ξ゚听)ξ嘘が紡いだ物語のようです

二、『王女の兄と騎士の長』
 


 
56以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:19:58.07 ID:BvFhMvL/0
 
 

 
 
( ・∀・)「…………」
 
 自室に戻ったツンの姿を確認して、私はその場を後にした。
 二年前……ツンの十六歳の誕生日のあの夜から、どうも様子がおかしい。
 毎夜毎夜、外へと抜け出しているようだ。
 
 何度か衛兵からの報告を受け、警備を強化したりした日もあったのだが……。
 どうにも彼女の様子が普通ではないので、何事かと思ったら。
 
 ヴィップ国青騎士団所属、ブーン=ラダトスク。二十四歳。
 
 まさか男と会っていたとは、夢にも思わなかった。
 
( -∀-)(はぁ……)
 
 自分の妹に限って、まさかとは思ってはいたが……。
 一国の王女ともあろう者が、一体何をしているのだろうか。
 父に知れたら、発狂ものだろうな。
 
 考えたくもなかった。
 


58以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:23:26.23 ID:BvFhMvL/0
 
 進む足が重い。事実を受け入れたくない証拠だろう。
 しかし一年と少し前、彼に直接話を聞いて、それが事実であることを思い知らされた。
 尤も、ツンが毎夜抜け出していることが、何よりの証明になるのだが。
 
 静寂が支配する中、石の階段を降りる。
 今夜もツンが辿った、この階段を。
 
 そこまでツンを熱くするものは、感情以外の何者でもないのだろうが。
 こと恋愛感情を抱いたことのない私には、あまり理解できる物ではなかった。
 それに近い物、妹として彼女を愛してはいたが、愛故に私は耐えてきたからだ。
 
 この地位に上り詰めるまでの十二年の間、遠くから彼女を見つめ、ひたすらに。
 父の曲がった愛に耐え、我ながらよくひねくれなかったと思う。
 しかし元々、私にはこっちの方が合っていたのだろう。
 王室でぬくぬくと暮らす自分の姿は、想像できなかった。
 
 王女と兵士。
 
 物語の世界では、よくある話だ。
 そしてそのほとんどが、悲恋で終わることもまた、よくある話だ。
 当たり前だ。常識で考えれば、決して成就する関係ではない。
 
 それも二人はわかっている……はずだ。はずだよな、多分。


60以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:26:42.14 ID:BvFhMvL/0
 
 それは自分にも言えることだ。
 叶うはずのない二人の関係には、同情すら抱く。
 愛する妹であるし、尚更だ。
 
 だからこそ、現実を見せてやらなければならない。
 
( ・∀・)(だが……)
 
 無下に引き裂くことも、私にはできない。
 父のように、国を第一に考え非情に徹することができない。
 
 すまない、父上。
 貴方は私の体と心を鍛える為に軍に入れたようだが、心は弱いままのようだ。
 
( ・∀・)
 
 階段を抜け、ツンが通った木の扉を、開けた。
 少し冷たい風が、なんとも、私を叱りつけているように感じた。
 
 周囲を見渡す。
 
( ・∀・)「……ブーン」
 
 目的の男は、すぐに見つかった。
 

61以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:30:20.86 ID:BvFhMvL/0
 
( ^ω^)「……モララー様」
 
 私の姿を見て、彼は驚かなかった。
 当然だ。私が二人のことを知っている事は、彼にだけは伝えているから。
 二人は決して、結ばれない運命にあるというのに。
 
( ・∀・)「……今日は早かったみたいだな」
 
 こんなことをしている自分は、一体なんなのだ。
 兄として、騎士団長として叱りつけてやらねばならないのではないか。
 どう足掻いても終わりの見える二人だからこそ、せめて最後まで夢を。
 
 そんなものは、自分の行いの美化にすぎない。
 しかし私には、どうしても、どう悩んでもこうすることしかできなかった。
 
(;^ω^)「はっ……怒らせてしまったようで……」
 
( ・∀・)「それはない」
 
(;^ω^)「そっ、そうですか?」
 
 この男の鈍感さといったら、私でも舌を巻く領域だ。悪い意味で。
 確かに自室へ入る前のツンは落ち込んでいたようだったが、恐らく別の理由だろう。
 私と同じように、二人の未来について悩んでいたのかもしれない。
 
 しかし、ブーン=ラダトスク……か。
 

63以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:33:58.72 ID:BvFhMvL/0
 
 彼がうまく出世でもしたら、まだ望みはあるのだが……。
 それは彼の体が、そうさせてくれないのだから、嘆いても仕方がない。
 実力の世界なのだから、そこは私も譲ることは出来ない。
 
