ξ゚听)ξ嘘が紡いだ物語のようです

三、『家族と、彼と』
 


 
76以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:02:25.22 ID:BvFhMvL/0
 
 

 
 翌日。
 
ξ゚听)ξ「……突然、ですね」
 
 朝食中に言ったお父様の言葉に、わたしはそう返す事しかできなかった。
 
爪'ー`)「すまないな。何分、予定が詰まっていて、仕方がないのだ」
 
ξ゚听)ξ「ネーヨ公、ですか」
 
爪'ー`)「そうだ。お前のことを大層お気に入りのようだ」
 
 話題にあるのはヴィップを構成する国の一つ、タス公国を治める領主、ネーヨ=ザクセン公爵。
 昨日使者が到着し、わたしを同伴の上で食事会へ招待したい、とのことらしい。
 そしてお父様は、今日すぐに発とうといきなり切り出してきたのだ。
 
爪'ー`)「二日後はお前のパーティー、それ以降は少し忙しくてな」
 
爪'ー`)「今日しかない、というわけだ」
 
 お父様はそう言った後にポタージュをすする。どうやらこれは決定事項のようだ。
 こうなってはわたしが何を言おうとも、覆ることはない。
 

77以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:06:45.52 ID:BvFhMvL/0
 
 タス公国はここからそう遠くない。馬車で片道三刻といった所だろう。
 別に面倒ではないし、わたしにできる数少ない国への奉公なのだから、
 それに応じること自体に全く問題はない。
 
 問題は、ネーヨ公だ。
 お父様が言った通り、どうやらわたしの事を気に入ってくれているらしい。
 今まで顔を合わせた時も会話の端々にそんな魂胆が見え隠れしていた。
 尤も、『王女であるわたし』を見ているのだろうけど。
 
爪'ー`)「……ネーヨ公は嫌いか?」
 
ξ;゚听)ξ「えっ? いえ、そんなことは……」
 
 考えていたことを当てられ、心の中を見透かされたような気がして、驚いた。
 ネーヨ公は嫌いでは、ない。品位もあるし、タス公国は彼が領主になってから繁栄した。
 紳士としても、領主としても素敵な男性であることは、わかっていた。
 
 だからこそ、困るのだ。
 
 ネーヨ公に会うことが、ブーンへの裏切りのような気がしてしまう。
 もちろん彼は、そんなこと微塵にも思わないはずだ。
 それでも、ううん、ブーンだけじゃない。ネーヨ公にも、失礼だ。
 
 ……やっぱりこのままでは、いけないんだ。
 

80以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:09:37.65 ID:BvFhMvL/0
 
爪'ー`)「正午に発つ。準備をしておいてくれよ?」
 
ξ゚听)ξ「わかりました」
 
 わたしにそう告げると、先に朝食を終えたお父様は席を立った。
 
 思い出したようにナイフを持ち、スイートポテトを小さく切ると、口へ運ぶ。
 砂糖を控えめにされたそれは、サツマイモ本来の甘みが生かされていた。
 そのお蔭で甘ったるさは全く無く、なめらかな食感も手伝いすんなりと喉を通る。
 
 お芋なのにお腹に残った違和感も無く、朝食用に工夫されて作られたのだろう。
 食べる事に集中しだしたら、あっという間に平らげてしまった。
 
 従者達がお皿を下げ、紅茶を淹れてくれる。
 毎朝の一連の流れは、幼い頃からずっと変わらず。
 あの頃と変わった事と言えば、厳しいしつけ係がいなくなったことくらいか。
 
 彼女がいなくなってから今日まで、特に変わったことはない。
 いや、一日することも大して変わっていない。
 
 予定がなければ本を読んだりして退屈に過ごすし、
 今日のように予定があれば、それをして、一日を終えるだけ。
 
 ずっと、そうだった。二年前までは。
 

81以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:13:05.77 ID:BvFhMvL/0
 
 ……ブーンと出会ったあの夜が明けた朝は、落ち着かなかった。
 
 早々に朝食を平らげて、すぐに自室へ戻った。
 そのままの足でバルコニーに出て、宝石箱を落ちた辺りを見つめる。
 
 そこに彼が、いた。
 
 まさか寝ずに探し続けていたのだろうかと、心配になった。
 後から聞いた話ではそうではないようで、朝食後にできた時間を使っただけだとか。
 ともあれ、わたしのいない時に探していてくれた彼に、非常に申し訳なくなった。
 
