( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです
──第11話 『恐怖』
2 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 22:53:04.19 ID:p1acvGLe0
最初は、どうでもよかった。
高校に行けりゃ、どこでもいいって思ってた。
てことで、楽に入れそうな覇洲(ハス)高校を選んだ。
中学三年になったばかりの頃、進路希望の事前調査だかなんやらの紙に、
第一志望、覇洲高校と書いた。
本当に、高校に入れりゃ、どこでもよかったんだ。
そんな俺の考えを吹き飛ばしたのが、夏にあったVIP高校の見学会。
字都(アザト)市内全ての中学校でそれは行われたらしい。
今思えば、それもVIPの企みの一つだったともとれる。
見学会で見た、大規模な教会を感じさせるVIP高校の風貌。
その壮大さに、心が震えた。
ここに通いたいと、心から思えた。
それからは、勉強に没頭した。
一緒に馬鹿をやってた友達と遊ぶ事も忘れ、
試験当日までずっと、ずっとずっと、勉強していた。
その甲斐あって、俺は晴れてVIP高校に合格を果たした。
一つの事に没頭して、初めてやり遂げることができた。
そんな喜びを、味わった。
3 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 22:55:18.10 ID:p1acvGLe0
从 -∀从「津阿都(ツアト)の研究所は……VIP高校だ」
そんな苦労をしてやっと入ったVIP高校が。
まさか、研究所の一つだったなんて。
(;゚∀゚)「マジ……かよ……」
驚きは、隠せない。
通い始めて、早三年目。
その中で、そんなことを思わせる事も、場所も、何一つなかった。
もっとも、そんな頭でV高を見ているわけなかったのだから、
目につかないのも、当然のことだと言える。
しかし……
从 ゚∀从「……マジだ」
関係者のハインが言うのだから、そうなのだろう。
神妙な顔をして俺を見るミセリさん、モナーさん、ハイン。
その顔を見ればわかる。
今の俺が、どんな顔をしているのかが。
5 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 22:57:32.08 ID:p1acvGLe0
だけど。
だけど、今はそんなこと、思っている時じゃない。
从 ゚∀从「……責任者の名は、鈴木ダイオード」
鈴木……ダイオード。
確か、ブーン達のクラスの担任だ。
それがまた、拍車をかけた。
今、するべきこと。
( ∀ )「……モナーさん」
返事はなかった。
静かに俺を、見つめていた。
ブーン達は、今もいるのだ。
敵の、腹の中に。
( ゚∀゚)「V高に、いきましょう」
本能が、告げていた。
6 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 22:58:16.53 ID:p1acvGLe0
( ^ω^)はペルソナ能力を与えられたようです
第11話『恐怖』
8 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:00:53.63 ID:p1acvGLe0
ざわり、ざわりと、それは這い寄る様に。
縋りつくように、ねっとりと、絡みつくように。
見えない影が、迫る様な錯覚。
怒り、妬み、恨み。
どろどろの感情から生まれるは、殺意。
矛先は、鏡。
貫くは、己と同じ姿の、少女。
/ ゚、。 /「…………」
学校の屋上に佇む、鈴木ダイオード。
足元から感じるその波に、静かに身を寄せていた。
どこを見ているのか。
何を思っているのか。
美しい顔立ち。しかし、完璧なまでの、無表情。
それからは、何事も感じ取ることは不可。
/ ゚、。 /(美しい……が……)
9 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:03:31.06 ID:p1acvGLe0
初めて、その顔に感情が浮かんだ。
ほんの僅か、注視しないと気付かない程の、変化。
両の眉が、少しだけ、その幅を寄せた。
それすらも、ダイオードを知る者にとっては、珍しい事だった。
