。
何故それを、私に伝えたのか。
簡単だ。
ナイトウは、私の声を待っているのだ。
いつでも、ここから出すことができる。
いつでも、デレに復讐する機会を与えられる。
私がそれをすると言うのを、待っているのだ。
デレの部屋にある、隠し部屋。
私が今まで兵卒に見つからなかった事にも、合点が行く。
73
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:39:55.56
ID:IlmjK8oy0
王女の自室に男が入るなど、万死に値する。
なるほど、よく考えたものだ。
────デレ様が、怖いんですお
恐ろしい。
私をここに閉じ込めるだけに留まらず。
なんと、お母様を謀殺していたという。
その全ては、国を手中にする為だけに。
自己の利益だけに、私を、お母様を。
ナイトウと同じく、私も怖い。
77
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:41:31.65
ID:IlmjK8oy0
────予定より早かったなぁってくらい お父様の死の印象はそのくらい
お父様の死に対してのデレの言葉。
予定より、早かった。
明らかに、近々死ぬ事を想定している言葉だ。
もしかしたら、薬で少しずつ?
……十分に、考えられる。
まさか、お父様までも。
ξ#
)ξ「────ッ!」
強く、固いベットを殴り付けた。
古い木が軋む音が、とても耳障りだ。
78
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:42:53.39
ID:IlmjK8oy0
だけど、それ以上に。
あの女が、目触りだ。
もう。
もう、体が、心が、治まらない。
あの女を、この世から消さないと、治まらない。
私は、決意をした。
80
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:44:04.81
ID:IlmjK8oy0
※
ξ゚听)ξ「ナイトウ」
次の日の夜、食事を運んできたナイトウに、言い放った。
ξ゚听)ξ「私をここから、出しなさい」
自分の声が、驚くほど響いて聞こえる。
ナイトウは黙って、私を見ていた。
そして。
82
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:46:00.38
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「ツン様」
ξ゚听)ξ「……?」
( ^ω^)「よくぞ決心されましたお」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「その言葉を、待っていましたお」
それは知っている。
どちらかと言うと、ナイトウの情報で決意したのだから、
ナイトウに後押しされたとも言える。
だが、決意したのは私自身だ。
それにナイトウも、喜んでいるようだ。
ξ゚听)ξ「……」
ナイトウが牢に近づき、鍵を開けた。
錆びた鉄の耳障りな音がした後、外への扉が、開いた。
84
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:47:36.59
ID:IlmjK8oy0
暗い廊下と、冷たい空気は変わらない。
それなのに、とても世界が広く感じた。
そして並んだナイトウも、とても大きかった。
ナイトウは腰に携えていた小剣を抜き片膝をついて跪く。
両手で刃を持ち、柄を私に向け、差し出した。
私は剣の柄を握り、刃をナイトウの左肩へ乗せる。
ξ゚听)ξ「内藤ホライゾン ニューソク国第一王女の名の下に命じます」
ξ゚听)ξ「……私を、護りなさい」
( ^ω^)「内藤ホライゾン 騎士として、貴女に忠誠を誓います」
本来であれば、煌びやかな城内で行われる、忠誠の儀。
蝋燭の頼りない灯りの下、たった二人だけで行われたそれは。
私にとって、とても心強い騎士の誕生だった。
87
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:50:20.72
ID:IlmjK8oy0
ξ゚听)ξ「……行きましょう」
私の声に、ナイトウは立ち上がる。
( ^ω^)「その剣は、ツン様がお持ち下さい」
ξ゚听)ξ「…………」
( ^ω^)「決着は、ご自身の手で」
ナイトウの言葉を聞いて、しっかりと剣の柄を握り締めた。
ξ゚听)ξ「……あの女は……今この先に……?」
( ^ω^)「います」
即答だった。
ここに来る際に、デレの部屋を通らなければいけないのだから、解りきった事か。
( ^ω^)「……大丈夫ですかお?」
88