 あの夜にわたしを励ましてくれた背中が、バルコニーからは豆粒くらいに小さくて。
 それがなんだかとても寂しくて、すぐにそこへ駆け出したくなった。
 でもそれは、お父様が許さない。
 
 理由無き外出は一切禁じられている。理由がある場合は、父に進言しないといけない。
 そしてその理由はもちろん、正直に話せる内容ではなく……。
 とにかく、わたしには夜を待つことしかできなかった。
 
 ブーンがそこからいなくなるまで、わたしは彼をずっと見つめていた。
 わたしはそこにいなければいけない気がしたから。
 
 それともう一つ。
 
 彼の背中を見ているだけで、わたしはとても幸せだったから。
 

82以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:16:57.95 ID:BvFhMvL/0
 
 今ならはっきりと言える。
 二年という月日の中で、それを確信していた。
 
 
 わたしはブーンを、愛している。
 
 
 お父様に抱くものとも、兄に抱くものとも、違う。
 初めてのこの感情気がついてから、受け入れることには時間がかかった。
 彼と出会って三ヶ月が過ぎた頃に、わたしは一つの提案をした。
 
 言葉遣いを改めることだ。
 
 最初、彼はもちろん承諾しなかったが、その時は職権乱用、つまり命令。
 命令ならば仕方がないと、渋々首を縦に振ったのだった。
 態度には表れてはいたが、口調も変えて、完全に素の彼でわたしに接して欲しかった。
 
 まるっきり、子どものわがままだった。
 
 時々言葉の端々に見せていた独特の語尾が目立つようになり、
 それがとても嬉しく、可笑しく、本当に楽しくなっていった。
 
 多分、その頃にはもう、宝石のことはどうでもよくなっていたと、思う。
 

83以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:20:03.92 ID:BvFhMvL/0
 
 お忍びの本旨が、宝石捜索から彼に会うことへと変わっていった。
 彼の口から宝石を探そうと聞かされることが、とても嫌だった。
 もちろん罪悪感はあったのだけど、彼への感情は何よりも勝っていた。
 
 彼もわたしの心中を察してくれたのか、今日まで子どものわがままに付き合ってくれている。
 自分のしていることは明らかに間違っているのに、どうしようもなかった。
 毎日夜が楽しみで、物語のヒロインになったような気分に、浮かれていた。
 
 現実をまた見るようになったのは、親指の話を聞いた時だった。
 
 浮かれていた自分が情けなくて、馬鹿みたいで、彼に申し訳なくて。
 もうやめようと誓った。宝石はいい。素直にお父様に告げよう、と。
 でもわたしは結局、何もすることができなかった。
 
 もう会わないと決めたのに、一日を越える度に、胸が締め付けられていった。
 その日から、泣かない夜はなかったと思う。毎夜どれだけ泣いても、涙は涸れなかった。
 
 私生活でも些細な事にイライラするようになり、反抗期かとお父様に言われた気がする。
 心がどんどんと荒んでいったことには、はっきりと自覚していた。
 数ヶ月経って、ついにわたしは耐えきれずに、またあの場所へと向かった。
 
 変わらずに、彼はいてくれた。
 
 驚いた顔をした後に、いつもの優しい笑みを浮かべてくれて……。
 たまらずに、ブーンの胸に飛び込んだ。
 

84以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:23:29.68 ID:BvFhMvL/0
 
 胸に顔を埋めるわたしの頭を、優しく撫でてくれていた。
 それだけでわたしの数ヶ月分は、あっという間に満たされた。
 
( ^ω^)『ツン様』
 
 太い腕でしっかりとわたしを抱きしめて、彼は言った。
 
( ^ω^)『私は、大丈夫ですから』
 
 全てを、見透かされていた。
 わたしが彼のためを思い会わなかったことに、彼は気がついていた。
 
( ^ω^)『私はいつでも、ここにいます』
 
 その言葉に、わたしがどれだけ救われたことか。
 その時初めて、自分は彼を愛しているという確信を持った。
 
 
 そしてそれが、どれだけ罪なことなのかも───………
 
 
 確信と共に訪れたものは、予感。蜜月の時は、永遠には続かない。
 いつかその時がくる。本当に彼から離れないといけなくなる時が。
 背に這い寄る予感から逃げたくて。後ろを振り向きたくなくて。
 
 あの時はただひたすらに、彼の温もりを感じ続けていた……。
 

85以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:25:53.69 ID:BvFhMvL/0
 

 
 