/ ゚、。 /(少し……やりすぎだな……)
突如VIP高校を襲った衝撃。
立つことも、這うことすらも、抗うことができない、激震。
その事を指していた。
デレに預けた、黒きトラペゾヘドロン。
モララーが持つ物とはまた少し違う。
所持者のダイオードすら、その真価は見出せていなかった。
/ ゚、。 /(まぁ、いい……)
風にそよぐ柳のように。
緩やかに流れる川のように。
黒幕は、事の始終を見守ることにした。
10 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:05:08.83 ID:p1acvGLe0
※
悪寒。
それだけでは表せられない。
心臓を鷲掴みにされたような、圧迫感。
にじり寄る、不安。
形の見えない、闇の影。
(;´∀`)(これは……)
ミセ;゚−゚)リ(大きな力……いえ、違う……これは……)
仏道を歩む二人は、すでに感じ取っていた。
異変。
そして、言い知れぬ巨大な何かを。
それは、津阿都神社から離れた場所。
文字通り恐怖に揺れる、VIP高校からであった。
11 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:07:20.32 ID:p1acvGLe0
モ;゚−゚シ『……こわい……』
モショもそれを感じ取っていたようだ。
不安を和らげるように、ミセリがモショを抱き締める。
それはモショの為なのか、はたまた自身の為も含めてなのか。
( ´∀`)(……まず、するべきこと……)
心を落ち着かせ、冷静に思考を巡らせる。
現地にいるブーン達は、この異変をすでに感じ取っていることだろう。
とするならば。
( ´∀`)「アサピーに連絡をしてみます ジョルジュさんはショボンさんへ」
最も冷静でいるであろうショボンを、モナーは選んだ。
袴の袖から携帯を取り出し、アサピーへ電話をかける。
ジョルジュもすぐさま、ショボンの携帯へ電話をかけた。
………………。
………………。
13 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:08:52.83 ID:p1acvGLe0
二人が聞いたのは、淡々と語る女性の声だった。
『おかけになった電話番号は……』
(;゚∀゚)「……繋がんねぇ……」
( ´∀`)「……こちらもです」
ジョルジュは急いで、ブーン達の携帯へも電話をかける。
しかし結果は、同じ。
再度圧し掛かる、重苦しい空気。
しかし、すぐにそれを退けたのは。
( ゚∀゚)「……行きましょう V高に」
ジョルジュだった。
現地のブーン達と連絡がとれない今。
できることは、それ一つ。
( ´∀`)「……はい すぐに車へ」
モナーの返事を聞くと同時に、ジョルジュは駆けだした。
14 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:11:11.86 ID:p1acvGLe0
けたたましい足音を残し、ジョルジュは道場を出て行く。
しかしモナーは、すぐに後を追いかける事はしなかった。
( ´∀`)「ミセリ」
ミセ*゚−゚)リ「はい」
( ´∀`)「ミセリも、ついてきなさい」
ミセ*゚−゚)リ「わかりました」
凛とした、はっきりとした返事。
その姿からは、先程の不安の色は見えていない。
しかしなぜ、危険な地へミセリを伴うのか。
それは今も尚抱き締めているモショが示している。
モショに触れる事が出来る。
それは即ち、ペルソナ能力を所持している事の証。
モショを離して一度頭を撫でた後に、ミセリは急いで食器を片付け出した。
16 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:13:33.07 ID:p1acvGLe0
从 ゚∀从「あたしも」
( ´∀`)「いえ、ハインさんはここに居て下さい」
ハインの申し出を読んでいたのか、モナーはすぐに却下した。
从;゚∀从「なんでだよ」
( ´∀`)「……危険な予感がします 守り切れる保障が、できないくらいに」
玖都留(クトル)研究所の流石兄弟を歯牙にもかけなかったモナーが、はっきりと告げた。
それほどまでに、感じた力は強大な物だったのか。
( ´∀`)「大丈夫、すぐに戻ってきます」
