ξ゚听)ξ嘘が紡いだ物語のようです
五、『決意、そして』
133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:59:48.75
ID:BvFhMvL/0
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※
爪'ー`)「あぁ、気持ち悪いな」
ヴィップ城について、お父様は開口一番にそう言った。
酒に酔った上で馬に乗ればそうなるだろうに。
今日は色々と、お父様の意外な一面を見てしまった。
……そして、兄と話したことも、わたしの心に深く届いた。
不安は随分と軽くなり、久しぶりに、解放された気分を味わった。
それでもまだ、終わってはいない。
でも、もう決めた。
これから、どうするか。
これ以上、ブーンにも、兄にも、迷惑をかけることはできない。
宝石がついに見つからなかったことが、心残りだったけど。
答えをついに掴むことができたから……それで、よかった。
結局、最後までわたしのわがままで終わることだったのだ。
134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 20:02:50.06
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それにしても、兄の様子が急変した事には驚いた。
軍からの伝令らしき紙を見た途端に、表情が変わった。
何か大事な事が起きたのだろうか。
それは兄達、騎士団に任せていればきっと大丈夫だと思う。
ついでに、今日はブーンと会うなと言われてしまった。
やっと覚悟が決まったというのに、でも何かあったのなら、仕方がない。
爪'ー`)「ツン。部屋までエスコートをしてあげよう」
ξ゚ー゚)ξ「はい。お願い致しますわ」
( ・∀・)「おい。数名、お二人に付き添え」
爪'ー`)「なんだ? 私なら大丈夫だぞ」
( ・∀・)「念のためです。というかふらふらしてるじゃないですか」
爪'ー`)「なんのこれしき。私はまだ若い」
(;・∀・)「……まぁ、付き添いは少し離しますから……」
兄も今日のお父様は、扱いきれないようだった。
135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 20:05:34.70
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爪'ー`)「騎士団長」
( ・∀・)「はい」
爪'ー`)「用が済んだら、私の部屋に来い」
( ・∀・)「……は」
爪'ー`)「……」
爪'ー`)「……無理はするなよ」
そんな会話を交わした後、兄は軍の宿舎へと駆けていった。
やっぱり、何かあったのだろうか。
浮かんだのはまた、ブーンの姿。
今はもう、夜の警備を始めているはずだ。
あの時のネーヨ公の言葉が重なり、少し不安になった。
爪'ー`)「ツン。お前は、心配するな」
わたしの様子に気付いたのか、お父様が優しく頭を撫でてくれた。
それだけで幾分か、心が落ち着いた。
137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 20:07:44.76
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爪'ー`)「では、行こうか」
ξ゚ー゚)ξ「はい」
お父様が僅かに肘を浮かせる。わたしはそこへ腕を絡めた。
こうして二人で歩くのも、久しぶりのことだ。
というか本当にふらふらしているのだけど、大丈夫だろうか。
爪'ー`)「ツンよ」
ξ゚听)ξ「はい?」
爪'ー`)「ネーヨ公は、どうだ?」
ξ゚听)ξ「……どうだ、とは?」
爪'ー`)「わかってるだろう。婚約者候補として、どうだ?」
ξ;゚听)ξ「う〜ん……」
タガが外れたのか、直球を投げられてしまった。
突然そんなことを言われても、困る。
何度も思ったことを、無難に口に出すことにする。
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 20:10:55.15
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ξ゚听)ξ「……素敵な方だと思いますわ」
それは本心だったから、問題はないはずだ。
爪'ー`)「そうかそうか」
それで満足したのか、お父様はにっこりと笑った。
あまり急がずとも良い、ということだろうか。
爪'ー`)「一つ、教えてやろう」
ξ゚听)ξ「何をですか?」
爪'ー`)「人は、二種類の嘘をつく」
ξ;゚听)ξ「へ?」
爪'ー`)「愛のある嘘と、愛のない嘘の二つ、だ」
爪'ー`)「そして、男は後者をよく使う」
爪'ー`)「……私もその内の一人だ」
ξ;゚听)ξ「お、お父様……」
爪'ー`)「ははは」
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 20:14:03.65
ID:BvFhMvL/0
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何を言いたいのだろう、ただ自虐したいだけなのだろうか。
でも、無意味な事を話す人ではない。……酔ってるけど。