 ───………
 
  
 タス公国、ザクセン城前。
 ネーヨ公爵は門前で待機しており、到着したわたし達を迎えた。
 
 
( ´ー`)「お待ちしておりました」
 
爪'ー`)「この度のお招き、感謝する」
 
ξ゚听)ξ「ありがとうございます」
 
( ´ー`)「おお……ツン王女も、日を増す毎に美しくなられておりますな」
 
爪'ー`)「あぁ。母親の面影が、日毎に色濃くなってきている」
 
( ´ー`)「……父から伺っております。素晴らしい御方だったと……」
 
爪'ー`)「有り難う。しかし、食事の前にこういうのも、な」
 
( ´ー`)「非礼をお詫び致します。さぁ、どうぞ中へ」
 
 ネーヨ公の後に続きに、わたしとお父様は城門を通る。
 

86以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:28:59.33 ID:BvFhMvL/0
 
爪'ー`)「騎士団長」
 
( ・∀・)「はっ」
 
 近くに控えていた兄を、お父様が城門の下で呼んだ。
 そういえば、二人が親子のように接している所を見たことがない。
 
爪'ー`)「白騎士団は城門前で待機。お前はついてこい」
 
( ・∀・)「……わかりました」
 
( ´ー`)「申し訳ない。城内に騎士団全員を受け入れるスペースがないのです」
 
爪'ー`)「構わんよ」
 
 兄は即座に伝令を回すと、こちらへまた駆け戻る。
 そうしてわたし達四人は、城内へと歩き始めた。
 
( ´ー`)「……しかし、ヴィップ白騎士団は聞き及んだ武勇の通り、素晴らしい」
 
( ・∀・)「勿体ないお言葉です」
 
爪'ー`)「ははは、もっと言ってくれてもいい」
 
 ……機嫌良いな、お父様。
 

88以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:31:21.80 ID:BvFhMvL/0
 
( ´ー`)「しかし、まさか即日にお返事を頂けるとは」
 
爪'ー`)「すまないね、どうしても今日しかなかったのだよ」
 
( ´ー`)「とんでもありません。こちらも突然の招待でしたので」
 
爪'ー`)「……で、急にこんな呼び出しをしてどうしたのだね?」
 
(;´ー`)「いえ、激務をこなしておられる国王に、せめて羽を伸ばしていただこうと……」
 
爪'ー`)「ほう。書面には、ツンを指名していたようだったが……」
 
(;´ー`)「……いやはや、お恥ずかしい限りです」
 
 今日のお父様は、なんだかとてもはしゃいでいるように見えた。
 もう五十も半ばに差しかかろうとしているのに、外見はとてもそうには見えない。
 それも手伝って、なんだか子どものように思えてしまう。
 
 兄は無言で、わたしの後ろを歩いていた。
 
爪'ー`)「ネーヨ公は……たしか三十五、だったか」
 
( ´ー`)「えぇ。時の流れは早い物です」
 
爪'ー`)「いかんぞ。早く伴侶を見つけないとな」
 

91以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:35:02.28 ID:BvFhMvL/0
 
(;´ー`)「……いや、はい、ははは……」
 
爪'ー`)「ツン、お前もそう思うだろう?」
 
ξ;゚听)ξ「えっ?」
 
爪'ー`)「いかんぞ。人の話には常に耳を傾けておくべきだ」
 
ξ;゚听)ξ「いやその……はい……」
 
爪'ー`)「ははは」
 
 ネーヨ公の思惑を知った上で、からかっているのだろう。
 というか、お父様ってこんな人だったっけ……?
 伴侶……結婚。結婚、かぁ……。
 
 そういえば、女は十八から結婚が許されるのだった。
 やけにはやし立てているのは、そういうことなのだろうか。
 
 お父様は、どう考えているのだろう。
 少なくともわたしの相手には、それなりの人を思っているのだろうか。
 それなり、というのは、立場と血筋の事だ。
 
 領主であったり、他国の王子であったり、そういう人達。
 言ってしまえば政略結婚なのだが、それはもう、王女として生まれた運命だ。
 

92以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:38:30.42 ID:BvFhMvL/0
 
 話によると、お母様もそうして嫁いできたそうだ。
 いつかわたしにも、その時がやってくるということはわかっていた。
 そして今、実際にそれが目の前にちらついている。
 