一転して、安心させるように言う。
しかし当のハインは、納得できないと言った様子だ。
( ´∀`)「それに……」
モナーが視線を移す。
その先には、未だ恐れ、震え続けるモショの姿。
( ´∀`)「モショさんを、一人にはできないでしょう」
18 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:16:06.42 ID:p1acvGLe0
从 ゚∀从「……」
確かに、こんな状態のモショを一人にしておくのも心配だった。
かと言って、連れて行くのもまた残酷とも思える。
ハインの目に映る、モショの姿。
映っているのはモショだけなのか、はたして。
从 ゚∀从(…………)
( ´∀`)「ここなら、安全です 優秀なボディガードが居ますから」
そんな人物は見当たらない。
ハインは気休めかと思ったが、モナーがそんな無責任な事を言うだろうかと、
考えを改める。
ハインにとって、安全かどうかは関係なかった。
確かに、戦えない自分がついていけば、足手まといになることは必至。
だがやはり、それよりも大きな。
从 ゚∀从(モショを一人にはできない、か……)
彼女の存在。
20 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:19:05.17 ID:p1acvGLe0
少しの間を置いて、ハインはせっせと片付けているミセリに近寄ると、
从 ゚∀从「あたしがやっておくよ」
ミセ;゚ー゚)リ「いえ、お客様にそのようなことは……」
从 ゚∀从「いいって 泊めてもらってる礼だ それよりも、な?」
早く、行ってやってくれ。
ハインは敢えて言葉にせず、目で語る。
その視線にミセリは大きく頷くと、巫女衣装を優雅に翻しながら、外へと駆けて行った。
残ったのは、モナーとハイン。
( ´∀`)「……お願いします」
从 ゚∀从「ああ、早く帰ってこいよ」
一言交わし、駆けはしないものの、モナーも早足で道場を後にする。
从 -∀从「……はぁ……」
モショと二人だけになったハインは、大きな溜め息を、一つ。
22 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:21:13.83 ID:p1acvGLe0
モ;゚−゚シ『おねーちゃん……こわい……』
モショは未だ感じられる負の波動に、身を震わせていた。
从 ゚∀从「大丈夫、大丈夫だ」
できることなら、抱き締めてやりたいと、ハインは強く思った。
しかしそれは叶わない。
自虐的な笑みを浮かべながら、食器を片づけ始める。
从 ゚∀从(……色々……考えてみるか……)
モショに触れられるように。もっと温もりを、伝えられるように。
服やモショの帽子を応用すれば、可能なはずだ。
モララーに見定められた知能は、全て彼女に向けられていた。
从 ゚∀从「よーし、モショ、手伝う……フリを頼む!」
モ*゚−゚シ『……てつだうー』
返事をしたモショは、いつもの様子までとはいかないものの、幾分か落ち着いた様子だ。
二人は並んで、台所へと向かっていった。
23 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:23:19.13 ID:p1acvGLe0
( ゚∀゚)「……なんだ……こりゃ」
真っ先に飛び出し、靴を突っ掛けながら外に出たジョルジュ。
その目に一番に飛び込んできたのは。
( ゚∀゚)「扉……?」
淡い、藍色の光をぼんやりと放つ、木製の古めかしい扉だった。
ベルベットルーム。
ブーンとツンが、昨晩開いた扉。
意識と無意識の挟間にある、青き部屋。
( ゚∀゚)(…………)
ジョルジュは不思議と、なんの戸惑いもなく扉のノブに手をかけた。
呼ばれている。開けなくてはならない。
ブーン達の時と同じく、ジョルジュもまた、扉に呼ばれていた。
ゆっくりとノブを捻り、扉を開けた。
25 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:25:53.34 ID:p1acvGLe0
入って扉を閉めると、そこはやはり青だけの空間。
そして次々と、気がつけばそこにあったモノ達。
一つ一つ、ジョルジュがそれを認識する度に、増えて行く。
木製の椅子、グランドピアノ、旋律、歌声。
