ξ゚听)ξ嘘が紡いだ物語のようです
四、『兄として』
105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:04:03.55
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※
爪'ー`)「お前が馬車に乗れ。久しぶりに、馬に乗りたくなった」
食事会を終え、ネーヨ公と城前で別れた後、父は無茶なことを言いだした。
(;・∀・)「いや、危険ですよ。だめです」
爪'ー`)「堅いことを言うな。それとも、白騎士団は馬に乗る一人の人間も護衛できんのか?」
酔っているせいか、普段以上に口が悪い。
城内では変なことを言わされたし、そんなに機嫌がいいのか。
しかしここまで言われたら、騎士団長として退くわけにはいかない。
( ・∀・)「……わかりました。全力で護衛致します」
爪'ー`)「うむ」
満足し頷いた後に、父は私の馬にまたがり、先陣を切った。
各部隊長達に何が何でも父に怪我をさせるなと告げて、馬車に乗り込む。
爪'ー`)「では、出発!」
張り切った父の声が、馬車の中にまで聞こえた。
106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:06:53.51
ID:BvFhMvL/0
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ξ゚ー゚)ξ「……楽しそうですね、お父様」
( ・∀・)「あぁ……まったく……」
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ」
( ・∀・)(…………)
無理をしている。
食事の時から、そう感じていた。
間違いなく、ブーン=ラダトスクのことを思っていたのだろう。
私達に隠し事をしている事実と、ネーヨ公の心算を計った上で。
その華奢な体には重すぎる重圧を、感じていたのだろう。
ξ゚听)ξ「……?」
兄として、私にできることはなんだ。
( ・∀・)「…………」
愛する妹が、重圧に押し潰される前に。
部下が間違いを犯し、罰せられる前に。
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:09:02.25
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彼の方は、一応の手を打った。
何か動きがあれば、即座に私に伝わるはずだ。
それに……信じても、いる。ツンが愛した男だ。私自身、見極めているつもりだ。
ならば、ツンに私がしてやれることは。
ξ゚听)ξ「お兄様?」
重い悩みを背負った彼女に、してやれることは。
( ・∀・)「……ツン」
馬車が音を立て、揺れる。
しかし、確かに聞こえる虫の音が、心を落ち着かせた。
一つ息を吐いて、強く、ツンを見つめる。
彼女もまた、私の雰囲気を察して神妙な面持ちになっていた。
( ・∀・)「……石は」
私に、できること。
( ・∀・)「宝石は、見つかったか?」
それは、重圧の、共有。
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:11:18.80
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ξ;゚听)ξ「…………」
ツンは言葉を発しなかった。
発せない、が、正しいのかもしれない。
まさか私が知っていようとは、夢にも思っていなかっただろう。
( ・∀・)「……知ってるよ、全て」
ああ。今のツンの心は、私の言葉一つ一つに抉られるている事だろう。
ツンの顔が、青ざめていく。それはきっと、彼の事を考えて。
( ・∀・)「心配するな……私は、どうするつもりもない」
ξ;゚听)ξ「お兄……様……」
( ・∀・)「ブーン=ラダトスクのことは、知っている。彼もそのことは、知っている」
ξ;゚听)ξ「…………」
もっと早く、話すべきだったのだろうか。
ツンの心の中で、彼がここまで大きな存在になる前に。
……それも私の甘さだ。今更悔いても、仕方がない。
ξ;゚听)ξ「……いつから……知っていたのですか」
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:14:44.83
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( ・∀・)「わりと最初から、気付いていたよ」
ξ;゚听)ξ「…………」
ツンは大きく息を吐いた後に俯いて、また私を見た。
お前には悪いが、こちらも遊びでやっているわけではない。
世間知らずのお姫様のお忍びなど、すぐに私の耳に入ったよ。
真相を知った直後は警備を強化したが……それも無駄だった。
この事を知られないようにと、衛兵達の口止めにも苦労した。
最も信用できるものを配備するようにもした。それは全て、私の感情一つでだ。
ξ;゚听)ξ「お兄様……! ブーンには罪はありません!」
( ・∀・)「落ち着きなさい。私は何もしないと言っただろう」
ξ;゚听)ξ「…………」
( -∀-)「……どれほどのことしているのかは、自覚しているようだな」
ξ;゚听)ξ「……はい」
それは信じていた。単なる遊びではないとツンの口から聞け、少し安堵する。
その直後に、私の危惧が確たる物になったことを、嘆いた。
やはり、後戻りはできないのか。
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:18:00.60
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( ・∀・)「……どうするつもりなんだ?」
ξ; )ξ「…………」
沈黙。
やはりツンも、わかっていながら感情が歯止めをかけているのだろう。
終わらせなければいけない事だが、どうしてもそれができない。
それはきっとブーン=ラダトスクも、そして私も、同じことだ。
( ・∀・)「すまなかったな」
ξ; )ξ「いえ……」
答えられるなら、とうにそうしているはずだろう。
我ながら馬鹿な質問をした。予想していたツンの胸中は、見事的中していた。
だからこそ、どうしようもないのだが。
( ・∀・)「ツン」
ξ; )ξ「……はい」