爪'ー`)「見極めろ」
爪'ー`)「愛のある嘘をつける男は、イコール、愛に溢れた男だ」
ξ゚听)ξ「……愛のある……嘘……」
爪'ー`)「という話を昔、王妃にしてな」
ξ゚听)ξ「お母様、ですか」
爪'ー`)「そうだ。自分の嘘を正当化するなと、怒られたよ」
爪'ー`)「ははは」
ξ;゚听)ξ「…………」
爪'ー`)「……どんな物でも愛は測れる。本質を見抜け」
ξ゚听)ξ「……」
爪'ー`)「わかったな?」
ξ゚ー゚)ξ「……はい」
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 20:18:14.80
ID:BvFhMvL/0
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愛のある嘘……か。
そんな嘘なら、つかれてもいいなと思う。
二年の間、わたしは嘘をついてきた。
それがお父様の話の中で、どちらの嘘かは、わからない。
爪'ー`)「さぁ、今日は疲れただろう」
わたしの部屋につき、扉を開け優しく背中に手を添えた。
今日は兄に加えて、お父様の温かさまで感じることができた。
こんなにも優しい二人を、わたしは今まで騙してきた。
ごめんなさい、二人とも。
もう少しで、わたしはわたしの、決着をつけます。
爪'ー`)「おやすみ。良い夢を、な」
ξ゚ー゚)ξ「おやすみなさい。お父様」
ゆっくりと、扉が閉まる。
いつもならやっと彼に会えると喜んでいた。
だけど今日は、久しぶりにゆっくりとできる、というか、そうするしかない。
着替えを済ませ、ベッドに腰掛けた。
枕元に置いてあった本を手に取り、お気に入りのページを開く。
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 20:21:04.25
ID:BvFhMvL/0
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本の内容は、貴族の娘に恋をした平民の男のお話。
よくある物語だけど、わたしはこの本が特に好きだった。
この本では、二人は悲恋の終末を迎える。
思いは、成就した。
だけど周囲が、許さなかった。
悲しみに暮れた二人は、ついに互いの命を絶ってしまう。
実はこれが初めて読んだ本で、そのシーンが強く印象に残っていた。
愛故に死を選ぶということに、幼いながら感動を覚えた。
それはとても悲しいことで、絶対に死にたくないと思った。
今は少し、考え方が違う。
死にたくないという答えは変わらないのだけど。
物語は、そこで終わる。でも現実は、まだまだ続く。
わたしが死んでも、お父様と兄はこの世界で生き続ける。
そしてきっと、わたしの死は二人を悲しませてしまう。
だからわたしは、絶対に死は選ばないと誓った。
それに近い事で、ブーンと遠くの国へ逃げることを、考えた事があった。
でもそれは、彼にも迷惑がかかるし、二人が悲しむことにも違いはない。
何をどうしようが、わたし達は結局、どうしようもないのだ。
144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 20:24:10.70
ID:BvFhMvL/0
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ページをめくる。
物語は、ヒロインの胸に短剣を突き立てる所だ。
兄の話を聞く限り、ブーンもわたしと同じ気持ちを抱いてくれている。
でもやっぱり、それは本人の口から聞きたい。
わたしもこの気持ちを、伝えたい。彼の顔を、真っ直ぐに見て。
その時わたしは、どうなってしまうのだろう。
決心は、鈍らないだろうか。彼は、怒らないだろうか。
……ううん、彼は絶対に、怒らないはずだ。
あの笑顔で、全てを受け入れてくれるに、違いない。
──ぽたりと、本に水滴が落ちた。
物語に感動してしまったのだろうか。涙が、溢れて、くる。
終わる。終わって、しまう。
彼の笑顔を、もう、見られなく、なってしまう。
彼の温もりを、もう、感じ、られな……く……。
あれ、おかしいな。
もう、決めた、はずじゃない。
ついさっき、決めた、ばかりで、まだ彼にも、会って、な……。
146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 20:27:33.70
ID:BvFhMvL/0
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止まらない。涙が、止まらない。
全部、全部、ぜんぶ、ぜんぶ。
明日全てが、終わってしまう。
ブーンとお別れしたら、将来は、違う人と結婚して。
ブーンとは、完全に、会うことはなくなって。
この先にあるわたしの世界から、ブーンはいなくなって……。
いやだ……やだよ……そんなの……無理だよ……。
ブーンが……いないなんて……会えないなんて……。
やだよ……やだ……お父様……お兄様……ごめんなさい……。
明日もう……お別れなんて……やだよ……。
せめて、会うなと言われたけど、今日だけは一緒に……居たい。
行こう。彼に会いに。今夜だけは、彼を愛した、わたしのままで───……。
───………
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