 それにこの男は、決してそれを望まないはずだ。
 関係を知ってから話すようになり一年と少し経ったが、
 そのくらいの本質は理解しているつもりだし、認めてもいる。
 
( -∀-)「なぁ……ブーン……」
 
( ^ω^)「……はい」
 
( ・∀・)「私も人間だ。頭でわかっていても、感情でどうにもならなくなるのはわかる」
 
( ^ω^)「…………」
 
( ・∀・)「その……ツンのことは……本気なのか?」
 
 何度この質問をしたことか。聞きすぎて、私のことを鳥頭と思っていないだろうか。
 わかっているが、どこかで嘘であってほしい気持ちがそれを言わせていた。
 いや嘘だったらツンが泣くからそれも……ああくそ。
 
( ^ω^)「……はい。私は、本気です」
 
( -∀-)「そう……だよな」
 

 
65以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:37:11.20 ID:BvFhMvL/0
 
 結局また同じ答えを聞く羽目になっただけだった。
 しかしそれが本当でも嘘でも、ツンは泣くことになるのは同じだ。
 だとしたら、取り返しがつかなくなる前に手を打った方がいいのではないのか。
 
(  ω )「しかし……モララー様」
 
( ・∀・)「……ん」
 
(  ω )「自分は最近、自分がどうしたらいいのかがわかりません」
 
( ・∀・)「……続けろ」
 
( ^ω^)「身分不相応であることは、承知しています」
 
( ^ω^)「それでも……ツン様の笑顔を見ていると、その時はどうしようもなく……」
 
(  ω )「今目の前から去ると、このままではいけないと自制心が働き……。
      私は去るべきだと……強く思うのです」
 
 ああ、そうだろうな。私だってそうだし、ツンもきっとそうだ。
 
 お前を含め、私もツンも、弱いんだよ、心が。
 だから同じ様に、悩むのだ。私が完全に国に仕えているだけの身分だったら、
 とっくにお前を他の地域へ飛ばしていることだろうさ。
 

66以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:40:42.10 ID:BvFhMvL/0
 
( ^ω^)「……それに」
 
( ・∀・)「……?」
 
( ^ω^)「これが自意識過剰である可能性も、怖くて……」
 
( ・∀・)「……は?」
 
( ^ω^)「ですから、実はツン様は私など気にもかけていない場合──」
 
( ・∀・)「それはない」
 
(;^ω^)「おっ……」
 
( -∀-)「それはないから……私も悩んでるんだよ……」
 
(;^ω^)「そ、そうですか」
 
 なんだこの男は。ツンはもしかしたらお前を愛していないと言いたいのか。
 私自身そういう経験がないから確かに確実とは言えないが……。
 普通に考えて、それはあり得ないだろう。
 
 いくら悩んでも、考えても、話を聞いても。
 結局答えは出ずに、別の事を考えての繰り返しだ。
 

67以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:43:14.50 ID:BvFhMvL/0
 
( ・∀・)「……お前も、参ってないか?」
 
( ^ω^)「……?」
 
( ・∀・)「頼むから、血迷った真似はしないでくれよ」
 
(;^ω^)「そ、それは勿論です」
 
(;^ω^)「確かに最近……ツン様がいないのに視線を感じたりして……。
      疲れているのかも、しれません」
 
( ・∀・)「……それは気のせいか?」
 
(;^ω^)「はい。ツン様が、いるような気がして……」
 
( ・∀・)「……」
 
 重傷だな、これは。
 気を張り詰めすぎている証拠だ。
 
 というか、本来の見張りの役目を忘れていないかこいつは。
 ……しかし、元々真面目な奴だ。大丈夫だろう、きっと。
 
 多分。
 

68以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:46:29.44 ID:BvFhMvL/0
 
( ・∀・)「……そろそろ、戻る」
 
( ^ω^)「はっ」
 
( ・∀・)「お前も、休め」
 
( ^ω^)「……はい」
 
 色恋沙汰などとは、当事者で解決する問題だ。
 しかし二人に関しては、二人だけでは済まないのだ。
 
 王女の婿となる者は、やはりそれなりの地位と血筋の者がなるべきだ。
 彼は別段、何かに突出しているわけでもない。多少剣が扱えるくらいの男、のはずだ。
 それは父も、大臣達も認めないだろうし、他国からは嘲笑の的となるだろう。
 