 
 全ては、国のために。
 
 
 それなのに、今わたしの心に浮かんでいる人は、ただ一人。
 ブーンの姿。平民出の、騎士団の雑用を受け持つ、兵卒の姿。
 彼との結婚が許されるものならば、それほど嬉しいことはない。
 
 でも、聞くまでもない。許されるはずがない。
 そんなことをしたらどうなるかくらい、世間知らずのわたしにもわかる。
 年寄り達の思考はわからないけど、待っているのは最悪の結末だけだろう。
 
 お父様、わたしは兵卒に恋をしています。
 
 それを告げたら、彼は一体どうなるか。
 よくて追放、悪ければ、処刑。……それ程の、事なのだ。
 もちろんそのことは、彼も十分承知しているはずだ。
 
 わたしの言葉を、待っているのだろうか。
 その言葉が良いものでも、悪いものでも、わたしの意思を。
 ……彼はいつも、笑ってわたしを受け入れてくれる。
 

94以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:42:40.01 ID:BvFhMvL/0
 
 そしてわたしは、それに甘えているだけ。
 そんな日を積み重ねて、今日を迎えた。
 
ξ゚听)ξ「…………」
 
 前を行くネーヨ公。その背はお父様に負けない程に、逞しい。
 地位が目的だけなのかもしれない。本心は、まったくわからない。
 しかし、統治者としての器は、タス公国の繁栄を見るに、素晴らしい方であることは間違いない。
 
 ヴィップ構成国の一つとして、その名に恥じぬようにと尽力してきた方だ。
 ネーヨ公の代で、タス公国は本国ヴィップの右腕と謳われるまでに発展した。
 多少、手段が強引すぎるという話も聞くが、結果だけを見れば素晴らしいことだ。
 
 お父様もきっと、わたしの婚約者候補にこの方を入れているのだろう。
 というか、ネーヨ公以外の男性に会わせようとしない。
 多分、お父様はこの方しか考えていないのだろう。
 
( ´ー`)「さぁ、こちらへ」
 
 広い城内の左側を抜け、大きく抜けた空間が広がった。
 天井の中央に設置された豪華なシャンデリアが、広い室内を明るくさせている。
 来賓を持て成す為の、特別な部屋なのだろう。
 
 中央には長大なディナーテーブルが置かれ、三人分のカトラリーが並べられていた。
 

95以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:46:08.43 ID:BvFhMvL/0
 
( ´ー`)「騎士団長殿の分も、すぐにご用意致します」
 
爪'ー`)「すまないな」
 
( ´ー`)「とんでもありません。それでは少し、席を外します」
 
 頭を下げた後、ネーヨ公は奥の扉へと消えていった。
 
爪'ー`)「ツン。そこへ座りなさい」
 
ξ;゚听)ξ「え……こんな上座には……」
 
爪'ー`)「今回は、お前が主賓だ。座りなさい」
 
ξ゚听)ξ「……わかりました」
 
 そこは普通ならお父様が座るべき場所だった。
 そして、ネーヨ公の席に最も近い場所でもある。
 
ξ゚听)ξ「……」
 
 いよいよお父様は、わたしとあの方を結ばせたいのだろうか。
 胸が少し、痛くなった。
 

96以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:48:14.64 ID:BvFhMvL/0
 
爪'ー`)「……そういえば、三人で食卓についたことはなかったな」
 
ξ゚听)ξ「そうですね」
 
( ・∀・)「……」
 
爪'ー`)「なんだ騎士団長。嬉しくないか?」
 
( ・∀・)「いえ、特には」
 
爪'ー`)「可愛くない奴だな……いいんだぞ? 今日は特別だ」
 
( ・∀・)「何がですか」
 
爪'ー`)「父と呼んでも、いいんだぞ」
 
( ・∀・)「…………」
 
爪'ー`)「どうした。嫌か?」
 
( ・∀・)「そんなわけでは……」
 
爪'ー`)「ん〜? ほら、言ってみろ」
 
ξ;゚听)ξ(た、楽しそう……)
 

97以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:50:06.82 ID:BvFhMvL/0
 
(;・∀・)「……」
 
爪'ー`)「物が話せんのか、お前は」
 
(;・∀・)「……ち、」
 
爪'ー`)「うむ」
 
(;・∀・)「ちち……うえ……」
 
爪'ー`)「言えるじゃないか。馬鹿息子め」
 
(;・∀・)「……」
 
 なんなんだろう、このやり取り。
 もう三十路近い兄が、まるで子どものようだ。
 こういうのを、家族の団らんと呼ぶのかな。
 
 初めての家族の会合はとても心地良く、同時に少し、罪悪感に嘖まれた。
 二人に隠し事をしている自分がいて、この場を心から楽しむことが、できなかった。
 
( ・∀・)
 
