ξ゚听)ξ嘘が紡いだ物語のようです

『最後の嘘と、最初の本音』
 


 
263以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:19:08.59 ID:BvFhMvL/0
 
 
 【エピローグ】
 
 
 本に囲まれた、なんとも乱雑に散らかった部屋に、一人の男が居た。
 風情のある木製の椅子に座り、窓から月を見上げている。
 
 月は見事な真円を描き、空と男の瞳に浮かぶ。
 月が、かつてその下で契りを交わした二人の男女のことを、男に思い出させた。
 
 ヴィップ国国王、フォックス=ヴィップ。
 男は数年前まで、そう呼ばれていた。
 今は息子モララーに王位を渡し、静かに余生を送っている。
 
爪'ー`)「…………」
 
 早くに妻を亡くし、国政に尽力してきた彼の顔は、実に穏やかだ。
 
 あの時、渦中の中心となった男、ブーン=ラダトスク。
 平民出の彼と、王女ツンの結婚は、大方の予想通り大陸中に波紋を広げた。
 モララーが危惧していた、貴族達の不満と、反発。
 
 それは、ヴィップの領土だけに留まらず、大陸中で巻き起こった。
 しかし、貴族達以上に奮起した者達がいた。
 

265以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:21:49.94 ID:BvFhMvL/0
 
 その者達とは、平民だ。
 ブーン=ラダトスクの存在は平民達の支えとなり。
 結婚を許したフォックス王は、一切の偏見を持たぬ者と、称えられた。
 
 そのあまりの数に、貴族達も迂闊なことは言えず、勢いは段々と衰えていった。
 
 二人の結婚は、実の所フォックスの賭けだった。
 彼はヴィップという大国だけでなく、大陸全土を変えようとしていたのだ。
 貴族支配の世界から、平等の世界へと。
 
 これを唱える為に、二人の男を利用した。
 私欲のために人を殺そうとした男と、人のために命を捨てようとした男。
 前者は貴族、ネーヨ=ザクセン。後者は平民、ブーン=ラダトスク。
 
 『人の本質は、血筋に左右されるものではない』
 『人であれば、可能性は誰にでも存在するのだ』
 
 実際の人間を例に出し、提唱したのだった。
 平民を中心に賛同者は次々に声を挙げ、王を称えた。
 
爪'ー`)「…………」
 
 それでもまだ、反発を続けた者達は居た。
 そこに論理的根拠はない。貴族こそが民を支配するべき存在だ、と。
 

269以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:24:51.79 ID:BvFhMvL/0
 
 フォックスは時間をかけ、提唱し続けた。
 貴族も、平民も問わず、多少の血が流れたこともあった。
 だが決して、彼から仕掛けることはしなかった。
 
 十余年の月日をかけ、彼の理想は現実へ、限りなく近づいていった。
 
 そして、彼が齢七十を迎えた、冬の頃。
 
 『疲れた』
 
 そう言って、息子モララーに王位を明け渡したのだった。
 
爪'ー`)(今宵は……良い風が吹く)
 
 窓から訪れた柔らかな風を身に受け、背を伸ばした。
 理想を叶え、戦い疲れた王は、静かに、静かに、目を閉じた。
 
爪'ー`)(……すまないな……ツン……)
 
 我が道を突き進んだフォックスの、一つの後悔。
 
爪'ー`)(私はお前達の関係を、利用してしまった)
 
 一つの、心残り。
 

270以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:26:55.64 ID:BvFhMvL/0
 
爪'ー`)(私は、嘘ばかりついてしまった)
 
爪'ー`)(お前達を認めたのは……全て、理想を叶える為だった。
      内心、うまくいくかどうかは……わからなかった)
 
爪'ー`)(それが不安で……素直に祝福もしてやれなかったな……)
 
 愛する娘に、子ども達に、己が王であることを貫く為についた、嘘。
 その罪は彼にとって何よりも重く、心を覆い尽くす程に大きな物だった。
 
爪'ー`)(……もう、私はお前に嘘をつかない)
 
爪'ー`)(……だからツン。卑怯な父をどうか、許してくれ)
 
爪'ー`)(……モララーには少し厳しくしすぎたか……あいつにも、苦労をかけた。
     そのせいで勘違いをさせた……あの時、お前を無駄に、悩ませてしまった)
 
 フォックスはもう、意地も虚勢も張る必要はない。
 国政から退き、一人の『父親』に戻ったのだから。
 
 
 
 ふと、扉を叩く音がした。
 
爪'ー`)「入りなさい」
 
 フォックスが応答すると、木の軋む音を立て、扉が開いた。
 


273以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:33:23.76 ID:BvFhMvL/0
 
ξ゚听)ξ「お父様」
 
 現れたのは彼の最愛の娘、ツンだった。
 
ξ゚听)ξ「お食事ができましたわ」
 
爪'ー`)「ああ、わかった」
 
 フォックスの返事を聞くと、ツンは扉を閉めようと───
 
爪'ー`)「ツン」
 
ξ゚听)ξ「はい?」
 
 ふいに、呼び止めた。
 不思議そうな顔をして父を見つめるツン。
 
 フォックスは視線をツンの頭へ移す。
 十九個のオパールが見事に装飾されたティアラが、美しく輝いている。
 その後に、彼はツンの顔を見た。
 
 
 
ξ゚ー゚)ξ「?」
 


275以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:36:20.02 ID:BvFhMvL/0
 
 ───………
 
 
爪'ー`)
 
 
 ツン。
 
 その宝石に負けないくらいの女になれと、いつか私は言ったな。
 
 今の私には、お前の姿は宝石が霞むくらいに美しく、映っているよ。
 
 
 …………本当さ。もう嘘は、つかないよ。
 
 
 
 ───………
 
 
 
 
 
 「……綺麗になったな、ツン」
 
 
 
 
                                 Fin.




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