( ・∀・)「私は───俺は、どうするべきか答えは見えている」
ξ; )ξ「…………」
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:20:05.30
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-
( ・∀・)「お前も、わかっているはずだ」
ξ; )ξ「……はい」
( ・∀・)「しかし感情が、そうさせない。その答えを、選ばせない」
( ・∀・)「違うか?」
…………。
ξ; )ξ「……違いません」
( ・∀・)「……そうか」
( ・∀・)「……私も、そうだよ」
考えていたことは、寸分違わず、合致してしまった。
ならばもう、これ以上口を閉ざす道理はない。
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:23:31.19
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( ・∀・)「ツン」
ξ )ξ「……はい」
( ・∀・)「俺が何故、今まで傍観していたか、わかるか?」
ξ; )ξ「……いえ」
( ・∀・)「…………」
( ・∀・)「……お前を」
( ・∀・)「愛しているからだよ」
ξ゚听)ξ「……お兄様……」
( ・∀・)「お前を愛しているから、ブーンを追放しなかった。罰しなかった。
父にも進言しなかった。それをすれば、お前が泣いてしまうから」
ξ゚听)ξ「……」
( ・∀・)「全て、俺の甘さだ」
( -∀-)「……国を背負う者ならば、そこに私情を挿むべきではない」
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:26:01.99
ID:BvFhMvL/0
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( ・∀・)「しかし、どうにもならなかった」
( ・∀・)「お前の心に生まれた物が、ここまで膨れ上がる前に、対応できたのに、だ」
( -∀-)「……」
ξ;゚听)ξ「……」
( ・∀・)「……逆に、酷なことをしてしまった。すまなかった」
ξ;゚听)ξ「そんな……全ては私の勝手で……」
( ・∀・)「物事とは、結果が全てだ。こうなった責任は、俺にもある」
ξ;゚听)ξ「お兄様……」
( ・∀・)「だから───ツン」
( ・∀・)「お前の負担を、少しでも、俺に預けてくれ」
それで、少しでもお前の心が軽くなるのなら。
許せ。未熟な兄の、全てを背負えぬ器量の無さを。
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:28:11.82
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:ξ )ξ:
ツンは俯き、小刻みに震えていた。
辛かっただろう。ずっと一人で、悩んでいたはずだ。
遅れて、すまなかった。
向かいに座していた私は、ツンの隣へ移動し、座る。
そして静かに、肩を抱いた。小さな肩は壊れそうな程に、震えていた。
ξ;凵G)ξ「おにぃ……さま……っ……」
私の胸で泣くツンの頭を、優しく撫でた。
存分に泣け。
この時ばかりは、全てを忘れて、泣けばいい。
───………
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:30:48.32
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───………
( ・∀・)「……落ち着いたか?」
身に感じる揺れが、馬車によるものだけになったことを感じた。
ツンはどうやら、泣き止んだようだ。
少しは彼女の負担を軽減することができただろうか。
問題は何も解決していないことは、重々承知している。
だが、彼女が少しでも楽になってくれたのなら、今の自分はそれで満足だった。
本当に、情けない兄だ。
ξ゚听)ξ「……はい」
顔を上げたツンの目は少し、充血していた。
ハンカチを取り出し、顔を拭ってやる。
ξ゚听)ξ「……ありがとう……ございます……」
( ・∀・)「大丈夫か?」
ξ゚ー゚)ξ「……はい」
123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:33:36.26
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ξ゚听)ξ「お兄様。ご迷惑をおかけして本当に……」
( ・∀・)「気にするな。何度も言うが、起きてしまったことは仕方がない」
自分で言っていることが、冷静に考えればおかしいことは承知の上だ。
ツンに言ったように、私の責任もあることは事実だ。
それを含めて、自分に対する甘えも露呈させた言葉だった。
行いを、甘さを、何を悔いても先へは進むことはできない。
後悔も反省も、それが済んでからいくらでもできるのだ。
するべきことは、例え牛歩であろうとも、確実に進むことだ。
( ・∀・)「ツン」
ξ゚听)ξ「はい」
( ・∀・)「行動に移すことは、今はいい」
( ・∀・)「……それを踏まえて、お前はもう、答えを見つけているか?」
ξ )ξ「……」
少しの、沈黙の後。
124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:36:24.01
ID:BvFhMvL/0
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その後に。
ξ )ξ
こくりと、頷いた。
( ・∀・)「……そうか」
口で肯定をできないのは、まだ決心がついていない証明だ。
だが、ツンに覚悟があるのなら、自分はもう、それで十分だった。
ξ゚听)ξ「……お兄様」
( ・∀・)「どうした?」
ξ゚听)ξ「……ブーンは」
( ・∀・)「あぁ」
ξ゚听)ξ「ブーンは……私の事を、どう思っているのでしょうか……」
( ・∀・)「……」
まさかブーン=ラダトスクと同じ台詞を吐くとは、思わなかった。
惹かれ合い、ブーンも彼女のことをよく理解している事は感じていたが……。
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:39:01.37