 わたしの少しぎこちない様子に気がついたのか、兄と目が合った。
 なんでもないと、嘘の笑顔を返す自分が、とても嫌だった。
 

99以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:52:18.26 ID:BvFhMvL/0
 
 豪華な食事が並べられても、それを口に運んでも。
 お父様の機嫌がどれだけ良くても、いくら会話が弾もうと。
 わたしだけ取り残されているような、そんな気分。
 
 自業自得なのだけど、皆が心から愉しんでいる所で、わたしは上辺だけ。
 
 この場から逃げてしまいたい。
 ブーンと一緒に、遠い所へ逃げてしまいたい。
 でもそれこそ、ただのわたしのわがままだ。
 
 そうして見つかれば、罰せられるのは彼だけ。
 わたしが何を言おうとも、問答無用で断じられるのは、彼だけ。
 彼のためにも、お父様のためにも、国のためにも、どう考えても。
 
 彼と離れることが、最善なのに。
 
ξ )ξ
 
 心がかたくなに、それを拒否し続ける。
 ブーンと会わなかった数ヶ月の時と、同じ。
 頭ではわかっているのに、心が、どうしようもない。
 
 
 わたしは結局、何も変わっていない。
 

101以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:55:09.75 ID:BvFhMvL/0
 
( ´ー`)「ツン様……お口に合いませんでしたか?」
 
ξ;゚听)ξ「えっ? いえ、そういうわけでは……」
 
( ´ー`)「……何か思い詰めたお顔をされていましたので……」
 
ξ;゚听)ξ「も、申し訳ありません……」
 
( ´ー`)「いえ。何かあれば、すぐにお申し付け下さい」
 
ξ゚听)ξ「ありがとうございます」
 
 知らない内に表情に出てしまっていたようだ。
 ネーヨ公に、失礼な振る舞いをしてしまった。
 
 用意された料理は、どれも素晴らしいものだった。
 だけどわたしの心に浮かぶのは別のことで……。
 これではだめだ。水を飲み、頭を冷やして思考を切り替えよう。
 
( ´ー`)「……時に、フォックス王」
 
爪'ー`)「どうしたね」
 
( ´ー`)「ここだけの話なのですが……」
 

102以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 18:57:43.47 ID:BvFhMvL/0
 
( ´ー`)「確信はありませんが、不穏な噂を耳にはさみました」
 
爪'ー`)「不穏な噂?」
 
( ´ー`)「えぇ。なんでも、ヴィップ打倒を企む国がおり……内通者がいると」
 
爪'ー`)「騎士団長。だそうだが、何か知っているか?」
 
( ・∀・)「いえ、何も」
 
爪'ー`)「そうか。なら単なる噂だろう」
 
( ´ー`)「……」
 
爪'ー`)「噂の出所は?」
 
( ´ー`)「いえ、軍内部でそういう話があると報告を受けたもので」
 
爪'ー`)「なるほど。安心してくれ。我がヴィップに限ってそのようなことはない」
 
( ´ー`)「……杞憂ならば、それでよいのです。出過ぎた真似を致しました」
 
爪'ー`)「構わんよ」
 
( ・∀・)「……」
 

103以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 19:00:23.50 ID:BvFhMvL/0
 
 わたしもそんな話は、聞いたことがない。
 お父様と兄も知らない事を、わたしが知るはずがないのだけど。
 
 知っているとすれば……ああ、だめだ。
 どんなことからでもブーンの事に結びつけてしまう。
 いけないいけない。思考を切り替えなければ。
 
 その後はゆったりと、国のことやお父様の武勇伝など、
 談笑を交えつつおいしい食事を愉しんだ。
 滅多に酒を飲まないお父様が、珍しくよく飲んでいた気がする。
 
 そのせいか、後半はネーヨ公とわたしの事を一層からかわれた。
 あははと、渇いた笑いを返すのが精一杯だった。はぁ……。
 
 誕生日を迎えたら、いよいよ真剣に考えないといけないのだろう。
 
 
 だから、その前に───………
 
 
 その後の会話は、あまり覚えていなかった。
 
 
 
 ───………
 






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