そして現れる、ナナシ、ベラドンナ。
イゴール。
イゴール『ようこそ、ベルベットルームへ』
( ゚∀゚)「……」
イゴール『我々はフィレモン様の従者 我が名はイゴールと申します』
昨晩と同じ様に、順々に自己紹介を述べる住民達。
ジョルジュをそれを聞いた後に、促された椅子へ腰掛けた。
イゴール『ここは、人の心の様々なる形を呼び覚ます部屋……
我ら三人、貴方がたの手助けをするようにと、仰せつかっております
以後、お見知り置きを…』
ジョルジュはそれを、静かに聞いていた。
26 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:28:51.91 ID:p1acvGLe0
イゴール『さて、ジョルジュ長岡様。
まずはあなたのペルソナを、拝見させて頂きましょう』
言って手をかざす。
ジョルジュの胸から現れるのは、一枚のタロットカード。
(;゚∀゚)「これは?」
イゴール『ペルソナの一つの形 彼等はその寓意をタロットカードとして表すのです』
( ゚∀゚)「寓意……?」
イゴール『自らの姿を抽象化し、具現化することでございます』
言いながら、ジョルジュのタロットカードをしばし見つめた。
丸い、大きな瞳が少し、欠けた。
イゴール『長岡様』
( ゚∀゚)「ん?」
イゴール『ペルソナと言う物は、もう一つの己。
内に秘めたる様々な自分を神や悪魔の姿に変え、現れます』
それはいつか、フィレモンが言っていた言葉。
27 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:31:34.97 ID:p1acvGLe0
イゴール『全ての心は、普遍的無意識に繋がっております。
深く、広い心の海に漂う、幾万幾億のペルソナ達』
イゴール『人と人とにあるように、ペルソナにも相性と言う物が存在します』
( ゚∀゚)「相……性……」
イゴール『長岡様 貴方とこのペルソナはあまりにかけ離れております。
普通なら、降魔のできない程に』
ジョルジュには、わかっていた。
ただ漠然としたものだったが、J・Fと自分はどうしても、何かが違うと。
初めてペルソナを、J・Fを呼んだ時、心の海に手を伸ばした。
がむしゃらに伸ばされた手に、触れた存在。
それがJ・Fだった。
イゴール『貴方とペルソナは心が離れ、不安定な形でこの地に存在しています
ペルソナとして機能はできているようですが、恐らく力の全てを出し切ることは……』
( ゚∀゚)「……どうすればいい……?」
イゴール『……』
(;゚∀゚)「本当の自分のペルソナを見つけるには、どうすればいい!?」
29 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:33:32.19 ID:p1acvGLe0
イゴール『全ての事象に、無意味なことはないのです
貴方がこのペルソナを呼んだことにも、必ず何か、意味があるのです』
( ゚∀゚)「……」
イゴール『もう一つ、ペルソナにも意思は存在します。
決して、使い捨てるような存在ではないのです』
ジョルジュの胸に、少し突き刺さるモノがあった。
ペルソナを戦いの手段、使えるか使えないかで考えていた節があったのだ。
J・Fは特に、ブーン達のそれとは違う、はっきりとした「個」を現している。
それはイゴールの言うように、心が離れているせいなのだろうが。
だとしたら。
( ゚∀゚)(だとしたら……)
考えを、改めなければならない。
「個」であると、見つめ直さなければならない。
ジョルジュは純粋にそう思っていた。
それが、大きな切欠であることなど、勿論知らずに。
30 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:35:47.69 ID:p1acvGLe0
思考し、響くのはピアノの旋律と、
全ての人の魂の詩。
やがて。
(;゚∀゚)「あ、やべぇ」
急いでVIP高校に行かなければならないことを思い出す。
イゴール『心配なさるな ここは現実とは時の流れが違います』
( ゚∀゚)「へぇ……よくわかんねぇな」
イゴール『しかし、思い立ったのなら、お行きなさい。
貴方が望んだ時、立ち止まった時にまた、我らは再び現れることでしょう』