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二人はそこだけ、ピンポイントに鈍感なのだろうか。
普通に考えたらわかりそうなものなのに。
恋愛をしたことがない自分でも、話を聞くだけでそれが本気である事は解る、が。
( ・∀・)「それは、俺から言ってもいいことなのか?」
ξ;゚听)ξ「そ、それは……」
( ・∀・)「違うだろう、な?」
ξ;゚听)ξ「……はい」
それは私が告げることではない。
しかし、不安な気持ちも少しは理解できる。
( ・∀・)「ブーン=ラダトスクは……」
ξ゚听)ξ「……?」
( ・∀・)「二年前のあの夜は、偶然あそこの見回りを担当していた」
ξ゚听)ξ「……そう……なんですか?」
( ・∀・)「そうだ」
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:42:03.04
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( ・∀・)「そしてその夜から、あいつは青騎士団の団長に、
今後も夜の見回りをしたいと、進言した」
ξ゚听)ξ「え……」
( ・∀・)「最初は宝石を探す為だったとは思うが……」
( ・∀・)「まぁ、お前に会うためだろうな」
ξ*゚听)ξ「…………」
( ・∀・)「……俺から話せるのは、このくらいだ」
ξ*゚听)ξ「……はい」
ツンの瞳は見る間に潤いを増していき、頬は桃色に紅潮していた。
そんな顔は今までに見たことがないぞ……まったく。
ともあれ、これで少しは不安は拭われただろう。
互いの気持ちを知ることが恐ろしい事の理由は、二つあるのだろう。
一つは、片想いであることだ。自分のわがままで、相手を振り回しているのではないか。
もしかしたら相手は、そんな感情を抱いていないのではという、不安と怖さ。
どこからどうみても片想いではないから、それは払拭されたはずだ。
実際そんなものは、大した問題ではない。問題なのは、もう一つの理由だ。
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:45:48.25
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互いが愛していることを知ったら、余計に歯止めが効かなくなる。
気持ちが繋がり成就しても、関係は成就しないのだ。
それにより突き付けられる、明確な破局。
今の時点でも二人が結ばれることはないと、理解しているはずだ。
それを色濃く感じてしまう上に、気持ちを知れば尚更引っ込みがつかない。
男と女……いや、感情というものは、本当にややこしく、面倒だ。
それに気がついた時、ツンはまた気落ちしてしまうのだろう。
しかし、既に答えは出ていると聞いた時、ツンは頷いた。
それならば、俺はお前を信じよう。
だから今は、笑っていてくれ。
馬車の揺れと、身を寄せる妹の温かさが、心地良かった。
その時。
( ・∀・)「……」
馬車の外に突然気配が生まれ、窓の隙間から一枚の紙切れが差し込まれた。
深い赤色をしたその紙は、ドクオからの伝令を報せる物だ。
130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:49:03.30
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( ・∀・)「ツン、すまない」
軍部の伝令と知り、ツンは即座に私から離れた。
四つ折りにされたその紙を丁寧に開く。
=================================
伝令
ブーン=ラダトスクを監視中
虫を一匹捕獲しました
薬で眠らせ、拘束してあります
D
=================================
( ・∀・)「…………」
『虫』とは即ち、侵入者。
言い知れぬ悪寒が、背を走る。
131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:50:46.55
ID:BvFhMvL/0
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( ・∀・)「…………」
即座に筆を取りだし、手を走らせた。
『全て吐かせろ 決して殺すな』
簡単にそう書いて、窓の隙間に紙を差し込んだ。
すぐに紙は外側から引き抜かれ、気配は消えた。
( ・∀・)(……どういうことだ)
城の警備は、怠ってはいない。
ドクオの部隊には、絶対の信頼を寄せている。
普段の衛兵に加え、彼の部隊も常に目を光らせているはずだ。
相当の手練れでない限り、彼らの目を欺くことはできない、はずだ。
それが、今まで影さえ見えなかった者が突然現れ、捕獲された。
影、さえ───………
( ・∀・)(ネーヨ公の……あの言葉……)
『不穏な噂を耳に……ヴィップに内通者が……』
あれは本当に、初耳だった。
132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:53:35.33
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ブーン=ラダトスクを監視している時に、捕まえた?
どういう、ことだ。何故あいつの周囲に、そいつは居た。
(;・∀・)(…………)
ξ゚听)ξ「……お兄様?」
落ち着け。落ち着け、白騎士団団長、モララー=ヴィップ。
あいつが担当しているのは、警備が最も手薄な、城の裏側だ。
目的はわからないが、城へ侵入するならあそこしかないはずだ。
……しかし、あそこを警備すると進言したのも、あいつだ。
偶然、私がブーンの監視をドクオに指示をしたから。
偶然、私達が留守にした日に、内通者がいると聞いた、その日に……
偶然、それらが重なった日に現れた侵入者を、その場で捕らえた……?
……そんなことが、あるのか。
ともあれ、侵入者はドクオによって捕獲されている。
事実究明は、城に戻ってからでいい。慌てるだけでは、結果は出ない。
一転して、心地良かった馬車の揺れが、不快感に変わっていた。
───………
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