 世には未だ、貴族と平民の差別は根強く残っている。
 父はまだ寛容な方だが、他国には奴隷制度すら残っていると聞く。
 王族に平民の血が混ざれば、どうなるか。
 
 他国は勿論、国内の領主達すら手の平を返すことだろう。
 ヴィップの貿易が、経済の流通が滞る程度に治まるはずがない。
 
 他に取り残された最悪の状況で最後に起こる事は、戦争だ。
 大凡の大義名分は、汚れた血に粛清をと言ったところだろう。


70以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:50:09.07 ID:BvFhMvL/0
 
 互いが貴族同士、平等の立場で、この大陸の国間は成り立っている。
 それでもどこかに野心家という奴はいるはずだ。
 その機を逃さず、動く者は、必ず居る。
 
 ……恐らく、この国にも、そんな奴が。
 
 ならばやはり、二人を認めることなどできはしない。
 
( ・∀・)「…………」
 
 幾度となく、繰り返してきた。
 見つからない答え。辿り着けない答え。
 国に座する自分と、兄である自分との決着のつかない戦い。
 
 
 終わらせなければ、いけない。
 
 
 いや、そもそも最初から、答えは見えている。
 決断の剣を、感情の盾がいつまでも防いでいたのだ。
 答えはそこにあるのに、踏み切れないことは己の甘さ以外何者でもない。
 
 二人が泣くか、民が泣くか。
 
 違いは、それだけだ。
 

72以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:53:15.24 ID:BvFhMvL/0
 
 宿舎に戻ると、真っ直ぐに自室へと向かう。
 団長室。代々の騎士団長達が腰を据えた大きな椅子に座る。
 先代達も、ここで様々な事を思い、戦い抜いてきたのだろう。
 
 そうして築き上げられてきたこの国を、終わらせるわけにはいかない。
 
( ・∀・)「ドクオはいるか」
 
 無人のはずの団長室、虚空へと言葉を投げ掛けた。
 数瞬の後、扉の前に生まれる気配。静かに、扉が開いた。
 
('A`)「ここに」
 
 足まで隠れた漆黒の外套を羽織った男、ドクオ。
 ぼさぼさの髪は相変わらずで、一見するとただの浮浪者にも見える。
 
 が、その実は代々ヴィップに仕える暗殺部隊の、隊長だ。
 今のような統制が成立していない時代は、暗殺はごく日常的に行われていた。
 最近は勿論、そんな話は聞かない。戦の種を生むだけだからだ。
 
 しかし彼らの手練は、暗殺以外でも有能だ。今は主に偵察が役割になっている。
 そういえば久しぶりに、この男を呼んだ気がする。
 隊長は常に騎士団長に付き添い、護衛もしているという。
 
 呼べばすぐに現れることがその証明なわけだが、あまり良い気はしなかった。
 

73以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:56:23.35 ID:BvFhMvL/0
 
( ・∀・)「……呼ばれた意味は、わかるな?」
 
('A`)「万が一認識の相違があった場合、責任は持てません。明確にお願いします。
    どんな指令であれ、我々はそれを遂行する力を持っております」
 
( -∀-)「…………」
 
 ドクオの口調に感情はこめられていない。あくまで事務的に、だ。
 だがそれでも、私を試しているのかと勘繰ってしまっていた。
 
 決断することが、できるのか。
 自分の口から、それを告げることができるのか。
 後悔はしないか。本当にそれが正しいのか。
 
 最善は───
 
( ・∀・)「ドクオ」
 
('A`)「はい」
 
 
( ・∀・)「ブーン=ラダトスクを、監視しろ」
 
 確信はないが、今はこれでいい、はずだ。
 

74以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 17:59:43.82 ID:BvFhMvL/0
 
('A`)「……監視、ですね」
 
( ・∀・)「そうだ」
 
('A`)「了解しました」
 
( ・∀・)「何かあれば、逐一報告しろ。追加の指令がある場合、その時に話す」
 
('A`)「了解しました」
 
( ・∀・)「では、行け」
 
 ドクオは音も立てず、退出していった。
 椅子に深く体を預け、背を伸ばす。全身に血が巡る感覚が、心地良かった。
 
 できれば全てが、杞憂であって欲しい。
 
( -∀-)「…………」
 
 いや、自分がそんな考えでは、いけない。
 全ての可能性を考慮して、全てに備えなければならない。
 
 だが、どんな可能性を考えようとも、二人が結ばれる道は、見えなかった。
 
 
 ───………
 






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