( ゚∀゚)「……ああ、ありがとな、イゴール」
イゴール『従者としての務めを果たしたまで……くれぐれも、お気をつけて』
タロットカードがくるくると回りながら、ジョルジュの胸の中へと戻って行く。
その後に、ジョルジュは立ち上がり、部屋のドアノブに手をかける。
振り返らずに片手を上げた後に、部屋を出た。
32 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:37:49.89 ID:p1acvGLe0
ミセ;゚ー゚)リ「わっ」
ベルベットルームから出たジョルジュの目の前にミセリがいた。
ミセリは驚きのあまり、声を上げてしまった。
_
(*゚∀゚)「あ、その、すいません!」
顔を赤らめながら慌てて謝る。
ジョルジュも同じく驚いたのだが、ミセリの反応に心を奪われたようだ。
ミセ*゚ー゚)リ「いえ……急に出てきたので……」
何もない空間から突然人が現れれば、普通は驚くはずだ。
ミセ*゚ー゚)リ「ベルベットルームですか?」
( ゚∀゚)「あ……はい なんでそれを?」
ミセ*゚ー゚)リ「私も少しは、ペルソナを扱えるので」
(;゚∀゚)「そ、そうなんすか そういえばモショに触ってたような……」
ミセ*゚ー゚)リ「ふふ はい」
妙にかしこまるジョルジュが可笑しいのか、ミセリが笑いながら返事をする。
34 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:40:32.98 ID:p1acvGLe0
( ´∀`)「お待たせしました 行きましょう」
するとそこへ、モナーもやってきた。
それにより、抜けていた緊張が再度、高まる。
ジョルジュとミセリが静かに頷いたのを合図に、三人は駐車場へと向かう。
その間も、VIP高校の方角から感じる波動は、衰えてはいなかった。
( ´∀`)(……まさか……もうすでにここまでとは……)
ブーン達が覚醒した日から、VIPの動きは日を重ねる毎に大胆に、
そして「力」を誇示するかのように、その挙動を露わにしている。
自分達だけで、立ち向かえるだろうか。
鍵を握るのはやはり、ブーン達の成長だ。
その為には、自分が折れるわけにはいかないと、モナーは自分に言い聞かせる。
( ´∀`)(頼むぞ……アサピー……)
学校に居るであろう友の存在を信じ、彼等を託す。
自分も、すぐに追いつくからと。
思いははたして、届くのかはわからない。
36 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:42:35.81 ID:p1acvGLe0
※
ξ;--)ξ「ん……」
激震が治まり、いつの間にか気を失っていたツンが目を覚ました。
上体を起こし、周りを見渡す。
いつもの、教室だった。
壁と天井、以外は。
ξ;゚听)ξ(これは……)
机が、椅子が、用具入れが。
ありとあらゆる固定されていない物が、倒れ、無造作に転がっていた。
あの激震なら、それは当然のことだろう。
だがもう一つ、明らかに異質な存在。
38 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:44:54.78 ID:p1acvGLe0
石。
石像。
人を模した、石像。
ξ;゚听)ξ(そん……な……)
そのどれもが、ツンが見た事のある顔をしていた。
……クラスメイト全員が、石と化していた。
ξ;゚听)ξ「ブーン!!」
すぐに立ち上がり、重い足を無理矢理に動かしながら、ブーンの席へ向かう。
そこには、やはり。
倒れ、石になった、ブーンの姿。
39 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:46:53.86 ID:p1acvGLe0
ξ;゚听)ξ「ブーン! ちょっと! ブーン!!」
必死に名を呼ぶも、返事はない。
もしかすると、本当にただの石ではないかと思うほどに。
感触も、硬く、冷たい。
ξ;゚听)ξ「冗談……でしょ……」
ショボンも、クーも、ドクオも、石と化していた。
あの激震の後、一体何が。
ツンは窓の外を見て、今度こそ言葉を失った。
割れ、床に飛び散ったガラス。
枠だけの窓に見える景色は、例えるなら、黒。
黒い、雲。
数十センチ先も見ることができない、厚く、黒い雲が、一面を覆っていた。