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:52:15.04
ID:IlmjK8oy0
ξ゚听)ξ「……えぇ、問題ないわ」
( ^ω^)「……では、私が先に」
ナイトウの大きな背中の後に続く。
久しぶりに歩くという行為をしたが、特に問題はなかった。
一歩、また一歩。
あの女に、近づいていく。
剣を握る手に、さらに力がこもった。
もやもやと私の中で蟠っていた恨みが。
行き場を求め、私の中を駆け巡っていた殺意が。
握りしめた小剣に流れていく。
果たして、あの女の顔を見た私は平静を保っていられるだろうか。
91
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:54:19.29
ID:IlmjK8oy0
長い階段が続く。
螺旋状に、ぐるぐると。
少し、息が切れる。
やはり体力は低下しているようだ。
こんな調子で大丈夫なのか、少し不安になる。
だけど、私にはナイトウがいる。
だからきっと、大丈夫だ。
いつの間にか私は、ナイトウを信じ切っていた。
孤独の中で、私に触れ、優しく接してくれた唯一の人。
哀しみを背負って、私に自分の夢を重ねた人。
ナイトウの為にも。
私が、やらなければ。
94
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:56:23.15
ID:IlmjK8oy0
そして、ナイトウが止まった。
顔を見合せ、二人で頷いた後に。
ナイトウが重い扉を開ける。
眩しい光が、闇を貫く。
やがて目が慣れた時。
あの女が、こちらを見ていた。
95
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:57:50.10
ID:IlmjK8oy0
ζ(゚、゚*ζ
居た。
私を閉じ込めた、張本人が。
大切な両親を謀殺した、妹だった女が。
ξ#
−
)ξ「……ッ!」
音がたつ程に、奥歯を強く噛み締める。
ζ(゚ー゚*ζ「……きたんだ、ね」
あの頃と、何も変わらない笑顔で。
ゆっくりと、しゃべりだした。
96
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
22:59:34.15
ID:IlmjK8oy0
ζ(゚ー゚*ζ「お姉様、久しぶり」
ζ(゚ー゚*ζ「元気そうでよかったわ」
ξ#゚听)ξ「黙れッッ!!」
ζ(゚、゚*ζ「……怖いなぁ……ごめんね」
ζ(゚、゚*ζ「そろそろ来る頃だと、思ってたわ」
ξ#゚听)ξ「うるさいッ!」
ζ(゚、゚*ζ「ありゃりゃ……まぁ、仕方ないかぁ……」
もう、治まらない。
私はデレに歩み寄る。
そんな私を、デレはじっと見ていた。
98
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
23:01:21.56
ID:IlmjK8oy0
ζ(゚、゚*ζ「……お姉様、ごめんね」
ζ(゚、゚*ζ「こうするしか……浮かばなかったの……」
ξ#゚听)ξ「何が……何がよ!!」
ζ(゚、゚*ζ「……敵が、見えなかったの」
ζ(゚、゚*ζ「お父様と、お母様を殺した、敵が」
………何を……
何を……言った……?
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火) 23:03:58.54
ID:IlmjK8oy0
ξ
)ξ「え……?」
ζ(゚、゚*ζ「……私は、殺してない」
ζ(゚、゚*ζ「でも、敵の姿が見えなかった」
ζ(゚、゚*ζ「お父様の死の後、私はすぐに手を打った」
ζ(゚、゚*ζ「二人一緒だったら、多分どっちかがそのうち殺されてたから」
ζ(゚、゚*ζ「だから、お姉様を隠したの」
ζ(゚、゚*ζ「私が殺される前に……敵を……暴く為に……」
104
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
23:05:40.57
ID:IlmjK8oy0
デレの視線が、私からはずれた。
デレの視線を、無意識に追う。
その先には。
(
ω
)
ナイトウ。
私の、たった一人の、騎士。
106
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
23:07:37.40
ID:IlmjK8oy0
ζ(゚、゚*ζ「お姉様をここにくるように仕向けたのは……貴方ね」
( ω
)「知らないお」
ζ(゚、゚*ζ「……なぜ……貴方が……」
( ω
)「……」
ζ(゚、゚*ζ「答えなさい ニューソク国、国王、内藤ホライゾン」
…………え?