それはツンが見た窓だけではない。
暗雲は、学校全体を包み込んでいたのだ。
40 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:49:04.63 ID:p1acvGLe0
へたりと、力なく床に座り込むツン。
呆然と、ブーンを、石となったブーンを見つめていた。
声も、音も、何も聞こえない、真の静寂。
そのことから、他の教室も同じ様な事態になっていることがわかる。
ツンの混乱した頭の中で、徐々に整理されていく気持ち、思考。
ただの一般人がこの状況に陥ったのなら、気が動転するどころか、
発狂してしまってもおかしくはない。
しかし連日の現実離れしていた現象が、ツンを落ち着かせていた。
不安はある。恐怖も。
携帯を取り出し、画面を見た。
表示される圏外の二文字。
ツンは予想していたが、やはりかと項垂れた後に、携帯を閉じた。
ξ゚听)ξ(動けるのは私だけ……今、できること……)
ここまで大規模なことを行える敵は、ツンでは敵わないだろう。
そう考えた彼女は。
42 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:51:16.08 ID:p1acvGLe0
ξ゚听)ξ(脱出……そして、助けを呼ぶ……)
答えは、すぐに出る。
が、しかし。
ξ;゚听)ξ(……ッ!)
足が震えて、動けずにいた。
大丈夫だと、覚悟を決めたと思っていたのだが───
やはりまだ、高校生の少女なのだ。
ξ )ξ(ブーン……)
頬を触っても、伝わるのは冷たい、石の感触だけ。
動ける自分が、やらなければならないのに。
状況を整理して、するべきことを見出した後。
ξ;凵G)ξ「……ぅ……」
残ったのは、恐怖だけだった。
44 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:54:16.03 ID:p1acvGLe0
今まで異形な存在達に立ち向かうことができたのは、
仲間が居たからだ。一人じゃない。
クーが、ショボンが、ジョルジュが、ドクオが。
ブーンが、いたからだ。
一人になった途端に、この有り様なのが、その証拠だった。
覚悟を、決めたはずなのに。
あの夜、ブーンに言ったはずなのに。
結局は、口だけだったのか。
ξ;凵G)ξ「ぅ……ブーン……」
子犬のように、震え、ただただ怯えるだけのツン。
────その時だった。
『あらあら、そんなに震えちゃって』
45 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/03(水) 23:58:03.91 ID:p1acvGLe0
ξ;゚听)ξ「!?」
突如聞こえた声に、ツンは慌てて周囲を見渡す。
教室内に、変化はない。
絶望しか与えない風景のままだ。
だが確かに、声は耳に届いていた。
聞き覚えのある声が。
ξ;゚听)ξ「……デレ……?」
『あら 案外落ち着いてるんじゃない』
そう。
デレの声を聞いた途端、ツンの恐怖は少し和らいでいた。
自分が、自分を知る者の声。
たったそれだけのことが、悪夢から目覚めた時の優しい朝日のように。
今のツンには、希望に思えていた。
しかし。
46 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/04(木) 00:01:21.05 ID:XvbZJHbT0
『糞女』
友達だと、思っていた。
話すことが少なくなった、今も。
そんな存在から唐突に吐き出された、あまりに短い、暴言。
ξ゚听)ξ「え……?」
ツンは耳を疑った。
デレはもっと、優しく、透き通るような声だったはず。
それがあまりに、あまりにも冷たい、突き放すような声色。
『ツン もう一度さっきの空き教室まで来なさい』
冷たいままに。
『あんたには、他に選択肢はない』
殺意を、感じさせながら。
49 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/04(木) 00:03:08.97 ID:XvbZJHbT0
『コナイナラ、ソノバデ殺ス』
52 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/04(木) 00:05:47.02 ID:XvbZJHbT0
言葉は、そこで途切れた。
氷の様な冷たさと、突き刺すような殺意を残して。
その二つは、ツンの理性を再び揺るがすに、十分値する物だった。
ξ゚听)ξ「ころ……す……?」
そんな言葉は、冗談で何度も聞いた事はあった。
だがしかし、この異質な状況が、追いこまれた精神状態が。
その言葉を、冗談に感じさせなかった。
こなければ、その場で殺す。
ツンの耳に、頭に、心に刻まれた呪いの言葉は、
その文字を解き、一匹の蛇となる。
蛇はゆっくりとツンの体中を舐め回す様に這いずり、
じわじわと、蹂躙していく。
全ての感情を、その色で染める為に。
その蛇の名は、恐怖。
54 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/04(木) 00:08:25.38 ID:XvbZJHbT0
ξ )ξ「……!」
糸が切れたように、またその場にへたり込むツン。
右手で左腕を掴み、左手で右腕を掴む。
自分自身を、抱き締めるように。
ξ )ξ(怖い……ブーン……怖い……怖いよ……みんな……)
最早ツンの体は、恐怖と言う名の蛇に飲み込まれていた。
先程感じた恐怖よりも、更に深く、身近に感じる。
はっきりと向けられた殺意。
行かなければ、殺される。
だが、本当に足が動かない。
ブーン達のように、石になってしまったのかと錯覚するほどに。
冷たく、重かった。
ξ;凵G)ξ「ぅ……っぅ……くっ……」
静寂の中、ツンの嗚咽だけが教室に響く。
57 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/04(木) 00:10:28.61 ID:XvbZJHbT0
………タ───
───────いや。
嗚咽だけでは、ない。
ぺたり、ぺたり。
一歩。また一歩。
ぺたり、ぺたり。
それは規則的に。
ぺたり、ぺたり。
59 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/04(木) 00:12:34.16 ID:XvbZJHbT0
ξ;凵G)ξ(…………?)
ツンも、気付いた。
ぺたり、ぺたり。
音が、大きくなったせいだ。
ぺたり、ぺたり。
それは、近づいてきていることを示す。
ぺたり、ぺたり。
61 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/04(木) 00:13:44.21 ID:XvbZJHbT0
ぺたり。
64 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/04(木) 00:14:34.19 ID:XvbZJHbT0
見たくないのに。
怖くて、堪らないのに。
ツンは顔を上げた。
意思とは、無関係に。
無意識に、上げてしまった。
ソイツは、口を開けたままの教室の戸の、すぐそばに居た。
67 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/04(木) 00:16:41.13 ID:XvbZJHbT0
一目で、全てがツンの目に映された。
最初に足と思われたそれは、腕。
下半身は、ない。
腕だけで、『歩いて』いたのだ。
辿った軌跡は、赤黒い血の道に。
千切れた腰の部分からは臓器がただれ、蠢き。
ぼさぼさの髪の毛の隙間からは、見開かれた赤い瞳。
開いた口も、血のように赤い。
ソイツは、口を開いたまま、笑った。
『テ……きれイ……ナ……オンナ……?』
赤い目で、ツンを視界に捉えて。
ξ;凵G)ξ「あ……や……いや……」
ツンはただただ、震えるだけ。
70 名前: ◆iAiA/QCRIM [] 投稿日:2008/12/04(木) 00:19:49.97 ID:XvbZJHbT0
化け物も、震えだした。
立てられた肘が床を叩き、異音を立てる。
交互に、規則正しく。
テケテケ、テケテケと。
赤い瞳に宿るのは、恨み。
美しく、そして足がある少女達への。
自分と違う者達への、恨み。
『ココ、ココこコ! コロス! コロシテヤルゥゥゥゥ!!』
先程とは違う、『力』に乗せられた、殺意が、放たれた。
震えるツンに抗う気力は、なかった。
続く。