今……なんて……
ζ(゚、゚*ζ「婚約者候補が次々と死んで……近衛騎士団から文武に長けた者を選出した」
ζ(゚、゚*ζ「血縁ではない為に、手腕を量る期限付き条件下で、ね」
ζ(゚、゚*ζ「……あなたは立派に、国土を拡大させていった」
ζ(゚、゚*ζ「それなのに……」
107
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
23:09:24.88 ID:IlmjK8oy0
( ω )「嘘だお」
ζ(゚、゚*ζ「───ッ!」
( ω
)「ツン様、出鱈目ですお」
ξ#゚听)ξ「……そうよ……この期に及んで……見苦しいわよ!」
ζ(゚、゚*ζ「……お姉様……」
ξ#゚听)ξ「じゃあなぜ、今まで姿を見せなかったの?!」
ζ(゚、゚*ζ「それは……」
ξ#゚听)ξ「行ってごらんなさいよ!」
ζ(゚、゚*ζ「……お姉様を見てると……辛くて……私……」
ξ#゚听)ξ「……理由にならないわよ! そんなの!」
ζ(゚、゚*ζ「…………」
ξ#゚听)ξ「……デレ……」
ζ(゚、゚*ζ「……」
108
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
23:11:19.68
ID:IlmjK8oy0
ξ#゚听)ξ「私は、復讐しにきたのよ」
ζ(゚、゚*ζ「お姉様……」
ξ#゚听)ξ「アンタを……」
ξ#゚听)ξ「殺す為に!!」
110
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
23:12:39.60
ID:IlmjK8oy0
駆けた。
デレは、笑っていた。
とても乾いた笑みで。
まるで全てを、諦めたように。
そして。
私と、私が握った小剣を。
受け入れた。
111
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
23:14:37.09 ID:IlmjK8oy0
ζ( 、
;ζ「……う……あ……」
腹に突き刺した小剣は、背中まで飛び出した。
初めて、人を刺した感触は、よくわからなかった。
頭に血が上っていたせいかもしれない。
手に伝わる、ぴくりと動く肉と、脈打つ臓器と、ぬるぬるとした血の感触。
ζ(
、
;ζ「ごめん……ごめ……ん……おね……ま……」
私に倒れかかり、耳元で謝り続けていた。
うるさい。黙れ。この……親殺し……!
ζ(
、 ;ζ「だいす……き……おねぇ……さ……」
………………
112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火) 23:16:10.60
ID:IlmjK8oy0
ζ( 、 ;ζ「おんな……って……だめ……ね……」
ζ( 、
;ζ「あいし……た……人を……しんじ……ちゃ……」
ζ( 、
;ζ「わた……し……も……しんじて……た……」
ζ( 、 ;ζ「それなの……に……ない……と……!」
ζ(
、 ;ζ「さっ……きの……で………わか……た……こと……」
ζ( 、
;ζ「さ……ご……に……こ……これだ……け……」
ζ( 、
;ζ「──────…………」
114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火) 23:17:56.98
ID:IlmjK8oy0
最後に、私に言葉を残して、デレは事切れた。
本当に……
本当に……これでよかったのだろうか。
ねぇ、ナイトウ、教えて。
私を安心させて。
ナイトウ……
115
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
23:19:19.39
ID:IlmjK8oy0
( ^ω^)「ツン様」
ξ;凵G)ξ「ナイトウ!」
私はナイトウの胸に飛び込んだ。
暖かい。とても、安心する。
( ^ω^)「……お見事です……これで……前王達もうかばれますお」
ξ;凵G)ξ「う……ナイトウ……」
( ^ω^)「……処理は私が……ツン様はお休みください」
嫌だ。
もっと私を、安心させて。
私は間違っていなかったと、感じさせて。
デレの最期の言葉を、否定させて。
116
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
23:20:24.46
ID:IlmjK8oy0
ξ;凵G)ξ「ナイトウ……」
( ^ω^)「はい?」
ξ;凵G)ξ「……お父様達を殺したの……」
( ^ω^)「……」
ξ;凵G)ξ「ホントに……デレだよ……ね?」
117
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/01/13(火)
23:21:33.01
ID:IlmjK8oy0
『お姉様……』
『ナイトウは……』
『嘘をつく時に……』
(
ω
)「はい 彼女こそが、黒幕ですお」
『目を、伏せるの』
終わり。
ありがとうございました
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